最初の一歩
「妖精ちゃんの名前を決めようー!」
「「名前?」」
「そう、いつまでも妖精ちゃんじゃ呼びづらいしね。妖精ちゃんは融合する前は名前とかあったの?」
「名前……大きくなったらみんながつけてくれるって言ってた」
「そっか、辛い事思い出させちゃったね。じゃあ私とリリちゃんで名前を付けていいかな?」
「うん。二人につけてほしい」
「分かった。リリちゃんはどんな名前が良いと思う?」
「えっとね」
手をおでこに当ててうんうんと唸るリリちゃん。
しばらくして顔を上げると、自信満々な顔を浮かべました。
「妖精さんの名前は、カレーっ!」
「「……」」
「どう?いいでしょ?」
ドヤ顔でとんでもないものをぶっ放したリリちゃんに戦慄を覚えます。
横を向くとぽかんとしている妖精ちゃん。
少し頭が痛くなってきましたが、どうしてその名前にしたか理由を聞きます。
「リリちゃん、どうしてカレーっていう名前にしたの?」
「私、お母さんの作るカレーが大好きで妖精さんもおんなじくらい大好きだからっ!」
「う、うん。妖精ちゃんはどう思う?」
「え、えっと、」
「正直に言っていいよ?」
「カレーは、ちょっとやだな」
がくり
「そ、そうだよね。カレーなんて名前やだよね」
「や、やじゃないよ?け、けど、その、もっといろいろ考えてみてほしいなぁ」
「分かったっ!えとね、じゃあヒラヒラちゃんっ!羽がヒラヒラしてたから」
「あ、ありがとうリリちゃん!次はお姉ちゃんにも決めてほしいなっ!」
まさかリリちゃんにこんな弱点があったなんて。
「スイ、なんてどうかな?」
「スイっ!今日からスイっ!」
「よし、じゃあ名前が決まったところでこれからの事について話すからよく聞いてね」
「うんっ!」
「ヒラヒラちゃん、良いと思ったのに」
「「……」」
「二人とも良い?私達の最終目標は復讐をすること。でもそのためには準備をしなくちゃいけない」
「準備?」
「なにするの?」
「みんなが復讐したい人はどこにいるか分かる?」
「えっと私は騎士団だから、お城っ!」
「王様だからお城っ!」
「そうだね、私もお城。前回はたまたま上手くいったけど、次に侵入できるか分からない。あそこに居た人達はみんな殺しちゃったし、きっとお城は警戒してると思うんだ」
「うん」
「どうするのお姉ちゃん」
「まず、私達が強くならなきゃいけない」
「強くなる……」
「どうやって強くなるの?」
「私達は、学園に通いたいと思います」
「ノエルお姉ちゃん、学園っていっぱいお金がかかるんだよ?」
リリちゃんは心配そうに見つめてきます。
けどそこは問題なしっ!
実はララさん達とおしゃべりをしていた時に、偶然にも学園という話題が出たんです。
ララさん達が言うには、強くなるにはまずいろんな基礎を覚えなきゃダメってことで学園が一番の近道とのこと。
でもリリちゃんの言う通り、学園に通うにはすごいお金が必要です。
当然その話も出ました。
1クレイが大体日本円で1円だとすると、およそ月10000クレイ必要。
この世界の一般の人の一月の収入は平均で30000クレイ。
なので学園に通っている人のほとんどが貴族、もしくは成功している商人の子供だと言っていました。
「お金の問題よねー、ノエルちゃんは一文無しだもんね」
「うっ、はい」
「金か、金なら俺が出してやる」
「えっ、リチャードさんっ!?」
「よし、俺も出す」
「ゴンさんまで」
なんとリチャードさんや、小さい筋肉だるまで無口のゴンさんがお金を出してくれると言ってくれたのです。
「そうね、じゃあギルドのみんなで出し合いましょう」
「ララさん、私たちだけなんてダメだよ。他にも子供いるでしょ?」
そう言うと、みんな苦笑い。
不思議に思い聞いてみると、
「この街にはリリちゃんくらいしか子供はいないんだよ。みんな王都に出て行っちゃってね」
「そ、そうなんだ。変なこと聞いてごめんなさい」
「大丈夫だ。別に今世の別れってわけじゃねぇーしな」
「だから金のことは気にしなくていい」
「うん、ありがとうリチャードさん、ゴンさん」
「じゃあ後の問題は一つね」
「問題?」
「ええ、貴族に対する態度や言葉遣いよ」
「態度や言葉遣い?貴族って偉い人でしょ?」
「そう、貴族は確かに身分が高い。それだけプライドが高い人が多いってことよ」
「えっと、どうしたらいいの?」
「それを今日から二人にみっちり教えてあげるわ。二人の出来にもよるけど、大体一か月くらいは覚悟を決めなさい。二人が貴族に無礼な態度をとって殺されたなんて聞いたら、後悔してもしきれないわ」
「まぁ、そんなことをするやつはいないとは思うがな」
「ちょっと不安になってきたよ」
「心配すんな、そのための一ヵ月だ」
リチャードさんがにやりとします。
ほ、本当に大丈夫なんでしょうか。
「じゃあ早速始めましょうか、地獄の一ヵ月を」
「ぎゃー」
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「ということでやってきましたっ!。学園っ!」
「ノエルお姉ちゃんどうしたの?」
リリちゃんの純粋な瞳が、心にささる。
ふー。
この1か月は長かった。
基本的に誰に対しても敬語は使わない私はまずそこから矯正され、貴族にあった時は道を開けて礼をし、貴族に口答えしないなど様々な事をみっちり教え込まれました。
ふぁーとあくびをすると叱られ、うとうとし始めても叱られるの繰り返しでした。
そんなことも昨日で終わり。
今日からは待ちに待った学園生活ですっ!
リリちゃんとスイちゃんと一緒に、元の世界では経験できなかった青春をするんですっ!
「ふぉーーー」
「大きいっ!」
「すごいねお姉ちゃんっ!」
門をくぐった私達を待ち構えていたのは、どでかいヨーロッパ風の校舎。
ベルが鳴り響く時計塔
馬車がすれ違う石畳の道路
どれもかれもが一度はあこがれたヨーロッパの世界。
すごい
すごいよお兄ちゃんっ!
両隣では無邪気にはしゃぐ二人。
やっぱり子供は笑顔が一番だよ。
でも少しだけ残念なのは、お兄ちゃんと一緒にこの感動を共有出来なかったことです。
お兄ちゃんを召喚したやつのせいだとは思いますが、この世界に召喚されなかったらこんな景色一度も見れなかったと思うと、なんだか複雑です。
二人にも会えましたしね。
「リリちゃん、スイちゃん、私達の物語の初めの一歩!準備はいい?」
「うんっ!」
「スイもっ!」
「じゃあ行こうか」
「学費が一人分足りませんよ?もう一人分準備してきてから来てくださいね」
「うぼぁ」
……初めの一歩は後ろ向きでした。