書籍版五巻特典SS2
(´・ω・`)こっちはリュエ編
『リュエさん頑張る』
「ご飯、どうしようか? 大人数で食べる料理なんて作った事ないよ私も」
「ど、どうしましょう……とりあえず分けて頂いた材料を確認してみないと」
家政婦生活初日。早速こちらに襲いかかるピンチに、同室のローリエちゃんと二人で慌てふためきながら、どうしたものかと頭を悩ませる。
使用人みんなの分の朝食の用意という難題。私が作ることが出来る料理なんて、カイくんに教えてもらった料理が数種類と、ポトフとサラダくらいなものだというのに。
ひとまず私達の寮である塔の厨房へと食材を運び、その内容を確認していく。
野菜の根本だったり、食べられない部分に近い場所だったりと、その殆どが屋敷の食材の余りだった。けれども、自慢ではないけれど私はこういう食材を扱うのには慣れているんだ。ほら、大昔にまだ他のエルフが森に住んでいた頃、よく私だけこういう食材を充てがわれていたからね。……思い出したらちょっと悲しくなってきた。
「ニンジン玉ねぎきのこの軸……お肉の筋もあるね。十分美味しいスープが作れるじゃないか」
「なるほど……この固いパンはどうしましょうか……あ、途中でメニューが変わったのか、ほとんど手付かずのお魚もありますね」
「ふむふむ……ちょっとまっておくれよ」
私は、カイくんと一緒に過ごした一年間を思い出す。あの森の奥で、彼が私に作ってくれた沢山の料理達。その作り方の細部までは覚えていないけれど『凄い、こうやって使うんだ』『へぇ、そうやって食べるんだ』というような、新鮮な驚きの記憶は、今もしっかりと私の脳裏に刻み込まれている。
そして旅に出てからの事も、確かに私の記憶に刻み込まれているんだ。
ふふん、最近はレイスが料理のお手伝いをしているから私の出番が少なくなっていたけれど、私だって少しずつ成長しているんだ。この食材があれば、私だって――
§§§
「そのパンはこれを使って細かく削っておくれ」
「これ、チーズおろしですよね? パンを削るんですか?」
「そうだよ。それが終わったら、卵を四つボウルに割り入れて、残りは全部茹でて頂戴」
塔の厨房は、多くの使用人の為に料理を作る関係で、私の家の小さな台所とは比べ物にならないくらい広かったけれど、それでもローリエちゃんと二人で着実に下準備を済ませていく。
一度に沢山鍋を温められるから、きっと慣れたら短時間で沢山の料理が作れるのだろうな、なんて思いながら、私も野菜を切り分けていく。
スープの材料の準備が済んだところで、今度は沢山余っていた魚に取り掛かる。
懐かしいね、私は魚を焼くのが得意だけれど、捌くのは苦手だったんだ。
魔物相手にならいくらでも剣を向ける事も、命を奪う事も出来るというのに、まな板の上でピチピチ跳ねる小さな魚に刃を入れるのが恐かったんだ。
けれども今ではもう――
「わぁ……リュエさん魚捌けるんですね!」
「このくらい大きな魚じゃないと無理だけれどね。私の知り合いには、もっと小さな魚を一瞬で捌いちゃう人がいるんだ」
一五センチ程のお魚。たぶん川魚だと思うけれど、それを三枚におろして下味をつける。
たしかカイくんは、塩と……なにか緑色の葉っぱを刻んだのを振りかけていたっけ。
厨房には、必要最小限の調味料しか置かれていないけれど、その中に乾燥した薬草のような物がぶら下げられていた。
幾つか種類のあるそれを鼻に近づけて香りを嗅ぐと、そのうち幾つかが私の家で使われていた物と同じだと分かり、それを少し千切って細かく刻み、塩と一緒に魚に振りかける。
うーん、たぶんスープにも合いそうだしもう少し貰っちゃおうかな。
さて、ここからが難しい。魚の身を小麦粉にまぶしてから、溶き卵にくぐらせる。
そして、ローリエちゃんに削ってもらったパンの粉をたっぷりつけるんだ。
フライパンに多めの油をひいて、よーく温まったのを見計らって――
「そりゃ!」
「わ! 油、油がはねています!」
「わ、ど、どうしよう!」
熱い飛沫が手に触れる。その熱に一瞬手を引っ込めてしまいそうになるけれど、ここでやめる訳にはいかないと、少し火を弱くして調理続行。
すると、魚の周りに付いたパン粉が少しずつ黄金色に変わっていく様子が見て取れた。
それをひっくり返し反対も同じように色が変わるのを待てば――
「で……出来た! フィッシュフライの完成だよ!」
「おー! お魚がこんな料理になるの初めて見ました!」
「ふふん、そうだろうそうだろう。私もちょっと前に初めて見せてもらったんだ。ローリエちゃんはさっきの材料、混ぜ合わせてくれたかい?」
「はい! ゆで卵も潰しましたし、他の材料も全て……この白いドロドロはなんですか?」
「これも卵から作るソースなんだよ。そこに沢山材料を入れて混ぜるとタルタルソースになるんだ」
このフィッシュフライに合うと思って、今回はタルタルソースも作ったんだ。
少し前に教わったそれを器に盛り付け、残りの魚もどんどん仕上げていく。
そしてそれらを全て盛り付ければ――
「よーし! フィッシュフライのタルタルソース添えと具だくさんのスープ完成!」
人数分揃えられた料理の数々に、ローリエちゃんと二人で手を取り合い喜びを現す。
ふふふ、私の料理の腕も捨てたものではないみたいだね!




