マッサージ
「ララさん、腕を生やせたりする?」
「え、腕?」
昨日大変な目に合った私達は、夜通しで馬車に乗ってララさん達がいる所へ帰ってきました。
リリちゃんの腕を見た人はみんな目を伏せて、悲しげな表情を浮かべていました。
不思議に思い聞いてみると、騎士団の連中は少しでも気に入らないものがあると、大けがを負わせて笑っていやがると悔し気に話してくれました。
やっぱり本物の外道だったんですね。
殺せて良かったです。
なんて、言えるはずもありません。
そうなんですかと相槌を打つと、気まずさを紛らわす為に外に顔を向けました。
すると隣に乗っていたお姉さんがリリちゃんごと一緒にぎゅーっと抱きしめてくれました。
それがとっても温かくて、何だか泣きそうになってしまったのは内緒です。
「リリちゃんの腕が、その……」
「なっ!」
腕を見せた時、ララさんは驚愕してました。
そうですよね。
腕が無い女の子なんてショックすぎますよね。
「詳しく聞かせてもらうわよ?」
私は、お城であったことを詳しく説明しました。
「なるほどね、理解したわ。大変だったわね」
そう言って頭を撫でてくれて、思わずポロリと涙が零れました。
「でもね、私、いっぱい人殺しちゃったんだよ?」
「そうね、確かに人殺しは良くないわ」
「だったらっ!」
「聞いてノエルちゃん。それは、自分の欲望の為にやった事なの?」
「分かんない。リリちゃんが傷つけられて、頭が真っ白になって、復讐したいって思ったのっ!」
「そっかそっか、それじぁ後悔してる?」
「してないっ!」
「なら良し。もう泣かなくていいのよ?」
「うぅ、うっう」
私はその日、一晩中抱き着いて泣きじゃくっていたとララさんは後で話してくれました。
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「ん、んー」
次の日、目が覚めるとリリちゃんの寝顔がすぐ横にありました。
すぅーすぅーと小さな寝息で寝ています。
「ゆ、夢」
あの出来事が夢だったんじゃないかと希望を持ち、腕を見たら何と腕がありました!
あれは夢だったんだっ!
リリちゃんの腕を触ってなでなですると違和感を覚えました。
手が、冷たいという事に。
まさか!
私はベッドを飛び降りて駆け出すと、ララさんのいるギルドに向かいました。
「はふぅー、ララさんっ!腕っ!」
「おはようノエルちゃん。要件は分かってるから、椅子に座って落ち着きなさい」
そう言ってララさんはお水を出してくれました。
「ごきゅ、ごきゅ、ふはぁー。それで、リリちゃんの腕はもしかしてっ!?」
「えぇ、あなたの想像通り、義手よ」
「っ!うっ。リリちゃんの腕はもう治らないの?」
「そうね、確かに腕はもう生えてこないわね」
腕はもう……戻らない。
私のせいです。
私がお兄ちゃんを探したいってわがまま言ったから、リリちゃんを巻き込んでしまったんです。
本当に……私のせいで。
むにむに。
「ほーら、辛気臭い顔をしないの。リリちゃんはノエルちゃんを手伝いたくてついていったんでしょ?」
「で、でも」
「それにお姉ちゃんが悲しい顔をしてたら、リリちゃんが起きた時に悲しくなっちゃうよ?」
「義手って言うのも案外悪くないみたいよ?ねぇ、リチャード?」
「がははっ、そうだな。確かに最初は腕の感覚が無くて気味が悪かったが、腕よりも硬い分、冒険者として生きるのには前よりもいいくらいだ」
そう話してくれたのは、前にギルドで一番最初に話しかけてくれた茶色い髭のおじさんでした。
「ぐすっ、ほんと?」
「あぁ、ほんとだから安心しな」
