後日談 セミフィナル大陸編3
(´・ω・`)これが、最後の暇人魔王の番外編となります
キャンプ用の広場は例年どおり大きく場所を用意してあるのだが、今年はそこまで人で埋まっている様子ではなかった。
曰く、宿泊施設が以前よりも増えたので、そちらで過ごす人間が増えたのだとか。
そんなキャンプ場の一角に、簡素な造りの小屋が一つ用意されており、そこには『ギルド正客ボン』と書かれた立て札があった。なるほど、ここが俺の為の宿泊スペースか。
凄いな、まだ半日も経っていないのに用意出来てしまうのか。
料理の調整をしようとすると、どうしても強い匂いや燻製の煙が部屋に沁みついてしまうので、さすがにホテルのスイートルームで繰り返し作業する訳にもいかないから、と用意してもらったのだが……いいな、ここならそこそこキャンプ客もいるし、良い宣伝になる。
俺は早速、闇魔導で簡易的な燻製窯を作り出し、調味料や油を燻製し始める。
「あー……こういうスローライフな生活って憧れるよなぁ……」
上がり始める煙を見上げながら、しみじみと時間の流れに身を任せる。
こうしてはいられないな。早速キャンプ道具一式をセットしないと。
「この肉って確か近くの農業区画で最近始めた畜産業の産物なんだっけ」
安くて新鮮な鶏肉を切り分け、段々と発展していく都市の在り方に『いつかはこの世界も地球のようになるのだろうか』なんて考える。
切り分けた肉を調味料に軽く漬け込んだり、燻製の様子を見たり……そんなこんなで肉を焼き始める頃には、暴力的なまでの良い香りが周囲に広がっていく。
やっぱり醤油はいいな、燻製醤油だからさらに良い香りだ。
早速完成した肉を切り分け、一口食べてみる。
「うーむ……漬け込み時間もう少し短くてもいいか? つけダレにもう少し香辛料とか砂糖入れてみるか……後はもう微調整で完成だな」
気が付くと、キャンプ場を照らす日差しが朱に染まり始めていた。まさかここまで時間が経っていたなんて。
「人も増えてきたな……今年の収穫祭も盛り上がりそうだ」
そうして、俺はさらに肉を焼き上げていく。やっぱりアイテムボックスは偉大だな。出来立てを保持出来るんだ。つまりこの焼き立てで肉汁が滴る状態、パリっと焼き上げられた皮の食感も保持して、レイスやリュエのお土産に出来るという事なのだから。
「な、なぁアンタ、それ少し分けてくれねぇか?」
「頼む、金なら払うからな! 飯屋がどこも満席なんだよ!」
すると、キャンプ場の利用客がこちらに声を掛けてきた。
おお、宣伝効果も狙えそうだな、ここは是非営業をかけておかないと。
「構わないよ。今度ここの屋台コンテストに出すメニューの試作品なんだ、是非宣伝してくれ。はいどうぞ」
焼いた肉を串に刺し差し出すと、客たちはもう我慢できないと言わんばかりにかぶりつき、一様に『うめぇー!』と声を上げる。
うむ、今回は沢山動いた冒険者に受けそうだな。それに酒のつまみにもなる。
もう数本売り、それを嬉しそうに持ち帰る客達もまた『良いつまみが手に入った』と喜んでいた。
「去年は串物は控えていたが……買う人間が大人に限られるようなら串もありかなー」
そんな、売り方の戦略を考えていた時だった。ローブ姿の小柄な人物が、おぼつかない足取りでフラフラとこちらにやって来た。
「……いい……匂い……お願い、それ分けて……お金の代わりにこれ……これと交換して頂戴……」
すると、その人物は懐から煌びやかなネックレスを取り出し差し出して来た。
うお……これ本物なら質屋にでも持って行けば良い金になるだろうに。
そう提案してみるのだが……。
「身分証明書がないから……だめだった。みんなも恐がって買ってくれない」
「……俺もそれはいらないけど、ほら、食べな。どうせ宣伝目的で振舞ってるんだ。遠慮せずに食べな」
なんだか不憫になって来たのでそう伝えると、その人物は両手で串を掴み取り、バクバクと食べはじめた。
が、その勢いでローブのフードが脱げると――
「な……お前エル! なにしてんだこんなとこで!」
「え……貴方誰? なに、私を連れ戻しに来たの?」
一目散に逃げだそうとするエル。それを急ぎ捕まえ、すぐにかぶっているマスクを脱いで見せる。
「俺だ、俺。変装中。お前どうしたんだよ、まるで浮浪者じゃないか」
「あ……カイさんだったのね……ヤダ……知り合いに見られたくなかったのに」
「……お前、少し前までギルドの訓練所で活躍していたんだろ? なんだってそんな恰好してるんだよ」
あまりの転落っぷりに、一体何があったのかを聞くべく、一先ず俺の簡易小屋の中に連れていく。
「……私、城を抜け出して来たのよ。結局どうあがいても私の利用法を模索するだけで、私の自由は得られない。全ての権利を譲渡してもまだ絞ろうとする家に嫌気がさしてね。さすがに、私を止めるだけの戦力は国にもないし。だから、手持ちのお金で船に飛び乗ってこっちに渡って来たって訳」
「なるほど。それで、冒険者登録はしたのか?」
「していないわ。王家に伝わる可能性もあるし。ただ、実力だけは証明出来たから、施設は使わせて貰えたのよ。誰だったかしら? なんだかイケメンと戦ったら『この女性も訓練所を使うべきだ』とか言ってくれてね、特別に許可してもらったの」
ふむ、もしかしてリシャルさんあたりだろうか?
