結婚!?
ご飯を食べた後、アルナさんとおしゃべりしているとさっきのおじさんが、少し気を引き締めた表情で
「お嬢ちゃん、少しいいか?」
「ん?どうしたの?」
「お嬢ちゃんは、これからどうしたい?良ければ何だが、俺のところでもアルナのところでもいいから養女として預かるっていうこともできるんだが……」
「うーん、アルナさんもおじさんもいい人だけど、私にはやらなきゃいけないことがあるの!」
「やらなきゃいけないこと?」
「うんっ!どこかにいるお兄ちゃんを探すの!」
「お、お兄ちゃん?えっと、お嬢ちゃんはどこの出身か覚えているか?」
「団長、そのことなんですがノエルちゃんはトウキョウという町の出身だそうです。なにかご存知ですか?」
「トウキョウ?うむ、聞いたことがないな。国の名前とかはわかるか?」
「日本だよ。聞いたことない?」
「!?それは本当か!?」
「う、うん」
「そうか……」
おじさんはそれっきり黙り込むと、なにか考え込んでしまいました。
もしかしたら日本を知っているのかもしれません。
しばらくして、おじさんが不意に顔を上げると
「アルナ。伝令に伝えて国王に伝えろ。召喚者が出たかもしれないとな」
「っ!?ノ、ノエルちゃんが召喚者!?了解しました。」
これを聞いたアルナさんは、驚きの表情を浮かべた後、ものすごい速さで部屋を出ていきました。
「おじさん、日本を知ってるの?」
「あぁ、聞いたことがある。100年ほど前、我が国が帝国と戦争をしてた時、帝国側に勇者と名乗るとんでもない人間がいたそうで、圧倒的力で我が軍を蹂躙したそうだ」
「勇者?その人、すごい強いんだねー」
「あぁ、そ奴のせいで、我が国は歴史上稀に見る大敗北を喫したそうだ」
「ふーん、それでその人と日本にどんな関係があるの?」
「実はな、その勇者は戦争の後、日本という故郷の料理の名前を広めていった後、死んでいったそうだ」
「料理!何があるの!?」
「えーっと、確かスシとかラーメンとかいったか」
「ほんと!?おじさん!食べたい!」
するとおじさんは、わかったわかったと笑いながら
「そういえば、自己紹介をしてなかったな。俺の名前はレリック。第2騎士団の騎士団長をやってる」
「レリックさん?分かった。私は秋風 乃絵瑠。14歳だよ」
「14歳?本当か?」
疑いの眼差しでこっちを見てくるエリックさんに少しカチンときました。
昔から同年代の子達の中でも飛び抜けて小さく子供っぽい顔つきだったこともあって、同い年の子からも妹扱いされてとてつもない屈辱を味わってきました。
なので、少し仕返しします。
「ほんとだよ。それでこれから何て呼べばいい?」
「なんでもいいぞ?好きなように呼んでくれ」
大チャーンス。
これはエリックさんに仕返しする大チャンスなんじゃないですか!?
