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第2話 「王子様!?」

 私を助けてくれた男性は簡単に自己紹介してくれた。

「ところで、君の名は? 私はリッシャ―・フェルナンドだ。この森の近くにある国の第二王子である」

「え……」

 男性の自己紹介を聞いて、私はリッシャ―と名乗った男性の顔を瞼を瞬かせながらも、ジッと見つめてしまう。

 私の視線を受けて小さく首を傾げて、にこやかに微笑んだ彼の顔を見つめながら、「第二王子」という言葉を理解しようとして数秒ほど時間を置いて、私は声を上げる。

「ええええぇ……!? お……王子!!? ……様?」


 ――助けてくれた時から彼に対して、口調的にすごく気品があってどこかの王子様なのかなぁ……と内心で思っていたけど、まさか私を助けてくれた人が本当に王子様だったとは夢にも思わなかったのだ。


 折角助けてくれて、名前を教えてくれたのだから、私も名乗るべきだよね……。と思って自分の名前をリッシャ―王子に教えようとしたのだけれど――。

「私の名前は――……ッ、……私の……名前、は……。あ……あれ?」

「どうした……?」

 私は自分の名前を言えず、口を動かしても空気を吐き出すしかなくて、とっさに自分自身に対する記憶を無くしているのだと、感覚的に気が付いた。

 リッシャ―王子は言葉にならない声を出している私に、不思議そうに首を傾けて声をかけてきてくれた。

「あの……、私……、名前を……っ」

 自分の名前が言えない不安に血の気が失せている感覚に恐怖を持ちながら、リッシャ―王子の方に顔を向けると、何か察したように王子の人差し指が軽く唇にあてられた。

「大丈夫。君は混乱しているだけだ。名前を言えないのは無理もない。ゆっくりと思い出せばいい」

 混乱している私を落ち着かせるかのように、リッシャ―王子は人のよさそうな笑顔を私に向けた。

「………っ、はい……ありがとうございます」

 あてがわれた人差し指が離れ、王子の表情に混乱していた私の心を解かしてくれるかのように、身体全体が温かくなっていくように感じた。

 そして温まる身体とは別に、顔が赤くなっていく感覚にも見舞われた。

 私が今体験しているこの感覚が一体どんなものかわからないけれど、王子からそんな痴態を隠すように、私は顔を背ける。

 すると数秒後、背けた逆の方向から草木を分ける音と共に、リッシャ―王子とは違った男性の声が耳に届いた。

「リッシャ―王子! 光の発生源の原因と助けを呼んでいた声の人物は見つかりましたでしょうか!?」

 声の方に顔を向けると、草木を分けながら森の中心に現れたのは、甲冑を纏い王子とは違う装飾を身に着けた兵士だった。

 ガシャガシャと音を出しながら、手にはランタンを持ち、腰には剣を携えた兵士たちが数名ほどリッシャ―王子の前までやって来る。

「おぉ、お前たちか。光の発生源は依然として分からなかったが、助けを呼ぶ人物なら確保して、私の目の前にいるぞ」

「……へっ!?」

 一部始終を他人事のように見ていた私は、リッシャ―王子が兵士の問いに答えると同時に、私の肩に大きな手が添えられた。

 肩に置かれた温もりに私はパッと顔を上げ、リッシャ―王子の横顔を見据えた。

「さようでございますか……。おい、女。貴様の名前は何と申す」

 兵士の一人はリッシャ―王子に恭しく敬意を払った物言いから、私に対しては不審なものに声をかけるような声質で、質問を投げかけてきた。

「あ……あの……っ」

「女。はよ名を申せ。申さなければ……」

 兵士の問いに答えようとも、自分の名前が言えない今、困ってしまう。しかも、兵士は言葉が続かない私に睨みを利かせて、腰に携えている剣の柄を握るのを、微かながら目の端に捉えてしまった。

 また、目の前の兵士だけでなく、私に対して王子の周りを囲っている人たちも武器を構え直し、「いつでも私を携えた剣で切れるぞ」というような殺気を醸し出していた。

 いつでも抜刀が出来そうな雰囲気を間近に感じて、イヤな汗が頬を伝う中、私は唾を飲み込んだ。

「こら、お前たち、彼女は混乱により名を申せないようなのだ。だから、そのような殺気は抑えるべきだ。ほら、彼女は恐怖で震えているじゃないか。……それに私は、この者を我が国で保護することに決めた。故に彼女は客人である。客人に迷惑をかけるべきではないぞ」

「!?」

 リッシャ―王子は、兵士たちに叱咤し、落馬しかけた私を助けてくれた時とは違い、向かい合っている私の身体を抱きしむかのように彼の両腕に抱擁された。

 抱擁されたことにビックリして彼の様子を窺う。

 真剣に兵士たちを見据えるリッシャ―王子の視線を眺め、チラリと降ろされた瞳と交差し、彼の目元が「安心してほしい」と訴えていて、私は目線だけを向けて小さく頷く。

「お……王子……っ」

 その様子を見た兵士たちは狼狽えながらも、驚きに目を見張ったことで殺気が消え去ったのを感じた。

 兵士たちが互いに顔を見合わせ、何かを言いたそうにする彼らに申し訳なさを感じながら、私は王子の抱きしめられる温かさとは別に、トクトクと心臓が鳴っていた。



 リッシャ―王子と出会った時から月が真上に向かう途中だったとはいえ、真夜中に近く「いつまでも長く森の中にいるべきではない」というリッシャ―王子の声掛けにより、私達は森を後にした。


 ――もちろん、移動するにあたって王子と向かい合っている訳にもいかず、乗り方を変えてリッシャ―王子が持つ手綱を持ち両手に収まって、背中を預ける形になった。

 ……どうしてか、馬から降りずにリッシャ―王子に支えて貰いながら身体を捻って跨ぎ直した時、唾を飲み込む音が後ろから聞こえてきた。


 大人数で森の中に来ていたようで、森の中を移動中に分かれて行動していたらしい兵士さんたちがリッシャ―王子のもとに駆け寄ってきて必ずと言っていい程、兵士さんたちは私を怪訝そうな眼で睨みを利かせてきていた。

 その度、彼の言葉で、兵士さんたちは私に頭を下げていった。

「この者は、私に助けを呼んだ御嬢さんだ。そして私が助けたのだ。それに彼女は客人だ。客人相手に睨みを利かせるべきではないぞ」

 その言葉によって、兵士さんたちは睨みを抑え、隊列に加わっていくのを目の端に捕える。

 最初は向けられていた視線に恐怖も感じていたけれど、だんだんと数をこなしていくにつれて慣れているようで、歓楽的にとても不思議な経験だと、思うようになった。


 今日一日、といっても、数時間の事だけど、最初は記憶を失ってどこかわからない森の中に一人でいた不安に駆られていたのが、嘘みたいだった……。


続く

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