「でも、冒険者じゃないから依頼も受けられないし……それに、みんなに頼るなんて格好悪いじゃないの。いざ飛び出した癖に、一文無しで仲間にたかるなんて」
「……まぁ、今は昔みたいに魔物も少ないし、金を稼ぐのも難しいか」
「私も、さすがに身体を売る気もなかったしね。まぁ最近はそれしかないかなって考え始めていたんだけど」
「……オインクに言えば、秘密裏に冒険者になる事も出来たんじゃないか?」
「まぁ……それもそうなんだけどね。これはあれよ、ちゃちな女のプライドよ」
ふむ……なんとなく、言わんとしている事は分かるかもしれない。
自分の力で地位を勝ち取り、絶大な支持を得ているオインクと、王家に取り入り、そして武力で勝ち取った己の地位とを比べてしまったのかもしれない。
ましてや、その地位も捨てた今、色々と思うところもあったのだろう。
「……もう俺に見つかったんだ、素直に仲間を頼りな。元々一般人だった俺達が地位やら力をいきなり手に入れたら参っちまうのも当然だろ。お前はこれまで、守られる立場にいたんだからことさらだ」
「……そうね。やっぱり私も色々焦っていたのかしらね……」
「暫くは冒険者として正式に働くと良い。その上でぶらぶら旅をすると良いさ。俺だって、オインクの下で冒険者してるんだから」
「あー……そっか。カイさんも冒険者だったわねそういえば……気にする事なんてなかったのかしら」
「そう言う事だ。 ほら、そんな恰好止めて着替えて風呂にでも入りに行くぞ。お前も女なんだ、そんな浮浪者一年生みたいな恰好でさまようのはやめろ」
「分かったわよ。一応変装のつもりでもあったんだけど……浮浪者に見えた?」
「正直かなり。ほら、ギルドのホテルに行くぞ。大浴場だってあるから」
なんとも難儀だな、と思いつつも、少し分かってしまう。
俺も、隣にリュエがいなければ、どうなっていたか分からないもんな。
「エルだ! ここに来てたんだね!」
「お久しぶりです、エルさん。セカンダリア以来ですね」
「うー二人とも久しぶり。うー……やっぱり仲間ってあったかいわー」
「二人とも、とりあえず浮浪者卒業生のエルを大浴場まで連れて行ってくれるかい?」
ホテルに戻り、二人にエルの世話を頼む。そして俺はその足でオインクの元へと向かう。
まぁ……豚ちゃんの事だ、エルがこの都市に来ていた事なんて知っていたのだとは思うが。
「おーい豚ちゃん。いるかー?」
『開いていますよー』
部屋に入ると、珍しく豚ちゃんが眼鏡をかけ、何やら書類の束と睨み合っていた。
なんだ仕事か? なら応接室か総帥室にいたらいいものを。
「ああ、これですか? これは私的な書類です。見てみますか?」
「ん? そんな俺が見たって何か分かる訳が……」
『親愛なるオインク・R・アキミヤ様へ』
『先日お贈りしたフラワーアレンジメントはいかがでしたでしょうか』
『オインク様の御姿をイメージし、我が家の庭師と芸術家と共に私めがデザインしました』
『もし許されるのならば、一度直接貴女に花を届けたいと考えております』
『今年の――』
「なんだ、ラブレターかこれ」
「ええ。同じような内容の手紙が大量に各地から送られてきます。去年も晩餐会の際には多くの人間が来ていましたが、こういう手紙を送る人間達なのですよ、主に私が踊っていた相手は」
「さすがにモテモテだな、救国の聖女様は。それで、気に入った相手の手紙でも探していたのか?」
「生憎、気に入った人間は手紙をくれませんから。これは捨てるにしてもせめて目を通してからという、せめてもの情けです」
「なるほど、律儀だな」
「ま、これは後回しでも良いでしょう。それで、手紙をくれない代わりに直接来た貴方の要件はなんでしょう?」
「お前反応楽しんでるな……いやな、もう知っているだろうが、エルがこの都市に来ている。冒険者登録をしたいみたいだが、王家から失踪同然の形で抜け出してきたからか、身元がバレるのを恐れているみたいなんだ。なんとか便宜を図ってやってくれないか」
「なるほど……こちらに来ていたのは知っていましたが、連絡もなければ登録する様子もありませんし、気にはしていたんですが……どうやら、私が出るまでもなかったようですね」
「ま、アイツも色々あるのさ」
「分かりました。現在、仮の名前で訓練所を利用しているようですので、その名前で冒険者登録をしておきます。それで、エルは今どちらに?」
「このホテルの大浴場。リュエとレイスと一緒のはずだ」
