収穫祭
今日【10.31】はハロウィンということで、書き下ろしてみました。
本編とは時系列が違いますので、長い目にてご覧ください。
遅くなりましたが、ハッピーハロウィン!!
「収穫祭?」
城のいくつもある一つのテラスでハデン王子の提案で、リッシャ―王子と共に私はお茶会へと誘われていて、ハデン王子から一つの催し物を教えてもらっていた。
「この国ではとある時期に毎年、豊作を喜ぶ祭りがあるんだ」
「へぇ……」
「興味あるの?」
「はい! いったいどんな催しなんですか?」
コーヒーが入ったカップをソーサーに置いたリッシャ―王子は、首を傾げた私に収穫祭の説明をしてくれた。
「一番よく育った作物を祀り上げ、その作物にちなんだ仮装や装飾を作ったりするんだ。今年はカボチャがよく育ったから――」
「カボチャモチーフの仮装や装飾をするんですね」
「そう。それと余興として、仮装した子供たちや大人が列を作り、お菓子や食べ物を城へ貰いに行くんだ」
「だから、とてもキッシュさんたちが忙しく行ったり来たりと、お菓子とかをいっぱいに運んだりしていたんですね」
「そういうこと。んで、その収穫祭は今日なんだ」
「えっ!?」
にやにやと頬を緩ませたハデン王子の言葉に私は吃驚してパッと顔を上げた。
「参加したい? 参加したいなら仮装しなきゃね」
「えっと……」
「じゃあ、決まり! リッシャ―も一緒に参加しようじゃないか」
「ちょっ……」
ハデン王子は有無を言わさず、参加しようと迷っていた私と兄の強制に焦るリッシャ―王子を立ち上がらせると、意気揚々と私たち二人を引きずるように部屋の中へ入っていた。
「えっと……これはいったい何の仮装……」
ハデン王子にとある部屋に連れられ、待機していたメイドさんにハデン王子はよろしく頼んで、リッシャ―王子と別の部屋へと向かっていった。
そして、私は待機していたメイドさんに着る服が決まっていたのか、何かの衣装に着替えさせられたのだった。
「可愛らしいですよ。巫女様」
「とてもよくお似合いでございます」
着替えさせられた複数のメイドさんに囃し立てられながら、私は着替えさせられた衣装を鏡越しに見た。
白くスカートのすそが膝上までしかなく、背中には小さな羽根がついていて、これは確実に天使のような衣装に身を包んでいた。
「あとはこれを被るだけですよ」
恥ずかしく思いながら、鏡に映った自分の足元を見つめていると、一人のメイドさんがとあるものを持ってきて、私はその手に持ったされている被り物を目視した。
その被り物は、綺麗なオレンジ色のカボチャに目と鼻の位置が開いているもので、ヘタのところには黄色の輪っかが付いていた。
「……それを被るんですか?」
「そうですよ。なんたって、今年豊作だった作物はカボチャなのですから」
メイドさんが持った被り物を指さすと、にこやかに渡された。
「あ、安心してください。巫女様。この被り物は本物のカボチャを使ったわけではないので、カボチャ臭さはないと思います」
渡されたカボチャを怪訝そうに見ていたのを見兼ねたメイドさんは、私を安心させるように、にこやかに笑う。
「(まあ、これなら恥ずかしくない……よね。顔も見えないわけだし……)」
苦笑を伴いながら、私はカボチャの被り物を被った。
「おい、俺は参加するなんて一言も……」
「まあまあ、似合ってるんだからさ、文句言わない言わない。あ、巫女ちゃんだ。巫女ちゃーん!」
遠くから拗ねているリッシャ―王子とおだてるハデン王子の声が聞こえ、ハデン王子は被り物をした私に気が付き、手を大きく振って二人一緒にやってきた。
「じゃーん! どうかな。巫女ちゃん。僕とリッシャ―とても似合ってるでしょ」
ハデン王子は楽しそうに私の前に止まり、クルリと裾を躍らせた。
スーツの中に裏地が紫の黒いマントを羽織ったハデン王子と、立ち襟に金の十字架の小さいブローチの付いたキャソックを着たリッシャ―王子は。
そして、二人が持っている被り物はやはりカボチャで、私と違ってハデン王子の被り物の上には二本の小さい角と同じ大きさの翼や片メガネが付き、リッシャ―王子が持っている被り物は楕円形の帽子が横に乗せられていた。
「お二人ともとても似合ってますよ」
「ありがとう! 巫女ちゃんも似合ってるよ! でもまだ被るのは早いかな?」
「あ」
おだて合うとハデン王子は私の被り物を取り、にっこりと笑っているハデン王子を被り物に開けられた目から見える範囲が広くなって近くに感じた。
「うん。やっぱり僕の見立ては正しかった」
「こら、兄貴、近すぎだ」
「え――。リッシャ―の方が距離が近いだろうに……」
「すまない。兄貴が強引で……」
私と満足そうに頷くハデン王子の距離合いを離すと、私の前に立ち塞がるようにして、唇を尖らせながら文句を言うハデン王子を横目に、リッシャ―王子は申し訳なさそうに謝った。
「いえ、とても楽しいですよ」
対称的になる王子二人を見て、頬が緩みクスリと笑って受け答える。
「さあ、お互い着替えたことだし、民衆に紛れてモノを貰いに行こうじゃないか!」
ハデン王子はお茶会から移動するときと同じように、引きずられてお城を後にした。
王族ルートを使って列の最終尾に付き、カボチャの被り物を被って国民たちに紛れるよう列に参入した。
