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後日談 サーディス大陸編9

(´・ω・`)サーディス編はこれにて終わりとなります。

「よう。結構待たせてしまったか?」

「いえいえ、想定の範囲内です。シュンから話も聞いていましたし」

「ジュリアちゃんを迎えに使ったのは良いサプライズだったが、この先の話は聞かせるつもりなのか?」

「いえ、貴方達と他の方々を案内し次第下がってもらいます。今回の話は、少々立て込んでいるものですから」

「……そうだな。ああ、もう聞いているかもしれないが、オインクも同席しても大丈夫か?」

「んー……少々国の黒歴史にまつわるお話ですからね、出来れば今回だけは遠慮してもらいたいですが……」

「了解。俺達だけならまだしも『他の方々』っていうのがいるなら避けた方が良いか。メールしておく」

「申し訳ありません。では、席について待っていてください」


 残りの皆も転送されて来るのを待っていると、オインクに送ったメールの返事が来た。

 ただ一言『もしイクスさんに何かあった時だけは、私にも教えてください』と。あくまで、イクスさんのケアの為だけに同行したのだろう。

 すると室内に光が溢れ、リュエが現れたと思った瞬間、再び光が溢れレイスが転送されてくる。

 そして最後にイクスさんが転送されたところで光が止んだ。


「ほへぇ……テレポみたいな術式って存在しているんだねぇ……」

「ここは……物凄い濃密な魔力に溢れていますね……魔眼が発動出来ない程に」

「距離的にはそこまで離れていないのかもしれませんが……恐ろしく魔力を消費する術式なのでしょうか」

「ようこそいらっしゃいました。イクスさんの言うように、この場所は王城として使っている巨大樹、その魔力溜まりの内部に出来た部屋です。勿論、転送に使う魔力も膨大ですが、それでも短距離の転送しか出来ないのが現状です」

「凄いや……ここってダリアが作ったのかい?」

「……いえ、フェンネルです」


 すると、思いのほかその名を聞いたリュエが冷静に『そっか、凄いや』とぼやいていた。

 もう、彼女の中ではあの男の事は完全に消化出来ているのだろう。


「で、ダリア。まだ待っている人がいるんだろう? その相手は今日呼び出される理由を知っているのか? 俺達が同席する事に抵抗はないのか?」

「ええ。事情を知る人間が一人と、ある意味ではイクスさんと同様に、真実を知らない人物が二名。全員、貴方達と顔見知りですし、その人物も貴方達が同席しても構わない、と」

