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僕の処遇は

玉座の間は騒然としていた。

突如閃光が周囲を覆ったと思ったら魔王の膝の上に人族の少年が突如現れたのだ。

あまりに突然過ぎて家臣達の目が飛び出しそうになったがそれも僅かな時間である。


騎士たちは気持ちを切り替え、少年を警戒する。

少年に少しでも敵意があれば騎士達は即座に行動し、雪を排除しようとしたのであろうが傍から誰が見ても分かるほど雪は困惑していた。


先程まで友達と遊んでいたのに何故か今おとぎ話でしか聞いたことのない魔王の膝の上に座っていて、それでいてこれまた恐ろしい配下の者に警戒された視線を向けられているのだ。


とても小学生の対処できるものではない。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


混乱した僕は魔王の膝の上に乗ったまま、たどたどしく口を開いた。


「えっと、あの…。ここってどこ…ですか…?」


「む?知らずにここまで来たのか少年。考えてみろ、魔王がいるのだぞ魔王城に決まっておろう」


「えーっと…。魔王城って日本のどの県ですか?」


「ニホン?どこだそこは、聞いたこともないぞ?そこにお主は暮らしていたのか?」


魔王は訝しげな表情で僕に問い返した。


「はい、僕の家は日本って国の所にあって…」


「ニホン?聞かぬ地名だな」


魔王から返ってきた答えは更に僕を困惑させた。

日本を知らないなんてここは一体どこなのか。


「帰りたいんだ、元の場所に。舞ちゃんだって大ちゃんだってみんなまだきっと僕のこと待ってるんだ」


「…と言われてもな。お主の住んでいた所など聞いたことすら無いのだからどうしようも無かろう。おい、誰かニホンとやらを知っている者はいるか?」


魔王は玉座の間に控える家臣達に呼びかけた。しかし、反応を示す者は誰もいない。

とてつもない不安感が押し寄せてくる。こういう時に脳裏によぎるのは両親や友達の顔だ。

幼稚園以来久しぶりに感じるホームシックにも似た感情により今にも泣いてしまいそうだがなんとか堪える。


「魔王様。もしかするとこの小僧、迷い人やもしれませぬぞ」


僕が必死に涙を堪えていると小柄な老人が魔王に進言した。


「迷い人か…。フィルガロス、そう考えた根拠はなんだ」



「迷い人は歴史上何度も出現してきました。主に人族の王国の歴史に登場しています。初代勇者も元は迷い人だとか。」


「我が聞きたいのはそういうことではない。何故小僧が迷い人だと思ったか、だ」


小柄な老人ーーフィルガロスはひとつ咳払いをすると真剣な表情で口を開いた。


「それは彼らは皆出自が不明という点です。生まれ故郷を聞くと彼らは皆ニホンという聞いたこともない地の名を口にするとか。先程その小僧がニホンという地の名を出した時に確信しました。最も、迷い人かどうかを見分ける方法はもうひとつ存在しておるのです。」


フィルガロスは僕に視線を向けて言葉を続けた。


「迷い人は体のどこかに烙印が刻まれているはずですぞ。ワシの見間違えでなければそやつの右の手の甲に何やら烙印のような紋章が見えますがのう」


慌てて右の手の甲を確認する。

そこには確かに紅い紋章が浮かんでいた。


「こんなのさっきまで無かったのに…」


みんなで遊んでいた時にはもちろん右手に異常はなかったし、いつ浮かんだのかすら分からない。


(いや、桜吹雪に巻き込まれた時、右手の甲が熱くなったけどもしかしてその時かな?)


右手の甲の紋章について考えていると、1人の暗黒騎士が僕に対して声を荒らげた。


「おい、貴様いつまで魔王様の膝の上に座っているつもりだ!!」


「わっ!!ご、ごめんなさい!!」


そういえば僕が座っていたのはこの国の王様の膝だ。そりゃ怒るか。


僕は慌てて魔王の膝の上から飛び降りた。

どこに立っていようかと周りを見渡していると後ろから手が伸びてきて僕の脇腹をつかんだ。

体を持ち上げられ僕は再び魔王の膝の上に座らされた。

(………あれ?)


「………何をされているのですか、魔王様」


「む?…ああ、ついな」


「ついな、ではありません!あなたはこの国の王なのですよ!?安易に身元も不明な者を膝の上に乗せないでください!」


「うむ、今度から気をつける」


「今度じゃなく今からです!早く下ろしてください!」


「しかしなぁ…」


僕の頭を撫でながら魔王は暗黒騎士と問答を繰り広げる。

随分とお茶目な魔王だ。

暗黒騎士の顔はヘルムに覆われて確認できないが、声から判断するに女性のようだ。


「とにかくこの少年の処遇は我に任せてもらおう」


「それはなにゆえですか、魔王様」


「気に入った。それだけだ。」


「はぁ…。それなら如何なさるのです?孤児院にでも預けるのですか?」


「待てと言っておるだろう、リティア」


「はぁ…」


騎士との問答を終え、魔王は少し思案すると不敵な笑みを浮かべ宣言した。


「うむ、うむうむうむ。よし、決めたぞ!…皆聞け!この少年を魔王城で育てていくことにする!」



「「…はあああぁぁぁぁぁぁ!?」」



魔王の配下の者達は再び目玉が飛び出そうなほど目を見開き驚いている。また見れるとは…この驚き方が好きなのかな?


「ちょっ…ちょっと待ってください魔王様!本気ですか!?」


「当たり前だろう。我は嘘は好かん」


「破天荒過ぎます!前代未聞ですよ、人族の子供を魔王城で育てるなんて!」


「そうでございますぞ魔王様。そやつは紋章持ち。何かがあってからでは遅いのですぞ。」


「我は負けぬ。」


「あー、もうこの我が儘大魔王め!!」


「うむうむ、我はわがまま大魔王だ!」


朗らかな笑顔の魔王と対照的にフィルガロスとリティアと呼ばれた騎士は頭を抱えている。


(ていうかちょっと待って…。このままだと僕ここでこれから暮らしてく事になるの!?)


冗談じゃない。どうにかして帰りたいし、皆も心配してるに違いない。

しかし、帰る手段が無いというのもまた事実だ。

日本に帰ることを諦めたくはないけれど僕は無力だし今の所はどうしょうもない。


(そうだ…。今は文句なんて言ってられない)


まだこの魔王が信用できるかはわからないけど保護してもらえるなら少しだけ住んでみてもいいのかもしれない。

まぁどちらにせよ選択肢なんてないんだ。


「おじさん、僕をここに住ませて下さい。」


僕は魔王の膝から降り、振り返って頭を下げた。

すると魔王は穏やかな声で言った。


「さっきからお主を住ませると言っておったであろうが。安心せよ、すくすく育ててやるぞ」


(なんだか不安になってきた…)


楽しそうに笑う魔王を見上げながら僕はなんとか頑張ってみようと決意したのであった。

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