書籍版一巻特典SS
(´・ω・`)お久しぶりです。
そろそろ公開しても大丈夫かと思い、書籍版の専門店購入特典のSSを掲載していきます。
今回のお話はSSの時系列で最も古い、リュエと暮らし始めてすぐのエピソードとなります。
『彼女の困った生態』
リュエの家で暮らし始めて三日。
家の中での役割や取り決め、この森の基本的な知識を教わっていたある日のこと。
俺は自分の身体が変わりどんなことが出来るようになったのか知るために、剣の素振りやゲーム時代の剣術、その他簡単な運動を行いそのスペックを確認していた。
興味深そうにリュエが見守る中、想像以上によく動く身体に内心はしゃぎたくなるのを抑え、黙々と動き続けようやく一息つく。
「たいしたものだね。じゃあ汗もかいただろうしお風呂の準備でもしようか」
「あ、そういえばお風呂のこと忘れてた」
「私はあまり身体が汚れないから意識していなかったけど、カイ君はヒューマンだからね、私もうっかりしていたよ。少し待っていておくれ」
ちょっと驚きの生態を知るも、彼女はそのまま家の中へと戻り、俺も後へと続く。
エルフさんはあまり汚れないのですか……ファンタジーというかなんというか、いつもいい匂いがしているけれど、それもエルフの特徴なのだろうか?
「ううむ、謎だな」
この家はパッと見小さな山小屋のように見えるが、奥行きがあり、俺が使っている部屋の他にもまだ空き部屋がある。
その他にもまだ知らない扉があるので、恐らくそこがお風呂場なのだろう。
少しすると彼女から準備が出来たと声がかかり、早速その場所へ向かう。
「私はよほど寒いときじゃないとじっくり湯船に浸からないんだ。温度はこのくらいで大丈夫かな?」
「おお……オール木製。温度もばっちりだ」
案内されたのは、まるでヒノキ造りの温泉のような立派な浴室だった。
五右衛門風呂のように外から加熱する方式でなく、なにやら湯船に丸い円盤が沈んでおり、どうやらそれが水を温めているらしい。
「じゃあお先にどうぞ」
彼女が出て行ったのを見計らい、逸る気持ちを抑えきれず脱ぎ捨てるように装備を解除しいざ浴室へ。
掛け湯をし、その絶妙な湯加減に満足し、ゆっくりと湯船に浸かりため息をつく。
「ふぅ……やっぱり種族が違うといろいろ違うものなんだなぁ……」
じんわりと染み込んでくる熱に意識を蕩けさせながら、そう呟いたのであった。
入浴後、着替えて居間へ戻ると、リュエが籠を片手に待っていた。
見ればそこにはバスタオルなどのバスセットが入れられ、まさにこれからお風呂に行きますよと言わんばかりの恰好だ。
「あれ? もう上がってしまったのかい? じゃあ一人で入ってこようかな」
「なんだと……」
冗談だろ、まさかそんな……一緒に入るつもりだっただと!?
……いやいや、さすがにからかっているんでしょう。
彼女を見送りながら、そう自分に言い聞かせ暖炉の前で髪を乾かす。
うん、炎って気分を落ち着かせてくれるよね、ぼんやり見つめながら、先ほどの言葉の真意を考える。
そうだ、あれは彼女なりの冗談で、信頼の証みたいなものに違いない。
いくら人種が違っていても、貞操観念まで違うとは思えない。
それに、エルフと聞くと厳格というか、そういうことを神聖視しているようなイメージがある。
だがしかし、俺のその考えは数分後、あっさりと打ち破られるのだった。
「ふぅ……お風呂は火とはまた違った温かさがあるね。気持ちよかったよ」
背後からそんな感想が聞こえ、俺は湯上り美人を堪能しようとやや期待を込めて振り返る。
しかし、俺の意識を一瞬で持って行ってのは――綺麗な白い素肌だった。
「あ、バスタオル忘れてきちゃった」
何事もなかったかのように歩いて戻る彼女の形の良いヒップに目を奪われながら、唖然とし再び炎を見つめる。
「……全裸で出てくるとは予想外ですよお兄さん……興奮よりも驚きでいっぱいです」
貞操観念とはなんだったのか。そして、あの提案はもしかしたら本気だったのではと深い後悔の念に囚われるのであった。
翌日、最近すっかり俺の仕事になりつつある、中々起きてこないリュエを起こしに彼女の部屋へ。
ノックをしても案の定返事がなく、部屋へ入ってみると少しだけ寝苦しそうな顔をした彼女がもぞもぞと布団の中で身じろぎしていた。
「リュエ、そろそろ朝ごはんが出来るよ、起きてくれ」
「う……」
「ほら、布団の中よりも暖炉のある部屋の方が暖かいから」
寝覚めが悪い彼女を起こすため、俺は布団に手をかける。
そしていざ布団を剥ごうと思ったところで彼女の鎖骨が見え、俺は咄嗟にその動きを止める。
「今日は寝間着を着ていないのか……」
間一髪で乙女の尊厳を傷つけずに済んだ俺は、もう一度彼女に起きるように声をかけ、眠そうな返事を信用し居間へ戻ったのだった。
今朝の朝食は昨日お風呂に入った影響か、妙に温泉卵が食べたくなったので、少し似ている巣ごもり卵を用意してあります。
配膳を終え、食卓に着き居間の扉をじっと見つめる。
さてさて、後何分で彼女は起きてくるだろうか。
そのとき、ドアノブが動きゆっくりと扉が開かれる。
「お、案外早かった。おはようリュ――」
「おはよう、カイ君。前の日にお風呂に入ると中々布団の外に出られないんだよね」
「……とりあえず部屋に戻って服を着てきてください」
「あれ? ごめんごめん、先に食べていていいからね」
一糸まとわぬ姿の彼女が、そそくさと自分の部屋へ戻る姿を見送りながら、俺はこれからの生活におおいなる不安と期待を抱いてしまいました。
仕方ないでしょう、俺だって男なんです!