「……まさかダリア。その人物というのは――」


 すると、またしても部屋に光が溢れ、それと同時に部屋に現れたのは――


「まぁ! カイヴォン様にリュエ様! それにレイス様まで! お久しぶりで御座います!」

「わ、レイラちゃんだ! 久しぶりー!」

「一年ぶりほどでしょうか! カイヴォン様、ふふ、はい!」


 嬉しそうに駆け寄って来たレイラが、待ってましたと言わんばかりにこちらに近づき、その白い首を見せつけてきた。

 いや、だから俺にそんな趣味はないです。


「いいから座れレイラ。お前が来たと言うことは……」


 すると、さらにもう一度光が溢れ、現れたのは予想通り――


「レイラ様、念のため私が先に行くと言ったではありませんか」

「ふふ、ごめんなさいアマミさん。ここはかつて聖女様やシュン様、先代様だけが立ち入る事が出来た聖域と聞いていましたのでつい――って、ダリア様まで!?」

「反応が遅いぞレイラ。そもそも今日、ダリアに呼ばれていたんじゃないのか?」

「いえ、それがお父様にここに連れてこられて、何も説明のないままここへ……」


 なるほど。という事は最後の一人は必然的に――


「って、カイヴォンがいる! リュエもレイスさんも! 久しぶり!」

「そっちも反応が遅いっていう。久しぶり、アマミ。ここに来る前に里に寄って来たよ」

「え、本当に!? みんな元気だった?」

「ああ、勿論。ほら、レイラもアマミも席につきな。次が来るんじゃないか?」

「あ、そうだね。なんの集りか分からないけれど……」


 いそいそとレイラが席につき、アマミもその隣に座る。

 すると、レイラがこの室内に一人、初めて見る人物、即ちイクスさんの存在に気が付き、不思議そうな表情を浮かべていた。

 ……まぁ、自分にそっくりなアマミがすぐ傍にいて、さらにそのアマミと自分にもどこか似ているイクスさんの姿に疑問を抱くのは当然だろう。


「……来ましたね」


 そして、最後の一人がこの場に現れた。


「ご足労感謝します、アークライト卿」

「はい、ダリア様。それに――カイヴォン、もう来ていたのだな……」

「アークライト卿……はい、今ここにいるのは、ある意味では全員が関係者です」


 アークライト卿の視線がリュエ、レイスにも向けられ、そして……イクスさんで止まる。

 その表情は心底驚いたという風で、その反応に、間違いなく彼女と関係していると確信する。


「まずは自己紹介を始めましょう。既に、イクスさん以外は全員が顔見知りです。アークライト卿とお連れのお二人、そしてイクスさん、お願い出来ますか?」

「はい。では、僭越ながら私から自己紹介をさせて頂きます」


 イクスさんが、自分の名前を語る。無論、そこに含まれる『ダリア』のミドルネームを含めて。


「お初にお目にかかります。私はイクスペル・ダリア・ブライトと申します。こちらにいるレイス・レストお母様に育てられた、養女という立場となります」

「まぁ……! ブライトとダリアの両方の名前を……では私の親戚、という事になるのでしょうか!」

「王族の方でしたか。では、続いては私から。私は“アマミ・ハーミット”と申します。こちらの“リュクスベル家”の騎士として仕えております」


 そうアマミは自分のフルネーム『だと思っている』名前を告げる。

 そしてそれに続き、レイラとアークライト卿も自分の名を語る。


「レイラ・リュクスベル・ブライトと申します」

「……同じくアークライト・リュクスベル・ブライトと申します。奔流も奔流ですが、王家につらなる者として生きています」

「……ご紹介、ありがとうございます。アークライト卿、今の自己紹介の訂正部分があります。それを……私が訂正した方がよろしいでしょうか?」

「……いえ、私がすべきでしょう」


 すると、彼は意を決したように席を立ち、アマミに向き直る。


「アークライト卿……?」

「……アマミ君。君はハーミットの名を、育ての親に頂いたのだったね」

「はい。私を育ててくれた里長に頂きました」

「……では、君が生まれた時の名前は知っているかね?」

「い、いえ……」


 そして事情を完全には知らないイクスさんもそのやり取りを静かに眺めている。


「……君の名前は“アマミ・リュクスベル・ダリア・ブライト”と言う。私の娘であり……レイラの双子の姉であり……」

「そして同時に、私の祝福を受けた、最後の世代の一人、となります」


 沈黙が場を支配する。

 しかし、それを最初に破ったのは、意外にも何も知らないであろうレイラだった。


「や、やはりそうなのですね! どうりでそっくりだと思いましたわ! 私のお姉さまだったのですね!」


 だが、そのどこかノー天気とも取れる言葉を受けても、アマミは一言も発せず、うつむいていた。

 そうだろうな。アマミは以前言っていたではないか。

『何故、同じ顔の私ではなく、髪の色に問題もない私ではなく、レイラが貴族として生きているのか。不満はないが、少しだけ羨ましい』というような意味の言葉を。


「……カイヴォンは、知ってたんだ?」

「……初めて会った時、俺は君の本当の名前を読み取った。だが――アークライト卿には申し訳ないが、既に彼女の名前は“アマミ・ダリア・ハーミット”だった。祝福を受けた事実は残っていても、彼女はもう……あの隠れ里の娘ですよ」

「そう……であろうな。私も、今更私こそが本物の親だと主張出来る立場ではない」

「……ダリア様。私がその名前を持っているという事は……事情を知っているんですか?」

「はい。私は、全てを知っています。貴女が生まれた時、私もすぐ傍にいましたから」


 そして、ダリアは語る。

 王族のみ伝えられた、一年前の事件の真実を。

 狂える先代国王フェンネルによる、妄執とも言える願いと、その過程で犠牲になってきたもの。

 祝福の名が、次第に『呪いの烙印』へと変化していった事。

 そして何よりも――ダリアの目覚めと同時に生まれた、研究所の外で生まれた子供が白髪になるという事実を。


「アークライト卿の妻である、故“ラティリル”様は、双子を身ごもり、私の目覚めの周期に重なるからと、研究所に集められていた多くの権力者の妻と共にそこにいました」

「ラティリル……それが、生みの親のである方の名前なのですね」

「はい。生まれた双子は、私の目覚めによる影響で、祝福と弊害、その両方を歪な形で受け継いで生まれました。片方は知っての通り、この国における因習、忌むべき白髪に似通った頭髪を持っていました。そしてもう片方は、魔法を扱う為に必要な器官を生まれつき閉ざされてしまっていた。……そう、レイラさんとアマミさん、貴女達の事となります」


