第5話 占いの後
加筆修正始めました(2019.03.10)。
終わりました(2019.03.24)
占いが終わって、フードとヴェールを被り直したアリアッテさんの後にテントから出ると、最初に私たちが入ってきた玄関口に目がいった。
大きな扉がいつの間にか閉められていて、一緒に戻ってきた兵士の姿も見えず、誰かの姿を探すようにあたりを見渡した。
すると、そこから少し離れた場所に高身長の人影が壁に背を向けて寄りかかっているのが見えた。
眇めてみるとリッシャー王子の姿を視認できると、ホッとするのと同時に、終わるまで待っていてくれているのだと、思えて温かい気持ちになった。
「あ、リッシャー王子様だ」
「アリアッテ氏、お疲れ様です」
リッシャー王子に気が付いたアリアッテさんは手を振って声を掛ける。
声が届いたのか、こちらに視線を向けたリッシャー王子は、疲れを感じさせない雰囲気を纏いながら、急ぎ足で近づいてきて、私たちの目の前に立ち止まると最初にアリアッテさんに小さく頭を下げて、上げざまに私と視線が混じり、そのまま私の様子を確認するように見合う形になった。
「リッシャー王子様もこんな夜遅くまでご苦労様です。……ずっと彼女のことを待っていたんですか?」
耳飾りを揺らして会釈を返したアリアッテさんは、確認するように私を引き寄せて、リッシャー王子の前へ立たせられる。
「あ、いや、そんなことは……ただ、心配していただけだからな……?」
目の前に来たことで絡み合っていた視線が一瞬外れ、焦りを見せたリッシャー王子は否定するように顔を左右に振り、恥ずかしそうに頬を掻く。
彼の言葉に私の心は急降下するように、気持ちが沈む。
そんなリッシャー王子を見兼ねて何かを察したのか、楽しそうに含み笑いをしたアリアッテさんは、鼻を鳴らした。
「ふーん。まあ、そういうことにしておきますネ。……それでは私はもう自室に戻ります。寝なおさないと」
そして、話を変えるかのようにすぐに素に戻ったアリアッテさんは、わざとらしく肌を気にする仕草をする。
「今夜は寝ていた所を起こしてしまい、申し訳ない」
「本当よ……困ったもんだわ……。まあ、もともとお告げとかあったわけですし、致し方ないことですよ」
「そうだとしても、本当に申し訳ないと思っている」
そんなアリアッテさんを気遣うようにリッシャー王子は小さく腰を折ってお辞儀をする。
お辞儀をされたアリアッテさんは、少し恥ずかしそうに身を捩る素振りをして、耳飾りを揺らしながら可笑しそうに笑う。
「王子様に頭を下げられたのはなかなかないわね……。ふぉわ……。じゃあ、私は行くわね。大体、この城に住んでいるから、気が向いたら私の部屋に遊びに来てね」
大きく欠伸をしたアリアッテさんは、リッシャー王子から視線を外した後、私の両手を握られと握手するように上下に揺らされた。
「あ、そうそう…………資料はあなたの部屋へ持っていかせるわね。それと――……」
思い出したというように一瞬離れた手をすぐさま握りなおされた。
「貴女、ちょっとだけリッシャー王子様に好意みたいなものを持っているでしょ。遊びに来てくれたら恋愛の相談もしてあげるわよ?」
「へっ!? そ、そんなんじゃッ……!」
握りなおした手を引いて顔を近づけたアリアッテさんは、楽しそうに耳元で小さく提案してきた。
好意という言葉に動揺して何かしら反証しようとしても、言葉が続くわけでもなく、ただ一心に顔を空気を着る音が聞こえるほど振ることしかできなかった。
「ふふっ、可愛い反応。あの王子様とちょっと反応が違うけど同じ考えで面白いわ。……それじゃあね」
その様子をみて、おかしそうに微笑むアリアッテさんは私の傍から離れると、ひらひらと手を振って自室へと帰っていた。
「一体何の話をしていたんだ?」
「えっ……と……、なんでもない、です」