「おや? そうだったのですか。では私も浴場に行ってきましょうか。ぼんぼんはどうします?」
「どうするもなにも……一緒に入る訳にもいかんだろ。俺は部屋のシャワーで済ますさ」
「分かりました。しかし、いいタイミングでエルがこちらに合流しましたね。実はダリアから連絡があり、今船でこちらに向かっている最中だそうです。明日の夕方には商業区の運河に船が到着するそうなので、よければぼんぼんが出迎えてくれませんか?」
「そりゃ構わないが、お前はどうするんだ?」
「私は各地から集まる領主の出迎えがありますので、そちらを優先しなければならないのです。夜には解放されますので、皆で集まりましょう。場所は押さえておきますので」
「ふむ……ああ、そうだな。……お前の夢、思ったよりも早く叶いそうだな」
「……ええ。察しが良くて助かります。夜になったら皆で向かいましょう?」
そう語るオインクは、心の底から嬉しそうに、優しく微笑みを浮かべていた。
……俺達がどこに集まるのかって? そんな物、聞かなくても俺は分かっている。
「では、私は浴場に行ってきますね」
「ああ、しっかり茹でられて来い。俺はタレでも作っておくさ」
「そんなー!」
部屋に戻り、俺は一人ソファに腰かけ、今の愛剣を取り出した。
ぐ~にゃが最後に残した、空色の長剣。
何かを奪い続けてきた俺を戒める、誰かから信頼を受ける為の剣『絆剣 グランディア』。
それを眺めながら、今はいない友に語り掛ける。
「……久々に、全員が集まるな。前の時はお前、いなかったからな」
ただ静かに照明を反射する刀身に、構わず語り掛ける。
「……たぶん、この世界は俺達の手で少しずつ変わっていくんだと思う。それはもしかしたら、本来グランディアが歩んでいく歴史とは少しズレているのかもしれない。だが……俺達は、出来る限りこの世界の平穏が長く続くように尽くしていくつもりだ。だから安心して見守っていてくれよな、我らがチムマス」
オインクしかり、ダリアしかり。そして、俺もまた、地球の知識をこちらに持ち込んでいる。それはきっと、長い年月をかけてこの世界に大きな影響を与えていくのかもしれない。
だが、俺は誓おう。この世界から万難を払い、争いの芽を摘み続けると。
まぁ、その役目は途中でオインクやシュン、ダリアに譲るんだけどな。
「……収穫祭が終わったら、エンドレシア王に面会に行くか」
俺もまた、この世界に取り込まれよう。世界の輪に、生命の営みに。
そんな、いよいよ自分の自由気ままなぶらり旅に一区切りをつける決意をし、俺は静かに意識を微睡に向かい手放すのだった。
「さすがにもう起こした方が良いんじゃない? ソファで寝ても疲れは取れないだろうし」
「そうですね、もう日も上りましたし……エルさん、お願いします」
「カイくんを起こす時はね、脇腹を突くと良いんだよ」
微睡から抜け出そうとしていると、そんなやり取りが聞こえてきた。
心地よい眠気をなんとか追い払おうとしていると、唐突に脇腹を突く何者かの指。
「っ! びっくりした……あー……すっごい寝てたな俺」
「あ、ほんとに起きた。おはようカイさん」
「んあ? エルじゃないか。なんだ、この部屋に泊ったのか?」
「そ。誰かがベッドを一つ明け渡してくれたからね」
「なるほど……みんな朝食は?」
「あ、朝食なら買って来てあるよ。フードコートでらんらんロール! 今年いっぱいはあそこで買えるんだってさ」
「ふふ、やはり人気みたいですよ、これ」
「この肉巻きおにぎりってカイさん考案なの? 私さっき我慢できずに食べたけど、かなり美味しいわね」
リュエが差し出してくれたらんらんロールにかぶりつき、身体を起こす。
「あー昨日みんなが戻る前に寝ちゃったんだけど、今日ダリアとシュンがこっちに来るらしい」
「それならお風呂でオインクに聞いたよー。ジュリアちゃんやアマミ、レイラちゃんも来るんだってさ」
「ふふふ、とても賑やかになりそうです。確か夕方ですよね? それまで街を見て回りませんか? そろそろ飾り付けや催し物も増えて来ていますし」
「私のとこの大陸って、長らく戦争してたからこういうお祭りとは無縁だったのよねぇ。エルバーソン時代はスフィアガーデンで毎日お祭り騒ぎしてたけど」
「ん、そっか。じゃあ適当にぶらついてから、商業地区に向かおうか」
去年は居住区の収穫祭に参加したりもしたが、今はまだ正式に収穫祭が開催された訳でもないので、商会独自の催しや、地域住民、他にも大道芸などを行うキャラバン達が様々な場所で楽し気な催しを開いていた。