 そして、自分達だけで対処可能な『髪の色という些細な問題を抱えた方の子供』だけを引き取った事を。

 だが、それは決してアマミを軽んじて行ったという事ではない。

 それは……『ダリア』の名をアマミの方が授かった事が、何よりもの証拠だった。


「アークライト卿とラティリル様は、たとえ自分達の娘という形でなくとも、いずれ起きてしまうであろう、魔力の暴走による死亡を避け生き続ける方が良いと、もう片方の娘を私に託しました。結果、貴女は魔力を魔法として外に放出する事が出来ない体質にはなりましたが、先の未来が閉ざされる事のない身体へと治療する事が出来ました。そして……私は治療を乗り越えた子供に『ダリア』の名を授けたのです」

「……そう、ですか」

「ですが……事件は起きました。子供達への祝福は、同時に烙印へと変わっていた。優秀な素体であるダリアの名を持つ子供達は、フェンネルの策略により、襲撃という形で『刈り取られる』事になりました。多くの子供達が私の知らぬ間に奪われ、そして……その最期の世代で、唯一研究所で生き残ったのがアマミさん、貴女です。恐らく、研究所跡を狙った盗賊に拾われ、その果てにあの里に辿り着いたのだと思います」

「……はい」

「ですが、間違いなく貴女はお母様にも、そしてアークライト卿にも愛されていた。それだけは、真実を知っておいてほしかったのです」


 それは、俺からも保証する。俺は一度だけ、アークライト卿を問い詰めた事がある。

 その時彼は、確かに深い後悔を抱き、そして……任務で近づいてきたアマミを自分の娘だと断定し、自らの傍に置けるよう、依頼を出し続けていた。

 その事実は、アマミも当然理解してくれているようだった。


「……今更、家族だと言い張る事は出来ないし、君に迷惑をかけてしまう。だが――せめて、せめてこれからも私の、我が家の、レイラの――騎士として傍にいて欲しいのだ」


 懇願とも取れるアークライト卿の言葉は、今のアマミが飲み込むには、少しばかり大きく重いように思えた。だから――


「今は、答えを急ぐ場面ではないでしょう、アークライト卿。アマミ、これが君の知りたがっていた答えだよ。俺が君に何も言わなかった理由、分かってくれとは言わないけれど……」

「……分かるよ。カイヴォンはどこまでも優しかった。それに……全部が真実だとしても、この話に優しくない人なんて誰も出て来ていない。アークライト卿、今すぐに答えを出す事は出来ませんが、私は騎士です。仕えた家に背く事は決してありません。今は……これでご満足いただけないでしょうか」


 そう、アマミははっきりとアークライト卿を見据えて言う。

 それで、今は十分だ。アークライト卿も現段階でこれ以上は望めないと、分かっている風だった。


「それで、十分だとも……。レイラ、何も話さずにこれまでいた事を、許してくれとは言わない。結果としては、私はお前の姉を奪ってしまったのだから」

「……正直、私には皆さん程の理解力はないのだと思います。ですが、かつてお父様が行った事を悔いていて、その上でこれから先もアマミさんが傍にいるのなら……今の私に不満はありませんわ」


 そう告げて、彼女達一家の話は終わる。だが、何故それを今このタイミングで、イクスさんのいるタイミングで行ったのかは……恐らくダリアとアークライト卿にしか分からないのだろう。


