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ショコラな花まき

節分とバレンタインのイベントを掛け合わせた催しにしてみました。



【今月の初め、フェルナンド王国は厄災を吹き飛ばす一環で一人一人が決められた場所から、配られた花の種を国外に撒くという行事がある。

この行事は花まきと呼ばれ、国外に花の種を投げ撒く形にはなるが、国外に撒かれた種は自然に還り、国壁付近には大量の花が咲き乱れ、訪れた旅人や異邦人の旅の疲れを癒して欲しいという願いから、国民全員から親しまれている行事である。】



「というわけで! 花まきに参加しましょう」

 午前中、行事に関して勉強している時、ちょうどタイミング良く開催される季節のようで、ヴェルさんは意気揚々と提案してきた。

「でも私、まだ周知するべきじゃないですよね?」

「まあ、そうなんだけどね。そんな事もあろうかと、ガーデンテラスに花壇を用意してもらってあるから、そこに行事と同じ花の種をまこうと思って、ルーベルに許可を貰ってきたわ!」

 国民に公開されていない、光の巫女という立場にいる私は不安に思う中、ヴェルさんは心配いらないわ、と言うようにじゃじゃーんと効果音が付きそうな勢いで、フェルナンド王国の刻印とルーベル王のサインが施された承諾書を眼の前に突き出して親指を立てた。

「さ、勉強はここまでにして、行きましょうか!」

「は、はい!」

 外に連れ出されるように手首を持たれ、私はヴェルさんと一緒に書斎を後にした。


 移動間際、私は気になって、ヴェルさんにどんな花を植えるのか聞いてみると、楽しそうにウインクをして「ひみつ」と一言だけ教えてくれた。

 私は、はぐらかされる度にどんな花を植えるのかと、楽しみになってきていた。



「さて、お待たせしたわね」

「遅かったな」「遅かったね」

 ガーデンテラスに着くと、見慣れた二人がヴェルさんが用意したと言っていた花壇の前で立ち尽くしていて、私達を認識すると、柔らかく笑みを浮かべて迎えてくれた。

「ハデン王子とリッシャー王子!? どうしてここに……」

「アタシが呼んだのよ。というか、一緒に植えるのは思い合う男女でしなきゃ」

「?」

 驚いて私は二人に問いかけるが、答えてくれたのはヴェルさんで、意味ありげに口角を上げた言葉に私は首を傾けた。

「そんな事だから、よろしく」

「宜しくね!」

 問いかけに答えるように挨拶をする二人に気圧されて、頭を下げた。

「じゃあ、揃ったことだし、花植えしましょうか」

 ヴェルさんは懐から小包を取り出して開封した。

 その小包の中には、小さい袋が4つ入っていて、その袋を私に2つ、リッシャー王子とハデン王子には1つの袋が手渡した。

「巫女ちゃん、袋は開けちゃダメよ!」

「え……?」

 なんで2つも? と思いながら、とりあえず、どんな花の種が入ってるのか確認するために、1つの袋をリボンで結ばれた口を開けようとすると、ヴェルさんに止められてしまった。

 手を止めてヴェルさんを見ると、小さく首を振っていた。

「ごめんね。その小袋はまだ開けないのよ」

「そうだったんですか……」

「渡す前に一言いっておけばよかったわね……。それじゃあ、その袋をお互いに交換して頂戴な」

 ヴェルさんは優しく言葉をかけるけれど、すぐにいつもの調子に戻った。

「え?」

「はい、僕のあげるから一つ頂戴」

「俺のとも交換しよう」

「えっ? えっ?」

 困惑している私をよそに、私が持っていた2つの小袋はハデン王子とリッシャー王子に交換されて行った。

「あ、あの! どうして交換をするんですか?」

 当たり前のように交換された小袋を持って、三人に問いかけた。

「伝統行事の花まきには、厄災を断つ意味の他に、ある言い伝えがあるの」

「言い伝え、ですか……」

「まあ、噂みたいなものだけどね」

 補足するように伝えるハデン王子に続くように、ヴェルさんは口を開く。

「思い合う男女が、お互いに渡された花の種を渡し合うと、いい関係が紡げる。または結婚間際の人だと幸せな家庭が作れると言われているの。……とてもロマンチックだと思わない?」

