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第29話 【夢】と【××】

~前回までのあらすじ~

寝れないからと布団から出ようとして、足に力が入らず倒れてしまった事をきっかけに、眠るようにして意識を失ってしまったのだった――。



  ドンドンドンドンドンッ


 忙しなく騒がしいノックの音で目が覚めた。

「ここは? 私の部屋じゃない?」

 フェルナンド王国に来て、1週間程過ごしてきた当てられた部屋じゃなく、木造建築をふっそうとさせる室内で、目の前には木目が遠くからでも見えるような模様をした外開きドアが衝撃に耐えているのか見えた。

「そう言えば私、あの後どうなったんだっけ?」

 ――キッシュさんに飲み物をもらおうと立ち上がった後倒れてしまって……。

「そうだ……。私、あれから意識を失ったんだ……」

 先程自分が陥った現状を思い出してボヤく。

「それにしても……何? 切羽詰まってるのかな?(……開いてmーーあ、あれ?声が……)」

 未だにノックを続ける主に返事をしようとして、先程まで喋れていたのにも関わらず途中から声が出なくなり不思議に思う。

 ――このノックに返事をしてはいけない。

 すると、そんな考えが脳裏に浮かび、そのことに対して何故。と首を捻る。


  ドンドンドンドンドンッ!!


 ドアが壊れてしまうのではないかと思う程、ノックは止むことはなく、これでもかというようにノックの音は大きくなる。

 ドアの向こうから、怒鳴るような叫ぶような野太い声が聞こえてくるが、何を言っているのかさっぱり聴こえない。

 だけど、私は確信する。


 ――これは集金屋。すなわちヤのつく営業者の借金取り立てが来たのだ。

 何故、そんな人が来るのか理由はわからない。

 止むことのないノックに扉は悲鳴をあげ、蝶番もミシミシとあと少しで壊れてしまうのではないかと思われる程、ネジが緩み始めて来ていた。


 荒々しくドアを叩く音、金属が衝動に耐え切れないように擦れる音、そして何を言っているのか分からない怒鳴り声などが不協和音になり、近所迷惑になっているのではないかと思う程の騒音に思えてくる。


  ――うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!


 そんな騒音を聞いていく程、耐え難くなって遮断するように耳を塞ぎ、一切の情報を仕入れないようにギュッと目元を瞑る。

 すると、その効果があったのかピタリと音が止んだ。

 ホッと安堵して耳は塞いだまま、恐る恐ると目を開けると――。



「え?」

 私の視界に映ったのは先程の家とは全く違い、必要最低限のものがある女子トイレの中だった。

 そのトイレはあまり綺麗とはいえないもので、用事もなくあまり長いしたくなくて、ドアに向かおうとした。

「(あ、あれ……?)足が……」

 だけど私の足は自分の意志とは関係なく、一番奥の個室に入っていく。

 ――どうして? ん? 笑い声……?

「……ッ!!?」

 意識があるのにただの操り人形になってしまったような感覚に狼狽えていると、向かい側から女性がクスクスと押さえた笑いが聞こえてきて疑問に思っていると、上からなぜかたくさんの水が降り注いでいてきた。

 水浸しになってしまった服から垂れる零を受けながら、扉の向こうから抑えた笑いだったのものが嘲笑に代わる。


「あ…………。ああぁ、あああぁぁ…………ぁぁぁぁぁ――――!!!!」


 静かな空間に響く笑い声とポタポタと床に落ちていく水滴の音を聞いていると、なにか……懐かしくて辛い記憶が頭の中で無理やり再生されるような痛覚に襲われ、たまらず頭を押さえて叫ぶ。


「う……うぅ……」

 痛みに耐えかねて目元から被った水とは別の水が溢れ出て来た。

 すると、冷たい風で水が拭われ、濡れていた服はいつの間にか乾いていた。そうして気が付くとまた別の場所へ転換されていた。


 今度はどこかの屋上で空は曇り所々にある隙間から天使の梯子が掛けられている中、足元には地面も何もなく、真っ暗で虚空な空間が広がっているだけ。そこを虚ろながら見据えて、私は後ろ手にフェンスを掴んでいた。

 風の強さで私は高い所に立っていると推測できる。

 だけれど、どうしてこんな場所にいるのか、さっぱりわかるはずもなく、なぜだろうと頭の中で混乱する。


――こんな人生、死んでやり直したい。


 混乱する頭で浮かんで来た言葉が言うように、私の心の中では生きている意味が見いだせていなかった。

(な……なんで、そんな事――)

 浮かんできた考えとは裏腹に、意識は否定的で目の前に広がる空中に出たくないと、抵抗しようとする。

(あ……!)

 だけどその抵抗も虚しく、気付くとフェンスを掴んでいた指は離れていて、体はスカイダイビングするように空を切りながら落ちていく。


――あぁ、これで私は自由の身……。こんな世界とはおさらばよ……!


(い……いや、死にたくない! 助けて……!!)

 頭の中に浮かぶ気持ちと、意識する気持ちがあべこべで、どっちが本当の気持ちなのかさえ、分からなくなってきていた。

(!!)

