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書籍版四巻特典SS

(´・ω・`)これはナオ君たちとぼんぼんが最初にダンジョンに向かった後のお話です

リュエさんと温泉卵




 夕日が差し始める宿の裏手。そこに野営用の調理道具一式を広げる。

 鍋に入れた水を温め、そろそろ火を弱めようと薪の数を減らしたところでリュエが――

「ダメダメダメ、そんな温度じゃ卵が固まらないよ。ちゃんとお水がボコボコするまで火を強めて強めて」

「いやいや、これでいいんだってば。とりあえずですね、貴女には温泉卵というものを味わってもらわなければならないんです。そして己の罪深さを知るのです」

 どうも、みなさん卵茹でてますか?

 天然温泉で温泉卵を作るという素晴らしい計画が頓挫した傷心中のぼんぼんです。

 どうやらリュエはゆで卵に対して一家言あるらしく、珍しくこちらの作業に対して口を出してくる。

 いやいや、しっかりとあの『とろとろでねっとり』をですね、体験してもらわないと。

「リュエ、危ないですから離れて待っていましょう。私も少し気になります」

 ちょこちょこと火の周りをうろつく彼女に、レイスが注意を促す。

「うーん……ボコボコから四分半、お湯から上げて二十秒が理想なのに」

「なるほど……それであのとろとろのゆでたまごが出来るのですね」

 恐らく彼女自ら研究した結果が、あの極上のとろとろゆで卵だった訳か。

 確かに頂いたあのゆで卵も素晴らしく美味しかったわけだが……温泉卵はゆで卵とは一味違う。もはや別物だ。

 ふつふつと沸き始めた湯に水を加えて温度を下げる。

するとそれを見ていた彼女が、案の定『ああ! なんで入れちゃうの!』と非難の声を上げる。

なんだかその反応が想像通りで、つい笑みを漏らしてしまう。

「大丈夫、今から作るのは……そうだな、魔法の卵だ。楽しみに待っていなさい」

「本当かい……?」

 鍋の中に指を入れ、その熱さに一瞬だけ耐え温度を計る。うむ、ちゃんと適温だ。

 この辺りは経験則である。

 そこに卵をそっと沈め、火を止めて蓋をする。そこにさらに闇魔法を使い、鍋全体を覆ってしまう。

 闇属性は、熱を奪う事も出来れば、それを保持する事も出来る。

 つまり現象に作用し、自由に操作出来る属性だと俺は思っている。

 まぁこの考察が間違っていたとしても、分厚い塊で覆えば保温効果も上がるだろう。

 後はこのまま三◯分待つだけで完成だ。

「火から離してしまってもいいのですか?」

「ああ、後は予熱で火を通すんだよ」

「なるほど……しかしなかなか想像できませんね。私も、ゆで卵はいつも沸騰させて作っていましたから」

「そうだよ、ゆで卵は沸騰しないと固まってくれないんだよ?」

「まぁまぁ、それは完成してからのお楽しみってやつですよ」


 それから三◯分。ついにやって来ました完成の時。

 闇魔法を解除して、すぐに卵を引き上げ冷水に浸す。

 そして粗熱がとれたのを見計らい――

「……完成だ。これを、ダンジョン探索の終わりに食べる計画だったんだよ今日は」

「むっ。私のゆで卵だって美味しかっただろう?」

「もちろん美味しかった。今度また作っておくれ。あれで味付け玉子を作るから」

「また聞いたことのない卵料理の名前が出てきた。うーん、卵って奥が深いねぇ」

 しきりに関心している彼女に、小さな器を一つ手渡す。

 そしてレイスが完成した卵を手に取り、まるで普通のゆで卵の様に殻を剥こうとしたので、慌ててそれを静止させる。

「え、まさかこのまま食べるのですか?」

「ノンノン、普通に卵を割るように、この器に割り入れてみてくださいな」

 並んで座り、二人が一緒のタイミングで卵をコツンとテーブルに当てる。

 その姿がなんだか微笑ましくて、言いようのない気持ちが胸を満たしていく。

 ああ、これが萌えというやつなのだろうか? いや、違うか。

「あ、やっぱり固まっていないよこれ」

「そうみたいですが……色はしっかり白くなっていますね……」

 そんな反応を見せる二人に、お手本の様に自分も器に卵を割り入れ、ちゅるんと一口にすすってみせる。

 ああ……とろとろなのに黄身がねっとり……醤油もなにもかけていないのに、卵の甘みを感じますな。

「さぁ、真似してみてくださいな」

 器を持ち上げ、ちゅるりと口の中に流し込む二人。そして、その触感に驚いているのか、二人の瞳が大きく開かれる。

「……美味しい……なんだこれ……美味しい」

「ポーチドエッグともまた違う……確かにこれは、癖になってしまいます。あの、もう一つ頂いても良いですか?」

「もちろん。大量に作ってありますので、今度はこの出汁醤油や塩、オリーブオイルなんかも試してみてください」

 夢中で卵を割る二人を眺めながら、俺ももう一つ頂きます。

 うむ、温泉卵布教作戦大成功だ。


 後日。町の食品店の全ての卵が買い占められたという話を聞いたのだが、たぶんうちの娘さん達は無関係ですよね? 

毎日の食事にいつの間にか温泉卵が三つ程追加されていましたが、きっとこれは宿からのサービスなんですよね?

「二人とも。温泉卵は一日一つまでです」

「「えー!」」

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