できる限り恥ずかしい名前にしましょう。
うーん、エリちゃん?おじいちゃん?なんかしっくりきませんね。
そうです!パパなんてどうでしょう。
「じゃあ、パパっ!」
「パ、パパっ!?だめだ、それは絶対にダメだからな!」
「だめ?」
「うっ」
私お得意のうるうる攻撃を受けて、レリックさんはとっても恥ずかしそうな困ったような複雑な表情を浮かべていました。
「や、なの?」
レリックさんは頭をガシガシと掻いた後、諦めたように
「あー、わかったわかった、パパでいいから。だから泣くな」
ほらと言ってハンカチを差し出してくれたレリックさんは、なんだかとっても可愛く見えました。
その後、おじさんはまじめな表情を浮かべて、
「それで、お嬢ちゃんはどうしたい?」
「私は……パパとママと一緒にいたい!」
「お嬢ちゃんのママは、故郷にいるのか?」
「んー?ママはアルナさんっ!」
「わ、私っ!?」
いつの間にか帰って来ていたアルナさんは顔をボフっと真っ赤にすると、照れたように……私が団長のお、奥さん!なんて小さい声で呟いていましたが、こちらにばっちりと聞こえていたので、レリックさんも照れたように顔を赤くして目を逸らしました。
おやおや、これは脈ありですなー。
ふっふっふー。
ここは一つ、おねーさんが恋の指導をしてあげましょうかねぇ〜〜。
「ねぇパパ?」
「んー、やっぱりやめないか?背中がむず痒くてしょうがないんだが」
「だーめ、パパはパパなの!」
まだパパを嫌がるエリックさんに、思わずほっぺを膨らませてしまいました。
ですが、私の使命を思い出したので気にせず集中することにしました。
「ママはパパじゃやだ?」
「え?わ、私は……」
あわあわとするアルナさんを横目で見て、すました顔をしているように見せているエリックさんですが、ほっぺは赤くなり、視線もあっちへ行ったりこっちへ行ったり。
全然取り繕えてなくて、私は必死に笑いをこらえました。
「パパはママじゃやだ?」
「っ!?お、俺は……」
びくっと肩を震わせると、本当に微かな声で……俺は、アルナがいい!と呟いたのを聞き取ってしまった私は、にやける顔を抑えつつ、アルナさんに伝えてあげることにしました。
アルナさんに顔を近づけると、小さく耳元で……ママ、パパはママがいいって今言ってたよ?と言うと、真剣な表情を浮かべたアルナさんは、大きく息を吸い込むとエリックさんに向かって
「わ、私も団長がいいですっ!」
大きく目を見開いたエリックさんは覚悟を決めたのか、アルナさんに向き直しました。
「アルナ、今日の夜少し話さな「だーめ!今言うの!」今か!?」
それちょっと恥ずかしいというかなんて可愛いことを言ってましたが、私も立ち合いに参加したいので今この場じゃなきゃ断固拒否です!
エリックさんが恥ずかしそうにして先に進まないので、背中を押して応援してあげます。
私の目を見たエリックさんは、軽くうなずいた後、
「アルナ!俺と結婚してくれないか?」
「け、結婚!?」
「どうしたんだお嬢ちゃん?」
「なんで結婚?まだ恋人でもないんでしょ!?」
「恋人か?恋人は意味としては夫婦と同じだぞ?」
う、うそでしょ?
お付き合いとかしないの?
しなきゃ愛を確かめられないじゃないですか?
私もお兄ちゃんと世界一の愛を確かめ合っていたのに。
なのにあの女は!
……ふぅ、つい熱くなってしまいました。
やっぱりいけませんね。
お兄ちゃんの目の前で熱くなると、お兄ちゃんは優しいですから相手の人をかばっちゃうんですよね。
私以外の女にやさしくする必要なんてないのに。
まぁいいです。
「私の故郷は、恋人って言うのは基本的に相手のことを見極める段階なんだよ。趣味とか好きな料理とかを知るためには必要だよ?」
「なるほど。確かにそう考えれば必要かもしれないな。俺たちの故郷だと、結婚してそこから愛を育んでいくっていう感じだからな」
納得した顔でふむふむと頷くエリックさん。
だからちょっと意地悪しちゃいます。
「でもね、本当に心の底から愛し合ってたら必要ないんだよ?」
だから、パパとママは結婚でいいね?と言うと、お互い顔を真っ赤っかにしてました。
「パパとママの結婚式はいつにする?」
「け、結婚式か。ア、アルナ。本当に俺でいいんだな。」
「は、はい!団長!」
「そ、そうか」
美男美女の二人が頬を赤らめて手を繋いでいるのは、ほんとに絵になりますね。
二人を幸せオーラが包んでいるとき、辺りに笛の音が鳴り響きました。
「何の音?」
「あぁ、これは出発の合図だな。これから王都へ帰るんだ。大体2~3日で着く」
「そんなかかるの?すごい遠いんだね」
「あぁ、じゃあ行こうか。待たせても悪い」
2~3日もかかるなんてどんだけ遠いんでしょうか。
お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ、退屈に決まっています!
はぅー、お兄ちゃん、早く会いたいです。
この時の私はまだ知る由もありませんでしたが、既に何かが崩れ始めていることに誰も気付いていませんでした。