第09話 異世界への再出発
翌日も朝からお出かけだ。
「今日はまず愛知県に行ってみようか。名古屋城とか有名だし」
「ならト○タ産業技術記念館も行きましょう! 兄さん」
どうやら竜郎のPCで、車について調べている時に行き着いた情報の様だ。
しかし──。
「そんなに見学してる時間もないし、場所だけ覚えてまた今度行こうな」
「うぅ……。そうですね」
リアを宥めつつジャンヌの背負う空駕籠に乗って空を行き、あっという間に名古屋城の真上に到着。
「あの天辺についている金の巨大魚? は何だ? 何か意味があるのか?」
「意味っていうか、あのお城のシンボルマークみたいな物なんじゃない?」
「それ以外にも厄除けとかの意味もあった気がするな」
「なるほど、お守りのようなものなのか」
そして熱田神宮を空から眺め、産業技術記念館の上を通り、そのまま静岡へ。
静岡ではサファリパークを上から見学しつつ、富士山をグルリと一周遊覧飛行しながら楽しみ、今度は神奈川の横浜中華街で食事をとる。
その合間合間で竜郎はあっちこちに飛び回って、現金などを手に入れていく。
豪華な料理で腹を満たし、満足しながら東京に到着。
「何というか建物がごちゃごちゃしているな。
それに人が異様に多い。さすがは、この国の首都といった所か。
ただ少々ごった返しすぎて息苦しくも感じるが……」
「ここは人口が多い割には、それほど広いわけでもないからな」
「にしても、ここはもう平常時に戻りつつあるね。凄いや」
「休んでたら1円も稼げないしなぁ」
などとジャンヌの背負う空駕籠の中で話しながら、窓から東京の街並みを観察していた。
そしてそのまま、お台場の上空にまでやってくると、実物大ガ○ダムが展示されている近くに降りて見学に行く。
すると地震の影響もなく、無事にそのままの姿で立ってくれていた。
それを見たリアは目を丸くしながら誰よりも近くに行って、その周囲をぐるぐると歩き回った。
「これが実物大ですか。おっきいですね~。見ごたえがあります」
「なかなかの迫力ですの~。リアは、こういうのは今の機体に盛り込みませんの?」
「うーん。形を真似て似たような物を作る事は出来るでしょうし、それはそれで何だかカッコいい気もします。
ですが、今使っている私の機体に搭載された魔力頭脳の領域を使ってまで盛り込む必要があるかと言われると微妙ですね」
リアは鍛冶師であり、戦闘職ではない。
なので竜郎たちと共に前線で戦うには、生身ではどうしても無理があった。
そこで彼女は《鍛冶術》を利用し操縦するゴーレムの機体を生み出した。
その機体はメイン制御をおこなっている魔力頭脳に登録された、機動力が高い『麒麟型』。攻撃・防御・機動力どれもが平均的な『虎型』。機動力は低いがとにかくパワー特化の『大猩猩型』。
この3形態が基本形であり、あとはその背から人型の上半身を生やしたりして、リアは臨機応変に強敵達と渡り歩いてきたのだ。
そして今回、奈々に4形態目にガ○ダム的なのをいれたいかと聞かれたわけだ。
だが今の状態で十分だと感じているのに、そこへさらに盛っていくのはリアの趣味ではなく、それなら他の事に魔力頭脳のリソースを割きたいと思ったようだ。
「なので戦闘用として私の機体に入れることは多分ないと思うんですが、おもちゃとして考えたら面白いかもしれません」
「おもちゃ? それってどーゆーこと? リアちゃん」
「それはですね、姉さん。私はこっちの世界に来てまだ数日しか経っていないんですが、私の生まれたあの世界には娯楽の種類が少ないように感じたんです」
「それは私も思ったぞ、リア」
同じ異世界人であるイシュタルも、リアのその言葉に頷いていた。
「確かにカードやボードゲームの類なら向こうにも、こっちと似たようなのは沢山あったが、漫画やアニメ、ゲームは見なかったな」
「紙やインクがべらぼーに高いって訳でもなかったから、漫画くらいならあっても良かったのにね。
ああでも絵本はあったから、あれが漫画みたいなものなのかな」
「まあ漫画はともかくとして、とにかくそういうものが少ないので、その一つにできないかなと考えたんです。
例えばこのガ○ダムみたいな形状をした小さな人形同士を、コントローラーか何かで動かして戦わせたら面白そうじゃないですか?
