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にくいあんちくしょうの日

(´・ω・`)バレンタインの時にボツにしたお話を唐突に投下するマン

「ああ、こっちにもこの風習があるのか」


 寒空の下、一人街の中を彷徨い歩く。

 今日は珍しく、リュエもレイスも一緒ではない。

 たまにはね、男一人でぶらりと出かけたくなるもんなんです。

 色々あるんですよ、男にも。

 そんな中、商会ひしめく大通りで、やや小洒落た飾り付けのされた荷台を店舗として商売をしている男性が。

 そこには、四角やらハートやら、様々な形の小さな箱が積まれている。


「セカンダリア大陸から直輸入したチョコレート! それをなんとこの都市の一流洋菓子店が――」


 そう、チョコレート。

 恐らくオインク辺りが浸透させたのであろう、あの悪しき風習がこの世界にもすっかり根付いていたのだ。


「バレンタイン、ね」


 その山積みにされたチョコレートを見ながら、俺は珍しく、本当に珍しく前の世界の事を思い出した。






「お疲れ様でした」

「お疲れ吉城君」


 今日も今日とてお疲れである自分に、心のなかでもう一度労いの言葉をかけながら職場を後にする。

 世間様はバレンタインデーだなんだと騒いでいるというのに、こうして職場で一五日を迎えたという事実が、少しだけこの疲れた身体に追い打ちをかけてくる。

 ああくそ、今日も寒いな。

 マフラーを巻き直しながら帰路につこうとした時、物陰から一人の人物が姿を表した。

 一瞬身構えるも、すぐにそのシルエットが小さく、そして街灯に照らされた姿が見知ったものだった為警戒を解く。


「お疲れ様です、仁志田さん」

「ああ、お疲れ様。どうしたんだこんな時間まで」


 現れたのは、フロア担当のバイトの女の子。

 名前は正直、厨房に居るとほとんど関わりがないので覚えていない。

 ただまぁ、顔を覚えているだけマシだ、マシ。


「いえ、ただなんとなく時間を潰していました。仁志田さんこそ遅くまでお疲れ様です」

「ああ、ありがとう。明日の仕込みとかあるからね、どうしても遅くなる」


 しかもバレンタインフェアとかなんとか言って、ランチタイムのデザート一品無料なんて言いやがるので、余計に時間がかかってしまったんですよ。

 あーあー、明日はチョコムースがガンガン出るぞ、冷蔵庫まで動くのすら面倒だってのに。


「よければ、駅まで一緒に行きませんか?」

「時間も時間だ、そうしようか」


 ぶらぶらと歩きながら、彼女の話に耳を傾ける。

 今日来たお客の話、バレンタインデーで浮かれる同僚の話、通っている大学の話。

 近所にある図書館の話や、そこの美人な司書さんの話。

 ちなみに、その図書館の場所だけはしっかり聞いておきました。


「あ、この時間なのにワゴンセール」

「コンビニでワゴンセールなんて珍しいな」


 ふと、彼女がかけ出した。

 コンビニの前のワゴンで、従業員が面倒そうに品物を店内に戻すところだった。

 悪いね店員さん、作業の途中だろうに。

 申し訳なく思いながらも、そのワゴンを覗いてみる。

 そこには売れ残ったのであろう――


「なんだか売れ残ったチョコレートって、縁起悪いですよね」

「ん? ああ、そうだな」


 少々苦笑いを浮かべた彼女が、そんな事を言う。

 その言葉に、店員も俺も同じく苦笑いを浮かべてしまう。

 そりゃそうだ、思いを伝えるためのものなのに、選ばれなかったんだからな。

 確かに買いたがる人間は少なさそうだ。


「店員さん、これ一つ下さい」


 と思ったらここに一人そんな物好きが。


「仁志田さん、今この場でこれをプレゼントしたらどう思いますか?」

「俺にくれるの? ……そうだな、売れ残りでさらに一日遅れとなると……義理じゃなくてギリギリなチョコって感じかね」

「いいですね、ギリギリチョコ。じゃあ、ギリギリチョコプレゼントです」


 はにかみながら手渡された、妙に艶やかなラッピングのされたそれを受け取る。

 嬉しいという気持ちがいい感じに半減されて、照れくさくもなく簡単に受け取る事が出来た。

 俺はね、職場ではクールな人で通ってるの。

 そうして、俺は何事も無く彼女と駅で別れ帰宅したのだった。




Kaivon:チョコレートもらったったwwwwwwwww

oink:嘘乙

Daria:なにお前今実家戻ってきてんの? なら飲みに行こうぜ

Kaivon:ちっげーよw 家族から貰ったんじゃねーよw 職場の女の子に貰ったんだよ!

