復讐の始まり
「泣き止んだ?」
「は、はい」
リリちゃんの頭を撫でてると、身じろぎして顔を上げたリリちゃんの目は真っ赤でした。
それがなんか可愛くて可愛くて、思わずお耳をモフっとしてしまいました。
テヘッ。
お耳を触られたリリちゃんは、何故かボフッとゆでだこみたいな顔になると潤んだ瞳で私を見てきました。
え?ど、どうしちゃったの?こんなの可愛すぐる!
すると、いつの間にか目の前に来ていたリリちゃんがいきなり私の顔中にキスの嵐を降らせてきました。
チュッ、チュッ、チュパっ。
「んー、リリ、リリちゃん!?」
チュッ、チュパ、チュッチュっ。
呼び掛けても反応はなく、キスが止まる気配もありません。
仕方なく、こちょこちょで応戦することにしました。
こちょこちょこちょ。
するとヒャッと言ってキスはやっと終わりました。
ボーッとするリリちゃんに、リリちゃん?ともう一回呼んでみるとこっちを見たと思ったら、みるみる顔を赤くして、ごめんなさい!と言いながら逃げようとしました。
なので、腰をガッチリと掴んで逃がさないよ?と耳下で囁くと、腰が抜けたように座り込みました。
「リリちゃん?どうしてあんな事を?」
そう聞くと、びくっとなった後、ごめんなさい許してくださいと謝り続けるリリちゃんに
「大丈夫、怒ってないから話してくれる?」
と言うと、少し体を強張らせて話はじめてくれました。
「私達狐人族は、一年に一度、発情期というものがあるんです。その期間になると体から、人が嗅ぐとその人も、その……む、ムラムラしてきてしまう匂いが出てきてしまうんです。そ、それで慣れてない人達は……」
「ありがとう、話してくれて。じゃぁ、私がリリちゃんを追いかけて来ちゃったのもそのせい?」
「恐らく……」
「なるほどー、じゃあ私はリリちゃんに発情したわけだ。それでリリちゃんも私に発情したわけだ」
「は、はい、簡単に言うと」
だったら私とリリちゃんは相性が良いんだねっ!と言ったら、恥ずかしそうに顔を背けて、う、嬉しいです……と呟いた時の表情といったら、可愛いのなんの。
またお耳を撫でちゃった私は悪くないと思います。
必死に耐えているリリちゃんは、フルフルと全身を揺らして歯を喰いしばってました。
その姿にドキュンときちゃった私は、その後も尻尾とか色々なところを触ったりペロってしたりして、1日中遊び続けました。
翌朝目が覚めると、ふにゃふにゃになったリリちゃんが私にしがみ付いて眠っていました。
ほっこりした気分でほっぺにチュッとした後顔を洗おうと立ち上がろうとすると、リリちゃんが服の裾を引っ張って来ました。
振り返ると、涙を流したリリちゃんが
「行かないでっ!ママ!いなくなっちやだ!」
と叫びました。
その悲痛な顔を見た途端に涙が溢れ出してきた私は
「大丈夫!私がずっと一緒にいるからね!」
と、いつの間にか抱きしめて叫んでいました。
そして私は、リリちゃんと一緒にいるためにはどうすれば良い?と考えを巡らせていました。
アルナさん達には迷惑は掛けられないから、まずお金を稼がなきゃいけない。
それと、私はお兄ちゃんを探さないといけない。
探すならあちこち移動することになる。
リリちゃんとお兄ちゃん、どっちかを優先させるなんて選択肢は初めから無い。
なら、リリちゃんにこの家でお留守番をお願いする?
いやいや、それじゃリリちゃんが可哀想だ。
まだ小さいんだから、いっぱい愛をあげないといけない。
そうじゃなきゃ、寂しい人生になる!
