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大好きなお兄ちゃんに復讐します  作者: さんまの刺身
第一章
5/17

守りたい人

「お嬢ちゃん、着いたぞ」

「んー」


あの後人生で初めて馬車という物を見て興奮してしまった私は、最初のほうはずっと窓の外を見て元気だったんですが、それが何時間も同じ景色だと流石に飽きてしまうというものです。

すっかり退屈してしまった私は、アルナさんとにらめっことかをして一日目は遊んでいたんですが、二日目

三日目となると元気がなくなってきて、ごはん以外は寝てるという非常に退屈な時間を過ごしました。

それも今日で終わりです!

なんてったって、エリックさんもアルナさんも王都はとっても楽しい場所だと自慢げに話していましたからね。

どんな所か、今からワクワクドキドキです。


アルナさんに手を引いてもらって馬車を降りるとそこには、たくさんの人々が行き交う、まさに都会といった町がありました。


「ここが王都?」

「えぇ、そうよ。ここが王都サウザンド。すごい人でしょう?」


どこか自慢げに答えてくれたアルナさんに相槌を返しつつ街を観察していると、なんと!猫耳とかウサギ耳のコスプレをした人たちがたくさん歩いているではありませんか。

か、可愛い!

中には、家族そろってみんなコスプレをしている人たちもいます。

でも……おかしいですね?

なぜか私の目には、しっぽとか耳が動いているように見えるのですが?

夢でも見てるのですかね。

目をごしごしとこすってみて、もう一回みても何も変わりません。

や、やばいかもしれません。

とうとう私、お兄ちゃん不足の影響で禁断症状が出てきてしまいました。

幻覚まで見るようになって、私どうなってしまうんでしょう。

あぁ、お兄ちゃん。

限界です。

今すぐ会いたいです。

ぎゅってしたいです。

早く迎えに来てください。

待ってますから。


「どうしたお嬢ちゃん?お、もしかして獣人は初めてか?」


私が立ち止まって見ていたからか、エリックさんが声をかけてきました。


「じゅうじん?」

「あぁ、あの人たちは獣人っていって、人間とは違う種族なんだ。ちょっと顔が怖い奴らもいるが、大体気のいい奴らだから仲良くしてやってくれ」

「嘘……お耳としっぽ、本物?」

「あぁ、本物さ。だが、くれぐれも馬鹿にしたりはしないでほしい。昔、獣人を人族が差別していた時期があってな。まだ、その名残が残っている地域もある」


獣人たちは皆、誇り高く家族思いの奴らばかりだからなと言い聞かせるように言ってくるエリックさん。

ですがもう、そんな言葉は私の耳には届いていませんでした。

今目の前を狐の小さい女の子が走り去っていったんですが、しっぽをフリフリさせて狐耳をぴょこぴょこさせてる姿に、心を奪われてしまいました。

も、もふりたい!

思わず手をわきわきさせてしまった私に、エリックさんは怪訝な表情を浮かべました。


「エリックさん!あの子!もふりたいっ!」


エリックさんはさらに困惑した顔をしました。


「もふりたい?なんだそれは?」


私は答える時間も惜しく感じると、女の子が向かったほうへ全力ダッシュしました。

後ろで誰かが名前を呼ぶ声がしたけれど、気にせずに走り続けました。


しばらく走ると、さっきまでいた場所とは別世界のような所へ入ってしまったことに気づきました。

あちこちボロボロの家が立ち並び、人の気配をほとんど感じません。

不安になって、少し涙が出てきてしまいました。

思わずしゃがみ込むと、後ろから


「お姉ちゃん、どうしたの?」


びくっとなって振り返ると、さっき私の前を通りすぎていったあの女の子ではありませんか。

や、やっぱり可愛い!

涙もすっかり引っ込んで元気が出てくると、とうとう我慢しきれなくなって


「お耳としっぽを触らせてください!」

「へ?」


あぁ、ついやってしまいました。

このせいで変な人に思われたらどうしましょう。

……神様、実在するというのならば、時間を数分前に戻してください!

どうか、どうかお願いします。

キョトンとして固まった女の子は、それはそれは可愛くて疼く手を抑えるのに苦労しました。

しばらく手と格闘をしていると、やっと起動した女の子は目に見えてうろたえ出した後、ひゃーと奇声を上げながらどこかへ走り去っていきました。

うぅ、どこかへ行ってしまいました。

でも……もう一度追いかけたら、今度こそ不審者として突き出されそうです。

ここはなくなく、我慢するとしましょう。

はぁ、残念です……

って、そういえば私迷子になっていたんでした!

ど、どうしたら?

とりあえず出口を探してみましょうか。


……見つかりません。

どんなに歩いてもずっと廃墟みたいな町が続いています。

お兄ちゃん、助けに来てよ!

お願い、なんでもするから!