Daria:かいぼんくん びょういんにいこう !


 いやまぁ、内心くっそ嬉しかったんですけどね!?

 早速ゲーム内で報告すると、チームメイト二人がからかってくる。

 なんだよ実家って、オカンチョコや妹チョコだとでも思ったのか。

 家族からもらうのはノーカウントなんだよ!


Kaivon:まぁ店売りなんですけどね

Daria:あー俺もチョコ欲しいわ。タダで甘いものもらえるとか最高だろ

Kaivon:純粋に甘いもの欲しさでチョコ欲するのも珍しいな

Daria:でもあれだぜ、俺自分のキャラにチョコもらいたいわ。金髪幼女エルフに手渡しされたいわ

Oink:ダメだこいつ……早くなんとかしないと……


 なに夢みたいなこと言ってんだこいつは。

 自キャラからチョコとか……なに俺この魔王もどきからチョコもらうの?

 嫌だな、それ。


Kaivon:ふむ……そろそろセカンドキャラクターでも作ろうかな

Oink:唐突すぎてワロタ ぼんぼんなに作るの? 今度は勇者様でも作るの?

Kaivon:んー、なんか俺も女キャラが作りたくなった


 なんか急にこう、寂しいというか虚しいというか。

 作りたくなったんですよ。

 別にチョコが欲しいとか、そういうんじゃないんだからね!






「お客さん、どうです! 今時は男性から女性に贈るなんてのもありですよ!」


 おっと、いつのまにか荷台の目の前で考え込んでいたようだ。

 いやぁ懐かしい、思えばばリュエを作ったきっかけはあれだったか……。

 そういえばあのチョコをくれた子、あの後お返すする前に辞めちゃったんだよな。

 ……俺が。

 もともと専門外の職場の経験も修行になるかなって、あっちこっち点々としてた時期だったからなぁ。

 悪いことしちまったな。


「じゃあ、三つくださいな」




 宿へと戻ると、隣の部屋からリュエの声が漏れ聞こえてきた。


『帰ってきた帰ってきた。レイス、準備準備』

『しーっ』


 ふむ、どうやら我が家の娘さんがなにやら謀を企てている模様。

 面白そうなので、大人しく部屋で待っていると、案の定扉がノックされる。


「カイくん戻ってきたのかい? ちょっといいものあげるから私達の部屋にきてくれないかい?」

「ん? 了解了解」


 少し期待しながら、俺も彼女達にあげるチョコを携えて部屋へ向かう。

 心なしか、リュエがそわそわと落ち着くがないように見える。

 本当にその様子が、いたずらを思いついた子供のようで、見ているだけで笑顔になってしまう。

 ……あの日、もしもチョコを貰わなかったら。

 もしかしたら、彼女は今ここにいなかったのかもしれないな。


「ささ、入って入って」

「お邪魔します」


 彼女達の部屋に入った瞬間、ふわっと甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 これは、チョコレートと……リュエさん、貴女の香りですか。

 この人、どういうわけか香水もつけていないのに花のような香りがするんですよね。

 だが、部屋を見渡してもレイスの姿を確認できず、頭をひねる。

 先ほど確かに彼女の声がしたと思ったのだが……。


「今日はチョコレートを上げる日だって聞いてね、宿の主人に頼んで厨房を貸してもらって作ったんだ」

「おお、手作りとな」


 マズい、買っただけのチョコを渡すのが申し訳なくなってきた。


「というわけで! レイス、お願い!」

「は、はい」


 するとどこからかレイスの声が室内に響き渡る。

 む、どこだレイス、どこにいる。


「シャワールームにいるから、いってごらんよ」

「む、大丈夫なのか? 着替え中とかじゃないのか?」

「いいのいいの」


 促されて扉を開くと、そこに漆黒の液体が満たされた湯船に浸かったレイスさんの姿が。

 ……なに、全身チョコレートでコーティングして自分をプレゼントなんて画策してるんですか貴女。


「……二人共片付けて正座しなさい」


 食べ物で遊ぶのは許しません。

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