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第9話 情報整理

8/3に加筆修正始めました。

L終了しました(2019.09.01)


「巫女様! ちょっと待ってください! 弟と一緒にお話しがしたいのですけど、お時間は大丈夫でしょうか?」

「はい? 大丈夫ですけど……」

 国王様が退室なされた後、居なくなっていた兵士さんとは別に入れ違いでやってきた従者さんと一緒に広間から出ようとした時、呼び止められる形でハデン王子がやってきた。

 チラリと従者さんに目配せをしたハデン王子は、人当たりのいい表情を浮かべる

「すみません。光の巫女様と三人で大事なお話しをしたいので、席を外して貰ってもかまいませんか?」

「えぇ、構いませんよ。キッシュさんがご到着されるまでの間、護衛の為にと頼まれただけですので、ハデン様たちが一緒におられるのであれば問題ないかと」

 従者さんはそういって、私たちに恭しくお辞儀をして去っていった。

 入れ替わるようにリッシャ―王子もやってきて、ハデン王子は「さて」と本題に入る。

「ここからは堅苦しいのはナシにして、……さっきは頷いてくれてありがとう。いきなりの申し出で申し訳なかったね」

「い、いえ……」

 会話の初手に一言入れると、謁見や呼び止める時のような敬語ではなく、砕けた話し方に変えたハデン王子が目元を細めて、黒茶から金色に伸びた髪を横に揺らす。

 そんな表情を見て、私は目線を逸らすように首を振った。

 ハデン王子は現在知っている中で、私の事に話題の軌道を変える。

「それで、リッシャーから聞いたけど、君自身の事、何にも憶えていないのだって?」

「はい……、今でも私がいったい誰なのか思い出せなくて……」

「そっか、何か分かったら、僕にも教えてくれないかな。なんなら、思い出せるように手伝いだってするし、リッシャーだって君の事が知りたいだろうしね」

 ハデン王子は優しく発せられた言葉に感謝を込めて頷く。

「ふふっ、素直だね。ちょっとは疑ってもいいのに」

「え?」

 影が表情に浮かんだ目の前の顔に私は驚き、知らずに一歩後退していたようで、ハデン王子から数センチ離れる。

「なーんてね、冗談だよ。父上の願いとは別に、ちゃんと君と仲良くしたいしさ」


「だから、そんな恐い顔しないでよね。……リッシャー」


 表情をすぐに元に戻して、片目を瞑られたあとに一拍置いて、ハデン王子の目線が私の後ろに向けられ、呆れた様に弟の名前を口にした。

 呼ばれた名前に反応して私は、その人物の方向へ振り返り、顔を向ける。

「…………」

 すると、眉間にしわを寄せて、実の兄を警戒しているように睨んでいるリッシャー王子の顔が目に入った。

「……兄貴、あなたは何を考えているんだ?」

 見上げた私の顔を視認したリッシャー王子は表情を元に戻すも、疑いの眼差しをハデン王子に向けたまま尋ねられる。

「んんー? 何も? というか、お前(リッシャ―)は兄に対してどんな印象を持ってるのさ……」

 リッシャ―王子の疑念の問いかけに、ハデン王子は調子をそのままに困った顔をして受け答えた。 

「そうだ。昨夜のリッシャーの行動力は僕も見習わないといけなかったかな。だって、光の柱が出現して、消失したと同時にどうなっているのか確認して来るって言って飛び出して行ったかと思いきや、女性を連れて帰ってくる。なんて誰も思わなかったからね」

 この話題は終わり、という様に音を立てて両手を合わせたハデン王子は、別の話題――昨日の事について話し始めた。

「――――はぁ……、何言ってるんだ。俺は一緒に見に行こうと誘ったが、兄貴は『眠たいから』と言って、外出を拒んだではないか」

「あれ? そうだっけ……? 御免、覚えてないや」

 いまだに怪訝そうに兄を見ていたリッシャー王子は、諦めた様に息を吐き、話題にはいる。

 腕組みをして呆れながら答えたリッシャー王子に、当の本人であるハデン王子は首を捻って苦笑する。

「兄貴はいつも、大切なことはわざと覚えていないのだから」

「そんなことないよ。ちゃんと大切なことは記憶できるはずだ。昨日は――真夜中に近かったし、本当に眠たかっただけで、覚えていないわけじゃないしね」

「……ったく」

「あはは」

(なんだか途中の二人の態度が嘘だったかのよう。なんだか、冗談言える仲って羨ましいな……。それに出会った時と話し方が違うからこれが素なんだろうな……)

