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後日談 サーディス大陸編3

(´・ω・`)わかさゆえの

 エルダインでの生活が始まり、最初の夜。

 宣言通り街の見回りを行ったのだが、やはり夜ともなると、以前ほどではないが粗野な空気が周囲を満たし、どことなく危険な香りが付きまとう夜の街へと変貌する。

 が、今回は建設現場の見回りという事で、妖しい誘惑の手がこちらを誘う通りではなく、薄暗い資材置き場が続く裏通りへと向かう。


「そこのお三方。この建設現場の関係者かい?」


 早速見つけた三人組の男に話しかけると、露骨にガラの悪い反応と共に近寄ってすごんで見せてきた。


「領主の命令で怪しい人間は捕まえるか始末しろって言われててね。どうする」

「あん? 俺達はただここで酒飲んでるだけだ、放っておけ」

「んじゃ別な場所に移動しな。ここにいたら怪しい人間って事で始末しなきゃならん」

「ああ!?」


 一人が掴みかかって来たので、ぶんなぐって地面に大の字にさせる。


「次は殺す。で、どうする」

「……わ、わかった……表通りに行く……」

「仲間を置いていくのか? 酒も忘れているぞ。酒にしちゃあ随分と……燃料臭いな。そんな物飲むくらいなら死んだほうがマシだと思わないか?」


 やっぱり放火か。こりゃ事故で片付けるには軽すぎる話になってきた。


「やっぱ全員掴まえるか。全員ここで眠れ」


 大もんじ追加で。




「おーいヴィオちゃん。コイツら放火魔だから背後関係洗った方いいぞー」

「うぇ!? お兄さんの方も!?」

「ってことはリュエ達のほうも?」

「そ、今まさに燃え出したところをリュエお姉さんが消化。それで掴まえて来てもらったところ」

「ははぁ……こりゃ本格的に領地を荒したい連中がいると」

「まぁね。ここで商売してた商人連中を抱えてる貴族じゃない? ここ、ああいう連中が女遊びしたり奴隷買って遊んでたし」

「なるほど。んじゃここでこいつら掴まえても解決にはならないか。どうする気だい?」

「とりあえず連中から情報吐かせてからダリアんとこに伝書竜で手紙出す」

「……この大陸まだ魔導通信機整備されていないのかよ」

「今頑張ってるみたいだよ。大陸結界張ってた影響でそういうの中々難しいってさ」


 やっぱりな。元々金と権力さえあれば自由に非人道的な、非倫理的な遊びが出来た場所だ。

 そこで遊べなくなると困る変態クソ貴族様が沢山いらっしゃると。

 こいつは確かにサーズガルド代表とセリューの代表に任せるべき内容か。


「ヴィオちゃん、ついでにファルニルにも伝えておけ。俺からの指示だって添えれば馬車馬の如く働くだろうから」

「マジ? まぁその方が私も助かるけどさ。お兄さん、アイツに何したの?」

「詳しくは省くが、ガチ泣きさせた、とだけ」

「超ウケル」


 どんだけ嫌いなのさ。


 ともあれ、俺達が夜な夜な見回りをして捕えている影響のお陰か、表立ってそういった破壊工作をする人間は消えていった。

 そして四日後、ついに俺達の待ち人、まぁ勝手に待っていただけなのだが、レン君一行がこの領地へと到着し、コロシアムへと訪れたのであった。


「カイヴォン……! なんでこんなところに……そうか、面倒を見てくれる人がいるって聞いていたが、お前の事だったんだな!?」

「久しぶり。いや、実は俺達がここにいるのは半分偶然。ちょっと知り合いに顔見せに来たら、君がここに来るって聞いてね。それで少し滞在して待っていたんだ」

「そうだったのか……じゃあ俺がギルドから聞いていた面倒を見てくれるっていうのは……?」


 久しぶりに再会したレン君は、恐らく多くの物を見て経験してきたのだろう。

 どこか若さと勢いに任せていた気配が消え、微かに大人びた表情を浮かべ、自然体でこちらと言葉を交わすのだった。


「私だよ。久しぶりだね少年。七星杯以来だよね」

「アンタは……ヴィオ、だったよな。なんでアンタが……」

「ああ、彼女はこの領地の領主なんだよ。つまりめっちゃ偉い人」

「うぇ!? マジかよ……宜しくお願いします。少しの間お世話になります」

「いーよいーよそういうの。それより君、強くなったんでしょ? 後でここの試合出てよ。盛り上げてくれないかな」

「それはまぁ……元々興味があったから出るつもりではあるんだ。だがその前に待ち人と話したい。到着が大分遅れてしまったから、謝らないと」


 そう、その待ち人だ。どうやら数日前からちょっと遠出の依頼を受けているらしく、今日には戻ると聞いていたのだが。ふむ、しかし……レン君の取り巻き三人のガール達は、どこか居辛そうに遠巻きに此方を見ている。ちなみにリュエとレイスと会話中だ。


