第6話 案内された場所で
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加筆修正終了・サブタイ変更しました(2019.04.08)
大門を後にして、テントから少し離れた場所にあるとある屋敷へ向かい、中へリッシャ―王子と一緒に入った。
男子禁制と言われていたのにも関わらず、普通に入った事に疑問を覚えて、確認してみると、その屋敷とは違うらしく、成る程と頷く。
そうして、長々と続く同じような廊下の内装を眺めつつ、数分ぐらい歩くと、一つの小部屋にたどり着いた。
「夜遅くに済まない。頼んでいたことをお伺いしたい」
「はい、今出ます」
リッシャ―王子は目の前の扉をノックして、その数秒後、一人の女性が顔を覗かせると、お待ちしていました。と肩口が開いたシックなワンピースにエプロンが付いたドレスを着た女性が、ドアを閉めながら私たちの前に立つとスカートの裾を持って小さくお辞儀をした。
お辞儀をする際に、一度だけ目線を私の方に向けられた。
その目は、何かを探るような視線だと気が付く。
どこかで似たような感覚を覚えて、ぞわりと、背中が粟立つ。
嫌な気がしたけれど、女性は何事もないようにリッシャ―王子へと視線を移した。
「ご足労をおかけいたしました。お客様のお部屋はすでに御用意できておりますので、私が責任を持ってご案内させていただきます」
「ああ、ありがとう」
リッシャ―王子は畏まる女性へ、目元を掠めて優しく微笑む。
女性は顔を紅くして、小さく一言喘ぐと首を振り、リッシャ―王子をジッと見上げていた。
そんな様子を隣で見ていた私は、胸辺りにどうしてか、もやっとした気持ちが浮上してしまう。
もやつく感情に首を振って、もや付きを否定する。
「では、シュリアさん、彼女をよろしくお願いするよ」
「はい。お任せください」
すっと自然に離された私の掌は空を掴み定位置へ戻っていく。
リッシャ―王子にシュリアさんと呼ばれた女性はにこやかに頷く。
「じゃあ、私はこれで。また明日」
「……はい。おやすみなさい、です」
離れた掌は少し間をおいて、私の頭に不意に置かれ、一二度だけ頭が揺れる。
少しだけ触れた感覚に、ちょっとした恥ずかしいような気持ちになる。
そうして、彼は元来た方向へと踵を返る。
立ち去って行くリッシャ―王子が、廊下の先の角を曲がる姿を見送った後、シュリアさんが一つ咳払いを上げて声を掛けられる。
「それでは、私たちも行きましょうか」
「あ、はい! よろしくお願いいたします!」
私は振り向きざまにお辞儀をすると、シュリアさんは驚いたように目を見開いていたけれど、すぐに目元を細めて微笑みを浮かべた。
そして、シュリアさんが歩き出し、私はその後を追う様にその場を離れた。
「ほへぇ……」
間抜けだと自分でも思える程、たどり着いた屋敷の大きさに呆けた息が漏れる。
「ここには総勢100名以上のメイドが寝泊まりしている屋敷の一つとなりまして、第四棟まであり、こちらは三棟目の屋敷になります。貴女様にはきちんとした部屋があてがわれるまで、このお屋敷でお過ごしいただくことになります」
屋敷へと続くアーチを潜り抜けて、一旦立ち止まり、対面になったシュリアさんから説明を受けながら、外観を眺める。
夜中だからか暗くてよくわからないけれど、玄関になる場所に吊らされたランプの周辺が明るく照ら出され、見える範囲で目を凝らす。
壁はレンガ調になっていて、四角形に作られた部屋の窓だと思われる数を縦に見てみると四階建てに伺えられる。それ以上は暗闇に染まって確認は出来そうになかった。
先まで見えそうにない横幅に沿うように、花壇が設置されてそこから伸びていくように、壁際には蔦植物があちこちに広がって名の知らない花が咲いていた。
「あの……シュリアさん……ってあら?」
