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第8話 国王の願い

加筆修正を始めました(2019.05.15)。

 L終了しました(2019.06.28)。

 王宮内に入ってタイルが隙間なく張られた廊下に二人分の靴音が響く。

 幾分か長い廊下を歩いた後、数歩先を歩いていたキッシュさんはとある大きな扉の前で立ち止まった。

 私もそれにならって立ち止まると、キッシュさんは私の方を向いた。

「こちらが謁見場になります。……兵士が居ないので、国王様はまだご到着されていないようですね」

 キッシュさんは扉の前に、私たち以外に誰ひとり見当たらない様子を確認する。

「申し訳ございません! 遅くなってしまいました」

 すぐに二人の兵士が慌ただしくやってきた。

「……貴女様が光の巫女様ですね。遠路遥々、我がフェルナンド王国へお越しいただきまして、ありがとうございます。わたくし共々は貴方様を歓迎いたします」

「……ど、どうも……」

 二人は敬礼して、私に微笑みかけながら挨拶をかわした。

「では、私は一旦失礼いたします。謁見終了頃にお迎えに参ります。それでは、巫女様をよろしくお願いいたします」

「あ……はい。案内ありがとうございました」

「お任せ下さい!」

 お辞儀をしたキッシュさんは、兵士さんと言葉を交わしてから、踵を返してその場を離れていった。

 姿が見えなくなると、兵士さんは謁見場へと続く両開きの扉をそれぞれに手を掛け、同時に開けていく。

「それでは巫女様、室内へご案内いたします」

 開け放たれた扉付近に立った兵士さんは、室内へと促すように片手を中に向ける。

 私は言葉に従って目の前に広がる部屋へと足を踏み入れた。


「わ……わぁ……」

 踏み込むと扉から見えていた景色は広がり、どれくらいの人物が収容できるのだろうかと思わせるほど広大で、天井を支える柱が幾ばくも並んでいた。

 大理石の床には一本の赤い敷物が部屋の奥へと続いていて、その終点は数段しかない階段の先まで伸びている。

 階段上には、大きく豪勢な椅子が一つと置かれている。国王様が座られる椅子だと気付いたのは、ふと頭の中に浮かんだ”玉座”という単語から。

 玉座だと把握して、重圧が掛かっていそうな気配を醸し出しているように見える。

「国王様はもうしばらくでお越しになるはずですので、部屋の隅に置かれておりますお椅子に、お座りになってお待ちください。ご来室された際には、お呼びいたしますので、それまでどうかごゆっくりお寛ぎ下さいませ」