内緒話の中心になっていたリッシャー王子は、不思議そうに首を傾げて問いかけてきたけれど、私は正直に答えることができず、顔を背けるように地面を見ることになってしまった。
アリアッテさんが去ってから、リッシャー王子と二人っきり……と意識し始めた時、耳打ちされた内容を思い出す。
「(私が、リッシャー王子に好意を……? たぶん違う……でも――)」
本当にそうなのかな? と思い、そっと自分の胸に手を当てみると、トクトクと通常より早く動く心臓を確認した。
記憶がないからこそ分かるけど、恋愛なんてした覚えがない私は、彼と出会ってしてくれたことを思い出す。
振り返ってみると、優しく接してくれた彼の行動が脳裏に焼かれ、だんだんと恥ずかしく思えてきて、顔が赤くなっていくのが分かった。
その感情が、本当にアリアッテさんの言う通り好意だとしても、私は自信が持てそうになかった。
それでも少し確認したくて、チラリとリッシャー王子に顔はそのままの位置で目線だけを向ける。
声を掛けようとしてくれているのか、心配そうな表情をしたリッシャー王子と視線があった。
「ぁ……」
私はすぐに視線を逸らすも、頭上から声掛けに失敗したような声が耳に聞こえる。
そんなんじゃだめなのに、外から聞こえてくるように、私の心臓がドキドキと耳元で騒ぐ音が煩くて、服を掴むように胸元に両手を当てる。
掌の中で動く心臓を落ち着かせるために深呼吸をしようと息を吐いて吸った。深呼吸をするたびに、「好意じゃなくてただの女子としての異性に対する条件反射で生理現象」と自己暗示をかけた。
幾分かマシになった私は、リッシャー王子にこれ以上心配を掛けまいと決めて、身体を起こして彼と向き合った。
「ごめんなさい。ご心配をおかけしました」
頭を軽く下げて謝る私に、リッシャー王子は優しく言葉を掛けてくれた。
「いや、何事もなくてよかったよ。……それでどうだった? 占い結果……君自身の名前は分かったのか?」
気にしていたのか、リッシャー王子は期待を込めた瞳をして、固唾を飲みこんで切り出した。
「い、いいえ」
「そっか……」
占い結果を首を振って表すと、彼は私より残念そうにして肩荷を下ろした。
「結果は残念だが、いつか思い出すはずさ。それまで辛抱だ」
「はい……」
励ましてくれるリッシャー王子に頷く。頷いた頭に暖かな掌が乗せられ、優しく撫でられた。
そんな彼の優しさと温かさに、キュッと心が苦しく縮むと同時に、頬に熱が灯った。
「……ッ(これは好意じゃない……、好意なんかじゃない……。顔が赤くなるのは条件反射で生理現象……!)」
熱くなる感情にハッと思い出すと、きつく目を閉じて暗示を言い聞かせるように唱える。
「あ、いや、すまない! 女性の頭を何度も撫でてしまうとは……イヤ、だったのか……?」
私の様子を見たリッシャー王子の手は、すぐにパッと頭から退けられ、申し訳なさそうに小さく呟きながら頬を掻いた。
「そ! そんなことないです! ……とはいえ私の方こそ、ごめんなさい……。心配してくださっているのに……」
「そ……そうか、それならよかった……?」
リッシャー王子は私の言葉に安堵して恥ずかしそうに、はにかんで胸をなで下ろしていた。
「それで、名前に関してなんですが、アリアッテさん曰く、記憶が少しでも戻ったら名前も思い出すことが出来るのではないかと言ってましたよ」
「そう……なのか? では、私は君の記憶を思い出せるように協力しよう。といっても何をすればいいのかわからないが……」
会話を元に戻すように、アリアッテさんから聞いた内容を教えると、口元を引き締めると力強くそういってくれて、私はその言葉で勇気づけられた気がした。
「ありがとうございます。私も何か思い出せたら1番に教えますね!」
「っ。……あぁ、よろしく頼む」
この世界に来てから、大きく笑う事はなかったと思いながら、リッシャー王子に笑って約束する。
彼も釣られたかのように微笑むと頷いた。