四人でそんな通りを眺めながら歩いていると、どこからか楽し気な音楽が聞こえてきた。
「あ、こっちにも路上で演奏する人間がいるのね? 一〇〇年前は正直、音楽は芸術の中でもことさら上等、一部の貴族が楽しむための物っていう側面があったのだけど……」
「スフィアガーデンでも見かけたぞ、路上で演奏する人間は」
「あ、そうなの? 実は私、今の人生になってからまだスフィアガーデンには行っていないのよね。そのうち……何年かあちこち旅をしたら行ってみようかしら」
「音楽って良い物だよねー。私、前にオカリナ買った事あるんだけど、しっかり音を出せないまましまいこんじゃったんだよね。また練習しようかなぁ」
「私はチェンバロなら少しだけ弾けますよ。本当に少しだけですけれど」
「はー、みんな多芸よね。私は絵くらいなのに。あ、でも最近は対戦相手を良い声で鳴かせる事が出来るようになったわよ?」
「お前……エルは七星杯には出るのか?」
「うーん、どうしようかしら。あまり目立つと本国の連中にバレそうだし、もう少し今の名前が知れ渡ってからにしようかしら?」
「ま、それが賢明かね。あれだ、そのうちサーディス大陸のエルダイン領に行ってみると良い。年中闘技場を開いてるんだ。領主もかなり好戦的な子だからな、興味を持たれるかもな」
「ふふ、実は去年の七星杯の準優勝者なんですよ? 私と決勝で戦った女性で、とても強かったです」
「うへぇ……強い女って結構いるのね……じゃあ目指せ最強の女ね!」
「ふふん、ということはいつか私やレイスとも勝負しなくちゃだね?」
「……やっぱ三番目で」
そんな他愛ない話をしつつ、往来を楽しそうに駆け回る人々を見て歩く。
「良い国よね。発展具合はガルデウスより少しだけ劣るけど……人の顔は明らかにこっちの方が明るい。のびのびとしてるっていうか、希望に溢れてるっていうか」
「そっちだって、戦争が終わったんだ。これから、きっとみんな良い方向に向かって行くさ」
「ふふ、そうね。私はそこから出て行った身だけどね? ……ま、いつか満足したら戻るわよ。その時はそうね……跡継ぎ候補でも手土産にして帰ろうかしら? カイさん、その時はよろしく」
「なにとんでもないことさらりと抜かしてんだ」
その後も、飲食店の集まる通りで昼食を摂ったり、鍛冶場の集まる通りでエルがやたらとナックルダスターを欲しがったり、賑やかに祭りを堪能して歩く。
やがて、徐々に日が傾いて来たあたりで、商業区の運河へと向かう事に。
「そういえば……レイスの指輪とか、私の髪飾りを綺麗にしてくれたお婆ちゃん、あの人のお店はどうなったのかな? 見に行かないかい?」
「あ、そうですね。あのお店には実は助けられていたんです、私も。……ちょっと私的な戦いがあったんです。その時、あの指輪が勝敗を分けたんです」
「へぇ、それは初耳。レイスでも誰かと戦う事なんてあるんだ」
「ふふ、そうですよ。私だって避けられない戦いがあるんです」
「私も、あの髪飾りを磨いたから、もしかしたら……最後の瞬間、助かったのかもしれないんだし」
「へぇ、そんなに凄い店があるのね。じゃあちょっと行ってみましょう」
「……俺はもう少し胡散臭くないサングラスか眼鏡がないか探すかな」
「ふふ、結構似合ってるわよボブフェイス。懐かしいわよねぇそれ。私があげたんだっけ」
運河沿いに様々な商店を見て歩く。
どうやらこの辺りはテナントの入れ替わりが激しいのか、以前は見かけなかった店が並んでいたりした。
そして――また同じ場所に居を構える、不可思議な万事屋のような商店に入って行った。
「こんにちはー! おばあちゃんいるかーい?」
そうリュエが意気揚々を店に入ると、どうみてもお婆ちゃんという歳ではない、恰幅の良いおばちゃんがこちらを出迎えてくれた。
「あらお客さん? どうぞゆっくり見て行ってね」
「ありゃ? 今日はお婆ちゃんお休みなのかな」
「ん? あらお嬢さん……もしかしてお母さんのお知り合いかしら?」
どうやら、あの老婆の娘さんのようだった。
そういえば、お孫さんを連れて屋台に来ていたような気がする。
「うん、おばあちゃんにアクセサリーの手入れとか教えて貰ったんだ」
「あらそうだったの……母はね、今から半年くらい前に亡くなったのよ」
「……え? ……そっか、そうなんだ」
