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電子版書籍四巻特典SS

(´・ω・`)こちらは電子版限定の特典SSとなっております

 リュエさんとレイスさんの日常




「おはようリュエちゃん。今日も来てくれたのかい」

「もちろんさ。昨日『明日はいよいよ田植えだ』って言っていたじゃないかお婆ちゃん。私にもやらせておくれよ」

「よしよし、本当にリュエちゃんは良い子だねぇ……」

 私とレイスは、初めて農家のお手伝いの依頼を受けたあの日から、毎日このお婆ちゃん達のとこの依頼を受けている。

 報酬は少ないけれど、お昼になればみんなでご飯を食べて、そしていろんな話を聞かせてくれる。私には、それが何よりもの報酬なんだ。

「ふふ、すっかり気に入られましたね、リュエ」

「少し照れくさいけれどね」

 そしてレイスも『なんだか昔を思い出します』と、私と一緒に土にまみれていろんな作業をさせてもらっている。

 なんだか、ちょっとイメージと合わないような気がするけれどね。

 私のイメージでは、お屋敷の窓辺のイスに座って、のんびり優雅に過ごしているような、そんな印象だったのだけど。

「ほらほら、リュエ、早く作業着に着替えませんと」

「あ、うん!」

 けど、私よりも手早く、少しだけ地味な長ズボン姿になるレイス。

 ふふふ、なんだか凄いギャップで可愛いね。


 ジャブジャブと、水の張ったタン・ボーに入っていく。

 私は手渡された、小さな草みたいなもの、苗って言うらしいのだけれど、これを決められた場所に植えていく。

 チラリとレイスの様子を窺えば、私よりも遥か先まで進んでいた。

 負けてなるものかと、こちらもペースを上げるけれども――だめだ、レイスの方が先に終わっちゃった。

 うーん……なんでも出来るなぁ。

 少し遅れて私も自分の分を済ませると、レイスが私に冷たいお茶を手渡してくれた。

「お疲れ様ですリュエ。これ、お米のお茶だそうですよ」

「へ~! お米ってお茶にもなるんだねぇ」

 一口飲んでみると、なんだか香ばしいような、お腹が空くような香りが口に広がった。

 面白い味。少しお塩を入れても美味しいかもしれないね。

「それにしてもレイス速いよ。初めてなんだよね?」

「ええ。ですが、元々家庭菜園や、花壇の手入れでこういった作業には慣れているんです」

「なるほど……私は自分で作ったことなかったからなぁ。いつも森の中から好き勝手取り放題してたから」

「それはそれで、少しだけ贅沢な気もしますね」

 確かに、森になっていた木の実や薬草は、他の場所ではあまり見かけないものばかりだった気がする。

 ふふ、なんだか懐かしいなぁ。カイくんに手伝ってもらって乾燥用に仕分けたりしたっけ。

 この町にいると、自然に囲まれて暮らしていた思い出が沢山蘇ってくる。

 勿論、楽しい事ばかりじゃあなかったけれど……でも、ここに住む明るく優しいみんなと過ごしていると、そんな嫌な思い出なんか忘れてしまいそうになるよ。

「おーい! 二人共、そろそろ休憩にするどー」

 語尾が面白い声を掛けられ、二人で顔を見合わせる。

 少しだけ笑いながら、その声に従うことにした。


   ***


「レ、レイスさん、これ俺の所の畑で取れた野菜で作った燻製なんだけど」

「お野菜の燻製ですか? 初めて食べます」

 昼食になると、他の場所で作業をしていた人達も一緒に食べることになった。

 最近カイくんが召喚者……解放者の仲間に選ばれたことで、町の酒場に入り浸っていた農家のみんなの子供や孫が、こっちに戻ってくるようになったんだ。

 けど、今ではもうすっかりレイス目当てみたいだね。

 ダメだよ、レイスの胸ばっかり見てちゃ。

「リュエちゃん、ちょっとこれ食べてごらん。去年とれた大根を塩漬けにした後に燻製にしたんだ」