「あ。そうです! アリアッテさんの占いで分かったことがあったんです」
「なに、そうなのか!? ……それはいいことだ。それで、わかったことはいったい……?」
大事なことを伝え忘れていたわけじゃないけれど、私は情報を共用しようとして言葉を続ける。
リッシャー王子は驚きに目を見開くも、すぐに目元を細めると頷き、つばを飲み込んで先を促す。
私も頷いて、アリアッテさんから聞いた占い結果のことを、頭の中で整理しながら言葉を発する。
「はい。まず一つ目ですけど、アリアッテさんの占いの結果では、私は異世界から来たみたいで、この世界の住人では無いということらしいです」
「ふむ……それで?」
相槌打つリッシャー王子は急かすこともなく、右手を顎に寄せて続きを聞く姿勢のまま先を静かに頷く。
「その理由として、私の髪の毛の色が関係しているようで……」
「髪の毛?」
「はい。この国の人は髪の色が何かしらグラーデーションがあると、アリアッテさんが言っていまして……」
「確かに。この国住人はそれぞれ頭皮から中間、毛先にかけて色が変わっているが……」
「ですよね。でも、私の場合は違うようで……」
周知の事実として知っているリッシャー王子は頷きながら、私の言葉に耳を傾ける。
「一色しかないようです。……照らし方によって変わるらしいですけど、基本は変わらない色らしいです」
「そうか……すまない。確認の為、髪の毛を触らせてもらえないだろうか?」
「いいですよ」
一通り話すとリッシャー王子は片手を伸ばして、頬に触れそうになりながらも髪の毛を一束掬い上げると、視認するように髪の毛に顔を近づけた。
髪の毛に注意を持っているリッシャー王子とは裏腹に、私は一体どこを見ればいいのかと、視線を彷徨わせて別の場所へ意識するのに精一杯だった。
だけれど、素肌が接しているわけではないのに、彼の吐息が毛先に掛かるたびに身体が震え、リッシャー王子の事を意識してしまうように、彼自身に視線が揺れていき、高鳴る心臓と高揚していく頬を感じて、ギュッと瞼を閉じる。
「なるほど……。君の髪の毛は街灯に照らしたら茶色く見えるが、確かに色は統一しているな」
確認が終わったのかリッシャー王子の手から髪の毛がハラリと戻ってきて、彼の顔が離れていく気配に私は閉じていた瞼を開く。
リッシャー王子に触れていた箇所に意識があるかのように、感覚を持っているような気がするほど、身体全体はどうしてか彼に対して感情が向けられているのだと感じた。
「それで――……おい、大丈夫か?」
「え……あ……はい。だいじょうぶ……です」
言葉を発しようとしていたリッシャー王子の声掛けに、私の意識は呼び戻され、ボーッとする頭の中に浮かんだ言葉を口にだす。
「えっと……リッシャー王子の髪の毛の色はどんな感じなんですか?」
「え?」
どうしてかキョトンと目を丸めたリッシャー王子は首を捻る。
「見てみたいんですけど……だめですか?」
アリアッテさんの言葉を思い出して、好奇心で彼の髪色を確認したくて、身長がある分上目使いをする形になりながら、私も首を傾げた。
「~~……。わ、わかった……」
少し遠慮するように困惑した表情を浮かべていたリッシャー王子は、項垂れる様に私の目線に合うように身を屈める。
「ありがとうございます」
視線の先にリッシャー王子の髪の毛がやってくるとお礼を言って、両手を伸ばして短髪気味の頭蓋をそっと触り、よく見える様に顔を持っていく。
アリアッテさんの言う通り、リッシャー王子の頭髪は私と同じ黒色なのに、先端にかけて藍色に変わっていた。髪の長さが違っていても綺麗なグラデーションになっていて驚いた。
「あの……そろそろいいだろうか……?」
「え? ……あ! は……はい!!」
下方から聞き覚えのある声が聞こえて、知らずに無礼を働いているのだと気が付いて、私は頭から手を離すと距離を取った。
「ご……! ごめんなさい!」
「いや、気にしないでくれ……」