「わかりました」

 一歩、足を進めようとすると、右の兵士さんに呼び止められ、座って待つように勧められた。

 あまり、動かない方が良さそうだなと、兵士さんの顔色を窺って頷く。

 休憩用のためなのか、部屋の隅には所々同じような椅子が置かれていて、その中で近くにあった椅子に座る。

 兵士さんは私が椅子に座るのを見届けて、扉付近に戻っていった。

 特にすることもなく暇なので、部屋の全体を把握しようと辺りを見渡した。

 柱で見えない個所もあるけれど、椅子と同じように扉が数か所存在しているのを確認した。

 どこかに繋がっているのか、扉の向こうには部屋があるのだろうな推測する。もしかしたら、私がこの部屋に入る前に通っていた廊下と繋がっている可能性もある。

 兵士さんに聞いて確かめてみようかと思うけれど、扉から少し離れている場所に座っている為、声をかけようにも届かないのでは懸念する。

「国王様がご到着なされます。巫女様、ご準備の程よろしくお願いいたします」

 椅子に座って待つように勧めてくれた兵士さんが、呼ぶと言った通りに伝えにやってきてくれた。

 丁度私が椅子から立ち上がったのと同時に、国王様が入ってきた事を知らせてくれるように、どこからともなく管楽器の音が室内を反響し始めた。

 騒がしいほどというわけでは無いけれど、声を出しても音にかき消されるほどの大きさで、管楽器は鳴り続けた。 

 私はどんな感じなのかと気になって、やってくるであろう人物を見に行こうとして、敷物の方へと足を向けた。

 もう少しで天井から作られた影が足元の方へとたどり着く前に、私は途中で立ち止まってその場で様子を見ることにした。

 最初に目にしたのは、黄色い布が巻かれた槍を携えて、甲冑姿ではあったけれど、前掛けが足膝まで伸びていて腰辺りには紐で縛った人が、堂々と先陣を切っていた。

 その数十歩ほど離れた位置に、豪華な服装を身に纏い、少し派手やかな赤いマント翻させて続いていた。

 頭髪は黒に近い茶色であり、毛先にかけて少し赤みが掛かっていた。その頭髪の上にはこぶし大の金属製の王冠が重々しく乗っていた。

 王冠からこの人がこの国の国王様だと確信する。

 そして、国王様の後ろには二人の男性が並んで歩いていた。

 二人の内一人は見覚えのあるリッシャー王子で、ピッチリと着込まれた洋服から、昨日出会った時とは違った風格を見せていた。それでも少し緊張気味に見えるのは気のせいだろうか。

 そんな彼の隣には、リッシャー王子とは違った端整な顔立ちで、髪の色相は国王様と同じようでも毛先にかけて金髪になるようにグラデーションがかかっていた。服飾はリッシャー王子と一緒で、パッと見で違うところがあるとすれば色や装飾が変わっている所だった。

 名前も知らないリッシャ―王子のお兄さんであること以外わからない彼は、進行方向をまっすぐに見据え、緊張のきの字も見せない様子で堂々と歩いていた。

 前方の兵士のような人から国王様、王子の二人の後は誰も参列していなくて、短い列で終わってしまっていた。

 寂しい行進だなぁと思っていると、いつの間に隣に並んで、通り過ぎるのを待っていた兵士さんが私に顔を近づけ、口を開いた。

「参列して、後ろをついて行きましょう。止まるタイミングは私が指示しますので」

 その言葉と兵士さんのエスコートで数歩後ろをついていく形で列に加わることになった。

 先頭の人が階段付近で横にはけて立ち止まり、国王様とリッシャ―王子たちは上がっていく。

 私は、兵士さんに止まるように指示されて、階段を上がる手前で歩みを止める。

 管楽器から流れていた音は段々と小さくなり、国王様が玉座に腰掛けられる頃には鳴りやんていた。

 どっしりと構えて座る国王様の視線は、鋭く私の方をジロリと見られている感覚になり、背中に冷たい汗が一筋落ちたような気がした。

 睨まれるような視線に身体を竦めそうになりながらも、緊張で姿勢が伸びて居るような気持ちで、私も負けじと真っ直ぐに国王様を見つめる努力をする。

 ちらりと国王様の隣に視線を寄せてみると、王子2人はこちらに目線をしつつ、悠然と立っていた。

 いつまでもこのままでは、時間が過ぎていくと思い、私は意を決して口を開く。

「お初にお目にかかります、国王様……」

「…………」

 キッシュさんと初めて会った時に、彼女がしていた行動を真似するようにスカートの裾を摘まんで、腰を折って様子を窺う。

 会釈をしてから少しの沈黙の中で、国王様は品定めするような視線を向けていたけれど、すぐに口角を上げて、先ほどの鋭い視線から打って変るように、優しそうに目元を細め微笑んだ。

「貴女様が、アリアッテが占いをなさり、光の巫女であると打診をされた方ですね……。初めまして、光の巫女”様”。そして、フェルナンド王国へようこそおいで下さいました。私がこの国の王、ルーベル・マリギア・フェルナンドでございます」

「へっ……!?」

 さっきまで感じていた威圧感と見かねていた風貌とは相反して、国王様は柔らかくかしこまる様な物言いから、少し拍子抜けしてしまい、リッシャ―王子の方に視線を向けてしまう。

「…………」

 私の視線に気が付いたリッシャ―王子は肩を竦め、すまない、顔に似合わずいつもこんな感じだ。という様に申し訳なさそうに苦笑していた。

 人は見かけによらないものだと、考えを改める必要があると反省する。

「巫女様。昨日はよく眠れましたでしょうか?」

 気遣う様に聞いて来られた国王様の一言で、ディアさんの華麗な手さばきで、クマのカモフラージュが成されている筈なのに、寝ていないと感付かれたのかと思って、ドキリと心臓が音を立てる。

