第33話 もう一度
二度目の謁見。
最終的に決まったことは……?
「巫女様、それでは参りましょう」
「はい」
待ち室から出ると、呼び出しに来てくれた従者さんと共に謁見場へ辿り着いた。
「……どうぞ、お入りください」
「ありがとうございます」
扉を開けてくれた従者さんにお礼を言って、謁見の場の扉をくぐると、国王様のルーベル王がリッシャー王子とハデン王子に囲まれるようにして玉座に座っていた。
最初のように値踏みするような視線ではなかったにしろ、どこか期待を込めたように真っ直ぐにこちらを見据えた国王様の視線に、緊張を促されたような気になり、ドキドキする内情に構えながら、私は近くまで歩いた。
「2度目ではありますが、お忙しい中、お時間を頂戴しまして、ありがとうございます」
「いい、いい。光の巫女様、畏まる必要はありません。それで、早速なのですが、前回お話した内容の事はどうお考えになられました?」
数メートルほどまで近くまで行き、会釈を済ませると、さっそくと言うように国王様は答えを尋ねてきたことに身を構える。
「はい……1週間の期間ですが、王子お二人のおかげで、右も左も分からなかった生活も少しですが慣れてきました。お二人はとても親切で親身になってくれました……だから、私にはお二人が勿体なくて、どちらかなんて選べません!」
「なっ!?」
一生懸命考えた――実はまだはっきりと考えきれてないのが正確ではあるけれど――結果であったとはいえ、断言するように伝えた内容に、国王様は驚きに目を丸くして身を乗り出され、すぐに居住まいを直すと咳を一つされた。
「そう、なのですか……。巫女様のおメガネには息子達は霞んで見えるということなのですね……」
「え。い……いいえ!! 決してそんなことはないです!! お二人は……!」
「もう、大丈夫だよ」
「え?」
見当違いに国王様が悲しそうにぼやいた。
そんな間に入るように、静かだけど室内に響く音声のすぐに立ち塞がるかのようにハデン王子が立っていた。
「父上、いえ、国王様。彼女はこの世界に来てまだ日が浅い。それ故にまだ国を支えるという、重要な役割をこなすには荷が重く、彼女に国を一存させるのは些か早いと思うのです」
「……ハデン王子……」
「だからこそ、彼女には見聞を広めるべきではと思うのです。そのためにヴェルヴァラ卿をこちらに呼び戻したのではなかったのですか?」
「それは、そうだが……」
渋る国王様を前にして堂々とするハデン王子のさまに驚きつつ、少し安堵している自分がいた。
「それに……」
ハデン王子と国王様の沈黙に、痺れを切らしたかのようにリッシャー王子が言葉を挟んだ。
「彼女はごく最近まで記憶がありませんでした。記憶が戻ったとご報告を受けているはずです。まだ彼女は思い出した事と国王が提示した案をまとめるには時間がかかると思います。だからこそ、それが落ち着くまで……長い猶予を持って過ごして頂くことが必要なのではないかとも思います」
「…………」
静かに、リッシャー王子の言葉を聞いて、瞼を閉じた国王様は遠くても分かるような深い溜め息を漏らした。
「お前たちの考えはわかった。確かにヴェルヴァラを呼び戻したのは、この世界に関する知識を含めて巫女様の教育係として適切だと考えたからだ。だがそれは……」
そして、顔をあげる要領でしっかりと瞳を私たち3人に目配せると、フッと口角を上げて笑った。
「私はいささか性急過ぎたのだろうな……。確かに来て早々、あなたに変なお願いをしてしまった。記憶がないとはいえ、一週間ほどの短時間で決まる、という事ではなかったということか……」
なにかを思い出したように両目を瞑る国王様は、私にゆっくりと恭しく頭を下げられた。
「巫女様……、判断を早めようとして、申し訳ございません」
「い、いえ! 国王様、頭をお上げください! 私の方こそ約束の期限にちゃんとした返事が出来なかったんですから! ……それに王子達二人がそばにいてくれたおかげで、楽しく過ごせたので」
頭を下げ続ける国王様に一言謝って、二人とのこれまでの思い出を振り返りながら優しく微笑む。
「そうなのですか……。それは良かったです」
頭を上げた国王様も安堵したように笑みを深くされた。
しかし、すぐに表情を引き締めると、国王様は続けられる。
「とはいえ、巫女様。もしあなたさえ宜しければですが、引き続き考えてみてくれないだろうか」
「え……?」
続けられた言葉に耳を疑いながら、瞼が上がり瞳孔が開く。
「結婚についてのことです。……聞く限りによると、仲はなかなかに悪いという訳ではなさそうであるし、知識を広げたあとでもよろしいのです。巫女様自信が決められた事には一切口を挟みませんので、できる限り、最終的にどうするべきか決めて欲しいのです。期限は問いません。同じような願いになってしまいますが、この国の繁栄のために、どうしても巫女様のお力添えが必要であるのです」
最初の頃より猶予が増えたとはいえ、期待と希望を込めたような様子で国王様にまっすぐ見つめられた。
「……わかりました。考えておきます」
「そうか……それを聞けただけでも嬉しいよ。引き続きよろしくお願いいたします」
まっすぐな瞳に押されてしまうように二言で頷いた私に、安堵したように笑まれると、満足そうに立ち上がった。
「光の巫女様。あなたはこの国における一つの希望です。貴女様の配慮や決心がこの国の道しるべとなりうると信じております」
一歩一歩と歩み寄る国王様は、赤いクロークをはためかせ私の近くに立たれると、膝を折り誓いを立てるように項垂れられた。
「……っ」
国王様の初めには無かった行動に戸惑いながら、どうしていいのか狼狽える。
後ろにいるリッシャ―王子とハデン王子に、行動を促してもらおうと目配せをした。
「君が思うことを言葉にするといいよ」
どちらが教えてくれたのか、それとも二人ともなのか、発せられた提案に縋り付くように、頷くとゴクリと息を飲んで声を発する。
「まだ、この世界のことはよくわからないのですが、これから過ごしていく中で、世界も知識も広げていきたいです。それに、よくしてくれる皆さんの気持ちに……精一杯、応えられるようになっていきたいと思います」
「そうですか。貴女様に先代の加護がありますように……」
項垂れたまま言葉を紡いだ国王様と私の間に、一つの光が射すような輝きが現れたかと思いきや、すぐに収まった。
さっきの光は一体なんなのか気になるところだったけれど、項垂れていた国王様が立ち上がった事で、意識は別のことに差し替わった。
「これで謁見は終了した。巫女様、これからもよろしくお願いいたします」
「は、はい」
言葉の丁寧さと雰囲気とは違った厳格を纏った国王様に圧倒されてしまった。……よくよく見るとリッシャ―王子とどことなく近い顔立ちをしていることに気が付き、ハデン王子は王妃様に似ているんだろうなと、ふと、心の中で浮上した。
「……息子たちも来たことだし、私は一度退室させて頂こうかな。後の会食でまた会いましょう」
国王様の言う通り、近くに来ていたリッシャ―王子とハデン王子に目配せをして、気を使うように立ち去って行った。
つづく
優柔不断が続きました。
これも一つの結果です。




