レベル8 23のダメージ
スチャ……ぽよん♪
俺!参上!
と、華麗に畑へ着地すると、その場のオークたちがけげんな表情でこちらに集まってきた。
ガヤガヤ……
「ぁあ?なんだお前?いつのまに現れやがった」
「このへんじゃ見ねえスライムだな」
う……
勢いで飛び出してしまったものの、やっぱりすごい威圧感だ。
目の前で見ると、みんなすごいガタイをしているのがわかる。
以前の俺は、オークなんて強いモンスターは遠くから見るだけだったもんな。
「いや、その……」
「ぁあああん?」
何匹ものオークたちが俺ににじりよってくる。
ガタガタブルブルブル……ふにゅう……
やべ、震えすぎてスライムの形が保てなくなってきた。
「う、うう……お待ちくだされ」
俺がそんなふうにビビっていると、転がっていた最長老の白ヒゲがうめき声をあげつつ起き上がってくる。
「そ、そのお方はワシの客ですじゃ。スライ村のことはなにもわからぬゆえ……え?」
しかしその途中でオークの一匹が振り返り、有無を言わさず白ヒゲを蹴っ飛ばした。
ボゴぉ!
「ふぎぃ」
ぽよん、てんてんてん……ぺちゃ
「へっ。しゃしゃってくんなジジイ」
ブチ!!
「なにをするだー!!!」
俺は気づくと、スライムの身体をひるがえし大槌状に変化させて、それでオークのどてっぱらへボディ・ブローを喰らわせていた。
ボゴぉ!
厚い腹の肉の感触。
「かっ……こほ……お、おおおお」
オークは目を血走らせて腹をかかえ、その場へうずくまった。
「お前が最長老のジイさんを蹴ったのと同じく、23のダメージを与えておいた」
「てめえ!」
「やりやがったな!」
すると他のオークたちはいっせいに俺へ向かって敵意をあらわにし、ドドドと突進してくる。
「うらああぁぁ!!」
……が、のろい。
コイツら、ガタイがよくてもこんなに動きが遅かったら攻撃も当たらないだろ。
俺はあくびをしながらオークたちの攻撃をかわし、それぞれへ23のダメージを与えておく。
「うお……こほおお」
「ぎ、ぎぎぎ……でゅ……ぎゅ」
次々と畑の土へ膝を着くオーク。
こうして見ると、こいつら身体はずんどうだし、豚ヅラだし、ぜんぜん強く見えないな。
「ふっ、だから言ったろ?スライムをイジめるなって」
俺はあるていどオークたちを殴り散らすと、最後にそうカッコつけておいた。
「う、うう……なんだコイツ」
「スライムのくせに……」
悔しがるオークたち。
が、そのときである。
「ヤメねえかお前ら!」
そう聞こえたかと思えば、畑の外の小屋からひときわ大きなオークがドスドスと出てきた。
「かしら!」
「アイツです。やっちまってください!」
「うるせー!お前らは黙ってろ!……いやぁ、旦那。ウチの若いのが失礼したみてえで、どうもすまねえな」
と、なれなれしい感じで、俺に話かけてくるボス・オーク。
俺は懐柔されてたまるかと思い、ギリっとにらみ返す。
「しかしな、旦那。オレたちはなにもスライムをイジめてるってわけじゃねーんだぜ?」
「バカ言え!さっき、むりやり働かせてたじゃねーか」
「むりやりじゃぁねーよ。なぁ?お前ら」
と、ボスが子分たちに聞くと、そーだそーだという声があがる。
コイツにもボディ・ブローを喰らわせてやろうか?
「第一に、オレたちはちゃーんとスライ村の連中に『給料』を支払ってる。それでコイツらもそれでイイと言って働いてるんだ」
「給料だと?ウソつけ」
「本当だよ。ウソだと思うなら本人たちに聞いてみるがいいさ」
俺は振り返り、畑で働かされていたスライムたちを見た。
「ほ、本当です」
「ボクたち。オークさんたちにおカネをもらって働かせてもらってるんです」
「給料がなきゃ女房子供を食わしていかれないし……」
ぐっ……
どうやら給料で働いているのはマジらしい。
「第二に、オレたちはここでスライムたちを守ってやっているんだぜ」
「なっ!なに言ってんだお前」
「いいか?そもそもスライムってのはな、すげえ弱いんだ。あ、旦那みてえな強えのもいるんだってことを今日知ったけどな。だいたいは弱い。だからすぐ他のモンスターにイジめられちまうんだな。ところが、オレたちオークがこのスライ村にいてやれば、他のモンスターたちからイジめられることもなくなるって寸法よ。ここらのモンスターはみんなオレたちオークよりは弱いからな」
ボス・オークがそう言い終わると、スライ村のスライムたちもハッとしたように、めいめい口を開く。
「そ、そうです!」
「オークさんたちがスライ村に来るようになってから、ゴブリンたちからあんまりイジめられなくなったし」
「だからボクたちとオークさんは、むしろ友達なんです!」
な、なに言ってんだ?コイツら……
「旦那が強えのはわかったけどよ。強えからってなにしてもイイってわけじゃあないだろ?ここにはここのルールってもんがある。気にくわないんだったら、さっさとこの村を立ち去るんだな」
そう言って、ボス・オークはニヤっと笑った。