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番外編「肉」

(´・ω・`)勢いのまま書いただけです

 唐突だが、無性に肉が食べたい。

 まるでどこぞの肉食魔族さんのような発想だが、たまに食べごたえのある肉に大口を開けて齧り付きたくなる事ってありませんかね?

 これはある種の本能なのだろうか? いや人間は別に肉食獣を祖とはしていないけど。

 だが、今朝起きた瞬間から妙に肉が食べたくなった俺は、リュエとレイスがすでに訓練に向かったのを確認し、一人肉祭りを開催しようと街の広場へと向かうのだった。




 辿り着いたのは、以前屋台を開いたあの広場。

 ここの芝生地帯は元々、レジャーや野営を好む人間の為に開放されている場所であり、今もこの収穫祭の期間をここで過ごそうとしている人間のテントがチラホラと見受けられる。

 なお、屋台大会の最中はギルド側で用意した宿泊施設に無償で宿泊出来たそうです。

 さて、では久々のぼんぼんクッキングのお時間がやって参りました。

 それじゃあテンポよくいってみましょう。


「独り言を言いながら作るスタイル」


 一人暮らしだったり、家に誰もいない時はもっぱら喋りながら料理番組のように大げさに解説しながら作ったりしてたんですよね、たまに。

 ぼんぼんのおしゃべりクッキング的な。


「みなさんはそういうテンションの時とかありませんかね?」


 さて、肉とは言ったものの、なにを作ろうか。

 肉にかぶりつくのなら、やはりステーキのような食べごたえのあるものがベストだが、出来れば中までしっかり味の入ったものが好ましい。

 ステーキではソースをかけなければいけない都合上、そこまで大口を開けてかぶりつくことが出来ない。

 ううむ……理想としては鶏の骨付きもも肉を煮込んで、それにガブリと食らいつくような――


「……リュエのカバンから食材を移動しておいてよかったな」


 しかし、この世界はなんでも出来るし、ありえない食材や手に入る機会の少ない食材まで自由に使える。

 これはあれですな、前の世界ではなかなか実現出来なかった物を作ってみるべきか。


「というわけでですね、この街に馴染みのある豚肉を使いたいと思います」


 取り出しましたは巨大な豚バラ肉。

 まるで百科事典のような分厚さと、座布団のような大きさのまさに肉塊と呼ぶべきその姿に、内心『これ絶対豚じゃなくて魔物の肉だろ』とツッコミを入れる。

 そしてメニュー画面で確認すると、案の定――


『獣王シュヴァインのバラ肉』

『霊峰ディストピアに住む獣王シュヴァインの肉』


 まーたなんか凄そうなの出てきましたよ。

 本当、一体誰がこんな強そうな魔物の肉を奉納しているんですかね?

 恐らく相当な強者だとは思うのだが。


「この肉に、まずは味が染み込みやすいようにフォークで穴をあけます」


 さて、というわけでフォークを手に腕を振り上げザクザクと……oh。

 フォークの先端がぐにゃりと折り曲がってしまいましたとさ。

 これ、本当に食べられるのだろうか?

