第19話 ヴェルヴァラ・ファニーズという男……?(2)
ガーデンテラスについた私とヒューエさんは、ミシュアさんと男性を探していると、沢山あるテーブルの内に1箇所だけ、ポットと二人分のティーカップ、テーブルの中心には3つの段に重ねられた皿に洋菓子が乗っているケーキスタンドのある場所に、優雅にカップを傾けのんびりと誰かを待っているような男性とその側に立っているメイドさんを見かけ、待たせ人であることがわかり、私たちはその場所へ足を向けた。
「お待たせしました」
「やぁ、来てくれてありがとう。……とても似合ってる……ね」
私の声を掛けに気付いた男性はニコリと笑いかけて、服装を褒めてくれた。
その際に、止まった言葉に私はちょっとした違和感を感じたけれど、気にせず話を続けた。
「あまり、時間がたってないと思ってましたが、色々と準備していただいて、ありがとうございます」
「いやいや、待つだけではなんだと思って、先に頂いていたよ」
「ほんとにお待たせしてしまって、すみません」
「気にしないで、レディは時間をかけて準備するべきだ。……それに男は待たせるべきだからね。さ、君も座るといい」
二口目を付けた男性は、笑顔のまま私をイスに勧め、ヒューエさんが椅子をひいてくれて、私は男性と対面するように座った。
「ところで、俺の名前は分かったかい?」
なぞなぞをしていたわけでは無かったはずだけれど、男性はソーサーにカップを置いて指を組むと私に問いかけてきた。
「そう……ですね。今の所、分かっていることは、そこのメイドさんーーミシュアさんが別れ際に言っていた時に呼んでいたヴェル様ということだけですかね……」
「!」
男性の問いに答えると、ミシュアさんは表情こそは変わらなかったけれど、一瞬だけ肩が動いたように見えた。
その隣で男性は元々細められていた目元を深くして、小さく笑った。
「そう。……ミシュアには一応、名前を呼ばない様にと言っていたけど……それは置いといて、その他は?」
「すみません……分かりませんでした」
「そっか。残念。じゃあ、そろそろ名乗ろうかな。……長く焦らしてたら時間が過ぎちゃうからね。ごめんね?意地悪するようで」
「あ、いえ……」
楽しそうにする男性は片目を開化してウインクするように目元を変えた。
答えられないことに申し訳なさを感じながら、首を降る私を見つめる男性はおもむろに立ち上がって、華麗にお辞儀をし始めた。
「俺の名前はヴェルヴァラ・ファニーズ。ルーベル……現国王の幼馴染で、伯爵の称号を頂いている。それから、ハデン王子とリッシャー王子が幼少時代からの教育係りを承っていた。気軽にヴェルと呼んでもらっても構わないよ」
「あ!! 昨日お二人に聞いた名前です! わかりました。ヴェルさん(ユニークな人だとは思うけど、面白い人かな? 普通だと思うけど……)」
自己紹介をした男性の名前を聴いて、昨日ハデン王子とリッシャー王子があの人と称していたヴェルヴァラ・ファニーズ卿とは、目の前の男性であると理解した。
でも、リッシャー王子が言っていたように、怖い人でないとは見た目でもわかるけど、面白く話していて楽しい人物という印象は失礼ながら微塵も感じなかった。
「そ。予定があって昨日の夜に着いた時、ルーベルから君の事と、教え子二人からも君の事に関して教えてもらったよ」
「そうだったんですね。……ところで予定って何だったんですか?」
「うん? 俺の予定聞いても楽しいことないよ?」
「いえ、予定があるのにわざわざ、私とお話する時間を設けて下さってるのが不思議で……」
「まあ、俺の予定は大体予定通りと言っても過言じゃないんだけど……そんなことより」
「え、あの……?」
何気ない話の繋ぎのために聞いたはずの質問ははぐらかされる様に、ヴェルさんに話を変えられてしまった。
「本当に君は自分の名前とここに来る前の記憶はないのかい?」
「え、えぇ……」
「思い出したくもない記憶でも? そもそもなぜ、記憶が無いんだろうね?」
「え……?」
ヴェルさんはどこか冷めたような問いかけをしてきて、私は首を捻る。
思い出したくない記憶? そもそも私には一体どんな記憶があるのだというのだろう。一般家庭に産まれたって事はなんとなく分かる。
この前把握したのは方向音痴だったってこと、把握というか自覚にも似たモノだったけれど……。
とはいえどうして、私は記憶をなくしてるんだろう。と、ふとそう思った。
……そうだ。私の頭にある記憶がないという認識は発想を変えて考えてみるべきではないだろうか。
例えば、私がこの世界に来たから記憶を無くしてるんじゃなくて、記憶をなくさなければならない理由があったから……?
それとも、衝撃的な理由で記憶は一時飛んでいるだけだとしたら……?
それは一体、どういう事にーー……。
「巫女ちゃん?」
「! あ、ごめんなさい。考え事してました……」
思案に陥る中、ヴェルさんの呼び止めに弾かれるように顔を上げた。
ヴェルさんは、先程に見せた表情から一変し、心配そうに私の目元を覗き込んでいた。
「なんかごめんね。まさか、そんなに悩むとは思わなかった……」
「こちらこそごめんなさい」
「いや、俺の方は大丈夫。記憶はふとした時に思い出すものだ。それに、無理に思い出そうとしても記憶は逃げないしね。さて、考え事は置いといて、今はお茶の時間を楽しむとしよう。ね?」
「はい」
気を紛らわせるには、甘いものこそだよね。と呟いて、ヴェルさんは上段にあった洋菓子を小さいトングで器用に掴んで分けてくれた。
そして遅いお茶会が始まった。
つづく
あと1話にてヴェルヴァラ・ファニーズという男を掘り下げていくので、恋愛沙汰はもう少しお待ちください。
まだ、彼の本性を現してませんので……。