「アークライト卿。何故、このタイミングで貴方に真実を語る場を設けたのか、もうお分かりですね」

「……はい。そちらにいるイクスさんの姿を見た時、全てを理解しました」

「私、ですか?」

「では、ここからは私が説明します」


 そう。ある意味では部外者とも言えるイクスさん、そしてリュエとレイスが何故この場所にいるのか。

 俺がこの場にいる事はまだ理解出来るだろう。何せ、既に秘密を知っている人間なのだから。

 いや、リュエもある意味では関係者で。言い方は悪いかもしれないが、フェンネルの妄執の原因は彼女でもあるのだから。

 では、レイスは? そう、彼女はイクスさんの育ての親だからこの場にいるのだ。


「襲撃の際、生き残ったのはアマミさんのみだと私は言いました。ですが――その不穏な空気を感じ取り、襲撃の寸前に外部へと逃がされた子供もいました。そして、その子供を逃がしたのは他でもない……その子供の生みの親である人物でした」

「……ええ。イクスさん、貴女は私の姪となります。……貴女の生みの親は、我が妻の双子の妹でした。双子は双子を生む可能性が高いとは言われていましたが……」

「……なるほど。私の記憶にある、私を逃がしてくれた人物は、生みの親でしたか……」

「そうなります。アークライト卿、その当時のお話をお願いする事は出来ませんか?」

「……はい。我が妻の妹は、名を『レティ』と言います。妻とは仲が良く、子供も同じ時期に授かりました。ですが……その相手が現在の国王の弟なのが、問題でした。極めて高い王位継承権を持つ子供が、さらにダリアの名を持つというのは、当時の王家についていた有力な家々からすれば、由々しき問題でもありました。結果、彼女は自分の娘に危害が及ぶのを恐れ、研究施設に貴女を預けたのです。そして……やがて、王弟は権力争いの果てに命を落とし、そしてレティは新たな旦那となる人物を結ばれ子を宿しました。それが……もう一人の娘です。イクスさんの妹にあたる人物ですが……申し訳ありません、その所在は現在も分かっていません」

「いえ、妹ならば私と共にこの大陸から逃れています。恐らく、レティさんは私と共に、妹も外へと逃がしたのでしょう。それで……レティさんの次の旦那さんになった人物は、ご存命ですか?」

「……いえ、その人物もまた、レティが消息を絶った後、研究所が何か知っているのではないかと調べを進めているうちに消息を絶ちました」

「……恐らく、周囲を探る人物にフェンネルが手を下したのでしょうね……」

「……そうでしたか。なるほど、納得がいきました。私の妹は、私とは少し違う部分がありましたから。例えばそう……あまり、魔術が得意ではありませんでしたし」


 ……絶対に口にするつもりはないが、体系も違っていた風に感じる。


「なるほど……私がそちらのお二人にどこか似た物を感じるのは、そういう理由でしたか。私の生みの親は、お二人のお母上の双子の妹、でしたか」


 これが、今知れる全ての真実だろう。

 だが、それを知ったイクスさんは、極めて冷静に見えた。

 妹の父親が自分とは違うという事実も、共にレイスに育てられた彼女にしてみれば、些細な問題なのだろう。


「イクスさん。貴女が望めば、この国の時期女王として名乗りを上げ、継承権を唱える事も不可能ではありません。その血筋や生まれ、そして秘めた力は、十分にそれを実行出来る物ですから。貴女は、ご自身の真実を知った上で、何を望むのでしょうか」

「真実ですか? そんな物、たとえ何を知ろうとも微塵も変わりません。私は、レイスお母様の娘で、大勢の弟、妹たちの姉です。この身に何者の血が流れていようとも、ダリアさんの加護があろうとも、私の今の立ち位置に変化はありませんから」


