異世界からの帰還
今日は私にとって、特別な日かも知れない。
一年前に弟が行方不明になり、警察にも届出たが行方は分からないままだった。
しかし、最近になって世界各国で異常な生物が確認されるようになり、
その発見地域が弟の行方不明になった位置と近い事から、今回、改めて捜索される事になった。
しかも今回は、警察の他にイギリスからも偉い人が来てくれるらしい。
もし見つからなくても、何か手掛かりくらいは掴めるかも知れない。
当時は地震も同時に起きたために捜索が難航したわけだし、そう考えると最近は落ち着いている分、捜索しやすいのかも。
そんな事をぼーっと考えていると、男の人が1人入ってきた。
両親と私は一斉に立ち上がる。
その人はグレーのスーツを着た30代くらいの男性だった。
「初めまして、警視庁から来ました三浦です。
須藤さんでよろしいですか?」
父が頭を下げる。
「初めまして、父の須藤 正吾です。」
「母の須藤 明子です。」
「姉の須藤 楓です。」
私も両親にならって挨拶をする。
「今日はイギリスからえらーい方がわざわざ来てくれます。
失礼の無いようにお願いしますよ!」
そうこうしてる間にドアの外が慌ただしくなってきた。そのえらーい人が来たのかも知れない。
扉が開く。
あの三浦ってのが来たときとは違い、厳重に警備されているその人はさらさらの金髪に青い目をした人だった。
偉いという割には若く見える。そしてもう1人、金髪に青い目を持つ人がいた。二人ともえらくルックスがいい。
部屋の中央まで来ると、三浦という刑事が自己紹介をした。ついでに私たちの分も。
「私はイギリス軍軍事指揮官のジェイ・グラナスだ。」
「私はイギリス軍陸軍中佐、ジャン・グラナスです。」
最初のジェイという人はどこか冷たい声音で、次のジャンという人は優しそうな印象を受けた。
?グラナス?二人とも?と言うことは……、口にしようとしたら何か違和感を感じた。
「地震だ!」
中佐が叫んだ。大きい。近くにある大きなテーブルの下に隠れるよう父に腕を掴まれた。いつもは優しいだけじゃんって思ってたけど、こういう時は頼りになる。
一分くらい続いただろうか。まだ揺れてる錯覚に陥る。
よろよろと立ち上がると、みんな表情が硬かった。
そう、ちょうど一年前のあの時もこんな大きな地震があったのだ。きっとみんな、同じ事を考えているんだろう。
ジェイさん?という人が指示を出す。
「一年前、その少年の行方が分からなくなった付近へ行くぞ!」
一緒に来ていた軍人さんや、ジャンさん?が敬礼をする。
そのあとの動きは早かった。統率のとれた動きで私たちの案内のもと、現場付近へ辿り着く。
「ここまでは家族一緒に居たんですが、そのあと地震があって、おさまったと思ったら息子だけ居なくなってたんです。」
父が説明する。母はその時の事を思い出してか、今までの緊張の糸が切れたのか弟の名前を叫び始めた。
「敬吾ー!敬吾ー!」
あれから一年も経っている。正直、難しいのは分かっていた。でも、たった1%の確率にもすがりたい。
私たち家族はそんな思いで弟、敬吾の名を呼び続けた。
すると
「ガサガサ!」
物音がして、みんな声を潜める。異常生物かも知れない。
イギリスから来た軍人さん達が前へ出る。
草むらの動きが激しくなっていく。近い。1人の軍人が声を荒げた。
「出てこい!化け物め!」
「誰が化け物だ!」
喋った?異常生物は喋らない。と、いうことは?
ついに草むらから出てきた。人だ!…と、言うか、敬吾じゃん!
軍人の制止を振り払って母が敬吾に抱きつく。
「あぁ、敬吾、敬吾なのね?ケガない?お腹空いてない?」
母の目からは大粒の涙が溢れていた。
すると敬吾はにかッとして明るく言った。
「父さん、母さん、姉ちゃん、ただいま!」
「ホントに!今までどこ行ってたのよ!」
私は心配すると怒れてくる質なので、つい怒鳴ってしまった。
「それはオレにも分からないから、みんなに聞いてよ。」
は?みんな、とは?
「みんなー!この3人はオレの家族なんだ。大丈夫だよ。」
「なんや、隠れんくっても良かったんか。」
敬吾の隣の草むらから出てきたのは、敬吾と同年代くらいの、中学生くらいの少年だった。青い髪に赤いバンダナが特徴の関西弁の少年。
「でかい木を見つけて隠れるのも大変なんだよな。」
奥の大木の裏から出てきたのは、身長2メートルはありそうな大男。黒いオールバックの髪の毛がいかにもな雰囲気を醸し出している。
「隠れ損ですね。」
「きゃあッ?!」
私のすぐ隣の木の枝に膝をかけて逆さまに回転して現れたのは赤に近い茶髪の女の子だった。
見慣れない人物3人が敬吾の言う「みんな」なんだろう。
さすがの状況に軍人さん達も警戒している。当然。
いきなり見ず知らずの人物が4人も現れたんだから。敬吾は写真で見てるはずだからまだしも、それ以外の3人は私達でさえ知らない。
「紹介するよ、バンダナ巻いてるのがヤホック。で、こっちの大きいのがデラン。で、最後にレヴィナ。」
こっちの警戒なんて微塵も感じさせず紹介を済ます弟、敬吾。
何がなんだかさっぱりな私達なんて無視して笑顔で話している。
完全にポカーン状態の私達に、そして突然現れた4人に対して、ジャン中佐が口を開く。
「と、とりあえず、立ち話もなんですから一旦ホテルへ戻りましょう。」
「オレ、腹減った!」
「俺もやー!」
緊張感ゼロのガキ二人、堂々と構える大男と女の子。
聞きたい事は山ほどあったが、仕方なくホテルへ戻るのだった。
ホテルへ帰って来た私達は、お腹が空いたと言う2名の為に食事を用意した。元々食欲旺盛な敬吾だったが、それに磨きがかかっているようにも見える。あのヤホックとかデランとか言う二人も負けてはいない。唯一、ナイフやフォーク、スプーン等を使いこなしているのはあのレヴィナとか言う女の子だけだ。
「敬吾、もう少しゆっくり食べなさい。」
母が注意するも、目の前のスペアリブを手づかみで食べる敬吾。
「そうよ敬吾、誰もとったりしないから、ね?」
レヴィナが言う。
きっと穏やかな娘なんだろうなと思った。
そんな事をぼんやりと考えていたら、ジェイ指揮官が痺れを切らした。
「そろそろ教えてもらってもいいかな。君達は何者だ。」
「そうおっかねぇ顔すんなよ。それに、人に名前を聞くときはまず自分から、だろ?」
大男のデランが返す。
ジェイは図星を突かれ、ぐっと息を飲む。
「まぁ、私達の場合は少し特殊ですからね。
警戒されるのも当然です。」
レヴィナは見かけによらず大人なのかも知れない。
なんとなくだけど育ちも良さそうだし、見た目も申し分ない。
すると、デラン
「でもよぉ、説明した所で理解出来んのかね?
こっちの奴等はよ。」
こっち?誰もがその一言に違和感を覚えた。
ジャン中佐が聞き直そうとすると、急に顔つきが変わった。レヴィナ以外の3人が。
「やっぱり来よったか。」
ヤホックが忌々しそうに呟く。
敬吾、ヤホック、デランの3人が席を立つ。そして、何も言わずに外へと向かう。
「君達!どこへ行くんだ!」
すると、3人はニヤリと笑った。
「化け物退治。」