 国王様の方に視線を向き直して、返事をするのと同時に口について出た言葉は嘘をついてしまった。

「え……あ、はい! おかげさまで! ぐっすりと……!」

 申し訳なく思いながら、情報を集めるために本を読んでいて、あまり寝れていないですけどと、心の中で告白した。

「そうですか、それはよかった」

「ところで、父上様。まだ私たちの紹介がまだです」

 話しを進めようと、安堵するように息を吐いた国王様の声とは別に、少し低く高めの声が室内に響く。

 リッシャー王子より、高い声音に思えて、一瞬、誰だろうとクエスチョンが頭に浮かび、すぐにもう一人の王子様の声だと察知した。

 声の人物に目線を向けると、視線に気が付いたようで、人当たりのよさそうな微笑みが向けられ、私は恥ずかしく思えて、瞼を伏せるように視線を逸らした。

「おおぉ……そうだった。そうだった」

 リッシャ―王子の隣にいる青年の言葉に、国王様は思い出したように頷く。

「光の巫女様、我が息子たちの紹介がまだで、大変失礼しました……。それでは二人とも自己紹介を――……」

「自己紹介は私だけでいいでしょうか? リッシャーは昨日、出会って名乗ったでしょうから」

「いや、二人共だ。もう一度、紹介するべきだよ」

 頭を下げた国王様の言葉を区切った青年の問いに、首を振って国王様は優しく声をかける。

「……分かりました。では私から」

 少し間をおいて畏まったもう一人の王子様は、一歩前へ進み正面に立つと、掌を胸に当て、深くお辞儀して、引き締まった唇を開く。

「お初にお目にかかります。私はこの国の第一王子で、名はハデン・フェルナンドと申します。以後お見知りおきを」

「ハデン……王子……」

 教えてくれた名前を復唱して、ハデン王子の名前を頭に入れる。

「はい。ハデンです。これからよろしくお願いいたします。そして、ご存じでしょうが、隣にいるのは第二王子であり、私の弟の……」

 ハデン王子はにこやか笑むともう一度腰を折る。

 そして、横後ろにいたリッシャ―王子と入れ替わるように、ハデン王子は紹介しながら一歩下がった。

「リッシャー・フェルナンドです」

 交代したリッシャ―王子は名前を名乗ってお辞儀をして、下がった。

 二人が元の位置に戻ると、国王様が口を開いた。

「貴女様がリッシャーと知り合い、我が国に来ていただいたことに感謝しています」

――感謝?

 頭を下げられた国王様の言葉に、違和感を持つ。

「それで、貴方様に少しお聞きしたいことがございます」

「……? なんでしょうか?」

 相手を窺うような姿勢の国王様に問いかける。

「”光の巫女”における、世界の伝承を知っていますでしょうか?」

「はい。知っています。覚えているか不安ですが、アリアッテさんに貸して貰った書物に書いてありました」

 夜更かしの読書が、功を成したかどうかわからないが、私は頷いて知り得たことを答える。

 自分が感じた違和感が一方に強くなっているように思えた。

「そうか! それなら話しが早い」

 嬉々として声を上げる国王様に、違和感が強くなっているように思えて、不安も感じながら言葉の続きを待つ。

「それで光の巫女様であらせられる貴方様にお願いがあります。ハデンかリッシャーのどちらかの花嫁になってもらいたいのです」

「親父……!」

「………」

「は……ハナヨメ!!? え……!? 一体、どういう事ですか……!!」

 国王様のお願いの言葉に初耳なのか、焦る様に声を上げたリッシャー王子と、それに反して事の顛末を見守る様に、平常心を保っているハデン王子たちは国王様の方を見つめていた。

 違和感の正体はこれだったかと確信した私は、提示された言葉を反芻して、困惑のまま問いかける。

「……伝承に書いてある通り、この国をより一層よく発達繁栄することが出来るのは巫女様の力のみ……我が国はもう少し……いや、盛大な国家となるためには貴方様の――巫女様のお力が必要不可欠なのです。しかし、今のままでは貴方様の力は及ぶこともなく、その力さえ持っておられません。力を手にする為には婚姻を前提とした接吻をしなければ、巫女様の力が発生されないと思われます。だからこそ、ハデンかリッシャーの花嫁となってもらいたいのです」

「そんな……」

「勿論すぐにはとは言いません。時間をかけてくださっても構いません。我が国に来られたのは、なにかしらの縁でしょうし、このお話を受けていただくことは可能でしょうか?」