それとそれと……。
あれこれと考えているうちに、リリちゃんがモゾモゾと動いて起きてきました。
抱きしめられているのがわかると、最初はびっくりして抜け出そうとしましたが、次第に落ち着きを取り戻して、身を委ねるようにもたれかかってきました。
「リリちゃん?これからのことなんだけど……」
そう切り出すと、リリちゃんが真剣な表情で正面に向き直りました。
「ノエルお姉ちゃん!私、私っ、ノエルお姉ちゃんとずっと一緒にいたいっ!」
「私は人を探す旅に出ようと思ってるの。リリちゃんには少し辛いかもしれない。それに何があるか分からないよ?」
「はい!ノエルお姉ちゃんと一緒に居られるなら、どこだって楽しいです!」
ふんすと、鼻息荒く宣言したリリちゃんはもう目は逸らさない!という風にしっかりとした目で見つめてきました。
「分かった。じゃあ、今日から家族だ!いっぱい甘えて良いからね?」
「は、はいっ!」
「だーめ、家族なんだから敬語はなし!」
「はい……う、うんっ!」
「うん、よし。じゃあ、今日中に用意をしちゃおうか。それで明日出発ね!」
「うん!ノエルお姉ちゃんっ!」
ギューッとしてきたリリちゃんをなだめつつ、出発の明日に思いを馳せました。
いつかお兄ちゃんとリリちゃんと3人で暮らしたいなぁと。
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翌日、そういえばアルナさん達に挨拶しなきゃなと思い、リリちゃんに宿舎の場所を聞いてみると
「リリちゃん、少し騎士団の人達に挨拶したいんだけど、宿舎の場所ってわかる?」
「き、騎士団!?だ、だめっ!行っちゃヤダ!」
騎士団という単語を聞いた途端、強い拒絶を見せたリリちゃん。
そのまま、肩を震わせて泣き始めてしまいました。
「何か、あったの?」
肩を抱きしめながら聞いてみると、さらに声を大きくして泣いてしまいました。
大丈夫大丈夫と頭も撫でながら
「変なこと聞いてごめんね?今は言わなくていいよ?いつか話してくれたらいいからね」
「い、嫌だっ!ノエルお姉ちゃんに隠し事は絶対にやだっ!」
「っ!?ありがと、リリちゃん。でも、無理はしなくていいんだよ?」
それでも、頑なに話すと言って聞かなかったので、
「分かった、じゃあ、話してくれる?」
「うん……あのね、私のママは病気で死んじゃったって言ったでしょ?でもパパは……殺されちゃったの。パパとママと暮らしてた町にね、騎士団の人たちが来たの。それでね、私たちは戦争に行くんだって言ってね、ご飯を全部持って行っちゃったの。だからね、このままじゃ死んじゃうからってパパが騎士団の人達を追いかけてご飯を返してくれないかって。そしたら、パパの、パパの、首を持ってきて!逆らう者には容赦はしないって言って帰ってったのっ!!」
あまりにも残酷な出来事に、私はショックを隠せませんでした。
じゃあ、アルナさん達も?
私は、私はもしかしたら殺されていたの?
あんな結婚したいとか言ってた人達が?
あんな奴らがリリちゃんのパパを殺したの?
リリちゃんを悲しませたの?
許さない。
絶対に許さない。
いつか絶対にリリちゃんと同じ苦しみを味合わせてやる。
「リリちゃん、リリちゃんはあいつらを同じ目に合わせたい?」
「同じ目?」
「そう、大切な人を殺された辛さを味合わせてあげるの」
「で、でも、それじゃあ人を殺しちゃうの?」
「別に殺さなくてもいいの。目の前で酷いことをすれば、あいつらはきっと苦しむよ」
「苦しむ……」
リリちゃんの目に、まだほんの少しだけどどす黒い感情が映った気がしました。
「私は絶対に許さない。リリちゃんをこんな辛い目に合わせたこと、何があっても許せない」
「ノエルお姉ちゃん……私、やる!これから殺されちゃうかもしれない人のために、騎士団の人達の考えを直す!」
こうして、私とリリちゃんの「復讐」は始まりました。