 その時、私は一瞬走馬灯のようなものを見た気がした。

 それは本当に一瞬で、一瞬の内にフェルナンド王国に来て失っていた記憶が巡り戻ってきた。

(思い……出した!! さっきまで、見てきた風景は現世で本当にあったことなんだ!!)

 そう思うと、楽しい思い出なんか一切なくて、つらい記憶しか見なかったことに納得した。


 私は母親の男癖の悪さと借金を背負い取り立て屋に脅される毎日――――。

 親の収入だけでは返しきれない借金を返済するために、少しでも役に立とうとして始めたアルバイトが原因で、クラスの人たちから虐められることが多くなった学校生活――――。

 ……その他いろいろな気持ちが沈むしかない生活に、生きている意味が分からなくなって自殺したこと――――。

 すべて思い出した。記憶だけでなく、もちろん自分の名前も……。


 地面も終わりもない空間をいつまで落ちていた――落ちているというより、変わらない景色から浮遊しているような錯覚に陥っている――のだろう。

……ま…………さま!

 いまだに落ちている最中、誰かが私を呼ぶ声が聞こえてきた。真上からだったり右からだったりとあらゆる方向から呼ばれているような気がして、どこから聞こえてくるのか耳を澄ましてみる。

 すると私を呼ぶ声はだんだんと大きく聞こえ続けてきた。

 そのおかげで右斜め上から聞こえてくることが分かり、声が聞こえる方角へ私は見えないものを捕まえようとして手を伸ばした。


…………………みこさま!!


-------------------------------------------


「あ、あれ? …………キッシュ……さん?」

「あぁ!! 巫女様! ご無事でしょうか!?」

 かけられる声と肩に伝わる温もりに気が付き目を開けるとぼやける視界が鮮明になり、現状としてキッシュさんに抱き抱えられるようにして私は倒れていた。

「ど……して……」

「どうしても何も、いつものように起こしに参りドアを開けましたら、巫女様が倒れておいでで……ご心配致しまして声を掛けさせて頂いたのです」

「ごめんなさい……」

「いえ、謝る必要はありませんよ……。巫女様、起き上がれますでしょうか?」

 キッシュさんの焦った声色に、なんだか申し訳なくなって謝ると、首を振って微笑み気遣ってくれた。

「はい……」

 キッシュさんは優しく背中を押してくれて、なんとか立ち上がることはできた。

「それで、何があったのですか?」

 ベッドに腰掛けて姿勢を整えると、キッシュさんはのめり込むように事情を尋ねてきた。

「えぇっと……。昨日ベッドの中に入ってもなかなか寝付けなくて、温かいものを貰おうと起き上がろうとして足に力が入らなくて、床にこけてしまったんです……」

「そうでしたか……。お呼びくだされば部屋前に控えてますメイドが対処致しましたものを……。こけてしまわれた際にどこかお怪我はしませんでしたか?」

「けがは……特に……。あ! けがはしませんでしたが、思い出したことがあるんです!」

「それでしたら、よかったです……。それはとても喜ばしいことでしょう! して、どのような事を思い出されたのですか?」

ホッと息を吐いたあと、自分の事のように喜んでくれるキッシュさんに、思い出したことを話す。

「なるほど……。こちらに来る前は大変でしたね。ここにはあなたを嫌う人などいませんので、安心してくださいませ。これからも私は巫女様のお力になれるように尽力させていただきますので……」

「ありがとうございます」

 気遣ってくれる言葉がとても嬉しくて、目元を細め感謝を込めて微笑む。

「今日は国王様とハデン様とリッシャ―様、そしてお后様との謁見後、会食の予定ではありますが、思い出したくないような記憶で巫女様の体調がすぐれないのでしたら延長することが可能ですけど……」

「あ……それなら大丈夫です! 向こうの世界では私は死んだことになっていると思いますし、終わった事なので……それにそのおかげでここに来れてよかったと思っていますので」

 予定を確認しつつキッシュさんは心配するように、変更してもいいんですよと気遣ってくれたけれど、これ以上、心配を掛けたくなくて、首を横に大きく振って気持ちを伝えた。

「かしこまりました。そのようにお伝えしておきますね。巫女様……無理はなされませんように。それではまた伺いますね」

 キッシュさんは回答を聞いて安堵したように優しく微笑むと、お辞儀をして一言添えながら一度、仕事に戻るため室内から退室していった。


 キッシュさんが離れていく足音に耳を向けながら、立ち上がれるか確認する。

「うん。立てる。(……それにしても、なんで立てなかったんだろう)ううん、気にしてたらダメだよね。あの世界の記憶が戻っても少しだけだったけど、楽しかった思い出はちゃんと覚えてる。この世界に来てから一週間も経つんだから、あんなものを見たんだよ、きっと……」

 不思議に思いながらも、気持ち半分納得していく方針で頭を切り替える。

「よしっ。今日は色々と大事な日……だと思うから、昔の記憶のことは忘れて、きちんと返事を返さなきゃ(まだどっちかなんて決めてなんてないけれど……)」

 あやふやな気持ちであることには変わらず、ぎりぎりまで悩んでしまうかもだけれど、キッシュさんが戻ってくるまで私はどうしようかと考える時間にした――。

次話は王子のたちのアプローチ最終戦←

の予定です。

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