小さな妖精の覚悟
「やっ、行かないでっ!」
「いなくなっちゃうの?」
「ぐすっ」
森の出口についたのがさっきのこと。
そこでばいばいと言った途端、予想していた通り見事に大号泣。
体に引っ付いて離れてくれません。
「うーん、どうしようか」
「一緒に連れてっちゃだめなの?」
「流石に連れてはいけないかなぁ」
妖精さん達は小さいと言っても、手のひらにしっかりと乗るくらいには大きいです。
街中で三人を隠し通せるとは思えないですし、もしかしたら人間に狙われるかもしれません。
「ごめんねみんな、みんなを連れて行ってあげられないんだ。悪い人間にばれちゃったら何されるか分かんないでしょ?」
「だいじょーぶっ!」
「ぜったいばれないっ!」
「えーっと、そういう問題じゃないんだよなぁ」
「むー、みててっ!」
「えいやーっ!」
「っ!?」
「きゃっ!?」
みんなが一斉に手を振り上げたかと思うと、眩い黄金の光が目を覆いつくしました。
数瞬後、光が収まってきて三人の方を見ると目を疑う光景が。
「じゃじゃーんっ!」
なんとそこには、とてつもなく顔が整った美幼女。
美幼女がいたのですっ!
無い胸を精一杯に張ってドヤ顔。
「ぐはっ」
「ノ、ノエルお姉ちゃんっ!?」
「お姉ちゃんっ!?」
遠くから見ているだけでも幸せな美幼女が二人。
それに加えて間近に迫った二人の上目遣い。
ここは天国かっ!?
神様ありがとうございます。
ぶしゅっ
薄れ行く景色の中に映ったのは、必死に私に叫ぶ二人の叫び声でした。
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目が覚めた私に待っていたのは、途方もない罪悪感でした。
「リリちゃん、妖精さん達、ごめんね」
寝ている二人の目元は真っ赤。
かなり泣きはらしたであろうことは想像に難くありません。
本当に申し訳なさでいっぱいです。
「二人とも本当にごめんね。でも本当にびっくりした。」
まさか三人が融合するなんて思いもよりませんでした。
でも確かにこれなら、人間の街に一緒に行っても問題ないかもしれないですね。
まぁ、二人ともとんでもない美幼女なので別の問題が起こりそうですが。
そこはリリちゃんだけでも発生したであろう問題なので、そんなに変わらないですしね。
リリちゃんのさらさらな銀髪と妖精ちゃんの輝く金髪。
優しく頭を撫でると、二人とも少し苦しそうな顔だったのが、目元が和らぎどこか安心したような顔に変わりました。
「信頼してくれてるってことでいいのかな?」
そんな二人の表情を見ていると、何だか昔の事を思い出します。
私が小さい頃、甘えに行くとよくお兄ちゃんが頭をなでてくれました。
そしてこう言うのです。
「乃絵瑠は可愛いなぁー、よしよし」
お兄ちゃんに撫でられているとつい口元が緩んできてしまうので、必死に我慢して笑われたこともあります。
けど私にとって、そんな時間がこの世で一番幸せな時間でした。
しかし、そんな時間はあの女に奪われてしまいました。
忘れはしない。
あの日、遊園地で私のお兄ちゃんを奪った。
その時に誓った復讐の決意は今も変わらず、いや、さらに強く燃え上がっています。
待っててね、雌豚さん。
絶対に復讐してあげますから。
「よしっ、リリちゃん、妖精ちゃん、おはよう」
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「妖精ちゃん、私達はある目標の為に旅をしなきゃダメなの」
「旅?」
「そう、けどその目標は人によってはあんまりいいことじゃないって人も多いの」
「うん」
「もしかしたら妖精ちゃんは、それを聞いて傷つくかもしれない」
「……うん」
「一緒に居たくないって思うかもしれない。それでも聞いてくれる?」
「聞くっ!ずっと、一緒に居るって決めたもんっ!」
「……そっか。ありがとう妖精ちゃん」
妖精ちゃんの目には、並々ならぬ覚悟が浮かんでいるように見えます。
「私達の目標は、復讐」
「ふ、ふくしゅう?」
「そう、軽蔑した?」
「う、ううん」
復讐と聞いた途端、びくっと反応した妖精ちゃんですが、目に浮かぶ覚悟は変わりません。
「私の復讐の相手は、お兄ちゃんを奪った女」
「私が復讐したいのは、お父さんを殺した騎士団っ!」
「「妖精ちゃんは、誰か復讐したい人はいる?」」
妖精ちゃんはしばらく手をぎゅっと握って俯いていました。
そんな妖精ちゃんにリリちゃんは不安そうな顔を浮かべます。
けど大丈夫。
私にはそんな確信がありました。
大丈夫だという思いも込めてリリちゃんの手をぎゅっと握りました。
「……私みたいな妖精がね、少し前まではいっぱいいたんだよ?けどね、人間達が妖精を捕まえてペットにし始めたのが1年前くらいの事。」
「うん」
「それでね、私達妖精の王女様が捕まったみんなを助けようと人間の王にお宝を持って交渉しに行ったの。そしたらね、人間の王は王女様に向かってこう言ったの。ペットが我ら人間と交渉とはふざけた話だ、捕まえろって。王女様は必死に立ち向かったんだよ。だけど王女様は捕まっちゃって、他のみんなは殺されちゃったの。ぐすっ、みんな頑張ったんだよ。でも、でもっ!」
ぎゅっ。
涙ながらに訴える妖精ちゃん。
私とリリちゃんは示し合わせたかのように、ぎゅっと抱きしめました。
こんなに小さな体でそんなにもたくさんのものを背負って来たんだ。
そう思うと、自然と抱きしめる力に力がこもりました。
「ぐすっ。……私はあの時、王女様がまだ幼かった私をこっそり逃がしてくれたから助かったの。でもみんなは死んじゃった。私がもっと強ければっ!誰も死なずに済んだのっ!」
「辛かったねなんて言うつもりはないよ。私は経験してないからその辛さを本当の意味で理解してあげることはできないから。ねぇ妖精ちゃん。王女様は最後になんて言ってたの?」
「……あなただけは生きて、この世界のいろんなものを見なさい。きっと助けになってくれる希望が現れるから。そう言ってたの」
「うん、妖精ちゃん。決断の時だ。確かに復讐を王女様は望まないかもしれない。でもね、やらないと前に進めないというのなら王女様も許してくれると思う。」
「……そう、かな。」
「私達を信じてくれる?」
「分かった」
「人間の王に復讐する」