第21話 勉強
タイトル通りです。
地理系の話になります。
「さて、来たわね……。ってまさか、巫女ちゃんと一緒に王子二人も来るとは思いもよらなかったけれど」
「あ、あはは……」
書斎にたどり着いた私たちを見て、ヴェルさんは呆れていた。
呆れられた原因として、私の両隣にいるリッシャー王子とハデン王子の存在で、私は二人がいる理由をヴェルさんに教えた。
初合わせから一夜明け、お昼ご飯を食べた後、キッシュさんと一緒に、ヴェルさんが待っているはずの書斎へ行こうとした途中、ハデン王子とリッシャ―王子と出会い、案内してくれると申し出た二人に快く頷いたキッシュさんと交代して、王子二人と一緒に行動したからだった。
「なるほど、そういう事ね……」
私の説明に納得したヴェルさんは王子二人に視線をやった。
「……」
「俺たちはいないものだと思ってくれていいからな」
その呆れられた視線に、ハデン王子は無言で微笑み、リッシャー王子も私に言い聞かせるように微笑んだ。
「……ふぅ、愛されてるわね」
「え、っと……そうなんでしょうか……」
ため息に似たヴェルさんの言葉に顔を紅くなっていくのを感じて、俯きながら首を傾げるしかなかった。
書斎は一昨日行った書籍店よりも広く、沢山の書籍棚がありジャンルごとに分けられていて、真ん中辺りには机と椅子がいくつか設置されていた。
その中にある、ひとつの島の席にヴェルさんと向き合う形で座った。
ハデン王子は近すぎず遠くない場所に座り、リッシャー王子は壁にもたれかかるようにして、書籍を読み始めていた。
「今日はこの書籍を使って、勉強しましょうか」
「はい」
教材の一つである書籍を手渡され、私は何気なしにパラパラと開いてみる。
書籍の中身はパッと見、世界地図のように思えた。
「さて、簡単にこの世界について教えるわね。ここの一文を読んでみて」
そして形から入るかのように、分厚い書籍を持って、メガネの縁を指で上げたヴェルさんは、私の目の前に開いたページのとある箇所に教鞭の先で指した。
指定された箇所を覗くようにして見てみると、【この世界は多くの土と水で成り立っており、地上に存在する国や街、植民地などは500以上もある。その中で5つの大陸から世界は構築されており、ツェン大陸、アーリシア大陸、メランティア大陸、シューヴェ大陸、ニュラスュトラ大陸がある】と書かれていた。
「5つも大陸があるんですね……。というか、大陸があるとは思いませんでした。それに、少ないとはいえ、覚えるのが大変そう……」
他種族の人達がいることは知ってても、大陸が複数あるとは思えず、私は素直に呟いた。
「そう、全部の大陸の名前を覚えるのは大変だけど、このフェルナンド王国はアーリシア大陸の中にある国の一つとさえ覚えておけばいいわ。次はアーリシア大陸にある、フェルナンド王国以外の国を覚えましょう」
メモをとってヴェルさんの言葉に頷きながら、アーリシア大陸の事が書かれたページを開いた。
「アーリシア大陸は他大陸に比べて中間ぐらいの大きさで、フェルナンド王国、ナリ王国、サマンナー王国、キュリオス王国の4カ国で成り立っていて、お互いの国は森に覆われてるの。一応、森は国領地が決まってて、境を跨ぐと、他国の国領地に入るわ。その時に、色々注意することがあるけど、それはまた次回に。ちなみに他国に行く時は、整備された道があるから、道しるべに従っていけば目当ての国に着くようになってるわ」
ページ内に書かれている事と、ヴェルさんの内容の情報をメモに残してふと思い出した。
「そう言えば、私がいた場所も森の中だったけど……」
森に覆われた国が4つあり、その中で、記憶が始まったのがフェルナンド王国の近くだったと思い、壁際にいたリッシャー王子を横目に見てみた。
「あぁ、あの森はフェルナンド王国の領地だからな。だから早く異変に気付いたと言っても過言じゃないと思う」
私の視線に気付いたリッシャー王子は、口を挟んで教えてくれた。
「あら、そうだったの? 国領地とはいえ、野生の動物が徘徊してるから、発見されてなかったら、巫女ちゃん大変なことになってたかもね」
「うぅ……リッシャー王子が気づいて良かったです」
ヴェルさんの言葉に思い出すと身震いしつつ、見つけてくれて良かったという安堵が全身を襲った。というか、野生動物に襲われそうになってたのが記憶に新しく、ほんとにリッシャー王子が来てくれたから、助かったと言っても過言じゃない。
「さて、話を戻して……、アーリシア大陸は森林が多いけど、湖とかそういったものがないの。私たちが使う水は空の恩恵で落ちてくる水を溜めて、人が飲みやすいように加工してあるの。年に決まった月にまとまって来るから、水の貯蓄庫を貯めるいい機会なのよ」
「へぇ……雨水みたいなものですね」
「そう。まあ、飲み物以外は大体綺麗にして巡回させてるから、すぐに無くなる心配は特に無いわ。炎に関する災害のあとは、全然足りなくなるけど」
「なるほど……」
「あと、国産品というものがあるわ。国によって国産品が変わるけど、フェルナンド王国は技術を売りにしてるから、技術品が国産になってるのーー」
教材書に書かれていない事が多くあり、ヴェルさんの口から紡ぎ出される知識に脱帽しながら、私は紙に筆を走らせてメモして行った。
* * *
ヴェルさんの声が書斎で響く中、どのぐらい教えて貰っていたのかわからないけど、私はいつの間にか私の右隣にリッシャー王子が、そしてハデン王子も近くに移動してきて、今では左隣に居座っていた。
二人に挟まれながら、ヴェルさんの授業に参加してるけれど、度々近くに寄ってくる顔に、うるさく鼓動する機能の一つで、こんなにも集中出来ないのは、違う意味で心臓に悪く感じる。
「……。今日はもうお開きにしましょうか」
「えっ」
話が頭の中に入ってこないのを見越して、提案するようにヴェルさんはゆっくりと首を振った。
「だってアナタ、王子に囲まれてから勉強しずらそうだもの」
「うっ……」
驚いてヴェルさんを見るけれど、図星をつかれて言葉が返せなかった。
「お二人さん、巫女ちゃんの勉強の邪魔したらダメじゃない」
言葉に詰まった私を横目に、ヴェルさんはハデン王子もリッシャー王子に言葉をかけた。
「えーー、僕達の事は居ないと思ってたら良かったのに」
「そうはいかないの! 乙女心を弄ぶのは止めなさいな」
唇を尖らせて呟くハデン王子にヴェルさんは注意した。
「すまない。俺達が近くに来たから、勉強の邪魔になってたのか……」
「い、いえ! そんなことは……」
反省する態度のないハデン王子と違って、リッシャー王子は悲しそうに顔を歪ませて謝る言葉に私は首を振った。
「そっか。なら良かった」
「こらそこ! 二人で完結しないの!」
朗らかに安堵したリッシャー王子の表情に、心が主張するようにうるさくなってきた時、ヴェルさんの叱咤する声が耳に届いた。
それから勉強を中断した後、王子二人は書斎に残り、ヴェルさんが部屋のある屋敷まで送ってくれるらしく、私はその言葉に甘えて、送ってもらった。
つづく
次回は二月に関するイベント話を投稿予定です。
22話は出来たら来週、無理なら再来週に投稿します。
(前話の後書きに書いていた一悶着?
すっかり忘れてた……)