「むむ、ありがとうおじさん。どれどれ……へ~大根ってこんな食感になるんだねぇ」

「これは知る人ぞ知るこの町の特産でね。特別に分けてあげよう」

「いいのかい? 嬉しいよ」

 けど、ここ最近よくみんなが変わったものを私に食べさせてくれるんだ。

 どれもこれも美味しくて、密かに私のアイテムボックスの中に秘蔵の美味しいものが溜まってきているんだよね。ふふ、今度カイくんをびっくりさせてやろう。

 む? レイスが手招きしてる。どうしたんだろう?


「はぁ……めんこいなぁリュエちゃん。こんな良い娘っこそうそういねで?」

「んだなぁ……ついなんでも食わせたぐなってしまう」

「おいの倅と結婚してけねべが?」

「無理だ無理だ」


   ***


 レイスが、いろんな色の野菜の燻製を分けてくれた。

 それを持ってきた若い子が少しだけ、複雑そうな顔をしていたけれど……ははーん、さてはレイスと分け合いっ子したかったんだね? ふふふ、残念お姉さんが許さないよ。

「リュエ、これなんてどうでしょう? 人参の燻製だそうですよ」

「おー、これは他のよりも香ばしいね。お酒に合いそうだねぇ」

「そうですね。後でカイさんにも分けてあげませんと」

「ふふ、カイくんはお酒が好きだもんね」

 今日もカイくんは火山に向かっている。

 最近、目に見えて疲れが溜まっているのが私の目から見てもわかるのだけれど、彼は私の回復魔法を受けてくれないんだ。

 曰く『せめて疲労くらい共有しないと不公平だ』なんて。ふふ、変なところで義理堅いんだよね、カイくんって。

 そして毎晩、彼は寝る前に少しだけ、私達と一緒にお酒を飲んで、今日一日どんな事が起きたのかを語り合う。それが、毎晩の楽しみなんだ。

 お昼はレイスと一緒に、初めての作業をいっぱいさせてもらって、夜には美味しいご飯を食べて、温かい温泉に入って。そして、寝る前におしゃべりして同じ布団で眠る。

 ふふふ、ふふふ、楽しいな。レイスが毎晩そわそわしている姿も可愛いし、カイくんが少しだけ焦ったようにこっちを見つめてくるのも可愛いし。

 毎日が楽しくて楽しくしょうがないんだよね。

「な、なぁリュエちゃん。さっきレイスさんが言っていた『カイさん』ってのは?」

 さっき美味しい物を分けてくれた男の人が、小声で私に尋ねてきた。

 どうしようかな、一言では説明出来ないくらい大切な人だけれど――ここに来てからは少なくとも、こう名乗っていたからね。

「カイくんは、私とレイスの旦那さんだよ」

「……だん……な……? 二人……」

 それを教えてあげると、男の人はふらふらと何処かに行ってしまったんだ。

 うーん、やっぱり二人もお嫁さんがいるのはおかしいのかな?


   ***


「ただいまーカイくん。今日はお酒のおつまみになりそうな物を分けてもらったよ」

「ふふ、なんでも、お野菜のピクルスをスモークしたものだそうですよ。これ、なかなか活用の幅が多いとお見受けしました」

「ん? お、『いぶりがっこ』じゃないか。そうか、こっちの世界でも作られていたのか」

 私達が帰ると、カイくんが丁度鎧の整備をしているところだった。

 何か汚れがついているらしくて、一生懸命ゴシゴシとこすっていたみたい。

「カイさん、今日は沼地にでも行ったんですか? 随分と汚れていますけれど」

「いやぁ、今日帰り道にどこからか泥団子が飛んできたんだ。『女の敵―!』って叫びが聞こえてきたんだけど、なんだったのかねぇ」

「……カイさん、誰かに手を出したんですか?」

「いやいやいや! それはない、絶対にありえない!」

 ……泥団子? カイくんは誰かにいじめられているのかなぁ。

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