書籍版三巻特典SS3
(´・ω・`)前回に引き続き船での一幕です
『リュエさん料理を覚える』
「カイくん、今日はこんな大きな魚を貰ったよ」
船旅を始めて三日。すっかり船の揺れにも慣れ、他の乗客との仲も深めていたリュエが、今日も今日とて釣り人から釣果を分けてもらってきた。
「へぇ、初めて見る魚だな……シーラにも似てるけれど」
「カイくんにも知らないものがあるんだね。どうしよう、これ食べられないのかい?」
こちらの反応に雲行きが怪しくなってきたのを感じたのか、嬉しそうな彼女の表情が少しだけ陰りを見せていた。
いやいや、そんな顔しなさんな。見たことなくても魚は魚、やって出来ない事はない!
「大丈夫、任せなさい。ちょっと試行錯誤が必要かもしれないけれど」
「本当かい!? じゃあ厨房を借りようか」
嬉しそうに魚を掲げて駆け出す姿に、俺だけでなく周囲の人間までもが微笑みを浮かべておりましたとさ。
「とは言ったものの、どうしたもんか」
「カイくん、こんな大きいのも捌けるのかい?」
「ああ、それは問題ないよ。似た魚なら知ってるし、体の構造だって大差ないだろう」
まな板の上には、一メートル近い大きさの魚が鎮座している。
何はともあれ、まずは三枚におろさなければ始まらない。早速闇魔術で大きめの包丁を作り出し、その身をおろしていく。
「ふむ、結構肉質は軟らかい方かな」
「お、おお……相変わらず綺麗にさばくね」
横ではしゃぐリュエにいい所を見せようと、手早くササっとこの巨体を三枚におろす。
すると、どうやらこの魚は白身魚のようで、まるでヒラメの様に繊細な肉質をしていることが分かった。ふむ……ならまずは定番のアレを試してみようか。
「リュエさんや。今日はこいつをムニエルにしようと思います」
「ムニ……あ! 覚えているよ、前に森の中で作った事がある料理だろう? カリカリしてる焼き魚!」
「ははは、たしかに焼き魚だな。そうだ、ムニエルはそんなに難しいものじゃないし、リュエも一緒に作ってみようか」
「わ、私がかい? 無理だよ、ただの焼き魚なら作れるけれど、あんな風に焼くなんて出来ないよ」
このリュエさん。作れる料理がポトフと焼き魚(塩焼き)とサラダだけというなんとも男らしいというか、少々レパートリーに乏しいエルフさんではありますが、魚の焼き加減だけはこちらも舌を巻く程だったりするんです。
恐らく、温度に密接にかかわる氷魔術に精通しているから、温度の変化には敏感なのだろう。
「大丈夫、作り方は教えるからやってみようか」
「うーん、分かった。頑張ってみるよ」
さて、じゃあまずは基本的な準備から始めましょう。
よく手を洗ってもらい、スカーフを取り出し三角巾にして髪を纏めてもらう。
俺もこの体になってからは、料理をする際にこの長い髪を結ぶようにしているし、同じく髪の長い彼女にも纏めてもらわなければ。
「うんしょ……どうだい、似合うかい?」
「おしゃれ目的でやらせたわけじゃないけれど、とてもよくお似合いです」
「素直に褒められると照れるんだけど……」
いつもと印象の違う彼女の姿に癒されながら、俺は三枚におろした魚をさらに切り分けていく。
よく店頭で見かける切り身と同じように切り分けたそれを、彼女と自分の前に並べ、興味深そうに切り身とこちらを見比べている彼女に指示を出す。
「じゃあ、今から俺がやるのと同じ事をするように」
「じゃあ、今からカイくんがやるのと同じ事をするよ」
「話す言葉まで真似しなくていいです」
「話す言葉まで真似しなくていいんだね?」
「こいつめ」
「ひゃ」
軽く小突く真似をすると、ケラケラと笑いながら彼女がそれをかわす。
……こんな他愛のないやり取りが、たまらなく楽しい。
そうして俺達は、魚に下味をつけ、小麦粉をまぶすところまでを終わらせる。
実際、こだわらなければこれだけで下準備は済んでしまい、後は焼くだけだ。
フライパンでバターを溶かし、じっくりと焦がさないように魚を焼いていく。
そして隣で彼女もまた、同じようにフライパンの上の切り身を睨みつけるようにしながら火を通していく。
「こうやって、スプーンでたまった油を切り身の上にかけてあげるといいよ」
「なるほど……面白いね、粉をつけただけでただの焼き魚と全然違う見た目になる」
「小麦粉はすごいぞ。シチューだってグラタンだって、全部小麦粉から作るんだから」
「凄いね……小麦粉は凄い……」
しみじみと呟く彼女を微笑ましく思いながら、料理を仕上げていく。
そして焼き上がったムニエルを盛り付け、付け合わせに簡単なサラダとスープを作ったところで、本日も厨房で頂きます。
見ればリュエの作ったムニエルもまた、表面が綺麗な薄狐色に焼かれ、申し分のない出来栄えだった。
やはり温度管理だけみれば、彼女は料理に向いていると言えるのではないだろうか?
「さて、じゃあ頂こうか」
「う、うん。大丈夫かな、私が作ったの」
不安そうにしながら、彼女はナイフでムニエルを切り分け自身の口へと運ぶ。
それを見届けながら、俺も一口。……ああ、美味い。誰かと一緒に作ったとなるとそれも一入だ。
「カイくん、凄い! 魚がパリパリでじゅわっとする! これ私が作ったんだよね」
「ああ、そうさ。割と簡単だったろう?」
「うん! 凄いね、こんなに簡単に美味しいものが作れてしまうなんて――」
すると彼女は、やや溜めた後にこう告げた。
「凄いね! 幸せになれる魔法の白い粉だよ! あれは!」
……その言い方は誤解を生みかねないのですが!




