第31話 謁見までの自由時間(2)
リッシャ―王子と立ち会ってガーデンテラスに向かった二人。
光の巫女は彼に思い出したことについて語る――。
「それで……記憶、思い出したって言っていたが……」
「は、はい」
ガーデンテラスに着いて庭園の真ん中にある休憩所まで行くと、隣合うようにベンチに座ってからリッシャー王子に尋ねられたことに対し頷き、私はリッシャー王子に元の世界のことを簡略に話した。
「なんだその世界は! 話に聞く限り君は悪くないじゃないか! どちらかと言えば文句も言わず、学徒であるにも関わらず、学問も手を抜くこともなく一生懸命働いて生活をしていただけではないか!?」
私の話を聴き終わったリッシャー王子は、溜まりに溜まった怒りを爆発させるように憤慨しているのを見て、驚きにパチリと見開いてしまった。
握り拳を作ったリッシャー王子の手はふるふると震え、自分の太ももに押さえ付けていた。
「それをお金が欲しいから、生意気だからと言って君をいじめなどで陥れるなどあってはならない!」
「リッシャー王子……」
「君は良く頑張っていたのだな……。記憶など思い出さなくてもいい事もあったもんだ」
リッシャー王子に軽く抱き寄せられ、彼の掌が頭に乗って優しく撫でられた。
とても驚いたけれど嫌な気はしなくて、抱き締められた体温とは別に、心がじわりと温かくなっていくような感覚を体感した。
「とはいえ、まさか君の過去にそんな事があったとは……。知らなかったとはいえ、辛い事を思い出させてしまった……すまない……」
「いえ、いえ。リッシャー王子のせいじゃ……思い出した事に何か理由があるんですよ。きっと、恐らく……」
離れていく体温に少しだけ寂しさを覚えながら、彼が悪いことをしたわけじゃないのに、悲しそうに謝ってくれるリッシャー王子に首を振り、彼を安心させたくて震える拳に手を添えてから口角を上げて微笑む。
「だとしても……いや、そうだな……」
それでもリッシャー王子は何か言いたそうにしていたけれど、彼は納得するようにフッと頷きがちに小さく笑った。
「すまない。少し熱くなってしまったようだな……」
「いえ、とても嬉しかったです……ありがとうございます」
太陽の光が当たって照れるようにして笑う彼の表情は眩しくて、太陽だけでなくリッシャー王子からも顔を逸らしながら言葉を口にする。
「大丈夫か? なにか飲み物を……」
「あ……大丈夫です。心遣いありがとうございます」
「そうか……」
心配する彼の声に首を振る。
それから会話はそこで止まり、さわさわと風の触れ合いに踊る花と鳥のさえずりが聴覚に、さんさんと緩やかな気候の温かさが心地よく感じられて、二人だけの世界に染め上げられていくようだった。
数分ほどその世界に浸るなか、服が擦れる音を耳にしてリッシャー王子がこっちに向いたのだと気が付いた。
「そういえばだが、記憶だけの話だったが、まだ君の名前の事は聞いていない……良かったら教えてくれないか? 君の名前を……呼びたいのだ」
「え!? 記憶戻ってるの!? 僕にも教えてくれる約束は?」
「ひゃっ!? え、ハデン王子!?」
「兄さん!? どうしてここに!」
顔を赤くして呟くリッシャー王子の言葉に、第三者の声が後方から聞こえ、私たちは振り向き様に驚く。
「いやぁ、庭園を散歩してたらリッシャーと巫女ちゃんの姿を見掛けたから、声をかけようとしたんだけど、世界作っちゃってて、誰かが声をかけるまで待ってたんだけど……。さっきの話を聞く限り、まさか巫女ちゃんの記憶が戻ってて、それを話し終えてるんだもん。名前だけでも聴かないとやってられないしさ」
尖らせて拗ねるハデン王子は、いきさつと不満を口にしながら寄って来てリッシャー王子とは反対方向に、つまり私の隣に腰掛けた。
私は対称的な王子2人に囲まれる形になってしまったのだった。
「まあ、この際だけど、僕は巫女ちゃんの過去は聞かないことにするよ。リッシャーのその顔を見る限り、あまり良くない思い出なんだろうし」
苦虫を噛み潰した様な、なんとも言えない表情を浮かべていたのかリッシャー王子の顔色を見ていたハデン王子は肩を竦めた。そして、彼は私にニコッと笑いかけると、聞きたくて仕方がない風に口を開く。
「それで、巫女ちゃん。差し支えなければ君の名前を聞いてもいいかな?」
「は、はい!」
えくぼを浮かべて優しく聞きだすように話すハデン王子と、心配そうに見つめられているリッシャー王子の視線を受けながら、キッシュさんには伝えていなかった私自身の名前を、緊張して渇く口内に唾液で潤してから二人に教えるために口にした。
「わ、私の名前は……宮永……輝子……です」
つづく
謁見まで自由時間の話をまだ続けるか、それとも謁見の時間に経過させるか迷ってます。