それこそゲームのプレイヤーのような感覚で、です」
「画面の中じゃなくて、リアルの空間で戦わせるわけか。
それなら各自でパーツを簡単に組み替えられて、個々でオリジナルの機体を作れるようにしたら、さらに盛り上がりそうだな」
「なんかそういうアニメもあった気がするね。確かにゲーム感覚で出来れば楽しそうかも」
「テレビゲームのような画面を用いた仮想的な戦闘を、魔道技術で再現するには高度な技術を用いすぎるので、一般的に販売すると面倒なことになりそうですが──」
それもできるんかい、と突っ込みそうになりながら話を聞いていくと、どうやら簡単な動作だけをインプットした簡易型の魔力頭脳モドキを搭載させた人形ならば、リアの異常な技術力もそれほど表に出さずに、値段もおもちゃの範囲で売りだせるのではないかと考えたようだ。
「そうやって、向こうの世界にも新しい娯楽を作っていけたらいいかなと思います。
せっかくなら平和的な技術の使い方というのも考えていきたいですし」
「もう、わたくし達が苦戦するような魔物と戦う事はないでしょうし、それもいいかもしれませんの」
リアの手伝いを一番している奈々も、面白そうだと乗り気になったようだ。
「それじゃあ、お試しで作ったら妖精郷のちびっ子たちに遊んで貰ってみるのもいいかもしれないな」
「あそこなら私たちの事もリアちゃんのことも知ってるし、いきなり新しいものを見せても大丈夫だしね」
竜郎たちは、他種族が住まう場所から隔絶された妖精たちの暮らす場所──妖精郷に入る事を許可されているうえ、住民や女王との関係も非常に良好。
さらに竜郎たちの能力を大よそだが知っているので、下手にコソコソする必要もなく、外界に情報が漏れることもない。
まさに新しいものを第三者に試してもらう場としては最適な場所だろう。
リアは「妖精郷の子達なら、もっとハイスペックのおもちゃでも良さそうですね」などと言いながら、さっそく設計図を頭の中に思い描き始めたようだ。
そんな思考の海にダイブしたリアの手を引きながら、奈々は次の場所へと向かう竜郎たちの後を追った。
ガ○ダムを見学した後は、一時愛衣に引率を任せて竜郎は金策などの為に離れた。
その間にイシュタルもお台場内を練り歩いたりして、東京観光を楽しんだ。
また竜郎と合流してからは、店を巡って今出ている最新のゲームハード全種と大量のゲームソフト。
イシュタルが見たいといったアニメのBDやDVD、そのアニメの原作や竜郎、愛衣のお勧めの漫画やラノベなども買い漁った。
大量のお土産を自分の《アイテムボックス》に収めたイシュタルは、終始ニコニコし上機嫌だった。
「これで地球のお土産も買ったし、後は電車を見に行こう。
俺達の持っている領地内に通してみたいし」
「実物ですか。良いですね。行きましょう」
さっきから玩具の開発案で気もそぞろろだったのに、突如として意識を取り戻したリアに竜郎は苦笑しつつ、地下鉄や新幹線を見学していった。
「こっちでもちゃんと、その目は機能しているみたいだね。
リアちゃんの目って、あの世界が知っている事だけが理解できるんだよね?」
リアは《万象解識眼》というユニークスキルを持っている。
その目を発動すると、彼女の赤色の目が空色に変化し、あらゆる事象や物質を全て理解するという破格のもの。
けれどその目は、世界が知っている情報をリアが読み解くというスキルでもあるので、竜郎たちが異世界と言っているあの世界が知らないことは見ることが出来ないのだ。
なのでリアにとって異世界である地球で、この目が使えるかどうかは正直微妙な所ではあった。
だがふたを開けてみれば、普通に使用できたのでリアも少々拍子抜けしていた。
「恐らくですが、私たちの世界は他世界を研究して世界力の効率的な消費方法を探っていたようですので、その時に色々と情報を蓄えていたんだと思います」
「あー、なーる。それじゃあ、電車とかの構造も理解できちゃったんだね」
「はい。この通りです」
リアは頭に思い描いたのものを紙にして出してくれる水晶玉で作った、大量のメモ用紙を愛衣に見せてきた。
愛衣が見ても何を書いているのか、ちんぷんかんぷんだったが、彼女にはこれで意味が理解できるらしい。
「それじゃあ東京観光もこの辺にして、次は東北地方を適当に巡って、最後に北海道をぐるりと周って家に帰ろう」
ジャンヌの背負う空駕籠に乗り、東京から東北方面に出発。
福島から宮城を通り秋田、青森と進んでいき北海道へ。
北海道では色々と酪農などで興味のある分野が多いので、その辺りの場所も確かめつつ、最後は海鮮たっぷりの豪華な食事を楽しんで帰宅した。
その時に渡したお土産や、リアやイシュタルから語られる海鮮料理の数々に、帰宅していた両親たちから絶対に今度は連れていってくれと頼まれてしまう。
そんなこんなでイシュタルの日本弾丸ツアーも一段落が付いた。
なので本格的に異世界に行くための準備を始めていくことにした。
「明日は近くのモールに行って、異世界で必要そうなものを買ってくるかな。
父さん達は欲しいものあるか?」
「欲しい物って言われてもな。俺達は異世界に行ったら何が必要かも正直よく分かってないぞ」
「とりあえず着替えは持っていった方がいいわよね?