お願い、お願いだよ……

だんだん視界がにじんできました。


「うっうっ」



どのくらい歩いたでしょうか。

いつの間にか私は、どこかの森の入り口まで来てしまいました。

ここは……どこですか?

うぅ、お兄ちゃーん。


その時、視界の隅を黒い影が横切った気がしました。

咄嗟に振り向き、叫びました。


「だ、誰!?」

「お、お姉ちゃん?」


え?

お姉ちゃん?

も、もしかして?


「もしかしてさっきの女の子?」

「は、はい!でもお姉ちゃんはどうしてこんなところにいるんですか?」

「それはこっちのセリフだよ?こんな時間に一人で、危ないよ?」

「私は大丈夫です。私のおうちはこの森の中にあるんです。だからいっつも通ってますから」

「森の中に住んでるの?でも危ないでしょ?おうちの人心配するよ?」


女の子は、おうちの人と言われた途端に顔を俯かせました。

そして嗚咽を漏らし始めました。


「ご、ごめんね?ごめんね?」


涙を流す姿に耐え切れなくなり、思わず抱きしめてしまいました。

本当に私は無神経です。

こんな夜遅くに一人で歩かせるなんて、親は絶対に許さないことなんてすぐわかるのに。

リリちゃん……

その後も私は、泣き止むまで抱きしめ続けました。


女の子が泣き止んだ頃には、すっかり日も暮れて真っ暗になってました。


「大丈夫?」

「は、はい。ご迷惑をおかけしてすみません」

「いいの。私の方こそ、辛いこと思い出させちゃってごめんなさい」


ううんと首を振る女の子は、何か吹っ切れたような顔をしていました。

そして少し困った顔になると、


「お姉ちゃん?もうこんな時間ですし良かったら私の家に泊まっていきませんか?」


よろしければなんですけどと遠慮がちに聞いてきたリリちゃんでしたが、もちろん私の返答はオーケー。

いいの?と聞くと、パッと明るい表情を浮かべたリリちゃんは、目に見えてわかるほど嬉しそうにしていて、こっちも照れるくらい喜んでくれました。


「私の名前はリリです。お姉ちゃんの名前は何ですか?」


案内してくれる途中に教えてくれた名前はリリという名前でした。

可愛い名前だねと褒めると、照れて身をくねらせながら、ママとパパが一生懸命考えてつけてくれたのっ!と、満面の笑みで嬉しそうに話してくれました。


リリちゃんがこっちですと案内してくれたのは、小さな小屋でした。

この小屋で、母親と二人暮らしをしていたそうです。

お母さんのお話を一生懸命してくれるリリちゃんは、時折寂しげな表情を浮かべますが、もうさっきみたいな悲しい表情をすることはありませんでした。

途中で船を漕ぎだしたリリちゃんをベッドに寝かせると、可愛い寝顔が目に飛び込んできました。

思わず頭を撫でると、リリちゃんの口元が少しだけにこっとなって、安心しきったような表情になりました。

それがとっても可愛くて、こんなに小さい子が一人取り残されるなんて絶対にダメだと確信しました。

でも私には、この子を連れて行けるお金もありませんし……

騎士団のみんなには迷惑は掛けられません。

どうしたら……いいのでしょうか。



「お姉ちゃん、朝だよ?」

「んー」


私をユッサユッサと揺らしながらリリちゃんが起こしてくれました。

どうやら昨日、考え事をしていたら眠ってしまったみたいですね。


「お姉ちゃん、朝ごはんだよ。外で顔を洗ってきて」

「う、うん」


リリちゃん、なんかお母さんみたい。

それに比べて私は、ここに来てからアルナさんやエリックさん達に何もかもしてもらっていて、まさにおんぶに抱っこ状態です。

これではとても申し訳ないです。

何かできることは。

いろいろ見渡してみると、丁度リリちゃんがエプロンを脱いで着替えているところが目に入りました。

そこで私は驚愕しました。

リリちゃんの体はとってもガリガリで、ご飯を食べて無いんじゃないかってくらい細かったのです。


「リリちゃん、その体……」


少し恥ずかしそうに体を隠したリリちゃんは、実はと言って話してくれました。


私はお母さんが死んじゃった後、とても悲しくて毎日毎日一日中泣いてました。

この家にある食料もあまりありませんし、ご飯も食べて無いうちにお母さんに会いたいなと思うようになって、このままここでお母さんに会えるまで過ごそうと思ったんです。

お恥ずかしながらと、照れた表情で話すリリちゃんにとうとう、私の涙腺は崩壊しました。

リリちゃんを抱きしめて子供みたいに泣いてしまいました。

驚いた表情を浮かべたリリちゃんは、私の頭を撫でてくれましたが、途中でうぇーんと泣き始めました。

泣き声を聞いた途端、私はこの子を守りたいっ!と強く思うようになりました。

何があっても、この子は助ける!と。



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