 イクスさんは、最後まで微塵も表情を変えず、そう締めくくった。


「……本当に、良き器を持っている方ですね。それは生まれではなく、きっと『母親』に似たからなのでしょうね」


 そうダリアは言いながら、レイスに目を向ける。

 ああ。生みの親が、別に彼女を軽んじていた訳ではなく、むしろ深く愛していたのは分かったが、それでも彼女の母親は、レイス一人なのだから。


「ええ、自慢の娘です。ダリアさん、それにアークライト卿。今日のこの場に、私とイクスを招いて下さり、本当に感謝します」

「いえ、私こそようやく全てを語る踏ん切りがつきました。それに……私もこれから先、後悔だけではなく、出来る事を考えて生きていけるというものです」

「アークライト卿、感謝します。よく、この場で話してくれました」

「……カイヴォン。一度、お前に真実を暴かれたからこそ、だ。私も、本当は誰かに知ってもらいたかったのかもしれない……」


 全てのわだかまりが消えた、とは決して言えない。少なくとも、アマミにとってはこの真実が優しく、歓迎すべき内容とは限らないのだから。

 だが今この瞬間だけは、無邪気に隣ではしゃぐレイラが、いつもより更に親し気に話しかけてくるのを、まんざらでもない様子で受けているのだった。


「……イクスさん。自分のルーツを探る目的は、今回の話で達成出来ましたか?」

「はい。カイヴォンさん、それにダリアさん。お二人とも、本当に感謝しています。私は、思っていたよりも多くの人間に思われていた。その事実は、私の糧になる事でしょう」

「イクス、貴女は本当に強く育ちましたね。このお話は……エルスには伝えるつもりですか?」

「いえ、求められなければ話すつもりはありません。ある意味では、過去を一切振り返らないあの子こそが一番強いのでしょう。……ふふ、そうですね。ただ少しだけ、あの子に会いたくなりました」

「ふふ、そう。じゃあ……もう、戻っても大丈夫、なのね?」

「はい。この街はとても興味深いので、数日滞在した後に、と考えているのですが、お母様達はどうしますか?」

「そうね、カイさんに聞いてみないと……」

「俺かい? 俺はイクスさんの気が済むまで付き合うよ。俺も、都市の復興は気になっていたからね。それに――すっかり忘れているかもしれないけど、今回遠慮してもらった可哀そうな豚ちゃん、アイツとも話があったはずだろう? 孤児院について」

「はい。そうですね、今夜あたり……改めてお話させて貰うつもりです。今ならば……以前よりも深くお話を聞く事が出来そうですから」


 そうして、俺達は一人部外者として置いてけぼりを食らっている、我らが豚ちゃんを迎えに行くのだった。




「お久しぶりですね、オインク。申し訳ありません、貴女一人だけのけもののようにしてしまって」


 一度あの場所から出た俺達は、一先ず王城の敷地内にある離宮、ダリアの居住スペースとして使われている場所へと通される事になった。

 なお、豚ちゃんは俺達を待っている間、ジュリア嬢に連れられて先に移動していたようだ。


「いえ、私のような部外者には聞かせる訳にはいかない話なのでしょう。構いませんよ」

「そう言っていただけると幸いです……」


 オインクも分かってはいるのだろう。これが、極めてプライベートであり、国の暗部に関わる話なのだろうと。

 まさか外で待っていたのがオインクだとは思っていなかったのか、アークライト卿もレイラも、驚きで顔の形が完全に変わってしまっていたのが、ちょっと面白かった。


「ねぇカイヴォン、あの女の人って知り合いなの?」

「んー、知り合いだな。セミフィナル大陸の国王みたいな人だね。議長ってヤツ」

「え!? うそ、え!?」

「一応本当。今回はちょっと色々用事があってね、ダリアのところまで護衛、みたいな事をしていたんだよ」

「へー……いや前からダリア様だったりシュン様だったりと友達だったから今更だけど……そんな人とも友達なんだ……カイヴォン自身がどこかの王様だったりしない?」

「しないしない」


 さすがにそれはない。ただエンドレシアで将来的に要職に就く事になりそうだな、とは思っているけれど。


「しかし……まさかオインク議長までお見えでしたとは……」

「はい。今回は私の知人であり、将来的に幹部となるかもしれない人物の人生を左右するかもしれない一大事、と聞きまして。私もせめて成り行きを見守りたいと思っていました」

「なんと……イクスさんは議長の部下でしたか……」

「部下、ではありませんが、とても大切な人物です。……皆さんの様子を見る限り、話の行く末は不幸には通じない物だったのですね」

「ええ、それは私が保証します。ここにいる全ての者は、等しく皆、愛されていた。それが、最終的な真実です」


 まぁそうなるな。そう言われているイクスさんだが、今はレイラの好奇心を一身に受け止めている様子だった。

 そして……どこかアマミも、その会話に混ざりたさそうな素振りを見せていた。

 気になるのだろう。極めて似た境遇で、親戚とも言える人物だ。


「イクス様はセミフィナルで暮していたのですか!? そちらの国へは首都サイエスしか訪れた事がありません。どういった暮らしをしていたのでしょうか!」

「様は不要です。どうかイクス、と。私の暮らしと言いましても……実はこの一年程で、ようやく生まれ育った町から出られるようになりましたので……それまで自由の効かない身でしたので」