 呆れを通り越してため息を吐いたリッシャ―王子と、小さく愉快そうに笑うハデン王子の二人を見て、さっきの不穏な空気だった二人と違って、この時は兄弟という言葉に微笑ましく感じた。

 それに、リッシャ―王子の一人称が【私】ではなく【俺】に変わっていたことに、内心で驚いたけれど、もともとの話し方だったのだろうなと推測する。

「それにしても、()()()だよね」

「え?」

 二人の会話を聞いていて、不意に発せられたハデン王子の言葉に私は反応する。

「名前も憶えてないし、異世界からの訪問者で、しかも光の巫女だったっということで、僕たちのいずれかのお嫁さんにならないといけない、だなんて。彼女にとってはこのこと自体、政略結婚みたいなものだもんね」

 急に私の方に視線を向けられ、放たれる言葉に理解できず、ハデン王子の憐れみを含んだニヒルな表情をした彼の視線と絡み合う。

 蛇に睨まれる蛙のような感覚に身体は竦み、何か答えた方がいいのかと思考が巡っていく。

「兄貴……!」

「あ、あはは……、確かにハデン王子の仰られる通りかと思います。だけど、リッシャ―王子が居て助けてくれた恩があります。……それに私が光の巫女ではなかったら、追い払われる可能性だってあった訳ですから。私は今の現状に満足――というわけではありませんが、この国に滞在させて頂くので、例え政略結婚に似ていても甘んじて受けていくつもり……です」

 リッシャ―王子の怒りを含んだ声に、心を救われたような気になって、苦く笑いながら、私自身の恐怖や感謝をこめた気持ちを考えながらも言葉を紡いでいく。

 その言葉にハデン王子は一瞬キョトンと目を見開いていたけれど、だんだんと目元を細めつつ、口元は笑みを深くしていく。

「ごめんね。試すようなこと言って。だけど君はそれで後悔しないかい……?」

「ッ、それは……わかりません。ですが、後悔するより楽しみたい……ですかね?」

「そっか! それなら、僕たちも()()()から救われるようなものだよ!」

 満面の笑みになっていったハデン王子は言葉を続ける。

「とはいえ、もともと僕たちは王位継承権争いをしていたようなものだし、光の巫女が現れてなくても、そのまま続けられていたものだから、気にすることはないよ。君の言う通り、この現状を楽むべきだよ」

「だが……これからどうするんだ? 考える期間を兄貴が決めたわけだが」

「そうなんだよね。一応彼女にとっていきなりの事だったと思うし、考える時間を考慮して提案したわけだけど……。ちょっと強引過ぎたかなって、今思い出すと反省してるよ」

 リッシャ―王子の疑問に、ハデン王子は腕組み、眉根を寄せて口元を引き締める。

「そう……だったんですね」

「まあ、いきなり伝承に則って、婚姻の前提がある接吻を強要したって意味がないと思うし」

「それは一体、どういう意味だ?」

「そだね。前提が大事なのだろうけど、それに対して愛が芽生えていなければ効力は発揮されないんじゃないかと考えられていると思う。――文献に【愛のない接吻で能力が発動した】。なんてどこにも書かれていないからね」

