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第4話 占い

 門の中――城内に入るとすぐ近くに待合室があり、その待合室の一角に人が二人ほど、入れそうな紫色の三角テントが張ってあった。

「この中に占い師がいる。さっきも言ったように私は一緒に居ることが出来ないが、占い師は女性だから安心してもいい」

「はい」

 入り口の布を片腕で上げてリッシャ―王子に中に入るようにと促されながら、私はテントの中へ足を踏み込んだ。

 テントの中は、外の松明とは違った温かさのあるオレンジ色に輝いているランプが吊り下げられていた。

 寝ていていたところをたたき起こされたか、眠たそうに目を掠めた顔をした女性が座っていた。

 その女性を見て、私は目を見開く。リッシャ―王子から占い師の人は女性であると教えて貰ってわかっていたとしても、女性占い師と言えば魔女のような風貌で腰の曲がったご老輩の方を想像していたからこそ、私より年上のように見える年若い女性が占い師だとは思いもしなかった。

 そんな私の想像とは違った女性の装いは、黒のマントをポンチョのように身に纏い、小さな装飾が散りばめられたフードを軽く頭に被り、フードの下から垂れる薄めのヴェールの隙間から、ダイヤの形をした耳飾りをシャラリと揺らして、私を見咎める。

 目が合ったと感じた私は、見透かれそうな眼差しから視線を逸らすように、目線を下に向けた。

 視線が女性の足元に映った。

 彼女の前にはたくさんの占い道具と思わしきものが沢山並べられていて、その数に圧巻してゴクリと喉が鳴る。

「では、占い師殿。夜も遅いが、彼女のことについて色々と視てやってくれ。それと、彼女は名前がわからないようなのだ。まず先に、彼女の名前を占ってみてくれないか」

「わかりました……」

 私が驚いている間に言葉を交わし終え、リッシャ―王子はテントから出ようと入ってきたように布を押しのけ外へ足を向ける。

 リッシャ―王子がテントから出ていく際に、私に目配せを一瞬して、優しく頷くとテント外へと姿を消した。

 そうしてテントの中には、リッシャ―王子が出ていく際に、深々とお辞儀していた占い師のお姉さんと私だけになった。

 


「それじゃあ、始めましょうか」

「……よろしくお願いいたします」

 二人分の呼吸が聞こえそうなほど静かな空間に声がかかる。

 緊張気味にお辞儀をした私に、占い師のお姉さんは、目元を緩めて歯を少し見せて笑った。

「まあ、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。さっきまで寝ていたとはいえ、夜中に貴女がフェルナンド王国付近に現れ、私の前に第二王子様と共に来ることを予期していたの……先代の占い師が、だけどね」

 両手を軽く振って緊張を解してくれるように、冗談交じりに言葉を交わすお姉さんは、私と占い道具を交互に目を移しながらも手を器用に動かす。

 そして、お姉さんは最後に私をまっすぐ見つめて会話を続ける。

「さて、最初はまず私の名前からね。私はアリアッテよ。この国の占い師をしているわ。それで貴女の名前から占う、だったわね。……ここに来るまでに間に何か覚えている事、または思い出したことってある?」

「…………いいえ(フルフル)」

 アリアッテさんが一旦、自己紹介して私の名前について問いかけてきた。だけど、覚えているのかどうか、と聞かれてすぐに思い出せるわけでもなく、私はその言葉に首を振って答える。

 アリアッテさんは私の目を見据えながら「そう」と短く呟いて瞼を伏せると小さく息を吐き、座椅子にもたれかかった。

「なるほどね。分かったわ。とりあえず、調べてみるわね。退屈だろうけど、待ってて」

「はい」

 少し納得するように頷いたアリアッテさんは、姿勢を正すと占いの手を動かした。

 アリアッテさんの手元と、幾度となく並べ替えられる道具をジッと見つめて、初めて見る占いの仕方に固唾を飲む。

「そんなに気になる……?」

「え?! あ、じゃ、邪魔だったらごめんなさい……!」

 真剣に見ていたのか、上目使いにアリアッテさんに尋ねられ、私は慌てて視線を変えて謝った。

「いいえ、大丈夫よ。邪魔じゃないわ。ただ……そんなにまじまじと見られたら集中ができないってだけ。……なぁんてね。嘘ウソ。気楽にしてていいからね?」

「え……あ、はい……」

 耳飾りがシャラシャラと横に揺れながら否定するアリアッテさんは、ヴェールの下からではわからないけれど、恥ずかしさを含んだ笑みを浮かべたかと思いきや、パッと明るく悪戯な表情を浮かべて茶化された。

