キャッチャーインザダーク
強烈な喉の渇きで目が覚めた。どうやら家に帰って横になった途端、すぐに眠ってしまったらしい。
部屋は真っ暗で、すっかり夜になっていた。変な時間に起きると自分が何者なのか、ここがどこなのかということがすぐには分からなくなる時がある。
台所へいって冷たい水を思い切り口に流し込んだ。体の中に生気が宿っていくような感覚を覚え、昼間の出来事が甦った。
‐・・・・今夜12時に‐
「そういえば、あの女なんて書いてたっけ・・・」
スマホで過去ログをチェックした。何かそうしなきゃいけない気がしたのだ。
「女の子はいつも寂しそう、ポツンと海を眺めてる・・・かそういえば俺も昔、嫌なことがあると一人で海を眺めたりしたっけ」
昔よく行ってた街の高台にある海を望める公園に行ってた時のことを思い出した。
「ん?そういえばあの公園にぼろい女の子の銅像があったっけ、でも水が踊るっていうのは」
やたらと文学的な表現に関心しながら、タバコを取り出し火をつけた。まだ10代に見えたがなかなか粋なことするじゃないか。水が踊ってキラキラ・・・。
「噴水・・・?」
公園に噴水があることも思い出した。夜の噴水は街灯に照らされると確かにすごく綺麗に輝いて見える。
そこに今夜12時。
時計を確認すると12時まではまだ時間の余裕があった。今から向かえば十分に間に合う。真夜中だったので両親を起こさないように物音を立てず、そっと家を出て車に乗り込んだ。
窓を開けて夜の風を浴び、カーラジオから懐かしい歌が流れてくるのを聴きながら運転していると、知らない世界へ入っていくようだった。
公園に到着すると、辺りを見渡した。
「誰もいない、やっぱりだまされたのか?っていうかそもそもここで合ってたのかな」
狐につままれたように夜中の公園で一人、棒立ちをしていると、昼間と同じ、少し鼻にかかった可愛い声が聞こえた。
「ほんとに来たんだ!」
ベンチの後ろにある植え込みの方から声がした。
「そこにいるのか?その・・・頭見えてるぞ」
植え込みから頭だけを覗かせている奇妙な物体があった。事情を知らない人間が見たら、この時間だ、叫び声を上げて逃げ出してしまうだろう。
「あれ?もうバレちゃったかー、ねね、難しかったかな?私の考えた暗号」
ようやく姿を現した彼女は常夜灯に照らされ、噴水の水よりもキラキラと輝いて見えた。そして、なんとなくだが、公園にある女の子の銅像と同様、どこか寂しげな感じもあった。