キャッチャーインザダーク
「あの、私そんなにメンヘラに見える?」
高橋こずえは手に持ったスマホをゆらゆらさせながらこちらを見ている。
俺は必死に状況を整理した。
こいつまさか某ちゃんねらーか?しかし同じタイミングで同じ板を見てるなんて普通ありえないだろ。
「君の立てた糞スレすぐ落ちたね、それに私のこと可愛いって」
さらに追い打ちをかけられ顔が赤くなり狼狽した。
「別にいいだろなんでも!診察終わったなら帰れよ!」
「会計待ってるだけだよ、ごめんね、怒った?」
「いや、怒ってはないけど、その、なんで分かったんだ?俺が立てたスレって」
「画面がちらっと見えちゃって、それに私がいつも見てる板だったから」
某ちゃんねるにマジで女がいたことに驚きを隠せなかった。
いや、いないことのほうがありえないのだが、宇宙には人間以外の知的生命体が存在してるはずと頭で理解しつつ、実際目の前に現れると恐らくビビるそれに近い感覚だろうか。
「高橋さーん、高橋なおきさーん」
「あ、俺呼ばれたし行ってくる、それじゃ」
俺は逃げるようにその場を立ち去った。ロードランナーの鳥より速くだ。
診察を受けている間も、まだ胸がドキドキしていた。医者から簡単な心理分析のアンケート用紙のようなものを渡されたが、
心ここにあらずで、全ての質問にYesの回答をした結果、医者から生きることの素晴らしさのようなものを延々と聞かされた。
「あーつかれた・・・まいったな、まあ薬も処方してもらったしいいか・・・」
診察室をでると、待合室で高橋こずえの姿を探した。
そこに彼女の姿はなく、少し落胆してる自分に気付いた。
「ほんとに可愛かったなあの子」
病院を出て駐車場にとめた軽自動車に乗り込み、エンジンをかけクーラーをつけた。灼熱のサウナ状態の車が涼しくなる間、なんとなくスマホで某ch mateアプリを開いた。
−【速報】○×病院で会った高橋さんへ−
高橋こずえが立てたであろうスレを発見し、再び鳥肌が立つのを感じた。
あの女のインターネットリテラシーはどうなってるんだ。速報ってなんなんだ、なんで俺がスレを見つける前提なんだ。そして、いつから某ちゃんねるは伝言掲示板になったんだ。
クエスチョンで頭がパンク寸前になりながら、恐る恐る画面をタップしてスレを開くと不思議な内容が書き込まれていた。
−君は分かるかな?女の子はいつも寂しそう、ポツンと海を眺めてる。水が踊って楽しそう、光があたると宝石みたい。今夜12時に−
完全に電波です。本当に(ry
俺みたいな男をからかって遊んでるんだろう。
一瞬、ルームミラーに高橋こずえがみえたような気がした。
俺はつかれてるんだ。自宅へ帰るとすぐ、ベットに横になった。
不思議な夢を見た。どうしても開かない扉があり、どれだけ力を込めて引いても開かない。
途方に暮れていると、そっと誰かが手を添えて、手前に押し出すように導いてくれる。
すると簡単に扉が開く。そんな夢だった。