その花の名前を聞こうとシュリアさんを見ると、観察していた間に移動したのか、玄関のノブに手をかざして、扉を開けようとしていた。
「中に入りましょう。まだご案内は完了しておりませんので」
「は……はい!」
淡々と自身の任務を遂行するようにシュリアさんは言葉を続けながら、扉を開いて屋敷内へと入るように促された。
屋敷内へと入ると、室内の温度が外とは打って変わって、急な気温に身体が付いていけないのか熱く感じる。温度が慣れないうちに柔らかな質感が足に触れた。
足元に視線を向けると良質そうな、豪華な模様が描かれたオレンジ色を基調とした絨毯が靴を包んでいた。
絨毯から伸びるカーペットは部屋へと続くように道を作り、それに合わせるように一定間隔に置かれた小卓の上に、様々な種類の花を植える花瓶が設置されているのを見かけた。
壁は外観とは打って変わったクリーム色に塗られ、レンガで作られた屋敷には見えなかった。
「一階は大浴場や大型お手洗い、ドレッサー室などがあり、仲のいい人たちがよくお使いになる共用エリアとなっております。もちろん、部屋にも備え付けはすべてありますので、一人になりたい時などは、自室でお過ごしできます。そして二階からは個室になり、それぞれ寝泊まりするためのお部屋になります。基本、朝の4時から夜20時まで全員屋敷内を出払っているため、人は居られないと考えてください」
「わかりました」
屋敷内の説明を受けて私は頷く。
「それではお部屋までご案内を再開させていただきます」
そんな私を見て、先陣を切って歩き出したシュリアさんについて行く。
エントランスを抜けて真ん中に大階段を使って3階まで登る。
通路を右に曲がって、四つほど扉を通り過ぎて、壁の端にある扉の前までたどり着いて、シュリアさんが立ち止まった。
「こちらが、一時的ではありますが、寝泊まりして頂く部屋となります」
そう言ってシュリアさんは部屋のドアを開けて、室内に一歩踏み入れてお辞儀を一つする。
私も自室となる部屋に入室し、室内を見渡す。
ドアから廊下が伸びて、扉が右側面に二つ、目の先に一つと立っていた。
手前のドアを開けると、人が三人ほど入りそうな広さのトイレで、壁際には二段ほどのカラーボックスが一つ置かれており、中身が見えないようにシルクが掛けられていた。
二つ目のドアは浴室に続く脱衣所があり、長細い扉付きの棚と、洗面台が備え付けられていた。
そして、透明なガラスの扉で浴室へと伺う事が出来るようだった。
脱衣所を出て、最後に残った扉を開く。
最後の部屋は、真正面に食卓なのか両手を広げられるほどの机が置かれ、その周りに二つの椅子が鎮座している。窓際には二つの窓の間に三人掛けのソファーが壁を背にして置かれ、円形の絨毯も敷かれていた。
そして、部屋の四分の一ほどの広さを取った天蓋付きのベッドが陣取り、その傍らに読書用のランプが置かれたテーブルに本が積まれていた。その隣の棚には、廊下にあったのと同じような綺麗な花が詰められた花瓶が飾ってあった。
脱衣所と接する位置にはクローゼットも用意されていた。暖房器具が無いのにも関わらず、室内は適温だと思える温度になっていた。
一人の部屋となると大きい気がして、不安になり振り向きながら、扉から一つも動かないシュリアさんに問いかける。
「あの……。本当にこの部屋でいいんでしょうか?」
シュリアさんは、間違いありませんと頷くと、言葉を続ける。
「一昨日、一人退職いたしまして空いた部屋になりますが、一時的とはいえ、前住居人の私物はすべて撤去し、新品な家具と取り換えてありますので、衛生面についてはご心配なく」
「な……なるほど……。そうなんですね」
「はい。お住まいが出来る様にと頼まれたのはこの部屋です。とりあえず、今日はここでお過ごしくださいませ。明日からは別の召使いがあなたの世話をすることになっていますので、それでは、お休みなさいませ」