距離を取ってすぐに腰を極限まで折って謝る。リッシャー王子は顔を逸らしながら、会話を続ける様に咳払いをする。
「それで……、もう一つ知りえた事とは……?」
「そ、そうですね……。アリアッテさんの占いによると、光の巫女だってことらしいです。長年現れていない人物だなんてとても大げさなような気がするのですが――……って、リッシャー王子?」
私は苦笑して話を続けようとした際に、ふとリッシャー王子の顔に視線を向けると目を限界まで見開いて、黙っている彼に違和感を感じで名前を呼ぶ。
「……ひかりの、みこ……君が……? そんな……バカな……いや、まてよ……だからあの光が……?」
「リッシャー王子!!?」
「!」
今まで見たこともない表情をしながら、手のひらを口元に持っていくとブツブツと、何かしら呟いているリッシャー王子に不安を感じて、もう一度名前を呼ぶため、今度は声を上げる。
呼びかけに気が付いたリッシャー王子は、私に視線を投げかけ、確認するように全体を見渡せられた。
「あ…………あ、の…………? リッシャー王子……様?」
目元を覗き込みながら、恐る恐る手を伸ばして声を掛ける。
伸ばした手はリッシャー王子の腕に触れると、現実に戻るようにビクリと身体が反応して、視線が合ったような気がしたけれど、すぐに瞳を閉じた彼は深く息を吐き出した。
「……すまない。考え事をしていたようだ」
気持ちを入れ替えるように、空気を吸ったリッシャー王子は爽やかに微笑み直した。
彼の表情をみて、さっきの視線が消えてホッと胸をなで下ろすも、少し安心した心とは別に、頭の片隅に不安は残る。
「さっき、言っていたことは本当なんだな……?」
「そう……らしいです」
「なら……、光が落ちた場所に君が居た理由が”それ”なのかもしれない」
「え?」
考え込んだ末、確信するようなリッシャー王子の言葉に私は目を丸くした。
「伝承は光の巫女に関して明確な情報はないが、あの光が原因で君がやって来たのだとすると。まさしくそれは光の巫女に準ずる可能性がある」
「そう、なんですか?」
「ああ、恐らくは。……アリアッテ氏が先に伝えてくれているだろうが、とりあえず、私の方から朝方に父上に申し上げなければならないな……」
確証する根拠はまだないはずなのに、深く頷くリッシャー王子はまたもや、また何かを考えるような素振りをした後、私の方をちらりと一瞥してきた。
「さて、今日はもう疲れただろう……。占いをしている最中に君の部屋を一つ空けておいてもらったんだ。たくさん空き部屋があったそうで、もしよければ、今回はその部屋で休むといい」
前置きをしてリッシャー王子は向き直ると優しく話しかけてくれる一方で、真剣になりながらも言葉を続ける。
「明日の明朝、私は父――いや、国王に君のことを伝える。おそらくだが、占い結果での君の立場が判明した以上、謁見の場を設けられる可能性が高い。その時になったら、何かしら言われてもいいように覚悟しておいてくれないか?」
「……わかりました」
顔を見合わして発せられた言葉に、私は緊張気味に一拍置きながら頷いた。
縦に振れた顔を見て、目元を細めてリッシャー王子はすぐに微笑む。
「ありがとう。では君を部屋まで案内したいのだが、あいにく空けてもらった部屋の屋敷が男子禁制の場所なので、部屋の前までの案内が出来そうにないんだ。……その代り、君を案内してくれるメイドがいるから、その人の場所まで一緒に行こう」
リッシャー王子はそういうと、そこまで案内するよと続けて、おもむろに私の胸元まで手を差し出した。
少し驚いて彼の瞳を覗くと、小さく頷きを入れたリッシャー王子は、私の手をそっと取ると片手で優しく握られる。
リッシャー王子に握られた掌に、ジワリと温かさが伝わってきた。
そして、歩き出したリッシャー王子にエスコートされて、玄関口付近に置かれたテントからその場を後にした。
続く