「あ、だから……」

 憧れのように頬を染めるヴェルさんが、ガーデンテラスに来た後に意味ありげにして言っていた言葉を思い出した。

「まあ、言い伝えがあるからと言って、本当のことになるかだなんて、本人同士の気持ち次第だと、僕は思うよ」

「リアリティーな意見は別にいらないけれど、そうね。ハデン王子の言う通り、本人同士の気持ち次第ね」

「それでも、交換する男女は多いみたいだけどな」

「な、なるほど……。でも私とお二人の関係なんて……」

 ハデン王子、ヴェルさん、リッシャー王子の話に頷くも、思い合う男女として私はまだそういった整理が出来ていないため、首を振りそうになった。

「あら、そんなこと言っても将来、どちらかのお嫁さんになるのなら、交換しないわけには行かないじゃない?」

「それとも、撲の事嫌い?」

「おい、兄貴。それを言うなら俺達、だろう!?」

 困ったように眉根を寄せたヴェルさんと、悲しそうに眉根を寄せるハデン王子にリッシャー王子は訂正を入れていた。

「それで、どうなの? 撲達の事……嫌い?」

「あ、いえ! 決してそんなことは……!! だってまだっ……」

 追いかけるように尋ねるハデン王子に否定しようと首を振った私に、ハデン王子はニッコリと微笑んだ。

「じゃあ、問題は無いよね」

「……ッ」

「さ、問題解決したところで、交換した小袋を開けてちょうだい」

 言葉を詰まらせた私を見て、話題を変えるようにヴェルさんの言葉で開けた小袋の中には3粒の小さい種が入っていて、私はその3粒を手のひらに取り出した。

 花の種を見ても、どんな花が咲くかは検討がつかなかったけれど、リッシャー王子が教えてくれた。

「その種は、ショコラーカと呼ばれる品種で、花が咲くと花弁から甘く香しい匂いがするとされている。とある温熱国家で品種改良されたもので、昔の我が民族達がその国から貰った種だと言われているものだ」

「ショコラーカ……。一体どんな匂いがするんだろう……」

 詳しい事を聞いても頭の中は、開花した時に漂うであろう匂いに想いを馳せて呟いた。

「リッシャー王子の言う通り、この花の種の名前はショコラーカ。国の周りにも撒かれる花の種と一緒よ。因みに匂いはショコラと同じよ」

「なるほど……」

 ヴェルさんはリッシャ―王子の説明に頷き、ショコラーカの香り匂う答えを教えてくれた。

「さ、撒きましょう!」

 微笑んでから、花壇を見据えて放った掛け声で、私たちは花壇に向き直り種を撒いた。

 撒く前にハデン王子の言いだしによってそれぞれ陣地を決めることにした。

 4つのサークルを作ってそのサークルの中に種を投げるように撒いた。

 この方が、花まきの伝承的な撒き方のようで、王子二人はそつなくこなすけれど、私はこの撒き方でいいのかなと首を傾げながら二人に添って二か所、あてがわれた別々の場所に花の種を撒く。

「あとは自然に還るのを待ってから時々水をあげるの。そうしたら1ヶ月も経たないうちに花が咲くようになるわ」

 花まきを終えた私たちを見て、ヴェルさんはにっこりほほ笑んだ。

「そうなんですね」

「さて、花まきが終わったから、おやつにしましょうか。花が咲くまでまだ時間があるけれど、ショコラを隣国から頼んでおいたの。本当はあなたと食べる予定だったけど、予定変更ね。みんなで頂きましょうか」

「はい!」

 そして、仕事終わりのアフターとして提案された内容に頷くと、花壇を後にするようにガーデンテラスから移動し、庭園の一角が見下ろせる場所で、私たち4人はヴェルさんが用意したショコラと飲み物を片手にゆっくりとした時間を過ごしたのだった。


おわり

(ショコラーカ。ショコラと()を組み合わせた造語です)

本来は豆を投げますが、フェルナンド王国は花の種を投げ撒きます。

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