「あ、そうだ。何か情報得られるために質問とかしちゃうかもだけど、難しく考えないで直観で答えてね」

「わかりました。できる限り答えたいと思います!」

 記憶がないけれど、何かしら力になれると思った私は、アリアッテさんの言葉に頷き、拳を軽く握って意気込むように答える。

「有難う。それじゃあ、再開するわね」

「はい。よろしくお願いします!」

 優しく微笑んだアリアッテさんは、フェルナンド王国しきたりに則って、私の占いを再開し始めた。


   *   *   *


 時折、アリアッテさんが問いかけてくる質問にわかる範囲で受け答え、様々な道具を使って、占ってくれた。

 夜も遅い時間なので、詳しい時間はわからないけれど、体感的に三時間ほど経ったような気がする。

 一通りの占いが終わった頃には、アリアッテさんは占いの疲れか、座椅子にすがって目頭を押さえていた。私は今日半日程だけれど、いろいろなことがありすぎたおかげか、疲労感が強く身体を支配し、気をしっかり持たない限り、眠気が勝りそうだった。

 数秒間休憩後、アリアッテさんは姿勢を直し本題に口を開く。

「第二王子の希望だから、いろいろ質問しながら貴女の名前を占ってみたのだけど……、はっきり言うと、何も情報がない」

 真剣な顔をしたアリアッテさんは占い結果を教えてくれた。

 すぐに顔を歪めて残念そうに頭を振ってアリアッテさんは言葉を続けた。

「それどころか、貴女の名前らしい情報が一切見当たらないの。貴女の記憶がないという理由(ワケ)があるだろうけど。……少しでも記憶が戻ってくれたら、何かしらわかることが増えるかもだけれど……」

「そう…なんですか……」

 私の記憶がすべて抜けていることで、自分の名前が占えなかったと伝えられ、ショックを受けながら、アリアッテさんの言葉に小さく俯くしか出来ず歯噛みするしかなかった。

 記憶が少しでも思い出すことが出来れば、私の名前も思い出すことができるかもしれない、と。

 でも、どうやったら記憶を取り戻せるのか全く見当もつかない。それどころか、思いだせば占いに変化があるとわかっても、どう頑張ってもできそうになかった。

「だけど、これだけはわかったわ」

「え?」

 アリアッテさんの続いた言葉に顔を上げると、ヴェール越しに確信した瞳と視線が交わった。気がした。

「あなたはこの世界の住人ではないってこと」

 ドヤッという効果音が似合いそうな口角を浮かべたアリアッテさんは、素顔を隠すヴェールを揺らし両手を組み私を見据える。

「……そう、なんですか?」

「えぇ、ちょっと隣いいかしら?」

「? はい」

 まったく意味が分からず小首を捻る私を見兼ねて、アリアッテさんは一言断りを入れて腰を上げた。

 その際被っていたフードを脱ぐとヴェールを留めているカチューシャが見え、フードの中に隠れていた髪の毛が姿を現し、パッと見て腰まで伸びている髪を一つの束にしていたアリアッテさんは隣に座る。

「情報が少ないのは本来ありえないことなの、占いでわからないのはこの世界の人間じゃないとき――つまり、異世界から来た人っていう事ね」

「……なるほど??」

 いまいち理解が追い付いていない頭はクエスチョンマークで埋め尽くされた。

「この世界は大陸が沢山あって、その大陸の一つの多くの国が連なってできているの。その大陸によって、国それぞれに人の特徴があり、国における様々な体格・髪の色・肌の色・目の色素があるのよ。だけど、貴女はその特徴にどれも一切当て嵌っていないの。この大陸だと髪の毛が一般的にわかりやすいわ」