「まぁ……! では、初めての旅行がこの大陸ですのね!」

「そうなります。先程話したように、ある意味では私の里帰りのような物を兼ねていたのですよ」

「あ、あの……私も質問があるんですけれど……良いですか?」

「はい、なんでしょうアマミさん」

「……あの、私も小さいころに拾われた身なんですけど――」


 こちらはこちらで、しばし親交を深めていけばいい、かな。

 オインクも、ダリアとアークライト卿を交えてこれからの話、主に国交に関して話しているようだし、一先ずこれで今回の会談は無事に済んだ、と見て良いのだろうか。


「……レイス。イクスさんを取り巻く環境が分かったけれど……どう思った?」

「そうですね……想像していたよりも優しい物であった事に、安心しました。改めて、思い知ります。地位ある者の暴走は、いつだってその次の代、子供達に降りかかるのだと。今回、似た境遇にあるアマミさんとイクスがこうして交流を持てた事は、きっと未来に良い影響を与えると、勝手かもしれませんが私は思っていますよ」

「そうだね。イクスさんも、血を辿れば私の森のエルフ末裔。あの森の魔力が満ちつつあるこの国に来られた事にも意味があるし、何よりも……アマミもレイラちゃんもイクスさんも、この国の闇の部分の影響受けた子供達だもん。それは、何も知らない人間よりも遥かに時代へと大きな影響を与えると思うんだ。これから先も、住む大陸は違っても、仲良く協力しあえるといいよね」


 ああ。俺達神隷期の人間ではなく、この世界で生まれ育った、けれども強い力の一端を引き継いだ次の世代達が、こうして新しい時代を築いていく。

 その礎になるかもしれない光景をこうして見られた事が、なんだか少し誇らしかった。


「――とその場に乱入し、恐るべき悪しき領主へと民達を引き連れ剣を向けたのです。ですので、お二人が言うような方ではないのです、カイヴォンさんは」

「えー本当にー? それって作り話じゃないのー? ちょっとえっちぃただのお兄さんじゃない?」

「えっちぃというのは分かりませんが……そんな活躍を……いえ、確かにあの七星杯でも……」

「そっちの三人は何話してるんですかね!」

「カイヴォンさんの英雄譚をお二人に聞かせているのです。今、アルヴィース解放戦役のお話をしているところです」

「解放戦役って……大げさじゃないですか、それ」

「いえ、既にその名前でこの事件の事は知られていますよ。カイヴォンさんは大陸をすぐに発ってしまったのでご存知ないのかもしれませんが、他にも『七星杯戦役』といったお話もありますよ」

「……おいオインク、ちょっとこっち来い」

「なになに……ではなくて、どうかしましたか?」


 豚ちゃん座って。なんか俺の道中の話に変な名前つけて広めてない? 君。

 いや、ある意味全部投げっぱなしで逃げるようにセミフィナルを発った身ではあるけど。


「プロパガンダです。議長である私が、世直しを目的とする放浪魔王と懇意にし、そしてセミフィナル大陸を救ったという事実を伝聞する為に行いました。これも、一種の責任の取り方だと思い、我慢してください」

「んで本音は」

「とりあえずセミフィナルとべったりですアピールしないとそのうちエンドレシア王家にがっつりぼんぼんの力を持って行かれそうなので」

「そっちもお前が関わってるだろうが」

「いやー……向こうはセミフィナル程自由な国ではないですから」


 これ、俺どうやってセミフィナル大陸に向かえば良いんだ?

 もう魔王ルックのあるなし関わらず、顔バレしてそうなんですけど。


「……リュエ、俺にも変装の術式、今度使ってくれ」

「おー! 了解、じゃあとびっきり別人にしたててあげるよ!」


 これは……思ったよりもこの後の旅の方が問題も起きそうだな――


(´・ω・`)続きは最終巻の改稿作業が終わり次第取り掛かろうと思います。

11巻の発売日は今月の28日となっております。

イラストはこんな感じになっております。注目はジニアの服がエロい。

https://twitter.com/non_non02/status/1293524440169328640/photo/1

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