シャンプーとか化粧水とかも持っていた方がいい?」
「むこうにもシャンプーやリンス、化粧水や乳液なんかも普通に売ってるから、各種拠点に揃っているはずだ。愛衣も使ってたしな。
ただ普段使ってるのがいいっていうのなら、持って行ってもいいんじゃないか?
荷物なら俺の《無限アイテムフィールド》に、いくらでも詰め込めるし」
「ああ、そっか。ほんとに便利ねー、そのアイテムなんちゃらって。私も向こうに行けば取れる?」
「システムがインストールされて、俺のいるパーティに加入すれば、自動的に《アイテムボックス》の4段階拡張されたバージョンが使えるようになる」
「なんだそれ。俺達は《アイテムボックス》とか言うのは取らなくても使えるのか」
「《アイテムボックス》の最上位スキルを取った時に、パーティメンバーに《アイテムボックス》が使えるようにするような称号も取得したんだ。
だから俺のいるパーティから外れると、使えなくなる。自分で取得していたら、それは残るけどな」
「我が息子ながら、竜郎は本当に色々と規格外っぽいなぁ……。
今や一家に一人竜郎の時代か」
「俺は家電かっ」
仁たちとアホな会話を挟みつつ、こっちで用意しておきたい物を相談していった。
翌日、竜郎は愛衣、奈々、リア、イシュタル、レーラを連れて近所のショッピングモールにまでやって来た。
再開してまだそれほど日にちも経っていないので、それなりに混み合っていた。
「なんというか、私たちの世界にあった百貨店よりも、色が沢山あって面白いわね」
「そーいえば、向こうはそこまで色の付いた広告やら看板やらは無かったねー」
異世界にも商会ギルドが各街に建てている、数階建ての大きな百貨店の様なお店がある。
そこでは生活用品から衣服や食材、調味料など、あらゆるものが手に入るので竜郎や愛衣も向こうでは何度もお世話になっていた。
なので今いるショッピングモールと似たようなものなのだが、異世界の百貨店では明かりも看板も基本的に同じ色だったので、レーラの目には新鮮に映ったらしい。
それからレーラや奈々たちの、こちらの世界で使うための日用品や、部屋に置きたい物なども買いこんでいく。
さらにリアが研究用に欲しがった家電もいくつか買った。
竜郎や愛衣も、両親に頼まれた物や向こうで使えそうなだと思った物は片っ端から買っていった。
その日一日でかなりの額を使ってしまった事に驚愕しながら、改めて竜郎は金や宝石を換金する以外の方法で、地球のお金を手に入れる方法を考えた方がいいかもしれないなと漠然と思ったのだった。
そして色々な準備を進めていき、時は過ぎていく──。
「それじゃあ、準備は良いですかー?」
波佐見家の地下室。リアの作業場に集まったのは、竜郎とその両親たち。愛衣とその両親たち。
カルディナ達に、リア、レーラ、イシュタル、ニーナ。
そう。この日、いよいよ竜郎は両親達を連れて異世界に旅立つことになったのだ。
「むこうについたら、父さん達はシステムがインストールされます。
そのときにアナウンスが脳内に流れますが、それは何の害もないので驚かないでくださいね」
竜郎の言葉に、両親たちが揃って頷き返してくれる。
「あと向こうには色んな姿をした種族がいるし、見た目が恐い子もいるけど、私たちの拠点にいる子は、みんな良い子達だから安心してね」
「それはドワーフやエルフ、竜なんていう存在よりも驚く見た目の子がいるって事なの? 愛衣」
「そーだね。ぶっちゃけ人間の見た目をしてない子もいるし、こっちだとお化けとか怪物とか呼ばれるような見た目の子もいるからね」
「分かった。心の準備はしておくわ」
両親たちは一体どんな世界で、どんな存在が待ち受けているのかと、色々緊張し始めたようだ。
そんな両親たちの緊張を、竜郎は奈々と一緒に生魔法で落ち着かせていき、やがて天照が宿ったコアが付いた小型ライフル杖を手に持った。
「それじゃあ、落ち着いた所で異世界転移を始めます。
ちょっとエレベーターで下に降りる時のような感覚がありますが、それが普通なので安心して身を任せてくださいね」
竜郎は両親たち一人一人の目を見て話が伝わった事を確認すると、《時空魔法》による異世界転移を発動した。
「「「「──うっ」」」」
転移に慣れない両親たちだけが、その感覚に思わず声を漏らしながら、竜郎は再び異世界へと旅立っていくのであった。
これにて第一章『再出発』は終了です。ここまでお読み頂きありがとうございます。
そして第二章の始まりである第10話は、1月9日(水)に投稿予定です。