書籍版十一巻特典SS1
(´・ω・`)暇人の購入特典はこれで全てとなっております。
暇人のお話はこれにて終わり、この人達の活躍はパラダイスシフトの物語の中でわずかに登場するのみとなっております。
長らくお付き合いいただきありがとうございました。
『地球の技術と文化』
いやはや快適だ。街道の舗装状況が地球とは比べるまでもなく悪い状態だというのに、この大陸で借りた魔車、その客車の性能はこれまで旅をしてきた中でも群を抜いて良い物だった。なーんで揺れを感じないんですかね……。
「なんだか機嫌が随分と良さそうだね、レイス」
「ふふ、そうですか? ちょっと、技術の進歩に感動していました」
御者をリュエと交代したレイスが。客車の中でどこか嬉しそうに寛いでいたので
声をかけてみたら、今丁度俺が考えていた事に関係する言葉が返って来た。
「もしかしてこの魔車かい? レイスはこういう乗り物の機構とかに関心があったよね」
「ええ、そうなんです。セミフィナルの魔車もオインクのお陰で大分揺れも少なく、街道の舗装も率先して行われていましたが、この大陸の技術はそれにも勝りますから」
「確かになぁ……こんなに揺れないなんて、自動車でもなかったな……」
いや高級車はもしかしたら揺れなかったかもしれないけれど。
「それは以前言っていたカガク技術というもので生み出された物でしょうか?」
「そうだね。基本、俺達のいた世界ではあらゆる乗り物の心臓部となる動力炉みたいな、エンジンって物が発明されてね。それを使った乗り物が主流だったんだ」
「ふむふむ……魔力のない世界で、それ以上の力を生み出す動力炉を生み出したのですか」
「まぁ、改良に改良を重ねた結果、になるけどさ。ただ、弊害として空気を汚染してしまうんだ。微々たる物だけど、世界中がそれを一〇〇年以上も使えば、ね?」
「なるほど……どんな事でも、代償は存在する。そう考えると魔力というのは、少し欲張りな力なのかもしれませんね。ただ……純粋に揺れを抑える機構等はどうです?」
「たしかにそれなら問題ないかな。そうか、この国も大昔から解放者を呼んでいたんだし、その影響もあるのかもしれないなぁ……セミフィナルはオインクとイグゾウ氏だけだし」
農家のおじさんに技術提供は難しいが、代わりに農作物の生育方法や土壌改良が他大陸に比べて圧倒的に進んでいる。そして我らが豚ちゃんは……浅く広く色々な技術、理論を広げている。うむ、そうなると俺って何も貢献してないな! 食い物の事だけだ!
「ど、どうしたんです……急に頭を抱えてしまって……」
「いや……俺って他の人間に比べてあまり世界に貢献してないなって思いまして……」
くそ! 俺に出来る事は……! ダメだ食べ物と暴力しかねぇ!
「……俺、この旅が終わったら美味しい物沢山広めるんだ……」
「そ、そうですよ! カイさんは立派です! もっと自信を持ってください!」
少し情けなく思いながらも、レイスの賢明な励ましにより、なんとか持ち直すのだった。
それから少しして、そろそろ正午に差し掛かるので、街道脇の草原地帯に停車し、お昼ご飯をどうしようかと相談する事にしたのだが――
「さっき私が御者してる時、ちょっと聞こえてきたんだけど、カイくん美味しい物沢山作ってくれるって!?」
「はは……思い出させないで。ただそうだなぁ……俺の知識とこの世界に存在する技術で、再現出来そうな物はそのうち誰かに相談して広められないか試してみるさ」
「おー! いいねいいね! 私甘いお酒がいい! 前にシュンが飲んでたコーヒーのお酒みたいなの!」
「あ、それはよいですね。お酒なら私の娘たちのお店でも出せますし、広めるお手伝いも出来そうです。ふふ、なんだか旅が終わった後の事をこうして考えるのも新鮮ですね」
「そうだなぁ……なんだかんだで残すはこの大陸と……ファストリア大陸だけだもんなぁ」
「七星もだいぶ倒したもんね。でも……たしかに旅をしていない私達って想像出来ないや」
そうだなぁ。俺もリュエも、特別誰かが故郷で待っている訳でもないし、常にどこかフラフラしてそうなイメージしか湧いてこないな。が、レイスは明確に故郷と呼べる町、そして家族がいる。そのうち、彼女の屋敷兼お店にも顔を出しにいかないとなぁ。
「ところで、カイくんは今すぐ何か作れないのかい!? お昼ご飯にさ!」
「ふふ、リュエったら……いくらなんでもそんな急に……」
レイスさんや。チラチラこっちを見るのはフリですね? そうなんですね?
ううむ……カクテルなら多少は知識もあるしすぐに再現出来そうだが……真昼間から飲む訳にもいかないでしょう? たとえ御者だとしても、飲酒運転ダメ、絶対!
「そうだなぁ……俺のいた世界でそこそこ歴史が浅い物ならこの世界でも新鮮かもしれないなぁ……」
「そういえば、かなり食文化がカイさんの世界と似通っているんですよね?」
「そういえばそうだよね。いいなー、美味しい物沢山あるんだろう?」
「だなぁ……じゃあ専門外だけど……デザートで何か作るかな」
それを告げた瞬間、リュエの瞳が真昼の太陽よりも輝いた気がした。
ええい、じゃあここはバブル期に流行ったらしいパンナコッタでも作ろうか。
たぶん大丈夫だよな……? イタリアでも結構歴史浅いデザートだし……。




