書籍版十巻特典SS1
(´・ω・`)リュエ視点
「シュンとリュエの共通点」
シュンが私達と一緒に来ることになって、やっぱり最初のうちは私もレイスも、少しだけ警戒するような、ちょっと余所余所しい態度になっていたんだと思う。
けれども、シュンは一生懸命カイくんやダリアの手伝いをし、そして二人もそんなシュンを歓迎し、楽しそうにいろんな話をしていた。
そんな三人の様子を見ているうちに、少しずつ私もレイスも、シュンに対する態度を軟化させていった……んだと思う。
「シュン、何を飲んでいるんだい?」
そんなある日、野営中にシュンがカイくんから何かを受け取り、それを美味しそうに飲んでいたんだ。なんだろう? なんでそんなにこそこそしているんだろう?
「こ、これか? ……まぁ、酒の一種だ。少し分けて貰ったんだよアイツに」
「ふーん……美味しいのかい? 見た事ない色をしているけど」
カップの中を見れば、ちょっと嫌な例えだけど、ドロ水のように濁った液体が入っていた。
ココアにも見えるけど……それより色も薄いし、美味しそうには見えないなぁ……。
「……少なくとも、俺は美味しいと思っている。……他の酒はあまり得意じゃないんだ」
「むむ……ねぇ、私にも一口飲ませておくれよ」
「む……構わないが、笑うなよ絶対に」
どこか恐る恐るといった調子でカップを手渡すシュン。と、そこへ――
「はい、間接キッスなんてお父さん許しませんからね。ほら、リュエの分も作ったよ」
「あ、カイくん。ありがとう、じゃあ貰うね」
「シュン、お前後でお仕置きな。激辛ポタージュプレゼント」
「マジ勘弁。そんな下心はなかったんだ、許してくれ」
カイくんとシュンがじゃれあっている様子を眺めながら、渡されたカップに口を付ける。
すると、バニラみたいな香りと、仄かに苦い香りがするのに、どこか甘いような、香ばしい香りが口いっぱいに広がり、少し甘すぎるような強烈な味が一瞬だけ口に広がり、それがミルクの味でスッと洗い流されるような、なんとも美味しいデザートのような味がした。
「なにこれ美味しい! こんな美味しいものを一人でこっそり飲んでいたのかい!?」
「う……そうだ」
「ははは……リュエは甘いものが大好きだからな」
「そうだったのか? いつもワインを飲んでいるから、こういう酒は好まないかと」
ん? お酒? ……確かに少しお酒特有の、喉が熱くなるような感覚もするけど。
「ワインと甘味は別腹だよ。なんだい、これを飲むのは笑われるような事なのかい?」
「う、うむ……子供舌だと言われた事があってな」
なんと。好みなんて人それぞれじゃないか。いいじゃないか、甘いお酒だって。
「酷い人だねその人は。どこの誰だい? そんな酷い事を言ったのは」
「……誰だろうな」
何故か、カイくんが明後日の方向を向いて戻っていった。
「しかしそうか……リュエは甘いものが好きなのか。俺も、甘いものが好きでな」
そう言うと、シュンはアイテムボックスから小さな箱を取り出し、そこからチョコレート二粒出して一つを手渡してくれた。
「チョコレートは俺の好物でな。甘くないコーヒーを飲みながら舐めるのが好きなんだ」
「へぇ、わざわざあんなに苦い物を飲みながら食べるなんて」
「コーヒーはコーヒーで好物なんでね」
私はあまり得意じゃないけれど、ミルクとお砂糖を入れたら飲めるんだ。
あれはあれで中々美味しいけど……そうか、このお酒はそれに似ているんだ。
「俺やカイヴォンがいた世界には、甘い酒が沢山あったんだよ。ふ、懐かしいな」
「へぇー……じゃあそれでアイスを作ったら、美味しく酔えて良いかもしれないね」
「ふむ……確かにそうだな。よし。じゃあ俺が教えるから、リュエから頼んでみてくれないか? カイヴォンならもしかしたら作り方を知っているかもしれない」
そのシュンの提案に乗った私は、カイくんがいた世界の甘いお酒の名前を教えて貰い、早速カイくんの元へ向かい、その注文をするのだった。
「カイくん! アマレットとカンパリとクレームドカシスとキュラソーっていうの作れるかい? もし作れるなら今度作って欲しいなー!」
「……おいシュン。うちの甘い物スキーさんを使うんじゃありません」
「はは、当然バレるか。今すぐじゃなくてもいいさ、いつか……平和な時代が来たらさ」
「話を聞いただけでも美味しそうだもん。飲んでみたいなー私もいつか」
いつか、そんな風にいろんなお酒を飲める日が来る事を夢見て。
まだそんな夢には遠いけど、それでも昔の仲間が集まった今この瞬間の幸せを噛みしめながら、私はまた、このシュンの大好物だというお酒を一口煽るのだった。
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