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第24話 リッシャ―王子の私情視察(2)

尾行は失敗に終わって、

「あれ? そこにいるのは君とキッシュさん?」

 ちょうど太陽が天高く影も短くなっていたので、買い物途中に立ち寄ったキッシュさんオススメの定食屋から出た時に、目の前に現れ開かれた口元から聞き覚えのある落ち着いた声の人物に言葉をかけられた。

「り……リッシャー王子!?」

「リッシャー様!」

「めずらしいですね、二人がここにいるなんて」

 目の前にいたのは、私たちがさっきまで尾行し見失ってしまったリッシャー王子で、目を丸くする私たちに首を傾げて疑問を投げかけていた。

「あ、えっと……」

「私たちは買い物の途中で、昼食のために立ち寄り帰るところでして……。リッシャー様こそ、なぜここに?」

 言葉に詰まる私の前に立ち塞がったキッシュさんは、疑問に答えると反対に聞き返していた。

「私は……城下町を散策していたんですよ」

「そうでしたか。所でリッシャー様、ネコカフェというのをご存知で?」

 歯切れの悪い返答にキッシュさんは頷いた後、追い詰めるように彼を見失った場所の近くにあったお店の事を聞いていた。

「え?」

 驚いたように瞳孔を開いていく目元をみて、確信したキッシュさんはさらに追い討ちする。

「確か、お店の名前が――、ニャーデルランドでしたか?」

「……っ」

 生唾を飲み込むような音が聞こえたような気がして、私はリッシャー王子をじっと観察する。

「どうして……それを?」

 頬に一筋の汗を流すリッシャー王子は、恐る恐る問い返した。

「それは、リッシャ―様がお休みの際に行かれるとされる場所まで尾行を「キッシュさん!?」――って、あ……」

「え? 尾行……?」

 私の呼びかけに失言をしたことに付いたキッシュさんは口元を抑えるが、時すでに遅くリッシャ―王子は口角が引き継ように歪ませながらキッシュさんと私を交互に見つめられ、私はリッシャ―王子よりも汗をかきながら目を泳がせているキッシュさんの方を向く。

「お……おほほほほほ……。では巫女様。行きましょうか!」

「は、はい!」

「……ま、待ってくれ!!」

 キッシュさんは話を切り上げるようにして笑うと私の背中に掌を添えて、一緒にその場から逃げようと促してくれたけれど、私は一緒に逃げることもできずリッシャ―王子に腕を掴まれてしまった。

「あ……」

 掴まれた腕を振りほどくこともできず、手を伸ばそうにも届かず、そそくさと去って行ってしまったキッシュさんの背中を見送る形となってしまった。

 リッシャ―王子に捕まった私の腕は離されることもなく、彼の方に向くこともできずその場に立ち尽くすと気まずい空気を纏うような沈黙が流れた。

「なぁ……? こっち向いて」

「ひゃ……ひゃい!」

 イヤな汗が背中を伝う中、顔の見れない彼のいつもよりも低い声が耳元で展開され、声量を間違えるように裏返ってしまった声で返答すると、恐る恐るリッシャ―王子の方向に視線と共に体を向き直す。

「尾行……って、どういうことだ?」

「えっと……」

「誰かに命じられたのか……?」

 怒られるように問いかけるリッシャ―王子に畏縮するしかなく、体を向きなおすことができたけれど顔は依然に見れないまま、目線を泳がせる私の目をじっと見つめられている感覚を経験した。

「ご……ごめんなさい……悪気があったわけでは、ないんです……」

「……。そうか……。…………はぁ……」

 絞り出た言葉は小さく、謝罪とどう伝えるべきなのかわからない頭は、それしか紡ぐことができなかった。

 珍しく怒る様な言語に体を震わすことぐらいしかできない私は、リッシャ―王子の大きく息を吐く声に肩が揺れたような気がした。

「……仕方ない。バレてしまったなら、隠すこともないか……」

「え……?」

 大きく吐かれたため息に呆れられたと思っていた私の頭に、リッシャ―王子の答えに驚いて彼の顔をパッと確認した。

「すまない。別に怒ってるわけじゃないんだ。ただ驚いてしまっただけで……」

「そうだったんですね……」

 頬をかいて恥ずかしそうにする彼に、いつもの優しさのある声に私は安堵する中、不思議と鼓動が早まっていた。

「さて、君はこれからどうする?」

 話題変換のためか、リッシャー王子に問い掛けられた私は首を振って応える。

「あ、えっと……私……、この当たり一帯はまだ慣れていないので……」

「あー、そうか。そうだったな。……じゃあ、一緒にくるか?」

 苦笑気味に答えると、リッシャー王子は思い出したように目を見開き、首を傾げて誘われたことに驚いて、私はリッシャー王子をみた。

「! いいんですか?」

「あぁ。というか、良くなかったら誘ってないさ……」

「?」

 リッシャー王子が頬をかきながら小さく呟かれた言葉に首を傾げながらも、さっきのこともあって、追求するのも気が引けて聞き返すことは失礼だなと思い、訊くのは憚られた。

「じゃあ、行こうか」

「はい!」

 自然に差し出された手を取って隣に立つと、リッシャー王子に促されるように私達はその場から移動した。


   *   *   *


 一緒に歩く道すがら、私はリッシャー王子を尾行した時にたどり着いた場所について、何気なく聞いてみることにした。

「そういえば、あそこのお店にリッシャ―王子は居たんですよね? ネコちゃんがいっぱいいましたけど、何しに行ってたんですか?」

「ん? あぁ……あそこには――って、この話は終わったと思っていたが、掘り下げるように聞いてくるか……」

 一瞬答えようとして、思い出したようにしかめっ面で苦笑するリッシャ―王子に、私は慌てて首を振る。

「あ! 言いにくい事でしたら言わなくてもいいんです! 気になっただけなので!」

「え。あ、いや……言いにくいことじゃないんだが――……」

 口ごもりながらも恥じらうようにリッシャ―王子は言葉を続けた。

「…………王子がネコに癒される、だなんて、恥ずかしくて誰かに言えるわけがないだろう?」

「…………へ? …………ふふっ」

 意外な理由に耳を疑いそうになったけれど、頬を紅くしているリッシャ―王子を見て、私はそんな彼に微笑ましく感じながらも、不意に息が噴出してしまった。

「なっ! 笑うことはないだろう!?」

「……別にいいんじゃないでしょうか」

 耳までも赤くしたリッシャ―王子をなだめる様に、零れる声を抑えながら、私自身が思う意見を口にした。

 それでもリッシャ―王子は感情をのせて、反抗するように問いかけられる。

「だが、一国の王子たるものが、城下町の一角にあるネコカフェで癒しを乞うなどと、威厳もなにもないではないか?」

「たとえそうだとしても、私はギャップがあってとてもいいと思いますよ」

「そう、か………………君はそう思うのか。そうか……」

 私の答えを聞いてから、どこか腑に落ちたように頷くリッシャー王子は、私の視線から顔を背けて口元を覆っていて、ちょっとだけ嬉しそうに聞こえた。


 いつもとは違うリッシャー王子の一面が少し見れたことにとても嬉しくて、握られる掌にじんわりと沁みる体温が心地よくて、心が温かくなっていくのを感じた。

 それから一緒にお店を巡回したり、見学して楽しんで帰路に着いたのだった。


つづく

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