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第30話 謁見までの自由時間(1)

二度目の謁見まで時間があると言われ、考えをまとめるために外出した光の巫女。

どこかへ向かうあてもなく歩いていると彼に出会った――。


 返事をどうするべきか考えあぐねている時、キッシュさんは伝達後すぐに戻ってきた。

「巫女様、先ほど申しました通り、今日は国王様とご子息たちとの謁見……。その後、おそらく初めてお会いになると思いますお后様と共に会食をご用意させていただきます。謁見までの時間は今日のお昼過ぎからとさせていただきますので、巫女様にはそれまで自由にお過ごしくださって結構です。準備の際、後程お部屋にお戻りいただき、お召し物の準備などをさせていただく所存です。なにかご質問はございますでしょうか?」

「えぇ……と……。特には……?」

 キッシュさんが伝達しに行く前に聞いた話とは、大きく変わっている気がしながら、たくさんの情報に困惑しつつもなんとか答える。

「簡単に説明致しますと、謁見の時間は昼過ぎからで、それまで自由に過ごしても大丈夫です。そして、時間になりましたら、巫女の正装に着替えて頂くので、それまでにご自身の部屋にいて頂きたい。ということです」

「なるほど……。わかりました。ありがとうございます」

 少し呆れながらも、優しくわかりやすく一から教えてくれたキッシュさんに感謝しつつ返事を返す。

 

   *   *   *


 部屋着から巫女服には着替えず最低限の服装に着替えて、キッシュさんが部屋を出て1人残された私は腰掛けたチェアに背中を預けた。

「はぁ……どうしよう……」

 謁見までの時間を自由に動いてもいいと言われたけれど、2回目の謁見をするという事とその後のことを考えるだけでも、緊張しているのにそれどころじゃなく、それにまだどちらかになんてはっきりと心決めた訳でもないのが現状で……。

 だからこそ二日間でそれぞれ尾行したにも失敗に終わって、本格的に2人の事を知れたとは言えない、と思う。

 昨日バレてからハデン王子に問いかけられたとはいえ、曖昧な返答しか出来ていなかった。

 悶々と考えていても緊張は無くなるわけじゃないというのはわかってる。

「そうだ……。外の空気を吸いに行けば……」

 緊張を解す為に散歩をするのもいいかもと思いついて、行く宛もなく自室から移動した。



「……あ」

「おはよう」

「おはようございます」

 部屋から出たのはいいけれど、どこへ行こうかと思案しながら歩いていると、ばったりとリッシャー王子と鉢合わせしてしまった。

「今から何処へ?」

「えぇっと……実は今、特に行く宛も考えてなくて……」

「そうか……。なら、今からガーデンテラスに行こうと思っててな。その……良かったら、一緒に行かないか?」

「え? あ、はい。いいですよ」

 少し恥ずかしそうにして鼻筋を掻くリッシャー王子の誘いに戸惑いながらも頷く。

「よかった……。では、お手をどうぞ、光の巫女様」

「…………」

 安堵した様子で朗らかに微笑み、手袋をした手が差し出される。

 これまでエスコートされたのは数えるぐらいしか無いとはいえ、彼の口から初めて聞く言葉に驚き、声が出ずぼうっとリッシャー王子の目を見つめてしまった。

「な……何かおかしかった……か?」

「……い、いえ。あまり聞き慣れない言葉を聞いた、と思ってしまって……」

 少し不安そうに優しく見下ろされた言葉にハッとして、私は頭を振って素直に話す。

「そ……そうか? これでも王子だからな……」

「そ、そうですよね! ご……ごめんなさい」

「いや、気にしないでくれ。では行くか」

「はい」

 一瞬ポカンとしたリッシャー王子に謝ると彼は小さく笑い首を振って、もう一度差し出された手に私は今度こそ手を乗せようとした。

 リッシャ―王子の掌に乗せようとする前に手首を取られて引寄せられたと思いきや、自然な流れで腕を組むような立ち位置になり、体を腕に密着せざるをえなくなったことに困惑する。

 手を取って隣に歩くだけでも少し恥ずかしいと思ってしまうのに、組まれた腕に身体が近づくというだけで緊張していくのが分かった。

 そんな緊張感を意味するわけでも意識するまでもなく、服の上ではわからなかった彼の鍛え上げられている筋肉が程よい硬さと温もりが服越しに感じられ、体全体が固まっていくように恥ずかしさのあまり彼の顔を見上げる事が出来なかった。


 今までの事を思い返してみると、初めてこの世界に来て最初に出会ったのはリッシャー王子だ。

 脅威に襲われた私を助けてくれて、わけのわからない境遇にもある私を彼は何かと気にしてくれていた。

 元の世界の記憶を取り戻した今になって、彼の優しさが心に浸み渡ってくるような気持ちになる。

 初めから優しく扱ってくれたことはあっても、こんな腕を絡めるようなエスコートはされた覚えがなくてすごくドキドキしていた……。

 


 ガーデンテラスに向かう道すがら、長く続く廊下を歩いていると二人分の足音だけが鳴り響く。

 煩く高鳴っている胸を落ち着かせるために他愛のない話をしようと思いついた。

 内容をどうしようかと思案しながら、今日の予定の一つである謁見に関すること以外の話題を、と思うと”あれ”しか考え付かなくて、リッシャ―王子の顔を見上げて言葉を発する。


「あ、あの……リッシャ―王子。私、思い出したんです」

「思い出す…? ということは記憶を?」

「はい……」

「そう……か。じゃあ、ガーデンテラスに着いてから話を聞こう。あともうすぐで着く」

「は……はい」

 私の言葉を聞いて普通に接してくるリッシャ―王子に疑問を感じながら頷く。

 思い出したら教えてくれと言っていた、初めて会ったときのリッシャ―王子とは反応が違っていることにとても寂しくなってきて、前を見据えたリッシャ―王子の顔色を目線だけで窺った。

 私の視線に映った彼の口元は歪んでいた。

 まるで嬉しさを顔に出すまいとするような雰囲気が醸し出されているように見えて、詳しく言ったわけじゃなかったけれど、話しを振ってよかったなと思い、ガーデンテラスに着いてからちゃんと話そうと決めた。


 そして、彼が言った通り、数分もしないうちにガーデンテラスについたのだった。


つづく

アプローチさせようと思ったら上手くいかなかったのですが、あれでもアプローチの一環に入ると信じて……

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