「うひゃあ……、人がいっぱい……」
「国民全員がお城へ向かっていてるんだから、楽しいよね」
「二人とも逸れないようにな!」
人々が並び、ガヤガヤと騒がしさに圧倒され、私はお城へと続く道を見ようとして背を伸ばすけれど、みんな同じ被り物を被っているため、道すがら一面のオレンジに感嘆する。
ハデン王子は人の列を堪能しているようで楽しそうな声が聞こえる。リッシャ―王子は保護者のような振る舞いで、私たちを心配する声を上げていた。
「リッシャ―、まるで保護者みたい」
「逸れたら大変だろう! この人ごみだ、ヘタしたら飲み込まれるぞ」
「そんなこと……みんな同じ方角へ向かっているんだ。迷うこともないさ」
私は隣でクスクスと笑うハデン王子の声に、叱咤するようにリッシャ―王子は諭すが、余裕綽々と答えるハデン王子にため息を漏らすのを聞いた。
「お城までというのはわかってるんですけど、二人ともどのぐらいかかるのか分かりますか?」
「…………」
「…………」
「? リッシャ―王子? ハデン王子? あ、あれ……?」
結構長く並んだと思い、ちょっと疲れてきた私は王子二人に声を掛けてみたけれど、二人の反応がなく、私は他の人の迷惑にならないように、あたりを見渡す。
しかし、同じようなカボチャ頭がいっぱいで、誰が誰なのか把握できなくなっていた。
被り物に装飾が施されているからこそ、どんな仮装をしているのか把握できるとはいえ、こうも人が多く連なっているため、王子たちが仮装しているカボチャがどれかさっぱりわからなかった。
「(仕方ない……ちょっと列から離れて様子を見ようかな……)」
私は城に向かう列から離れ、レンガ造りの家の近くにベンチがあり、そこに腰を落ち着かせて休憩する。
「(ゆっくり進んでいたと思っていたけど……ほんとに遅い……)」
カボチャの被り物を取り、腕に抱えて流れていく人の列を眺めてながら心の中で呟いた。
ふと、私は空を見上げる。上空は真っ青というわけではなかったが、雲がまばらに散らばり、雨が降るという不安さえ感じさせないほど、晴天だった。
「あ、あれ……(なんで涙が)?」
空のすがすがしさとは裏腹に私の心は曇ってしまったようで、寂しく思い始めたのか、予期せずジワリと目元が濡れていくのが分かった。
その濡れていく目元を優しく擦ると、指に涙が絡まった。
「(いけない……何か違うこと考えなきゃ……)」
強く拭っても拭ってもなかなか止みやまない涙に戸惑いつつ、私は寂しさを払拭しようとほかのことを考えることにした。
「……! どこだー!?」
「……ちゃん! いたら返事して!」
「あ、れ……。二人の声が聞こえる……?」
考えがまとまる前に、聞き覚えのある二人の声が、私から見てお城へと流れていく列の方角の反対側から聞こえ始め、だんだんと近づいてくるのが分かった。
「二人とも! こっちにいます!!」
私は被り物を持ってベンチから立ち上がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねてみた。
被り物を頭上に持って行って、飛び跳ねること数秒、二人の王子は列をかき分けながら私の方へと来てくれた。
「よかった……居た!」
「きゃっ」
「心配したぞ! 迷子になってなくてよかった!」
二人とも本当に心配してくれていたみたいで、私を見つけて安心した表情をしたハデン王子に抱きしめられ、リッシャ―王子にもハデン王子もろとも一緒に抱きしめられた。
「ごめんなさい……。気が付いたら私……」
二人に抱きしめられながら、私は心配してくれた彼らに申し訳なく謝ろうとした時、リッシャ―王子とハデン王子のそれぞれの手が、私の頭や頬に添えられた感覚に驚き言葉を止めた。
「いや、こちらこそすまない。初めて参加するもので、こんなに人が多いとは思わなかった。……最初から手を繋いで参加していたらよかったよな」
「僕の方こそ、気が付かなくてごめんね。この人ごみだからこそ、君をよく見ておくべきだったのに……」
王子二人は互いに改善点を述べながら優しく微笑んでいることに、私はこんなにも大切にしてくれているんだなと噛み締めることができ、頭と頬、そして抱きしめられる体温に、さっきまで寂しく思っていた感情が温かく緩和されていくのを感じた。
「さて、そろそろ、城に戻るか」
「そうだね。列に並ぶのはやめようか。また逸れたら怖いし」
離れていく二つの温もりに名残惜しさを感じながら、私は二人の提案に頷く。
「「ほら」」
「?」
リッシャ―王子とハデン王子の声が重なって、差し出された二つの掌に首を傾げると、二人はそれぞれ私の手を取り軽く引っ張った。
「「手、繋いで帰ろう」よ」
もう一度言葉は違ったけど、同じタイミングで発せられた言葉に私は驚きと恥ずかしさに俯いた。
「もし、恥ずかしいのなら」
「被るといいよ。僕たちも被りなおすから」
二人の手が一瞬離れると、私の視界は覆われ、仮装時に被ったカボチャの被り物を二人のどちらかにかぶせられたのだと把握すると同時にもう一度、二人同時に手を握られた。
そして私たちは城へと流れていく列から離れ、王族ルートを通りながらお城に帰ったのだった。
終わり