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レベル5 スライムのメス


 俺のふるさとスライ村。


 修行のためとは言え、一度は出たふるさとなのだからもう帰るまい……と思っていた。


 ふるさとは遠くにありて思うもの。


 どーせ帰っても、知ってるヤツはみんなとっくの昔に経験値になってるだろうし……


 きっと、よけいにさびしさがつのるだけにちがいないのだ。



「??……なんですか?あんまりジロジロ見ないでもらえます?」


「……」



 その上、この若いメスのスライム、ミカちゃんは、俺がちょっとお尻を眺めていたくらいで、すげーセクハラおやじに対する感じでしょしてきやがるからマジやりきれねえ。


 さわるでもない。


 もみしだくでもない。


 目の前で若いメス・スライムのお尻が『ぷるん♡ぷるん♡』とゆれていたら、オス・スライムのさがとしてこれはどーしても目がいってしまうのであり、仕方のないことなのである。


 そこらへんのことをオトナのスライムとして懇切丁寧に解説してあげたのだけれど、


「キモ……いや、なんでもないです」


 と、よけいに距離をあけられてしまうシマツ。



 はぁ……



 だからもう、このコをおくるために故郷のスライ村へ行くなんてダルいなー、イヤだなーって思っていたのだけれど……


「妹、か……」


 そう。


 ミカちゃんには帰りを待っている妹がいるらしいのである。


 すると、どーしても『ねえちゃんが帰ってこなかったら妹は泣くだろうな』みたいに想像されて、やっぱりうっちゃっておくこともできないのであった。



 ざっ、ざっ、ざっ……



 さて、そんなワケでスライ村へ向かう俺たちだったが、その道中でも何回か敵にエンカウントした。


 そのうち3回はゴブリンの集団である。


 これはさっきの経験があるぶん、自信をもって戦いにのぞめた。



 ぼよよーん、ヒュン!



「な、なんだこのスライムは!」


「速え!!」



 つーか、こうやって見るとゴブリンってすげー弱えんだなぁ。



「く、くそ!覚えてやがれ!」



 そして、彼らの捨てゼリフははみんな同じなのだろうか?



 ざっ、ざっ、ざっ……



 さらに行き行きて、ゴブリンよりも手強てづよいモンスターにも遭遇した。


 こうもりバット。


 化けキノコ。


 ガイコツ戦士。


 みんなスライムからすれば雲の上のような存在のモンスターたちだ。


 とくにガイコツ戦士なんて(サビているけど)つるぎを持っているのだから、かつては別世界の住人って感じがしたものである。(遠い目)



「うわ!剣が折れた!!なんてかたいスライムだ」


「く、手が……しびれる」


「1対1になるな!囲むんだ。そっちへ回れ!」


「なに!? スライムが二匹になったぞ!?」


 びよーん! びよよーん!!


「ダメだ……逃げろ!撤退だ!!」



 みんなこちらがスライムだから油断しているのか、やけに動きがダラダラしていた。


 それから分身なんて修行150年目あたりで自然にやっていたことだったけれど、このへんではめずらしい能力らしくビックリさせることができたのも大きかったのだろう。


 俺はなるべく周辺の自然環境を破壊しないように心がけながらそぉーっと攻撃を繰り出し、次々と敵を倒していった。



「おじさん!とっても強いんですね!」


 ミカちゃんは襲いかかってくるモンスターたちから守ってやるとさすがに尊敬のまなざしを向けてはきたけれども、『おじさん』という呼称こしょうをけっして改めようとしないところを見ると、


『だからといってプニプニさせたりはしない』


 という断固たる決意がうかがいしれてマジえた。




 ◇




「あ、おじさん!見えてきましたよ!」


 こうしてスライ村へ到着したときには、もうあたりはすっかり夕暮れにさしかかっていた。


「……」


 村のスライムたちの青がそれぞれ夕日の赤に染まってゆくのがとても情緒があって、胸がキュンとするのを感じる。


 ふるさとの香り。


 もう忘れていると思っていたけれど、数百年たっても記憶の奥底に残っているものなのだなぁ。



「あ!お姉ちゃん」



 そのとき。


 一匹の少女スライムがぽよん♪ぽよん♪とこちらへ駆け寄ってきた。



「チカ!」



 ミカちゃんは少女スライムと身体をすりつけ合い、ニコニコする。



「おそいから心配したんだよ!お姉ちゃん、初級冒険者の経験値になっちゃたんじゃないかって……グスン」


「フフ。だいじょうぶよ。こうしてちゃんと帰ってきたでしょ」



 とても仲がよさそうだ。



「やれやれ。この子がミカちゃんの妹かい?」


 俺は後ろからそう尋ねたのだけれど、


「っ……お姉ちゃん。このおにいさん誰?」


 と、反応したのは妹の方だった。



 ……しかし諸君!


 お聞きになっただろうか?


 この子は『おにいさん』と言ったぞ?


 これはこの子の方がプニプニのみゃくがあるってことなんじゃないか?


 さいわい、ミカちゃんとそう歳もはなれていない妹のようだし……



「このおじさんはね。私を助けてくれて、ここまでおくってくれたのよ?恩人なの」


「ふんっ」


 しかし、ミカちゃんの妹チカちゃんは、すごく敵を見る感じで俺を見ている。


「どうせこのおにいちゃん、お姉ちゃんとプニプニしたいから助けたのに決まってるわ!」



 ギクッ!



「キミね。女性を助けるのにプニプニするとかしないとか、そんなことはだね……」


「そうよ!おじさんはそんなことを考えたりはしないわ」


 と言うミカちゃんは、きっと俺に対しててクギを刺しているのだろうな……


「そんなのウソよ!オスはみんなオオカミだって、経験値になったお父さんも言ってたんだから!!」


 と言って、お姉さんの後ろに隠れて『べー』っとするチカちゃん。



 ……まあ、いいか。


 こうして姉妹がちゃんと会えただけでよしとしよう。


「ふう。じゃあ、俺はもう行くよ」


「え、おじさん。村に泊まっていかないんですか?もう遅いですけど……」


「だいじょうぶだよ。俺はさすらいのスライム。すげー強えんだから、夜のモンスターにも負けたりはしないさ」


「おじさん……」


 それに、これ以上このふるさとの景色を見ていると泣いてしまうかもしれない。


 女の子に涙を見せるワケにもいかねーしな。


「あばよ」



 こうしてカッコつけて振り返ったのだけど、そのとき、


「待ちなされ」


 と、知らない声で呼び止められた。



 ちっ、なんだよ。


 せっかくカッコいい立ち去り方だったのに……


 そう思ったけど仕方なくまた振り返る俺。



 するとそこには、白ヒゲをたくわえた変なスライムが杖をかかえて立っていたのであった。







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