「結構な歳だったからねぇ。でも、最後まで楽しそうにしていたわ『自分がこの世界に少しでも役に立てた。師匠が迎えに来てそう言ってくれた』って。たぶん、もうボケちゃったんだと思うけれど、それで嬉しそうに笑顔で逝けるのなら、それでよかったと思うの」
……それは、果たして本当にボケていたのだろうか。
今となっては分からないのだが、俺はなんとなく……ここでレイスが手に入れた指輪の制作者の名前を思い出していた。
「残念だったけど、そっか。笑って旅立てたのなら、それは凄く幸せな事だと思うな、私は」
「ええ、本当に。……本当にその通りです」
「私の父も、笑顔って訳じゃないけど、なんだか満足気に逝ったのを覚えているわね『お前に戦争を継がせずに済んだ。これまで、本当にありがとう』って」
「……その感謝は、もしかしたらメリアとしてのお前じゃなくて、エルとしてのお前に向けたのかもな」
「うん。天国で、本当の娘さんに会える事を願っているわ」
そうだよな、俺達は条件を満たすまで歳をとらない。だからこそ、忘れがちなのだ。
人は、死ぬ。何もしなくても、いつかは旅立ってしまう物なのだと。
いや、もしかしたら俺以外の仲間達はそれを身に染みて分かっているのかもしれない。
俺は、まだあまりにも幼いのだから。
「さてと……ダリアとシュンちゃんを出迎えましょ」
「確かギルドの方からも出迎えの方達が向かっているそうです。その人達と合流しましょう」
「だね。たしか船着き場はこっちだったかな? 行こう行こう」
そうして向かう途中、遠くの方に懐かしい祠が見えた。いや、祠と言うか杜だろうか? イグゾウさんの墓がある場所だ。
つい、地球にいた頃の癖で、一瞬だけ手を合わせて拝んでしまった。
「ん? なにしてたんだいカイくん」
「ん? 知り合いにちょっと挨拶」
「あ、あの人だかりじゃない? へぇ、運河の船着き場っていってもかなり大きいのね。いいわねぇ、河の流れる都市って。どこかにヴェネツィアみたいな都市ってないのかしら」
「んー……サーディスには地中海風の海沿いの街ならあったな。ヴェネツィアみたいな運河だらけの都市となると……」
「それでしたら、ブライトネスアーチにそういう区画がありますよ。私、都市の復興であちこちの区画で作業をしていたんですけど、通路の代わりに運河で移動する区画があるんです。ヴェネツィアというのは……カイさんのいた世界の都市ですか?」
「そういうこと。俺も実際には行ったことないんだけどね。しかしそうか……ブライトネスアーチにはそんな場所があるのか」
「へー! それってダリアとシュンちゃんの住んでる都市よね? そのうち行ってみたいわねぇ」
そうだな、行った事のある街や都市でも、知らない場所はまだまだ沢山ある。
……本当、俺のぶらり旅は一段落ついてもすぐにまた再開しそうだよ。
そうして、出迎えの為に集まっていたギルドの職員に混じり、俺達もまたダリア達を乗せた遊覧船を待つのであった。
それから三〇分と経たず、運河の水が大きく波打ち始める。船が向かってくる予兆だ。
「ここでは釣りは出来ないのでしょうか……」
「どうなんだろう? ここって自然の河って感じじゃないし、もっと都市から離れて自然が多くなってる場所なら釣れるかも?」
「レイスって釣り好きなの? なんだか意外ね」
「ええ、以前カイさんに教わってから興味が出て、ついつい自分の釣り具まで手に入れてしまいました」
「ふぅむ……さすがに運河の発着場では難しいだろうなぁ」
などと言ってる間に遊覧船が見えてきた。
あの船は基本的に豪商や正式に都市に招かれた来賓、それにある程度のコネのある上流階級の人間しか乗船出来ない事になっている。
つまり、今ここに出迎えに集まっている人間は、皆ギルドや領主の私兵団に所属している人間だけだ。
だがその時だった。待機中の私兵団の中から、一人の男が突然船に向かい駆け出し、まるで抜け駆けでもするように船へと向かい跳び乗ろうとした。
「っ! 不審者か! 俺が出る」
「任せ――と思ったけど、平気そう」
「あれは……なるほど、万一に備えてギルドから凄腕の人間が派遣されていたようですね」
剣を片手に船に飛び乗ろうとした、恐らく玉砕覚悟の暗殺者。
だが、その人物が船に飛び乗ろうとしたのもつかの間、そいつは船に着地する事なく、空中で迎撃、そのまま河に転落し、ずぶ濡れの暗殺者を捕縛したギルドの人間が岸に上がって来た。
「なるほど、兜の中はエルフですか。サーディスの来賓を狙ったようですね」
そうぼやきながら、ギルドの職員に暗殺者を引き渡しに来たのは――
「ジニア……そうか、ジニアもこの都市にいたんだな」