質問に答えていそうで、違った内容を応えられて、どう返せばいいのかわからず、納得した素振りをするしかなかった。
二三度首を縦に振る私を見咎めながら、シュリアさんは言葉を続ける。
最後に明日の事に付いて教えてくれたシュリアさんは、深々と頭を落とし、室外へ踵を返して部屋から退出して、きちんとドアを閉めて立ち去ってしまう。
一人に取り残された私は、ちょっと迷って天蓋ベッドの方まで向かい、誰もいないことを確認してダイブした。
新品だと言っていたように、誰のにおいもない布団は、手触りが気持ちよくて、優しく身体を包み込んでくれる。
室内の温度とジワリと体温を吸収した布団の温もりに、ぼうっと頭が熱を持って、睡魔が襲い始めた。
「(だ、だめだめ! まだ睡魔に負けるわけには……!)」
どうしてか、そのまま意識を手放すことが出来ず、私は倒していた上半身を起き上げてベッドに座る姿勢になってから、今度は眠気を吹き飛ばそうと首が取れそうなほど頭を振る。
(今日は大変だったなぁ……)
ふと、数時間前まであったことを思い出し、整理をする。
気が付いたら私は知らない森にいて、ピンチに陥った。
その時、私を助けてくれたのは、近国に当たるフェルナンド王国の第二王子様のリッシャ―王子に助けられ、客人としてこの国を訪れた。
国特有のしきたりの占いをしてもらったことで、私は他世界からやって来た異世界人であると同時に、この世界に重要人物である「光の巫女」であることが分かった。
「光の巫女」について私は何にもわからないけれど、アリアッテさんが資料になる物を貸してくれると言ってくれたので、後で確認するとして、別の事を考える。
この世界に来てから、私は記憶がない。理由はよくわからないけれど、自己紹介する中で、とても不便で仕方がない。
記憶を思い出そうと頭を捻ろうとすると、激しく脳を揺さぶるかのようにグワングワンと頭痛がする。
……違うことを考えよう。そう思うことで頭痛は収まった。よっぽど思い出したくない記憶なんだなと心に留める。
出会うきっかけにもなったという、光の柱の出所は定かではないにしろ、もしかしたら、異世界同士を繋ぐ通路の一つのではないかと、占い師のアリアッテさんが仮説を立てた。
――もしその仮説が正しいのだとしたら、タイミングさえ合えば、元の世界に帰ることが可能なのではないかと思う。
なんて考えたけれど、ひどい頭痛がするほどの思い出したくもない記憶が元の世界にあるのだとしたら、誰だって帰りたくないはずだ。
私だって、いやだ。きれいさっぱり記憶を無くして生きていた方が、幸せの一つだと思うのだ。
それでも、自分の名前を言えないのは辛い。気になる人に名前を呼んでもらえないのはもっと辛い。
名前だけでも思い出して、彼にちゃんと教えたい。そんな気持ちが胸の中にポワリと浮かぶ。
「(ま……まだよ! その気持ちは封印しておかないと!!)と、とりあえず、テーブルに積まれてる本を確認しなきゃ!」
浮かんだ感傷を否定して、私は思考を変えるべく、ベッド付近にある読書用ランプの近くに置かれていた本を一冊手に取る。
すると、手に取った本の上に置かれていたのか、一枚の紙がひらりと足元に落ちてきた。
足元にやってきた紙を一度本を置いて、その紙に目を通す。
見たこともないような模様が紙上に踊っているように見えて、とてもきれいな手書きで書かれいる物だと把握した。
「あれ……? 読める……?」
綺麗な模様だなぁと、眺めていると、不思議と模様が文字のように見えてきて、難解する事もなくサラリと読むことが出来た。
紙上に綴られている模様から、頭の中に浮かぶ言葉を口に出してもう一度読んでみる。
頭に浮かぶ言葉を口に出して読んでみる。
『巫女ちゃんへ。約束の書物です。異世界から来たあなたが、この国の文字が読めるのかどうか確認し忘れちゃったけど、分かりやすそうなものを探しておいたわ。いつでも返しに来てもいいからね。アリアッテより』
「ありがとうございます」