「髪の毛……ですか?」

「そうよ。なんなら私の髪の毛を見て貰った方が説明しやすいかも」

 そういってアリアッテさんは私に髪の毛を弄るように見せてきた。

「よく見て貰ったら分かると思うけど、上から赤色なのに先端に掛けてグラデーションのように黄色くなっているのが分かるでしょう?」

 室内の灯りで見えずらいけれど、よくよく注意して見たらアリアッテさんの言葉通り、髪の色が変わっていた。

「別にこの国の人は好きな色を染めているわけではなくって、自然と生まれた時から何かしらの色が入ってグラデーションになっているの。それで、話しを戻すと、貴女の髪の毛は真っ当に黒色。光に透けることはあっても、髪の毛は綺麗な黒色だわ」

 私は髪の毛を触って色を見る。確かにアリアッテさんの髪の毛は赤色、オレンジ、黄色と夕暮れに近いグラデーションがかかっていて、対する私の髪の毛は黒一色で彼女のように多色ではなく単色だと把握して、なるほど……。と頷く。

「もう一人、貴女が今知っている身近な人物で喩えるならリッシャ―王子もそうよ。彼の場合、夜だと分かりづらいけれど、黒から藍色に変わっているわね。……後でちゃんと確認してみてね。それで、貴女は生粋の黒髪……光の当て方によって茶色に見えたりしないわけでもないと思うけど、私たちのようにグラデーションは見当たらない。といっても、髪の色だけが確定要素とは言えないけれどね」

 そういいながらアリアッテさんは肩を竦めて、少しだけ笑う。

「どこの国とも関係性はないってことだから、この世界の住人ではない。という事なんですね……」

 アリアッテさんが提唱してくれた内容を直訳する。

「そうね。それじゃあ、貴女はどこからやって来たのか。という問題だけれど、今の私には到底解明できそうにないわね……。ごめんなさい。期待させるようなこと言っておいて何も解決できなくて……」

 場所を移動して元の位置に戻ったアリアッテさんは指を絡め、口元を覆いつつ眉根を寄せて首を振る。

「い……いえ! そんなことはないです! 確かに、”()()()()()()””()()()()()”て、私の”()()()()()()()()()()()()()()”が”()()()()()()”とはいえ、アリアッテさんはちゃんと占ってくれました! ”()()()()()”ですが、少しでもこの世界の住人じゃないってことが知れたので、よかったですから! それに――――」

「ちょっ……ちょっと待って! もう何も言わないで!! お願いだから……」

 精一杯、アリアッテさんのフォローをするも、余計に傷を抉っているようで、だんだんと前のめりになっていくアリアッテさんに制され、言葉を止めた。

「ご……ごめんなさい……。否定するつもりはなかったんです……」

 少し時間を置いて、私は項垂れてしまったアリアッテさんへ、床に額を擦るようにお辞儀して謝る。

「わ……わかってるわ……。悪気はないのはわかるから……」

 顔を上げたアリアッテさんの表情が苦渋な形をしているのが目に見えて、本当に申し訳ない気持ちが胸あたりに込み上げた。

「……とりあえず、貴女はこの世界の住人じゃなくって、他世界からの訪問者であることが何となくわかるわね。そして、記憶が失っているのはこの世界にやって来たことによって、元の世界の記憶の情報がすべてリセットされてしまったと考えるべきかもね」

 咳払いをして、話しを元に戻したアリアッテさんの言葉に私は頷く。

「とはいえ、記憶に関して何もわからなかったわけじゃないの。占いして、これだけは確証としてわかったわ。……本来、あり得ない話なのだけれど、貴女はこの世界にとって重要な人物――”光の巫女”として現界している」

「光の――巫女――?」

 初めて聞く単語なのにもかかわらず、身体全体を巡る血が、どこか騒いでいるような感覚に陥った。

 その言葉はまだ確定していない私の人生(まわり)を、より一層と大きく変えてしまうとはこの時、全く思いもつかなかった――……。


 つづく

加筆修正終了しました――(2019.03.10)

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