久々に会う、片翼の魔族の娘。ジニアだった。
そういえば、去年セカンダリア大陸で別れて以来だったな。
「はて……私を知っているのですか? あ……リュエさんにレイスさん」
「や、久しぶりジニアちゃん」
「お久しぶりです」
「はい、お久しぶりです。カイヴォン様もこの都市に来ているのでしょうか?」
そういや今日もマスクをかぶっていたな。もう脱いでしまっても良いような気がしてきた。やっぱり魔王の姿ではない俺ってそんなに大衆の記憶に残っていないみたいだし。
俺はマスクを脱ぎ去り、ジニアと顔をあわせる。
その瞬間――
「カイヴォン様!」
「うおっと……水辺ではしゃぐのは止せ、危ないだろう?」
「お久しぶりです。私、正式にギルドの職員になりました。もう許可がなくても自由に出歩く事が出来るんです! 今日は総帥の依頼で、要人警護の仕事をしていました!」
まるで……というか、まんま親に甘える子供の様にこちらに抱き着き報告をしてくる姿に、年甲斐もなく父性というものが湧いてきそうになる。
「そ、そうか。偉いな、お手柄だぞ」
まぁ尤も……暗殺者があの船に乗ったところで、本懐を遂げる事など出来はしないだろうと思うのだが。
俺は、船の甲板で臨戦態勢に入っているアマミとシュン、そしてダリアの姿を見てそう思った。
……絶対無理でしょ、あの三人を突破するなんて。
「あー、確か解放者のお供をしてた子だったかしら。なになに、ここにもカイさんラブな子がいるわけ? リュエっちもレイスも大変ねぇ」
「うーん、ジニアちゃんはそういうのじゃないと思うけどなー」
「ふふ、そうですよ。あれはどちらかというと……父親に甘える娘ですね」
「……本当にカイヴォン様が父親ならどんなに良いでしょう」
「またそんな反応に困る事を。ほら、来賓の皆さんが到着するぞ、出迎えの準備だ準備」
船が接岸し、タラップが設置されると、まずは護衛の兵士達が上陸する。
そしてそれに続き、まずは一番この中で身分の低い、貴族の付き人、つまりアマミが降り立った。
それに続き、アークライト卿の娘レイラが。そしてアークライト卿自身が降り立つ。
そして主賓たるダリアが、シュンと並んで降り立った。
その二人を出迎えるのは、ギルドから出迎えとして選ばれていたリュエとレイス、そして俺とエルだ。
なお、さっきマスクは脱いだので、もう『お前誰だ』という恒例のやり取りはなくなりました。結局必要なかったじゃないか、変装なんて。
「よう、一か月ぶりだな」
「ええ、一月ぶりですねカイヴォン」
「久しぶりねーダリアにシュンちゃん。私とは大体一年ぶりくらいかしら?」
「ああ、そうだな。……というかちゃん付けはそろそろやめろ」
「嫌よ。シュンちゃんが嫌なら自動的にシュンシュンになるけれど?」
「まったく……」
メインの客であるダリアやシュン、アークライト家とその護衛であるアマミが降り立ったところで、今度は他の人間が降り立つ。
その中には、勿論シュンの娘のような存在である、ジュリアもいて――
「ジュリアちゃん! 来てくれたんだね!」
「リュエさん、お久しぶりです! 初めての国外で、ちょっと緊張してるんです」
「ふふ、そっかそっか。後で色々街を見て回ろうね」
案の定、リュエが嬉しそうにジュリアの元へと向かっていた。
こうして見ると、本当に姉妹のようだな……。
「カイヴォン、さっき船から見ていたんだけど……まーた女の子たぶらかしてるの? それも魔族の可愛い子」
「久しぶりだな、アマミ。これは違うぞ? な、ジニア」
「はい、私はたぶらかされている訳ではありません。ただお慕いしているだけです」
「……手遅れだ……」
「だから違うってば」
なんだか、自分の友達だが面識のない者同士が集まるというのは、なんともやりにくいというか、複雑な気持ちになるものだ。
「カイヴォン様! お久しぶりです、はい!」
すると、今度はレイラがこちらにやって来て、首を見せつけるように話しかけてきた。
やめい、俺にそんな趣味はないぞ。それにこんなに大勢が見てるってのに何させようとしてるんだ。
「はい、じゃないが。ほら、変な事してないでアークライト卿の所に行け。ギルドが用意してるホテルに行くんだろ」
「むぅ……分かりました。アマミさん、では行きましょうか」
「あ、すみません待ってください。私の連れがまだ船から降りてこなくて……」
すると、アマミが心配そうに船を見上げていた。
なんだ? まだ他にお客さんがいるのか?