文面から伝わるアリアッテさんの優しさに、私は感謝をする。
あの模様が文字であるのならば、どうして読むことが出来たのか、疑問はつきないけれど、頭の中に言葉が入ってきたように感じられた。
頭に浮かんだ言葉であっても、不思議と読むことが出来たとはいえ、この国の模様のような言語を理解できそうになく、執筆することは難しいように思えた。
とりあえず、アリアッテさんの好意に甘えて、この国に関する情報が載った本を、寝る前の読書として読むことに決めた。
貸してもらった本を枕元に並べて、どんな内容のものを選んでくれたのか確認してみる。
表紙に書かれている題名も、すんなりと頭に入ってくるように読むことが出来た。
複数あるの中で、題名で把握できたことは、この国の歴史やこの世界に関してのものと「光の巫女」に関する内容が多かった。
必要最低限に知っておきたい内容の網羅で、とてつもなくアリアッテさんに感謝の念を贈りたいぐらい。足を向けて寝るような真似は出来そうもないと思う。
本を読むために正座していた体躯を変え、ヘッドボードに並んでいた枕を置き直して、枕が背中に当たるように身体をもたれ掛けて足を伸ばす。これでリラックスが出来る体勢になったと思う。
本も部類別に置き直してみて、私は一つの部類の中で一冊手に取る。
手に持ったのは『フェルナンド王国建国時から現在における国家情勢』という歴史書だった。
ペラペラと簡単に目を這わせてみる。年表順に掛かれた事柄や国王の移り変わりなどが書かれていて、成る程、わかんない。と読むのを諦める。
本来であれば、ちゃんと読むべきことだとは分かっているけど、一夜漬けするような真似は出来そうにもないと理解する。
歴史書は、時間があるときにでもゆっくり読むのが一番いい内容だなと、確信して私は別の本を手に取った。
今度は「光の巫女」について書かれた本を手にした。歴史書よりは読みやすい内容でちょっと安堵する。
伝承に近い内容だったけれど、絵本にもなっているようで、小さい子でも読めるようなものもあった。
絵本や伝承に書かれた本から何となく理解し得れたことは【光の巫女はどの時代にも必ず存在しているわけではない】・【光の巫女は唯一無二の存在であり、複数人存在しない】・【光の巫女が在国する国家は、巫女のお導きによって、国を発達・繁栄することが可能】・【光の巫女の能力が発揮されるのは、婚姻を前提とした接吻】・【光の巫女は脅威ではない】の5つだった。
最後から2つ目にある記載の意味が分からないけれど、「光の巫女」における現状把握はこのぐらいできた。
読書用のランプがあるとはいえ、模様の羅列と意識上に変換される文字を見ていたおかげか、小さい頭痛と目元がショボショボしている。
頭を休ませる為、瞼を閉じて目頭を揉む。
それから、ずっと同じ姿勢で本を読んでいたからもあって、身体を動かすとパキポキと骨が悲鳴を上げていた。
一息ついて、ふと窓を見る。
「あれ? (もう、夜が明けようとしているの……?)」
窓にはカーテンが張られていて、外の景色は見えないけれど、カーテンの隙間から漏れた光が射しているようで、ランプ以外の光が室内を明るくさせていた。
詳しい時間は分からないけれど、この国に来てから朝を迎えたようだった。
「そういえば……、今日国王様に会うことになるのかな……。このまま起きていてもいいけど、少しだけ仮眠した方がいいかな?」
謁見の際中に眠くなったら失礼だと思いながら、私は枕に隠された布団を剥いて、できた隙間にもそもそと身体を滑り込ませて、ふかふかした毛布を上にして肩まで布団と共に被る。
冴えていた目を閉じて、目元を両手で隠すと、自分のちょうどいい体温が眼球の神経を温めてくれて、小さく長い吐息が漏れる。
しばらくそうしていると、だんだんと眠気が強く襲い、私は何も考えることもなく微睡に沈むことができたのだった。
続く




