事件
「よ、妖精さん!?」
リリちゃんは目をまん丸にしてびっくりしています。
「そーだよ」
「わたしたち」
「もりのようせいだよー」
なんと飛び出てきたのは森の妖精さん達でした。
みんな女の子で、目がおっきくてくりくりしてる美少女ちゃん達です!
か、可愛いーっ!
や、やばいです。
私の中の抱き着き衝動がヴぉー!と膨れ上がっていきます。
妖精さん達は、黙った私達を見て見事にシンクロして首を右に傾げています。
さらに黙ったままの私たちを見て怪訝な表情になっていきます。
そんな表情を見て、ふと我に返った私は突然森の中に来てしまった現象について、もしかしてこの妖精さん達がいたずらをしたんじゃないかと思い、聞いてみることにしました。
「私達にいたずらしたのはあなた達?」
と聞くと、
「いたずらー?」
「なんのことー?」
「しらなーい」
どうやら妖精さん達のいたずらじゃなかったみたいです。
「私達、街の中で眠ってたんだけどね、いつの間にかこの森にいたんだよ。妖精さん達、何か知らない?」
妖精さん達は首を傾げてうーんとうなると、
「しらないよー?」
「おどかしただけー」
「「「ごめんねー?」」」
うっ。
そんな目をうるうるさせてごめんねなんてされたら、我慢できなくなっちゃいますよー!
「疑ってごめんね?全然怒ってないからね?だからそんな泣かないで?」
とうとうポロポロ涙を流し始めた妖精さん達に罪悪感MAXの私は、手を広げて妖精さん達においでおいでをする。
うぇーんうぇーんと号泣しながら私の胸元に飛び込んできて、泣き続けている姿に不謹慎にもキュンとしてしまいました。
「よしよし、大丈夫大丈夫」
まとめて抱きしめながら頭をなでなでしていると、ようやく落ち着いてきたのか泣き声も消えてきて顔を上げる。
ぐはっ!
この上目遣い×3。
思わず鼻から赤いものが一筋。
するとその鼻血を見て顔色を変える妖精さん。
やばいっ!と思った時にはもう遅かったです。
またもや溢れ出す大量の涙。
「うぇーんうぇーん、ごめんなさーい!」
「うっ、うっ、もういたずらやめるから、お姉ちゃんを助けてっ!」
「うー、やだやだ!お姉ちゃん死んじゃうのヤダっ!」
・・・なんか勝手に殺されています私。
まだぴんぴんに生きてるよ?
けど間違いなく私の鼻血を見てこうなった3人。
もしかしたら・・・・・・。
涙と泣き声が収まってきたのを見計らって、聞いてみることにしました。
最悪トラウマみたいなものが蘇っちゃうかもしれない。
それでも私は絶対に聞かなきゃいけない。
そんな感覚が浮かんできたんです。
「ねぇみんな?」
「ぐすっ、なーにお姉ちゃん?」
「お姉ちゃん大丈夫なの?」
「お姉ちゃん死んでないっ!」
「私は大丈夫だから。心配してくれてありがとうね?」
「「「うんっ!」」」
真っ赤に腫らした目をごしごしこすって涙を拭う姿を見て、みんなをここまで心配させちゃったのはただの鼻血という事実に、猛烈に申し訳なさを感じます。
ですが、これまでの反応を見てこの3人の妖精には深いトラウマを植え付けるような事件があったということを確信しました。
わざわざそれを聞き出そうとしている自分に嫌気がさします。
なぜこんなにも聞かなきゃいけないという感覚が浮かんでくるのでしょうか。
「ごめんねみんな、ちょっと聞いてもいいかな?」
「「「うん、いいよー」」」
笑顔で返事してくれる3人。
悲しい気持ちにさせたくない。
そんな自分勝手な気持ちを押し殺して尋ねます。
「どうして3人は、私の鼻血を見ただけで死んじゃうって思ったの?」
「そ、それはね」
「ちょっとまえにね」」
「おとこのひととおんなのひとがね」
「このもりにきたの」
どくっ。
どくっどくっ。
この衝動は何でしょうか。
「なんかおびえながらもりをあるいてたの」
「そのあとにね、いっぱいのひとたちがもりにがしゃんしながらはいってきて」
「なんかひとりだけえらそうなやつがね」
「なにかいったらね」
「ふたりがとつぜんびくんってしてたおれちゃったの」
「そのあとね、ぐすっ、ふたりをけんでぶすって」
「うぇーん、いっぱいいっぱいちでてたの」
「いたいいたいってないてたの」
……お兄ちゃんが刺された。
……剣で刺された。
……ぶすって刺された。
イタイイタイってさけんでる
あ゛ぁってうめきごえをあげてる
ちがどくどくとながれてる
……あはっ、なんかきもちいい
でもそれいじょうに……ころしてやりたい
おにいちゃんにそういうことをしていいのはわたしだけ
わたしだけのおにいちゃんなんだよ
だからいつかころしてあげる
おにいちゃんがあじわったくるしみをぜんぶかえしてあげる
「お、お姉ちゃん?」
「だ、大丈夫?」
「いたいいたい?」
・・・・・・けど今はまだ、復讐心が薄い気がするからやめておいてあげる。
その場面を実際に見たわけじゃないから。
それに今はこの妖精さん達となんか固まっているリリちゃんを守らなきゃいけないから。
だから待っててね。
ゴミクズ騎士団さん。
ふふっ。
「ごめんね、ちょっと考え事してた」
「ノ、ノエルお姉ちゃん。ちょっと顔怖いよ?」
「えっ、そうかな?むにゅむにゅむにゅ、直った?」
「う、うん」
ふー危ない危ない、ちょっと顔が怖かったみたいですね。
みんなを怖がらせちゃうところでした。
心配そうな顔をこちらに向けるみんなに精いっぱいの笑顔を向けて言う。
「みんな守ってあげるからね」