釣られるようにタラップに目を向けると、誰かがふらふらと気分が悪そうにやってきた。
「……中途半端な速度……中途半端な揺れで……船というのはここまで不便な乗り物なんですか……帰りもこれだなんて気が滅入りますね……」
降り立ったのは、なんとまさかの――
「里長!? まさか大陸の外まで来るなんて……!」
「お久しぶりですね、カイヴォンさん。いえね、里の事は親方さんがとりなしてくれるので、今回初めて大陸の外に出てみました。里に越して来た同族がこぞって船旅の事や他の大陸で見聞きした事を自慢してくるので、私も少しくらいマウントを取れるように」
「はは……いや、びっくりしましたけど嬉しいです。色々な食べ物もありますからね、いい刺激になると思いますよ」
「ふふ、それは楽しみです。……それにしても、私の知らない可愛いお知り合いが沢山いらっしゃるようですね? さすがカイヴォンさん、絶り――」
口を塞ぐ。やめてください、それ以上はいけない。なんかエルあたりが凄く食いつきそうなので。
「わーお……ゴスロリお嬢様まで知り合いにいるの? カイさん守備範囲ひっろいわー」
「違うからな、この人はその……あれだ。俺の同士だ。料理を探求する同士。色々お世話になった人だからな」
「ふふ、そう言って貰えてうれしいです。私はそうですね……カイヴォンさんに身体の隅々まで知られたり、大切な物を上げたり、寝顔を見られたり、一緒に料理をしたりする仲です。どうぞ『里長』とお呼びください」
「……わざと勘違いされるような言い方してますね。全部事実なだけに否定しにくいし」
エルが割と本気でこっちを凝視してきてるんですが、もう無視でいいですかね。
あとリュエとレイスはさすがに里長とのやり取りに慣れているのか、もう反応はしていない様子だった。
「とりあえず、みんなでギルドに移動しようか。オインクは今こっちの領主達と会談中だろうから、その間はギルドで待機っていう形で」
「ふむ、ならば私とレイラはオインク総帥の元へ向かおう。こちらの領主の皆さんとは私も顔をあわせておく必要があるからな。アマミ君、同行を頼めるかな」
「分かりました。ギルドに着き次第魔車を手配します」
到着したてだというのに、さっそくアークライト卿が政務に出かけるようだ。
そうだよな、お祭りって言ってもこの人達にとっては仕事みたいなものだもんな。
「俺とダリアはとりあえずギルドで休ませて貰う。正式に客として来るのは初めてだからな、案内を頼む」
「あいよ。さてと……里長はどうします?」
「私はそうですね、だいぶ広い都市のようですが、皆さんの居場所は大体なら掴めますので、このまま少し食べ歩きをして行きたいと思います。なぁに心配はいりません、すぐにそちらに合流しますから」
フラグ、乙。いやまぁ誘拐なんてされるとは微塵も思っていませんが。
そうして、一先ずギルドに移動した俺達は、そのまま応接室へと向かう事に。
まぁアマミとアークライト親子はすぐに行政区にあるオインクの執務室に向かってしまったのだが。
「ここがギルドか……かなりの広さだな」
「この応接間もかなり質の良い調度品で揃えられていますね。さすが、世界最大の組織の総本山です」
「さて、私もここで皆さんともう少しお話をしたかったのですが、そろそろ仕事に戻ります。カイヴォン様、また今度是非一緒にご飯に行きましょう。収穫祭が始まる頃にはリネアもこちらに来る予定ですから」
「はは、絶対嫌な顔されそうだがね」
「させません」
そうしてジニアが立ち去ると、シュンが興味深そうに尋ねてきた。
「あの子は……なんだか随分とお前を慕っているな。どちらかというと子供みたいな印象だが、もしかしてお前も実は父親仲間なのか?」
「父親仲間って……まぁ、当たらずとも遠からずだな」
「ふふ、そうか。俺にとってのジュリアのような存在がお前にもいたんだな」
すると、シュンの発言が不服なのか、ジュリア嬢が少し不貞腐れたような顔をしていた。
「ふふ、シュンはイマイチ乙女心が分かっていないようですね」
「そうそうシュンちゃんはエロゲばっかりやってて現実の乙女心は分かっていないのよー」
「おま……そんな五〇〇年以上前の事を持ち出すんじゃない」
凄いな、みんな、みんな集まって来た。今この都市に、俺の友人達が皆集まっている。
不思議な気分だな、本当。
「ああ、そうだ。今夜空いてるか? シュンとダリア」
「ん? まぁ今日は特に予定もないが」
「ジュリアちゃん、申し訳ないけど今夜だけシュンを借りられないかな? あとダリアも」
「分かりました。ちゃんと返してくださいね?」
「ははは、言うようになったね、ジュリアちゃん。だ、そうだぞシュン。後でしっかりお前の事をジュリアちゃんのところに返さないとな」
「まったく……最近どんどん大人びていって少し寂しいぞ、俺は」
良いのではないでしょうか?