 気を取り直し、闇魔法で再びフォーク……というよりも剣山のような道具を作り出し、今度は折れないように祈りながら振り下ろす。

 すると、確かな手応えとともに突き刺さり、それを皮切りに何度も何度も繰り返し全体を穴だらけにしていく。

 さて、じゃあ後はここに下味として塩と胡椒を刷り込み、大きなグリルに乗っけるだけだ。


「まぁこれも含めて下処理でしかないんですけどね」


 本当ならばもっと時間を置いて味を馴染ませたいところだが、自分で食べるだけだし問題ないだろうと横着する。

 ううむ、やはり一人だと寂しいな。レイスがいたら隣で肉を熱心に見つめたりするのだろうが。


 さて、そうこうしながら炭にも火が周り準備完了だ。

 焼き網の上にドカンと肉を乗せると、肉の重みで網がたわんでしまった。

 ははは、こいつは素晴らしい光景だ。

 今回はじっくり焼くのではなく、強火で表面を焼き固めつつ余計な脂を落とすのが目的なので、網から脂が軽く滴り落ちる程度でひっくり返す。

 落ちた脂が赤熱した炭に触れる度に、ジュウと音を立てながら脂の焦げる独特の香気が立ち上り、食欲を強引に刺激してくる。

 ううむ、ノリのいい息子がいたら『ダディクール!』とでも声を上げそうな光景ですな。


 肉の表面が焼けるまでの時間で、隣のコンロに巨大な鍋を設置して水を張る。

 そしてメニュー画面からこれまた巨大な骨を取り出した。

 まさに骨、これぞ骨、骨棍棒という言葉がこれほど似合う骨もないだろうというくらいのそれを取り出し、表面をよく洗い、表面を軽く炎魔術であぶってやる。

 これはまぁ消毒を兼ねているわけであり、別にこいつを砕いて出汁をとったりするわけではございません。

 ちなみにこの骨、先程の肉と同じ魔物のものでした。

 肉の大きさに対して随分と細いような気もするが、一体どこの骨なのだろうか?

 まぁそれでも直径5センチはあるんですけどね。


「さて、勘の良い方なら俺がなにを企んでいるのかそろそろ分かってきたのではないでしょうか?」


 エア観客に向かってそう語りかける。

 すると、いつの間にか俺の調理風景を見に来ていた人間が返事をしたではないか。

 待て、思いもよらない反応とか恥ずかしいからやめろ。


「んん? わからねぇな……肉を焼いて食うんじゃねぇのか」

「鍋があるだろ、あれでスープでも作るんだろ」

「いやいや……あの骨でなにかするって事だろ?」

「なぁ、正解したらなにか貰えんのか?」


 お腹をすかせた若い冒険者達と思しき四人組がおりました。

 ダメです、今日は一人肉祭なので分けてあげません。

 ……というのは嘘なんですけどね。


「まぁ見てな、ロマンあふれる一品を作ってるところだから」


 さて、じゃあ肉を網からおろしますかね。


 焼いてある程度縮みはしたが、それでも座布団と言っても申し分のない大きさのそれを、長方形になるように半分に切る。

 そしてそれを、用意していた骨にぎっちりと巻きつけて、タコ糸で結んで形を維持させる。

 西洋料理でいうところでいうブリデってやつだが、これはちょっとキツく結びすぎたかもしれない。

 まぁここから更に縮む事も考えれば妥当な線だろう。

 さて、今目の前にあるのは、両端から骨が飛び出た肉の塊、いわゆるマンガ肉だ。

 これは名前の通り、マンガで見たことがないとこのロマンを感じないと思うが、彼らには通じるだろうか?


「この肉塊を見てくれ、こいつをどう思う?」

「なんかワイルドだな。アンタ言っちゃなんだが優男っぽいのに」

「だな。随分とロマンがあるなソイツは。そいつをどうするんだ?」

「さすがに分かったぞ、それを煮込むんだろ」


 そう、四人目の彼が言うように、コイツを煮込むのだ。

 まずはたっぷりのお湯に香味野菜を投入し、肉の内部にまで火が通るようにじっくり煮る。

 この大きさだとそうだな、二時間くらいだろうか?

 そこから更に調味料で煮込む事を考えると、相当な時間を要する。

 だがしかし、この世界には魔術という便利すぎるものが存在する。

 内部まで味を染みこませるなんて造作も無い事だ。

 ようは浸透圧の問題、外部から圧力を掛けてやればいい話だ。

 というわけで、二時間したら仕上げに入る事が可能なので、その間にこの野次馬四人組になにか振る舞ってあげましょう。




 それから少しして、残った焼き網の上に食べやすい大きさの肉を並べて自由に食べていいぞ、と宣言すると、連中は我先にと焼けた肉を口に放り込んでいった。

 タレも塩もかけずに食べるとは、よほど腹が減っていたんですかね?