がしがしと乱暴に頭を撫でてきましたが、何だかリチャードさんのおかげで心が軽くなった気がしました
「お?やっといい面になったな。じゃあリリ坊の所へ戻ってやりな。きっと待っとるぞ」
「うんっ!ありがとリチャードさん!」
リリちゃんを無性に抱きしめたくなった私は、そのまま駆け足で宿に戻ると、ぼんやりとベッドに座っていたリリちゃんに向かってダイブしました。
「リリちゃん、おはようっ!」
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「うーん、ちょっと動き辛いかも」
「そう、だよね。私のせいで……リリちゃんごめ、ふぎゅっ」
「むー、謝っちゃやだ。ありがとうが良いっ!」
「……うん、分かったよ。リリちゃん。ありがとう、大好きだよ?」
「どういたしましてっ!私も大好きだよっ!」
こんなに優しい子がこんなにも私を大好きって言ってくれて、私は本当に幸せです。
今でも後悔は少しだけあります。
ですが、リリちゃんが居なければあそこで無様に死んでいたでしょう。
こればかりは覆らない事実です。
リリちゃんのおかげで、私はまだ生きていられます。
本当にありがとう、リリちゃん。
「今日はどうするの?ノエルお姉ちゃんのお兄ちゃんを探しに行く?」
「しばらくは我慢かな。リリちゃんはお留守番しててくれないでしょ?」
「もちろん一緒に行くよ?」
「だから、しばらくはリリちゃんが義手に慣れる練習に専念しようか?」
「で、でもそれじゃあ会うのが遅くなっちゃうよ?」
「こら、そんなこと気にしないの。今はリリちゃんの方が何倍も大切だから」
「ノエルお姉ちゃんっ、大好きっ!」
慣れない義手で懸命に抱きしめてきます。
リリちゃんの腕が切り飛ばされたのは左手。
左手はリリちゃんの利き手です。
利き手が上手く使えないっていう事がどれだけ大変か、想像するだけで分かります。
なので、これからはできる限りのことを手伝っていきたいと思います。
それが、私にできる恩返しだと思うから。
「リリちゃん、腕、もみもみしてあげるからこっちおいで?」
「もみもみ?」
「もみもみすると早く馴染むんだって」
「分かった、ノエルお姉ちゃんお願いします」
座ったまま丁寧に頭を下げるリリちゃん、とっても可愛いです。
仰向けにベッドに寝っ転がってもらうと、腕が馴染むようにもみもみと始めました。
「にょーぉぉぉ」
腕を揉み始めた途端、奇声を上げ始めたリリちゃん。
「ふにゃーぁぁ」
少し揉む位置を変えると声が変わります。
「にゅーー」
顔も変顔みたいになってて、面白くて何度もやっていると息を絶え絶えにしたリリちゃんが、涙目の上目遣いという最強コンボではぁはぁ言いながら睨んできました。
全く、私を萌え死にさせる気ですか。
「はぁはぁ、ノエルお姉ちゃん、やめ、やめてっ」
「大丈夫、リリちゃん可愛いから」
「ふひゃっ、だ、駄目なの。変な声出ちゃうのっ!」
「でも、これしないと馴染むのが遅くなっちゃうよ?それでもいいの?」
得意げな笑みを浮かべて聞きました。
「うー、が、頑張る。ノエルお姉ちゃんの為だもんっ!」
っ!?
リリちゃんはそんなことを考えてたの?
わ、私なんてひどいことを。
ごめんね?リリちゃん。
「ふにゅっ」
ほんとにごめんね、リリちゃん。
やっぱりやめられないかも。
リリちゃんの顔、癖になっちゃった。
その後、何分かリリちゃんを堪能してようやく解放する気になりました。
最後にはヘロヘロになってましたけど、リリちゃんが可愛いのがいけないんですよ?
その日の夜も、リリちゃんが左手をこっちに向けていたのでもみっとしてあげました。
寝てる時でも人間は奇声を発することを初めて知りました。