――事前に調べていたとはいえ、“光の巫女についての伝承”を引っ提げてお願いされるとは、考えもみなかった私の浅はかさに後悔を覚えた。

 命令を出しているのならともかく、本願するように提唱された言葉に、どういった返しをするのがベストか分からず口を噤んで俯く。

「…………」

“光の巫女”として能力を発動させるには、【婚姻を前提とした接吻】であることだと頭の中でわかっていても、現実味もないし、全く自分の事ではないように思えている。

 どうしようかと俯きながら、リッシャ―王子へ困惑の視線を向けると、目線が交わって彼も困惑していた表情を崩して、安心させてくれるように微笑みを浮かべた。

 彼は小さく頷いてくれて、決心を固めたような表情を浮かべて、国王様の方へ体を向けると声を立てた。

「親父。彼女はこの国に来て日も浅く、自身の名前を覚え出せていないのです! それなのに、光の巫女であるからと言って、彼女に我が国の運命を背負わせるなど――!!」

「リッシャーの言いたいことはよくわかるよ。でも、彼女が“光の巫女”だと確定してしまったのだから、彼女の立場を利用する手はないんだよ。それに“光の巫女”が現前していると世界に知れてしまったら、他国が喉から手が出るほど彼女を奪うために、奇襲をかけてくるかもしれない。リッシャーは彼女が他の王子の手に渡るのは嫌だろう……?」

「……っ」

「ね? “光の巫女”は私たちの国が保護したようなものだし、他の国に取られるぐらいなら私達の国が彼女を守らなければならないんだ。……これは君の為でもあるんだよ」

 反対するリッシャ―王子の言葉を遮って、ハデン王子は彼の目を見つめて説得するように言葉を放った。

 言葉に詰まったリッシャ―王子から、私に向けて視線を投げて、人のよさそうな笑顔を浮かべる。

 その表情に、少し恐怖すら覚えた。

――ハデン王子が何を言っているのかわからない。

 私の為だと彼は言うけれど、笑顔の裏に何かしらの陰謀が込められているかのような気がして、身体を震わせる。

「勿論、君の意志が必要だから、断っても私は問題ないですよ。だた、考える時間は必要でしょうし、父上が言うとおり、時間をかけてもいいとおっしゃていたので、一週間程、様子を見て決めたらいいと思います。どうでしょうか?」

「…………」

 先ほどとの笑顔とは別に、優しさを含んだ声が耳に届き、尋ねる姿勢であったとしても、言葉の内容からして、拒否するような選択肢がないのだと思い知らされる。

 自分の味方はリッシャ―王子だけだと思い、彼の方に目線を向けるも、そんな彼はどこか迷うような面持ちをしていて、目を見ていなかったけれど、まっすぐ私の方を見据えていた。

(何処を見てるの……?)

 ちょっとした失意を感じて、知らず知らずに私は首を縦に振っていたようで、その様子をみて、嬉しそうに手を合わせたハデン王子が、国王様へと身体を変えた。

「そう! よかった。という事で父上。一週間ぐらい様子見で決める事になりましたよ」

「そうですか……。巫女様、ご決断ありがとうございます。一週間後、もう一度謁見の時間を設けます。その時に、ご返答のほど、よろしくお願いいたします」

 安堵の笑みを浮かべた国王様は、私にお礼を言って頭を下げられた。

――これで、人生という逃げ道が見当たらないところまで来ているのだと、私はヒシヒシと感じてしまった。

「では、今日の謁見はこれで終わりです。ご足労お掛けいたしました」

「い……いえ! 滅相もありません! こちらこそ、貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました」

 玉座から立ち上がった国王様に首を振ってからお辞儀をすると、隣の兵士さんに横にずれて欲しいと言われ、その場所から数歩退くと、ルーベル王は階段を下りて、私の目の前を通り過ぎ、足取りゆっくりと最初の行進とは打って変わって王子2人を残しながら、一緒に入ってきた従者さんを連れて広場から退出された。私の隣にいた兵士さんも何時のまにかいなくなっていた。

 そして、玉座だけがぽつんと残った場所に、リッシャ―王子とハデン王子と一緒に三人だけが残された。


続く

初回更新のもの【前回の更新から一週間以上経ってしまいました。次の更新も一週間の予定ですが、できる限り早めに書いて元の循環に戻していきたいと思います。

追記:この話は初回投稿に書かれてなかった部分になります】


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