「私もですか? 勿論構いませんが、どこかに飲みに行くのですか?」
「ま、そんなところか。エル、レイス、リュエも今夜は開けておいてくれるかい?」
「あ、私はもうオインクに聞いてるよ。どこかに行くんだろう?」
「あー、そういえば私達の昔の絵が飾ってあるんだっけ? ちょっと楽しみね、現代の画家がどんな風に私達を表現したのか」
「オインクがプロデュースしたレストランだと聞きました。楽しみです」
俺は皆に告げる。オインクがいつかみんなを呼びたいと願い名付けたレストランの名を。
『リアン・エテルネル』日本語でいうと……『永遠の絆』という意味。
「ふふ、中々しゃれてるじゃない、オインク」
「……そうだな、今日くらいは昔みたいにチーム全員で集まるか」
そう言いながら、シュンは俺が珍しく一日中ずっと背負ったままの武器に目を向ける。
ああそうさ。今日ぐらい、しまい込まないでずっと出しておいたんだよ、お前の事を。
「もう少ししたら向かおう。魔車は手配しておくから」
「お願いします。私も、付き人達に今夜は出てくると伝えておきますね。護衛は……必要ありませんね、無粋です」
「ま、正直このメンツを襲おうとするヤツなんてただの命知らずだと思うけどねー」
「そーそー。今の私は前よりもかなり強くなったし? 正直みんなの出番なんてないと思うわよ?」
「ほう、言うなエル。だったら噂の訓練所で明日にでも手合わせするか?」
「ひっ! さすがにまだシュンちゃんと直接やるのは……」
そんなイキリ元王女に皆が笑い、和やかな時が過ぎていく。
そして、そろそろ日も暮れるからと、俺達は魔車を借りて歓楽街の最深部にある会員制レストラン『リアン・エテルネル』へと向かうのだった。
そのレストランは、今日も人知れず静かにそこにあった。
門番が俺達の顔ぶれを見てすぐに中に通し、そして扉を開けると――
「ようこそいらっしゃいました。お久しぶりですね、皆さん」
「ああ、一月ぶりだ」
「お久しぶりです。……良いレストランですね」
「本当、ナチュラルにロマンチストよね、オインクって。……嫌いじゃないわ」
「本当に良いお店ですね……このような場所に呼んでもらえるなんて光栄です、オインク」
「へー! ねぇねぇ、ここにはアイスはあるのかい?」
「オインク。今日だけは武器の携帯、許してもらえるか?」
待ち構えていたオインクに、それぞれ声をかける。
オインクは『勿論です』と、俺の剣を丁重に受け取り、そしてレストランの奥へと歩みを進める。
途中、壁に飾ってある巨大な絵画の前で、皆が足を止める。
「へぇ、これってオインクの証言だけで描かせた絵画なのよね? 凄く良い出来じゃない」
「くく、懐かしいな。……俺はここまで背は低くないぞ?」
「これが……当時の私達なのですね。きっと、ヒサシも私の中で見ていると思います」
「ふふ、ですがこの絵は、近々修正を施さないといけませんね。もう二人、ここに描き加えないといけません」
そう微笑みながら、オインクがレイスとリュエの方を見る。
「私達かい? なんだか光栄だなぁ」
「ええ、本当に……神隷期の皆さんの姿……そこに加えて貰えるなんて」
そうして、レストランの中で一際広い部屋、会食が開かれるためであろう広間に通される。
オインクは、席の並びにおける主賓の位置に、静かに俺の剣を立てかけた。
「……ふふ、この席順に不満はありませんよね?」
「ああ、我らがチームマスターだからな」
「ま、あまりチムマスらしい事はしてくれなかったがな」
「私はカイくんの隣ならどこでもいいよ!」
「ふふ、では私も隣で」
「いいわねぇ、両手に花で。私はじゃあ対面席にしようかしら?」
「残念、そこは私の席です」
「くく、どこでも良いから座るぞ。ダリア、今日くらいは酒、飲んでも構わないんじゃないか」
「ふふ、そうですね……ヒサシが眠ってから、滅多にお酒は飲まないようにしていたのですが、今日くらい許してもらえますよね」
「ああ、それなら良いお酒がありますよ。ぼんぼんも好きなあのお酒ですよ」
するとオインクはベルを鳴らし、ウェイターにグラスを持ってこさせてくれた。
勿論……剣だけが立てかけられている席にも。
そこに注がれるのは、無論……かつて、俺が皆に贈った地酒を再現したという日本酒。
名を『絆』。いつか、仲間達が揃う事を夢見て、頑張って再現したというその酒。
それをこうして、皆で揃って飲む事が出来るという事実に、どうやらオインクは感極まってしまっているようだった。
「……夢では、ないのですね」
「ああ。……正直俺は下戸だが、今日くらい飲ませて貰う。もしもの時は回復任せた」
「ふふ……懐かしい。ヒサシもこのお酒をたまに、一人で飲んでいましたね」
「俺、もう全部飲んじゃったんだよな。後で買い足さないと」
「へー、日本酒まであるんだ。私初めて飲むのよねー」
「ふふ、カイさんの好きなお酒ですよね?」
「このお酒も美味しいよねー。ワインみたいに色んな表情があってさー」
杯を持ち上げる。そして――その言葉と共に、俺達の真の再会の宴が始まる。
『乾杯!』
(´・ω・`)これ以上はもはや蛇足と考えました
後の冒険はみなさんで想像してみてください。
番外編の完結と共に、書籍版も完結となる12巻が発売されます。
明日の1/29日に発売となります。
(´・ω・`)あと0時にエピローグだけ投稿しますね