 リッシャー王子は哲学者のごとく、考察を入れるハデン王子に納得して頷く。

「なるほど……」

「じゃあ、ハデン王子が提案してくれた期間って……?」

「僕的には君に考える余裕があるほうがいいかと思ってね」

 私の問いに一度、はにかんで答えてくれたハデン王子に、感謝の気持ちを込めて言葉にしようとする前に、「だって」と続けるように言葉を付け足される。

「――絶対、ピンチを助けたリッシャーの方が好意度は上だろう? だったら、期間を設けて、僕とも好意を同等に持って欲しいし、弟との差を埋めたいと思っているしね」

 苦笑気味に付け足された言葉は、冗談を言っているようにはみえず、心情に近い言葉なのだと雰囲気で伝わる。

「だから、僕はリッシャー以上のアプローチを君に仕掛けていくことになるから、覚悟しててね」

「…………!」

 ハデン王子は弧にして笑うと、そのまま唇を耳元に寄せられ、そっと小さな声音で穏やかな調子とは打って変わって、胸の中が燻られそうな音質で吐息交じりに囁かれる。

 生暖かい風が耳奥をくすぐったことで、ドキリと心が音を立てて、あらぬ方へと意識が持って行かれるような気がして、目線だけをハデン王子へ向ける。

 すでに離れていたハデン王子はクスクスと小さくおかしそうに笑っていて、変に意識してしまった事で、顔が赤くなっているような気がして、私は恥ずかしさで頬に手を置く。

 そんな反応を見てからかハデン王子は、片目を閉じて楽しそうにしていて、余計に恥ずかしさが勝る。

「じゃあ、僕は少し調べものがあるから、そろそろ行くよ。本当はもう少し一緒に居たいのだけれど」

 軽く笑った後、用事があるからと言って、手を振りながら名残惜しそうにゆっくりと出入り口に方へと歩いていった。

 ハデン王子が部屋から出ようと扉を開けた際、室内に少しの光が差し込む。

 不意に視線を扉付近に向けると、床を照らし伸びてきた光の角度からして、太陽が真上に昇りきるより斜め上にあるのだと稚拙ながら推測する。

 ハデン王子が退室して扉が自然に締められると、謁見の場には私とリッシャ―王子の2人だけになった。


 王子2人の間に挟まれていた事もあって、ハデン王子が退室したすぐに、リッシャ―王子が目の前に移動して、両頬を押さえたままの私を気にして、目線を合わせるようにして屈みこまれた。

 その表情は心配そうでいて、どこか瞳の奥には真剣さを込めているように見えた。

「いえ……何も……。ただ、アプローチをしていく。という事だけで……」

「そう……か」

 悪い意味で言われたわけではなかったから、首を軽く振って素直に答える。

 リッシャ―王子は小さく息を吐き、合わせていてくれた視線が上昇する。

「あ、あの!」

「ん?」

 離れていく視線に寂しさを感じて、引き留めるように声を上げる。

 姿勢はそのままに目線だけを直してくれたリッシャー王子へ会話を繋げてみる。

「リッシャー王子は家族と一緒におられる時は【俺】っておっしゃられるんですね。びっくりしました」

「あ。お……おかしい……だろうか」

 目を見開いたリッシャ―王子は頭に手をおいて、恥ずかしそうに薄らと頬を染める。

 そんな彼の態度をみて、無意識に放っていた喋り方だったのだと考えると、失言をしてしまったような気がして、首を勢いよく振りかぶる。

「い、いえ! 出会った時とは雰囲気も変わってて、そちらの喋り方のほうが私は()()です!」

「え……」

「え? (私、いったい何を……? って)……あ!!」

 勢いのうちに出てしまった言葉に、リッシャ―王子が赤面させていくのを見て、首を捻った私は自分の言ってしまった言葉を思い出した。

 思い出した言葉が呪いとなって、あの二文字がグルグルと脳内を駆け巡っていくうちに、段々と恥ずかしさが勝っていき、背中に血の気が引くのと同時に、顔の熱が上昇していくのが分かる。

