SS「彼女の午後」
(´・ω・`)ツイッターのお題を元に書いてみました
「ふぅ」
思いもよらぬ形で再び彼、カイヴォンとの時間を過ごすことが出来ましたが、相変わらず寿命が縮むといいますか、ペースを乱されるといいますか。
屋台コンテストは初日にアナウンスだけしたものの、中々書類仕事から抜け出すことも出来ず、今日のように調査員を派遣して話題のドングリメニューを持ってこさせるつもりでした。
コーヒーと聞いて是非淹れたてを飲みたいからと、店員を呼び出してみたのですが……。
「本当、私よりよっぽど物知りな人です」
彼はゲーム時代から、ことあるごとにおかしな知識、トリビアといいますか、雑学的なお話を語って聞かせてくれました。
たとえば、私が名乗る、ロールプレイに勤しんでいる豚、なかでもイベリコ豚についてのお話など。
思えば、私がドングリに興味を持ったのはそれがきっかけだったんですよね。
「ふふ、イベリコ豚が必ずどんぐりを食べるわけではない、ですか」
その話を聞いて、わざわざ資料を探して読みふけったりもしました。
まぁ、その時はこうして、自分がドングリを口にするなんて思ってもみなかったんですけどね。
「確か最初に食べたのは……シイのみでしたか」
思い出します、私がこの世界にきてすぐの頃、何も知らずにあんな場所に飛ばされて、地下牢に捕らえられたあの日の事を――
「まぁ思い出さないんですけどね」
嫌な思い出は思い出さない、これが楽しく生きる秘訣です。
ただ、あの日転がり落ちてきた一粒のどんぐりを、私は忘れません。
失意と困惑、そして絶望の中自暴自棄になり放り込んだ、あの細長い木の実。
自分が本当に豚になってしまったかのような、そんな自嘲じみた思いの中噛み砕いたあの味。
それがまさか、こうして好んで食べるようになるなんて。
「嫌な思い出は思い出さない、けれども自分の原点は忘れない。これはいわば、私の始まりの味なんですよ、ぼんぼん」
それを少しでも美味しく食べられるように、工夫を凝らし、こうして催しに取り入れる。
いつしかそれは戒めの為でなく、自分の嗜好の為にと変化していったのはいつからだろう。
「麺にパン、ケーキにムース……懐かしいですね」
きっかけはなんだったのか。
今のように書類仕事をしている時に、食糧難を解決する為にセミフィナル、つまりここから食料を輸入する際の資料の中に紛れていたのが始まりでしたか。
「たしか、まだ予算が少なく、少しでも低コストの食料を入手しようとしたんでしたよね……結局向こうにドングリ文化は根付きませんでしたが」
貴族がまだ幅を利かせる国ですから、家畜の飼料にも使われるものを食べるのに抵抗があるのでしょうね。
はぁ……道はまだまだ長そうです。
しかし、ドングリコーヒー、ラテならばもしかしたら受け入れられるのでは?
最近では変わったお茶を振る舞うのが、婦人たちのお茶会で流行っていると聞いています。
まずはそこから、徐々にドングリを浸透させるというのは決して悪い手ではないように思えるのですが……。
「これは是非ともぼんぼんに屋台大会で優勝していただいて、レシピを買い取らなければいけませんね……!」
カップに残っていたラテ、すっかり冷めてしまったそれを飲み干してため息をつく。
ああ……なくなってしまいましたか。
ちょっと自分で作れませんかね?
私は自分のおやつ兼コレクションであるドングリ達をメニュー画面から取り出しました。
「ぼんぼんからもらったトチの実に……マテバシイ、シイ、クヌギ……どれも綺麗です」
つやつやと、まるで磨き上げられた木製の家具に、ワックスをかけたかのような自然な光沢を持つ可愛い木の実たちにうっとりする。
なかでも最近のお気に入りは、ぼんぼんからもらったトチの実です。
ほぼまんまるの、それでいてちょっと可愛い模様がたまりません。
まるで、パンツを履いたボールのようで少しだけ間抜けなその姿に、自然と笑みが浮かんでしまう。
……これを食べたりするのはもったいないですね。
「そのまま食べても美味しいモノのほうがいいですよね……シイにしましょうか」
奇しくも、あの日口にしたそれを選びとる。
少しだけ伸びた爪を使い殻を向き、中身を取り出します。
ですが――
「……これをこのまま焼くのでしょうか? 試してみましょうか」
私は簡単な魔術しか使えないので、魔導式のランプと金属のお皿を取り出し炒ってみる。
……執務室で私は何をしているのだろうか。
カラカラと転がしながら、徐々に変色していくその姿を見つめる。
「……焦らされて、その身を焦がす」
つい、そんな事を呟く。
ふふ、何を言っているのでしょうね。
カラカラ、コロコロ。
まんべんなく、じっくりと、あせらないで少しずつ。
ゆっくりでいい、それでいい、それがいい。
「美味しくなれ、美味しくなれ」
ふふふ、まるで子供ですね。
少しづつ色づいて、美味しく、美味しく。
……変な意味じゃないですよ。
「本当に、貴方がいるだけて、退屈しませんよ」
コロコロ、カラカラ。
あっちにコロコロ、こっちにコロコロ。
可愛いですね、本当に。
(´・ω・`)気分転換にたまにこういうこともしていきたいとおもいます