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書籍版五巻特典SS

(´・ω・`)三人が別行動中のお話ぼんぼん編

『魔王様の家族サービス』




 アルヴィースの街で活動を初めてから一週間が経過した。

 そろそろ表立ってヒューマンに危害を加える魔族も減り、ぎこちないながらにも彼らへ歩み寄る人間も増えてきた訳だが、ここに来て新たな問題が浮上し、こちらの頭痛の種となっていた。

「カイヴォン様。昨日お話させて頂いた件ですが、どうでしょうか」

「ちょっと今私らが話してる最中じゃん! ねーカイヴォン様、またあの森の泉に行きましょうよ」

「くっ……お前たちばかりいつもいつも! 我らとてカイヴォン様と視察へとだな!」

 ……絶賛両腕を引っ張られ中です。君達敬ってる癖に結構扱い雑ですよね?

 まって、腕伸びるから。服裂けちゃうから。お兄さんの身体は一つしかないんですから。

「……いい加減放してくれ。悪いが、先に約束したのはそちらの人間だ。森の泉へはまた今度、大規模な護衛依頼の際に同行しよう」

「ちぇー……分かりました。じゃあ、私達は今日も子供と一緒に花摘みに行ってきますね」

 魔族の娘さん方がギルドから飛び出していくのを眺めながら、今度は少々生真面目そうな魔族の青年の一団へと向き直る。

 皆、冒険者としての実力も十分なのか、身に纏った装備も他の人間よりも上等に見える。

 だがそんな集団が、まるでたまの休みの日に父親が遊んでくれるのを今か今かと待つような、ワクワクとした様相でこちらの言葉を心待ちにしていた。

「……では、街の裏山周辺の魔物討伐に向かうとしようか」

「はい! ありがとうございますカイヴォン様!」


       §§§


「それで、今日一日連中と一緒に過ごしていたって訳ですかい?」

「ああ。しかし何故こうも若い魔族がこぞって私の元へ訪れるのか」

 夜。すっかりこちらの活動拠点と化したギルドの応接室で、俺の補佐をしてくれているヒューマンの冒険者であるゴトーさんとここ最近の様子について語る。

 素直に言うことを聞いてくれる上に、自発的に街の為になる行動を取る姿勢も好ましいのだが、どうにもこう……違和感と言うべきか、少しおかしな空気を感じてしまうのだ。

 その事について彼に相談してみた訳なのだが――

「そりゃあ今まで好き勝手やって来た連中にとっちゃあ、ようやく自分達を律してくれる大人が現れたんです。褒められたり認めてもらいたかったりと色々あるんでしょう」

「……そういうものなのか」

 ううむ、まさか本当に父親になつく子供のような理由だったとは。

 ちょっと内心複雑です。ほら、お兄さんまだ若いからね?


 翌日。今日も今日とてギルドのロビーにて、今日は両腕どころか腰にまで抱きつく魔族の皆さんが、またしても押し問答を繰り広げております。

 どこからか聞きつけたのか、なんとまだ冒険者として登録できないような年齢の魔族の子供達までもがやってきているではありませんか。

 腰に抱きついた、頭から角を生やした女の子が必死にこちらを見上げながら訴える。

「カイヴォンさまー! ヒューマンの子供ばっかりじゃなくて私達とも遊んでー!」

「ちょっとー離れなさいよちびっこ! カイヴォン様は遊んでる暇なんてないの!」

「カイヴォン様。実は先日の魔物討伐の話を姉にしたところ、是非一目会いたいと――」

 ……くっ、無碍に扱えない! そういうのは君達の父親に言って下さい、父親に!

 けれども、俺の今の目的は住人の信頼を勝ち取り人心を掌握する事……つまり――

「……分かった。今日は全員で森の泉へと向かうぞ。保護区の子供を集めておいてくれ。お前もその姉とやらを連れてくると良い。ほら、君も手を放すんだ。出かける用意だ」

 ああ……人気者というのはこういう気持ちなのだろうか。

 それとも……これが父親の気持ちというものなのだろうか?

 なんにしても――これは疲れる。


 森の泉への道中では、ヒューマンの子供と魔族の子供が少々ぎこちないながらも歩み寄り、年齢も近いからか、少しずつ互いの距離を近づけつつあった。

 もちろん、娘さん方は子供の護衛をしっかりと務めているのだが、時折自分達の仕事ぶりを見せつけるように視線を向けてきていた。

 微笑ましいというかなんというか。親に良いところを見せたい子供のようじゃないか。

 そしてもう一人、昨日の冒険者の姉である女性が、しきりにこちらの事を聞いてくる。

 やれ『好きな食べ物はなんですか』『今お幾つですか』などと。

 なんだか言い寄られているようで、ましてや妙齢の娘さんという事もあり悪い気はしないのだが……どうも色っぽい話というよりも、純粋な好奇心を向けられているようだ。

 不思議だ。この街の魔族がこちらに向けてくる感情が。

 特に、若い魔族から向けられる、まるで親に構って欲しいかのような視線や仕草が。

 ……悪い気はしないけれど、な。

「もうすぐ森を抜ける。薬草を摘むなり休憩をするなり自由に過ごすと良い」

 子供達の声に混じる若い集団の声がなんともむず痒い。

 それでも、たまにはこんな日も良いだろう。

 嵐の前の静けさと言ってしまえばそれまでだが、それでも――レイスの願いを……そしてこの地の住人の安寧を勝ち取る為に、今はこのひとときの日常を噛み締めよう。

(´・ω・`)本日、めでたく二作品目の書籍化作「パラダイスシフト」第一巻が発売されました。

この五巻で登場する『イクス』の来世の物語となっております。

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