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書籍版三巻特典SS2

(´・ω・`)セミフィナルに向かう船に乗ってすぐの頃のお話です。

『リュエさんの禁止猟法』






 船旅を始めて三日目。

 病み上がりにお酒を飲んでしまい、再びベッドから起き上がれなくなってしまった彼女の為に、看病の定番であるリンゴでも剥こうと部屋を訪れたのだが、なんと彼女、もう回復魔法を自重する気がないのか、すっかり元気な様子でこちらを出迎えた。

「やっぱり貴重な船旅だからね、船酔いに慣れる為だとか、そういうのはどうでもいいと思うんだ私は」

「ではこのリンゴさんはどうしてくれましょうか」

「あーん」

 餌を待つ雛鳥のような仕草をする彼女の口に、可愛らしいウサギさんを押し込むのだった。


 さて、本日も晴天なり。という訳で昨日に引き続き釣りを楽しもうと甲板を訪れたわけだが、旅行客相手に釣り道具や日傘、その他時間を潰すための書籍を販売している出店を見つけ、背後にいたリュエに提案する。

「せっかくだしリュエも釣りをしないかい? 二人でやれば昨日より沢山釣れるかもしれないぞ」

「うーん……実は私、釣りは苦手なんだよね。見てるだけでいいよ?」

「そうなのか? 焼き魚が得意みたいだし、自分で川で釣りなんかしたりは?」

 彼女の暮らしていた森には、小川も存在し、小さな泉や滝も存在していた。

 一年を通して気温が低い土地ではあるが、魚もしっかり存在していたと思うのだが。

「確かに家の近くの川にも暖かい季節になると魚が上ってくる事もあったけれど、どうしてもじっと待つのが性に合わなくてさ」

「なるほど。案外短気だな、リュエ」

「む? 違うよ、なんだか魚にバカにされてるみたいで気に入らないんだよ。いつも餌ばかり持って行かれてムカッときちゃうんだよ」

「ははは、なるほど。まぁ向き不向きはあるしなぁ」

 何故だろう、餌を取られて悔しそうに地団駄をする彼女の姿が脳内にありありと思い浮かぶ。声すら聞こえてきそうだ。

 ともあれ、無理強いする事もないだろうと本日も一人甲板から竿を出す事にする。

 実は先日、他の乗客にコツを教えてもらったのだ。この船の航行速度は一定ではないらしく、日が高くて風が吹いている時間は速度を緩め、燃料である魔力を節約するらしいのだ。

 で、この時間こそが釣りをする絶好の機会という訳だ。

「せーの……ソリャ!」

「あれ? 今日は遠くに投げるんだね」

「大きい魚を狙うなら疑似餌を遠くに投げて、巻きながら釣れば良いらしいんだ」

「ギジエ……?」

 早い話がルアーフィッシングだ。日本にいたころも湖沼でよく挑戦していたが、海でとなるとあまり経験がない。

 彼女にどういうものか説明しようと、予備のルアーを取り出してみせる。

「ほら、金属や木を加工して本物の魚みたいな形にするんだ。これに騙されて大きな魚が食らいついて、仕掛けてある針に掛かるというわけさ」

「おお……! つまり魚を騙すわけだね! ふふふ、いつもこっちをバカにする魚を騙すなんて楽しそうじゃないか」

 あ、やっぱり魚に対抗意識燃やしてたんですか貴女。

 すると彼女も興味が湧いたのか、予備のルアーを手にし、自分のバッグ――家の倉庫と繋がっている四次元ホニャララのようなそれから、竿を取り出してみせた。

「ふふ、実は自作の竿は持っているんだ。一度も釣り上げた事はないけれど」

「おお! 凄いな、よく出来てるじゃないか」

「集落に残された竿を参考に色々研究したんだよ。時間だけは沢山あったからね」

 む、ナチュラルに心にくる事を言いますね。なでりこなでりこ。

 キョトンとしながらも、竿を褒められたと思ったのか彼女は自慢げに竿について語り始める。

 曰く、山深くに自生している丈夫な木の、まだ若い枝を加工して作った逸品だとかなんとか。

「折れない、そしてよくしなる! ガイド部分は糸の滑りがよくて負担が少なくなるように磨いて木の実の油を染み込ませてあるんだ!」

「凄いな、磨き抜かれたウォールナットみたいだ」

「ふふん、凄いだろう? じゃあさっきのギジエを借りるね」

 せっせと仕掛けを準備した彼女が、意気揚々と海に向けて竿を振る。

 その姿が非常に堂に入っており、恐らく相当な年月を釣りに費やしていたのだろうと推測させてくれた。……一匹も釣れなかったようだが。

「これで糸を巻き取ればいいんだよね。私の巻取り機でも大丈夫かな?」

「おお、リールも自作なんだ。たぶん大丈夫じゃないか? ほら、こんな風に一定周期で巻いたり緩急をつけるんだ」

 すると彼女も楽しそうに糸を巻き取ったり、途中で疲れたかのように勢いを緩めたりと楽しそうに釣りを楽しみだす。

 そんな姿を眺めながら、俺も巻き終えた疑似餌を再び海へと投げ入れるのだった。


 それから一◯分。ついに待望の当たりが竿に伝わる。

 針が魚の口に深く刺さるように勢い良く竿を立ててから、じっくりと糸を巻き取り始める。

 そしてその横では、すでに不貞腐れた様子で海を眺めるリュエさんの姿が。

「いいですねーカイくんは魚が釣れてー! どーせ私は下手っぴですよー」

「ははは、諦めるのはまだ早いって」

「いいんだいいんだー。私には魚を絶対に捕まえる秘密兵器があるんだから」

「それはっ! 聞き捨てならない……な!」

 これはかなりの大物じゃないのか? 竿のしなりが許容範囲を超えてしまいそうだ。

 それでも必死に糸を巻取り、少しずつ糸の先がこちらに近づいてくる。

 そしてようやくチラリと海面に魚影が見えた次の瞬間だった。

 ボキリと、竿が折れてしまった。するとその瞬間糸の緊張が緩み、一瞬の隙を見て魚が逃げ出してしまった!

「ああ! ここまできたのに!」

「まかせて!」

 すると次の瞬間、甲板から身を乗り出したリュエの指先から一筋の光が放たれる。

 それは吸い込まれるように海へと向かい、海中で光ったのが確認できた。

 そして、ゆっくりと何かが浮き上がってくる。

「ふふん、どうだいカイくん。これが私の秘密兵器さ! 雷の魔法だって使えるんだからね」

 彼女は海水ごと凍らせた魚をゆっくりと甲板まで浮かび上がらせ、自慢げに胸をはっている。

 そういえば……リュエが雷の魔法を使うのは初めて見たな。

「どうだい? 私はこの方法でこれまで魚を捕まえてきたのさ。凄いだろう?」

「ああ……うん……それ、俺のいた世界だと禁止漁法だったんだ」

「そ、そうなのかい? すごく便利なのに……」

「他の人が気にするかもしれないから禁止ね」

「じゃ、じゃあ海を爆発させてその衝撃で魚を気絶させるのはどうだい?」

「……釣り以外禁止」

 リュエさん、それも禁止漁法です。


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