書籍版九巻特典SS1
『リュエとトウモロコシ』
今日も今日とて不思議な青空が広がる隠れ里。
せっせと畑仕事をしている子供達が、こちらの姿を見かけると無邪気に声をかけてくる。
すっかり俺も顔なじみになったものだ。
「カイヴォンだ! ねぇ見て! トウモロコシの収獲だったんだ!」
「カイヴォン一緒に運んでよー!」
そのまま子供達に連れられて里の中央に向かいながら、ふと篭の中身を覗いてみると、トウモロコシはトウモロコシでも、日本でなじみの深い、柔らかく甘い種類ではないことが分かった。これは硬い種類で、乾燥させた後に粉にするタイプの物だったはずだ。
「ふむ……硬粒種か? 爆裂種の可能性も……」
もしも通常より硬い品種ならば、お馴染みのアレにも出来るのだが、どうだろうか?
中央に着くと、どうやら今日は里の皆がそれぞれの持ち寄った収穫物や民芸品の物々交換する日だったらしく、それなりに大きな賑わいを見せていた。
そしてその中には見知った姿、屋敷でレポートを纏めていたはずのリュエの姿が。
「リュエ、休憩かい?」
「あ、カイくん。息抜きに市を見に来たんだ。こんな木彫りの熊があったんだよ」
「oh……北海道名物木彫りの熊さんがこんなところにも……」
「ホッカイドー?」
「あ、ごめん忘れて」
「うん? ところでカイくんも市を見に来たのかい?」
「いや、さっき子供達がトウモロコシの収獲をしていてね、その手伝いをしていたんだ」
すると、珍しくリュエが嫌そうな顔、眉をへの字にし始めたではないか。
「トウモロコシ……実はあんまり好きじゃないんだ。勿論、粉にして別な物にしてしまうと食べられるんだけどさ……」
「む、珍しいね? リュエが好き嫌いなんて」
「だって、あんなに艶々して美味しそうなのに、食べられないんだよ? 昔廃屋で食べ物がないか探っていたらみつけてね、美味しそうだから齧ってみたら歯が欠けちゃったんだ」
久々に不幸エピソードを聞かされてお兄さんちょっとショックです。
「当時はなんでこんなもの育てているんだろうって思ったものさ。粉にするなんて知らなかったんだよ」
しきりに頷きながら、しみじみと昔を思い出している様子のリュエさん。
ふむ……ならばその思い出を是非とも素敵な物で塗り替えて見せねば。
彼女に断りを入れ、早速市で乾燥させたトウモロコシがないか探してみる。
すると先程の子達が、以前に収獲したであろう乾燥トウモロコシを並べていたので、数本譲ってもらい、リュエの元へ戻る。
「あ、おかえりカイく……ええ!? なんでそんなにトウモロコシ持ってきたんだい? 嫌がらせかい? 私が最近かまってあげないからって!」
「いやいやまさかそんな。それに毎日構っているのは俺の方じゃないか。今日はね、リュエの苦手なコイツを美味しい物にかえてしまおうって話なんだ」
露骨に『ええ、本当に?』と、疑うような顔を浮かべた彼女を引き連れ、以前野外で料理をした場所へと向かう。当然、興味津々な様子の子供達もついてきました。
「はい、じゃあ道具一式を設置したところで、トウモロコシから実を外します」
「こんなに硬いのどうするんだい? 粉にする道具なんて持っていないよ?」
「大丈夫大丈夫。じゃあそうだなぁ、まずは実験も兼ねて大さじ一杯……」
硬いトウモロコシの粒を一掬い、鉄鍋の中へカラカラと投入。
そしてその上から油と塩を回しかけてやり、蓋をして火にかけまして。
「カイくん……今回ばかりは私でも擁護出来ないよ……焼いてもあれは硬いままだし、油もあれだけじゃ揚げたりも出来ない。きっと黒く焦げた苦くしょっぱい物になるよ」
そんな悲し気に、こちらを慰めるような彼女の言葉に同調するギャラリーのキッズ達。
もうある意味完璧な前振りじゃないですかね?
そのままさらに火にかけたまま、時折鍋を振って中を揺らすと、カラカラという音がする。
それを聞いてリュエはもう、まるで可哀そうな物を見るような目を向けてくる。
だがその時――ついに待ち望んでいた音が周囲に響き渡る。
パン、キン、パコンパコン。そんな粒が弾け飛ぶ音が鍋の中で反響し始めたのだ。
「うわ! 変な音がしてる! 危なくない? 大丈夫かい!?」
リュエの言葉に釣られ、子供達が大きく後退るが、大丈夫大丈夫。
その破裂音が止んだのを見計らい、火を止めもう大丈夫だと子供達も呼び寄せる。
そして蓋を開けてみれば――
「な、なんだいこれ? 真っ白い雲みたいなのが沢山……」
「カイヴォン兄ちゃん、トウモロコシって人も食べられるの? 動物の餌じゃないの?」
「飼料用のトウモロコシだったのか……ほら一つ食べてごらん」
そう言って、子供達とリュエが一つずつ摘み、恐る恐る口へ放り込む。
今回はただの塩味だが……どうだ?
「ん! なんだこれ! 食べてるのに食べてる気がしないような、軽い感じ!」
「美味しい! これトウモロコシなの? 美味しいよこれ!」
ヒョイヒョイと次から次へと手が伸び、あっという間に消えるポップコーン。
当然、追加のポップコーンを大鍋で作る事になりましたとさ。