 先日の肉巻きおにぎりのタレを与えると、そこからはもう狂ったように肉を食べ続け、満足した連中はこちらの遠慮の言葉を遮って金を置いて去っていった。

 ううむ、中々に義理堅い若者達でした。


 さて、そんなこんなで時間も経過し、巨大鍋から二つのマンガ肉を取り出し、表面の水気を火で炙って飛ばす。

 そして、今度は調理台の上に闇魔術で大きな箱を作りだし、そこに調味料を入れていく。

 今回は煮詰めるのでなく、直接強引に染みこませるので、舐めてみて丁度いい味の濃さのタレを作る。

 醤油、赤ワイン、バルサミコ酢、砂糖、ハチミツ、ニンニクを入れ、軽く炎魔術で沸騰させてから周囲の闇魔術で熱を奪いなじませる。

 便利すぎるだろ……。


「さて、ここにこの肉を漬け込んでからの――」


 再びエア解説を交えながら、肉の入った闇容器を密封し、徐々にその規模を小さくしていく。

 さすがに俺のステータスで操る闇魔術の強度はそのあたりの金属製品とは比べ物にならなく、どんどんとその規模を小さくしていく。

 今頃調味料が内部で行き場を失い、強引に肉へと染みこんでいってることだろう。

 だがここで加減を間違うと、人口ダイヤモンドよろしく謎の物体Xが生まれてしまう。

 程よく、それでいてじっくりと圧を掛け、その状態を維持して放置してみる事に。

 さて、じゃあ待ってる間に掃除と片付けをはじめましょうか。


「おお、調味料がなくなってる」


 一◯分後、魔術を解除すると漬けダレの殆どが肉に染みこんだのか、肉の表面が飴色に変わり、内部のタレがその姿を消していた。

 仕上げにこいつの表面を炙って馴染ませれば完成だ。


「道具も片付けちまったし魔術で炙るか」


 表面を一瞬包む、高熱の炎。

 瞬間、表面のタレと脂がジュっと音を立てて蒸発し、タレの焦げる香ばしい匂いが辺りに漂う。

 これはもう一種のテロ兵器ではないでしょうか?

 そして、残されたのは巨大な、自分の太ももの倍はありそうなマンガ肉が二つ。

 すごい、見た目も完璧だ、我ながらいい仕事しましたよ!

 味見や内部の様子も見てみたいが、これは一人で楽しむのはもったいないな。

 ……ふむ、豚ちゃんのところに行ってみるか。






 ギルドにてオインクの所在を訪ねてみたところ、今丁度宿泊施設の自室、PIGルームで休憩中との事なので、早速向かってみる事に。

 俺達の部屋の一つ下、彼女のためだけのフロアにたどり着き、部屋へと向かう。

 だが、扉の前にたどり着いた俺は、ノックをしようとした手を寸前のところで止めてしまう。

 ……なんか中から凄く聞こえちゃいけない声が聞こえてきたんです。

 え、ここ高級な部屋なのに防音どうなってるの? むしろ他に人がこないからって扉の防音がずさんだったりするの?