「ご……ごめんなさい! 言葉のあや……というか……その……っ!」

 私は慌てて謝り、言い訳が口を付いて出てしまう。

「…………。あぁ、うん。……大丈夫……わかって、るから……」

 片手で手を覆い、私の言い訳を肯定したリッシャー王子の言葉に安堵するも、どこかチクリと胸に針が刺さったような気がした。

「……まあ、君がそういってくれるのであれば、【私】は【俺】で話すとしよう。俺もこっちの方が喋りやすくて【すき】だからな」

 小さな咳払いをしたリッシャー王子は私の言葉をすくうように、口角を上げて柔らかく頬笑んだ。

 とても柔らかく笑うリッシャー王子を見て、痛んだ胸がジワリと温かく溶けて、高鳴っていく感覚に戸惑う。

 まだ、確証が持てないけれど、ハデン王子が言う様に好意はリッシャ―王子の方にふり幅がきいているように思える。

「あ、あの……!」

「ぅん?」

「えと……」

 何かしら伝えようと口を開けたのにも関わらず、言おうとした言葉が発音できず、空気を吐きだすだけで、ただ口を開閉してしまうだけだった。


「そうだ。今日の昼を過ぎたころに会うことはできないだろうか」

「?」

 なかなか話題提供が出来ない私を気遣ってくれるのか、手を打ったリッシャー王子は、一つの予定を提案してくれた。

「君がこの国に来たのはつい昨日だ。城へ戻る時は王族ルートを通ったから、城外の事は分からないだろう?」

「え? いいのですか……?」

「あぁ、構わないよ。……と言っても、君さえよければ、の話だけれど、我が国を案内させてほしい」

 彼の誘いにおずおずと聞き返すと、リッシャ―王子はしっかりと頷き返してくれた。

「……! ありがとうございます! よろしくお願いいたします!」

 リッシャー王子の誘いを受けるとお辞儀をして、これからの予定として頭に留める。

「そうだ。伝統衣装はとてもよく似合ってるが、服を変えたほうがいいと思う。巫女服を着るのは、決められた場合にしか着てはいけないキマリ……ではないが、街中に出るならば、別の服に着替えた方が良さそうだしな」

 そう言ってリッシャー王子はゆったりと歩き出した。

「それじゃあ、そろそろ俺は自室に戻るが、君はどうする?」

「そうですね。私も戻ろうかと思います」

 何歩か遠くなったかと思えば立ち止まり、合わせると首を捻りながら問いかけられる。

 少し開いた距離を埋めるように私もリッシャー王子へ近づきながら答える。

「そうか。なら、途中まで送ろうか」

「大丈夫です! 来た道を戻ればいいだけですし、メイドさんに聞いていけば、自室にたどり着けると思いますし!」

 残り数歩のところでリッシャ王子は振り返り、握手するように手を差し出される。

 差し出られた手を避けながらリッシャー王子二三歩ほど通り過ぎて、振り向きざまにガッツポーズをしてみる。

「そ、そうか……。……わかった」

 すると何故か、悲しそうに眉根を寄せたリッシャー王子は、上げていた手をゆっくりと下ろしていく。

「それにキッシュさんが迎えに来てくれるという事なので、もう少し待ってみます」

「なるほど……。では一旦ここでお別れだな。昼食後過ぎたあたりで場所はそうだな……。城門近くでどうだ。昨日占いをしてもらった所だ。昨日は夜も遅かったから見えなかったと思うので、後程キッシュ殿に案内して貰うといい」

「わかりました」

「ではまた後で」

「はい」

 頷き返事をした私の頭を撫でながら立ち去るリッシャー王子が、扉付近で立ち止まり、一度私の方に視線を向けて、会釈をして部屋から退出して行かれた。

 外から革靴の音が響き、それは遠くなって聞こえなくなった。

「ふぅ……。仕事で忙しいのかな……? ゆっくり待っていようかな……」

 謁見開始から緊張していた心が息を吐いたことによって落ち着いてくる。

 キッシュさんが到着するまでの間と言っていたけれど、もう来てもいい頃合いだと思うのに、まだ迎えにくる気配がなく、仕方なく最初に腰掛けた椅子に座ってキッシュさんを待つことにした。



 長い時間というほども無いけれど、待っているのが退屈になってきた。

 一人だから何もすることもなく、ブラブラと足を動かして小さく運動する。

「うーん……、あまり長く待っていると、リッシャー王子との約束が果たせないよね」

 じっとしている時間がもったいなく思えてきて、そんなことを考える。

「そうね……待ってても仕方ないし、自力で部屋に戻ってみようかな」

 時間の超過が気になり始めた私は、待つより行動を起こした方がいいと思い、椅子を両手で押さえて、腰を浮かせながら、揺らしている足をそのままに勢いを付けてタイミングよく飛ぶ.

 飛距離はそんなにでなかったけれど、選手のように両手を上に掲げてポーズを取ってみる。

 脳内でオール満点を排出し、自己満足のそれだとしても、少しだけやる気を上げた。

 そして、私はハデン王子とリッシャー王子と同じ扉を開けて、謁見の場から自室へと向かうために、通ってきたと思われる道を、長い廊下を踏み締めて、まずは城内から中庭へ出ることにした――。

 

 続く



(旧題「王子様のアプローチ」)


前回更新より

【ここまで、加筆と修正をしてきましたが、これで最後です。

次話から新しく執筆していきますので、よろしくお願いいたします。】

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