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第27話 ハデン王子の私情視察(3)

尾行中のハプニングから

 誰かわからない人に手首と口周りを捕えられ、キッシュさんが近くにいない現状に、今更ながら恐怖を覚え始めてきた。

「ふぅーッ。ん〜〜!!」

 それから、口元を抑えられている為、そろそろ口内の空気が無くなってきたことを感じて、私は声にならない音を出して、相手に抵抗する。

「!!」

「! ……だ、だれかー!!」

 抵抗が功をなして口元を覆っていた手はズレて、閉じられていた口は自由になったのを見計らい、誰か近くにいることを願って声を荒らげた。

「まって、待って! 巫女ちゃん、僕だよ、ハデンだよ」

「あっ、ハデン……王子?」

 後ろの人物は叫んだ私の口を塞ぐことなく、その人は慌てたように名乗りを上げた。

 暗がりの中、見知った名前を呼びながら、首だけを後ろに向けて慣れかけた視界の中にハデン王子の姿を認識した。

「そそっ。……びっくりしちゃった? ゴメンね? 今電気付けるから……確か、ここに……」

 掴まれていた手が離されて、優しく謝られながら部屋の電気を付けるハデン王子に全体を向き直り、尋ねてみる。

「あの……どうして、こんな事を……」

「ん? んーー……なんとなく?」

「なんとなくって……驚きましたし、恐怖も感じましたよ!?」

「あ、あはは……ゴメンね?」

 笑って誤魔化すハデン王子に膨れると、頭をポンポンされた。

 撫でられる感覚と優しく叩かれる感覚の違いを実感しながら、2人しかいない部屋の中でも、恥ずかしさが勝り、俯きがちに頬が熱くなるのを感じた。

「そんなことより、僕を尾行してて何か分かったことってある?」

「……へ?」

 発せられた言葉に私は一瞬耳を疑う。

 その際、スッと頬の熱は収まり、代わりに肌寒い感覚が背筋を這った。

「朝のガーデンテラスから僕の事追いかけてたよね」

「ぁ、あの……。なん、で……」

 困惑するように問いかける私を見て、クスリと口角を上げたハデン王子は面白そうに種明かしをする。

「ん? あぁ、リッシャーから聞いてたんだ。"俺のことを君がついて来ていたようだ"ってね。だから、次は僕かなぁって思ってたら案の定、今朝のガーデンテラスで見掛けたから、追いかけてくるだろうなって確信していたんだよ」

「な……なるほど……」

 語られた種明かしは複雑なものではなく、身近な情報原と簡単な推測ですぐにバレてしまうなんて、夢にも思わなかった。


 そして、今更ながらその現状でわかったことは、気のせいだと思っていた事は、私の浅はかな考えが間違っていたという事にも繋がっているということで……。


 私が考えるべき期限は明日もなく、人物が違うとしても、続けて尾行したのが裏目に出てしまい、バレてしまったのがとても悔やまれた。

 とはいえ、悔やんでいても仕方ないため、否定も肯定もしようとも思えず、故意であるとはいえさっき見かけてしまった事に付いて聞いてみようと思った。

「……あの! お聞きしたいことがあるのですが……」

「ん? なに? 聞きたいことって?」

「その……さっきの女性は……いったい誰、なんですか……?」

「さっきの……? って、いったい誰のこと?」

 突発的に聞いてみたけれど、ハデン王子は私の質問に首を傾げて聞き返してきた。

 疑り深いわけではないけれど、女性に”あんなコト”をして、覚えていないかのようにとぼけるハデン王子に驚きつつ、締め付けられていく胸を服越しに掴んで、恥ずかしさを隠すため俯きがちに言葉を紡げる。

「角を曲がる前に、会話していた女性に…………きっ……、き、すを……して、いたじゃないですか…………」

 声にしたのはいいけれど、ハデン王子が女性にした行為を思い出し、肝心な部分を上手く云うことができず、顔が赤くなっていくのを自覚しながら、ハデン王子を見上げて反応を待つ。

「…………ぁあ、なるほどね……」 

 顎に手を合わせて考える仕草をする彼は、どこか納得したように頷くと、フッと小さい息を吐いてニッコリと笑みを浮かべた。

「心配しないで、ただのあいさつだから。強請られたからしただけで、あの人とは特別なことじゃないんだよ?」

「それでも……っ」

 挨拶で強請られたからという理由に、納得できない気持ちが強く声を出すも、ハデン王子の掌が私の頬に添えられたことで私の身体が反応してしまい言葉に詰まった。

「それとも、して欲しいのかな……。それ以上のキス……」

 顔を上に向けられて、彼の親指が私の下唇をなぞる感覚に身体が強ばる。

 それでもなお、ゆっくりとハデン王子の精悍な顔が近づいてくる。

「…………!! ……………………(アレっ?)」

 鼻や息が触れ合いそうな距離まで近づき、私はとっさにギュッと瞼を閉じて衝撃に耐えようとした。

 だけど、いくら待っても何もなく、代わりに笑いをこらえようとする音が耳に届く。

「???」

「ごめん。ごめん。それ以上のことをするなんてできないよ。…………というか、君にはまだそんなことできないし……ね?」

 恐る恐る目を開けると、ハデン王子の顔はまだ近いままだけど、いたずらが成功したような子供に近い表情をして笑いつつ、含みのあるようにウインクしていた。

「……ッ」

 ハデン王子のウインクでキスされそうだと身構えてしまったことに恥ずかしさが勝り、耳まで真っ赤になっていくのが分かった。

「それで今日はもう、僕の尾行は終わりかい?」

 熱くなった顔を手で仰いでいると、ハデン王子は声をかけてきた。

 熱の収まりがついた後、私は引き攣る口角を上げて、小さく笑いながら答える。

「え…………まあ、はい。バレてしまったので……これ以上するのはどうかと……」

「だよね。そう言えば、なんで僕とリッシャーを尾行していたの? なにか理由とかあったりする?」

「り、理由……ですか?」

「うん」

「えっ……と……」

 疑問を口にして首を傾げて問いかけてくるハデン王子に、どうして答えようかと考えあぐねる。

「もしかして、父上様との約束のこと? 確か期限が明日で終わりだったけ?」

「は……はい……。まあ…………」

 答え方に迷っていると、顎を支えるように人差し指と親指をあてがい、代わりに答えるハデン王子の回答に頷く。

「そっかぁ……。もう君が来て一週間ほど経つんだねぇ……。何ヶ月も一緒に居た気がするけど……。それで、昨日と今日をそれぞれ尾行してみて、何か僕たちに関することがなにかわかった?」

「それは――――…………」

 しみじみと思い馳せたハデン王子は笑みを浮かべ、自分に対して相手がどんな印象を持っているのか興味深げに聞いてきた。

 あまり、人に対する印象を口にするのはとても憚れるけれど、キラキラと輝かせたハデン王子の瞳をみて、戸惑いながら答えるために声を上げた――――。


つづく


次話から時間が進みます。

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