『ダメです、レイラさん……これ以上は無理です』

『もっと、もっといけますよね……? ほら、こんなにゆるゆるですし、ね?』


 ……あのエルフの娘さんとオインクがなにかをしています。

 なにかというかナニか。


『ああ! ダメですそんな力を入れては!』

『もっと、ギュって……いい締め付けです』


「……まぁ開けるんですけどね」


 鍵はかかっていないようなので、バーンと扉を開け放つ。

 するとそこには、やはりというか想像通りの光景が広がっていた。

 恍惚の表情を浮かべながら、よだれを垂れ流すレイラと、そんな彼女の首に大きなナプキンを巻きつけて引っ張っているオインク。

 ……俺は悪くない、たとえどんな性癖に目覚めようが俺は知らない。


「仲がよろしいようで。差し入れを持ってきたんだが、食べるかね」

「ぼんぼん!? 違うんです、これは仕方なくですね!」

「ああ、カイヴォン様ではないですか、丁度いいところに!」

「なにがちょうどいいのか理解したくないので無視しますね」


 スタスタと慌てふためく豚ちゃんと変態を置き去りにし、キッチンへと向かいまな板を取り出す。

 さすがにこの大きさの肉を置ける皿なんて常備されているはずもなく、これを皿がわりに使おうと思います。

 そして、ドカンと完成したマンガ肉を乗せて彼女達の元へ。


「ほら、お遊びだがこんなものを作ってみた」

「おほーっ!? 凄いですね、マンガ肉じゃないですか!」

「これは……ただの枝肉ではないですよね?」

「さすがに大きすぎるし切り分けて食べな。食べきれないようなら誰かを呼ぶと良いんじゃないか?」

「でしたら、リュエやレイスも呼んではどうでしょう? ……それでも余りそうですし、そうですね……先ほどゴルドを見かけましたし声をかけてみましょうか」

「そうだな。あの人沢山食べそうだし。リュエとレイスもそろそろ部屋に戻ってるだろうし呼んでくるよ」


 俺はそう言いながら、もう一つのマンガ肉をドカンとまな板の上に置き、二人をさらに驚かせる。

 ふむ、だったら今の間に食器類や道具をオインクに用意してもらおうか。

 彼女に手配を頼み一つ上の階へと向かおうとすると、丁度昇降機が下がってきた。

 ここは昇降機が一つしかないため、待つ時はそれなりの時間がかかってしまうのが難点だ。

 が、今回はそうはならなかった。

 何故なら、途中停止した昇降機には、今呼びに行こうとした二人が乗っていたから。

 考えてみれば、ここから上に泊まってる人間は俺達だけなのだし、ここに下がってくる昇降機に乗ってる人間なんてルームサービスの人間か俺達だけなんですよね。


「あれ、途中で止まっちゃったよレイス」

「誰かが他の階から乗ろうとすると止まるんですよ」

「へぇ、そうなんだ」

「扉を開けるとそこにはなんと俺の姿が」


 扉の向こうからの声に二人の存在を確信し、ガラっと開けると、驚いた表情のレイスと、驚きつつ嬉しそうな顔になるリュエの姿が。

 くそう、可愛いな。


「カイくんだ! 探したんだよ? 今日は起きるの遅かったし、部屋に戻ってもいないし」

「この階は……先日イル様と面会した場所でもありませんし、どうしてここに?」

「この階はオインクがいる場所なんだよ。ということで、二人を呼びに行こうとしていたところなんだけど二人の予定はございますか」

「私達はカイくんを探しにフードコートに行くところだったんだ。カイくんが見つかったしもう大丈夫だよ」

「という訳です。オインクさんが私たちに用事があるという事でしょうか?」

「いんや、ちょっと一人で料理してたんだけど結構な量になったから、みんなで食べようと思ってさ。レイスが喜びそうなものを作ったから期待してくれ」


 その言葉に、嬉しそうな顔をする二人。

 とりわけレイスの表情は期待を隠し切れない様子で、自分の喜ぶ料理=肉という方程式が成り立っているはず。

 うむうむ、期待通りの結果が待っておりますとも。


 二人を引き連れ部屋に戻ると、すでにテーブルの上に取り皿やナイフが用意されており、さらにこの後付け合せのパンやサラダ、飲み物が運ばれてくる予定になっているそうだ。

 そして、先日リュエと再会したレイラは、今日も嬉しそうに彼女へと駆け寄ってきた。

 ……今度は別の理由であまり近寄ってもらいたくないんですけどね。

 変な事教えるなよ? もしリュエがある日突然『ちょっと私の首をしめてくれるかい!?』なんて言って来た日には……本当に絞め殺しますよ。


「お邪魔致します。本日はお招き頂き――」

「そんなにかしこまらなくてもいいんですよ? 今日は友人としてお誘いしたんですし、レイラさんもあの有様ですし」


 オインクが視線を向けた先には、なにが楽しいのかレイラが一生懸命リュエの手を取りぶんぶん上下に振っていた。

 振られてるリュエも楽しくなってきたのか、その速度が更に上がり、残像を残すほどになっている。


「本日もお美しいですわね、リュエ様」

「レイラちゃんも綺麗だよ? ところでこれはなんの遊びだい?」

「これは嬉しさを表現しているのです。早いほど嬉しいということなんです」

「そっかそっか。じゃあもっと早くしてあげよう」


 もう二人の腕どっかに行っちゃうんじゃないんですかね。


「さて、うまい具合に料理が隠れてるが、そろそろお披露目しようか」

「これ本当はインテリアのクロシュなんですけどね。大きさも丁度いいので」

「ああ、フルーツ飾ってたあれか」

「お披露目は少し待ちましょう、ドゴルが今こちらに向かっておりますので」

「というわけで、その伸ばした手を引っ込めようかレイス」

「……違うんです、これはちょっとクロシュについていた指紋を拭き取ろうとですね」


 おかしいな……かつてグランドマザーと呼ばれたみんなのお母さんなんですよ彼女。

 一緒に過ごしているうちに段々と肩の力が抜けてきたのだろうか?

 ううむ、そのうちがっかりお姉さんなんて称号がついてしまいそうでお兄さん心配です。

ー(´・ω・`)ー 続かない

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