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書籍版五巻特典SS3

(´・ω・`)個別行動レイス編

『レイスの仕事始め』



「休憩中に申し訳ありません。ギルドにて従業員募集の張り紙を見て来た者です」

 懐かしい筈なのに、すっかり景観が変わったこの街で、私は一人その場所を訪れた。

 街の中央にある一件の大衆酒場。その扉には、休憩中の札が下げられていた。

 その閉じられた扉へと向かい声を掛けると、少し間延びした返事と共に一人の男性が現れた。けれども、現れるや否やその表情を硬直させ、口をパクパクとさせながら後ずさってしまうその人物。

「あの、従業員の募集と聞いて来たのですが……もしや都合が悪かったでしょうか?」

「あ……いや、その……上位魔族の方が来るとは思っていなくて……」

 街全体を覆う魔族至上主義の波がこの場所にも影響を及ぼしているのだろう。

 思うところはあるけれど、それを表情に出さず、私は用意していた文句を告げる。

「私は街の外から来た旅人です。どうか、畏まらずに頂けると幸いです」

「そ、そうなんですか……分かりました、どうぞ店の中へ」


 店内では、店員さんが椅子に座り、テーブルにもたれ掛かるようにして休憩をしていた。

 余程の激務だったのでしょう。休憩に水を差すような真似をした事を詫びようと彼女達に声をかけようとしたその時でした。そのうちの一人の女性が立ち上がりこちらへと近づいてきました。

「店長! 採用しましょう!」

「な、なんだ急に……まだ具体的な条件も聞いていないんだから」

「どんな条件を出されても採用するべきです! 一日三万ルクス支払ってでも!」

「そんな! さすがにそんな額は支払えない!」

 随分と、店員と店長の仲が良い職場のようですね。やはり職場で大切なのは人間関係です。客に対してだけでなく、仲間同士でも良い関係を維持する事が、良い接客へと繋がりますからね。

 二人の様子がなんだか、昔の私と娘達の様で、つい笑みがこぼれてしまう。

 ふふ、私も是非、この場所で雇って貰いませんと。


 その後、私が旅人だという事を踏まえて、三日以上二週間以内というだいぶ融通の効く契約を結んで頂きました。

 しきりにこちらの賃金を高くしようと提案してくれるのですが、こんないつ辞めるかも分からない人間にそこまで支払わせる訳にはいかないからと、他の店員の皆さんの七割のお給金で雇って頂くことになりました。

 そして、今度は先程私を雇うべきだと進言した女性が、私の為の制服を用意する為にメジャーを持ってやって来ました。

 ワクワクと、まるで面白い物を見つけた子供のような表情を浮かべた彼女の視線の先には……なるほど、たしかに好奇心をそそられる気持ちも分かります。

「レイスさん、ちょっとスリーサイズを測らせて頂きますよ……凄いですよね、私この店長いんですけど、ここまでの大きさの人初めて見ました……」

「そ、そうですか。申し訳ありません、余計な手間を取らせてしまって」

「いえいえ。私は元々服飾店で働いていましたからこの程度お手の物――! 一◯◯センチオーバーだなんて!」

「あの……声が大きいです……」

 店のバックヤードにて計測してもらっているのですが、外には男性もいますしね?

 人より大きい事は十分に分かっているのですが、やはり詳しい数字を知られるのは恥ずかしいものなのです。カイさんは……たぶん既に知っていると思いますが。

 ふふ、最近は減りましたが、一緒に旅をしてすぐの頃は、たまに視線を感じたものです。

 ……同じ街にいるのに、一緒にいられないという今の状況は、少々堪えますね。


 計測が終わり、今度は具体的な業務内容についての説明を受けることに。

 今回募集されていたのはホール担当の人間ですが、どうやら昼の営業では厨房の手伝いをしてもらう事もあるそうです。

 そこで、どれくらい料理が出来るのかと問われた私は『昔、孤児院のような場所で働いていました』と答えたのでした。

 そう……今思えば、私の最初のお店は孤児院のような立場だったのかもしれません。

 身寄りを無くした子供を見つけては引き取り、そして生きる術を共に学ぶ。

 本当に……懐かしくて、懐かしくて。悲しくなってしまうくらい、恋しくて。

「……過去は変えられない。変えられるのは今、ですからね」

 沈みそうになる気持ちを強引に引き上げる。今、私の戦いはもう始まっている。

 ここでの戦いが、未来の暗雲を、過去の未練を晴らす事に繋がるのだから。

「よし、じゃあレイスさん。丁度休憩中だし、まかないをお願いしてもいいかな?」

「いきなり任せて頂いても宜しいのですか? もちろん全力は尽くしますが」

「へーきへーき。今日の担当私だったけど、私下手っぴだから」

 店長さんに抜擢された私は、先程から親しげに店長と語る女性と共に厨房へと入るのでした。

 本格的な厨房に立ち入るのは、これが初めてです。少しだけ緊張してしまいます。

 けれども――ふふ、最近近くに良いお手本になってくれる『先生』がいますから。

 カイさん、私も頑張りますからね。

「では……今日は私の一番得意な料理を作らせて頂きます」

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