「じゃあ俺は先に宿を探すよ。この街って治安が良くないんだろ? 部屋が取れるまで三人にはここで待っていてもらいたいんだが、念のため気にかけておいて欲しい」

「あいよ。これでも大分落ち着いたんだが、それでも結構危ないからね」


 そうしてレン君が一度去ると、すぐさま三人娘の中からあの子……強きな女の子、名前は確か……アリナだアリナ。やばい、忘れるところだった。


「ちょっと……じゃなくて……すみません、あの」

「敬語不要。いつもの調子で問題なし」

「そう、じゃあちょっと聞きたいんだけど……レンが会いたがっている人って誰なの? 私が聞いても教えてくれないし、ギルドの方でも答えられないって」

「俺もちょっと心当たりが……ふむ。ヴィオちゃん、ここの領主が言うには、なんか可愛い女の子の戦士? が最近来て待ち合わせ中みたいな事言ってたらしいが」


 ただ試合の申し込みってだけかもしれないけれど。

 が、やはり気が気でないのか、こちらのもたらした情報にアリナ嬢が……。


「や、やっぱり女……! レン、どうして……」

「……ん? あれ、少し前に似たような話しを聞いたような気がしてきた」


 あれ? レン……レン……ああ!

 ナオ君だ! ナオ君がレン君に会いに行くって話を聞いたじゃないか!

 じゃあつまりここに来た可愛い女の子? それってナオ君のことなのでは?

 そう一人で納得していると、件の人、レン君が戻って来た。

 ――その隣に、綺麗な黒髪ロングのお姉さんを連れて。

 ……え? あれナオ君? 背伸びてない? ポニーテール辞めたの? っていうかもっと美人になってない君?


「おかえり、レン君。どうやら無事に会えたいたいだな」

「ああ、同じ黒髪だからすぐに分かったよ」

「え!? カイヴォンさん!? なんでここにいるんですか!?」

「レン君と同じ反応ありがとう」


 かくかくしかじか。つまりレン君を待っていた、と。


「なるほど……僕が依頼で離れている間に来ていたんですか。お久しぶりです、カイヴォンさん」

「ああ、久しぶり。それにしても大分背が伸びたねぇ……雰囲気変わったよ」


 具体的に言うとボーイッシュな女の子から、綺麗系のお姉さんになりましたね。

 いや男だけど。なんで君背が伸びてもそんな女性的なシルエットなの。

 実は女なの? いや、でも温泉で確認してるわ俺。


「あ、そちらの皆さんは初めましてですね。レン君のお仲間さんですよね? 初めまして、ナオです。宜しくお願いします」

「はい、宜しくお願いしますね」

「よろしく」

「…………」


 レイナ嬢とシシル嬢が挨拶するなか、アリナ嬢だけが敵愾心たっぷりな様子でナオ君を睨み続けている。いやぁ……仕方ない。確かにこれは仕方ない。ナオ君美人さんにしか見えないし。


「ちなみにレン君、ここだけの話、この同じ解放者であるナオ君を見た感想は?」


 こっそり耳打ち。


「……同じ日本人が懐かしいのとか、あとは……同年代でしかもこんな美人とかちょっと緊張するな――って何言わせるんだよ!」

「……そうか、君もか」


 もっと楽しくニマニマと眺めていたいところだが、アリナ嬢が不憫なので。


「はい注目。ヴィオちゃんもこっちカモン。俺から改めて紹介しましょう。このナオ君は、隣大陸セカンダリアで召喚された解放者で、一応俺の一番弟子の“青年”です」

「え、マジ!? 君お兄さんの一番弟子なんだ!?」

「マジか……少し羨ましいなそれ……」

「あはは、そうなんです。カイヴォンさんには一時期教えを受けていました」

「……あれ? あの、青年って……?」

「うん、この人男だよ。魔力で分かる」

「へ? え? 男の人……?」

「え!? え、君、男……?」


 ナオ君、ちょっとショックを受けているようだが、正直俺も前知識なければ分からないっす。女っぷりに磨きがかかっています。


「男ですよ……カイヴォンさんみたいに髪を下ろせば男っぽくなると思ったんですけど……」

「ごめん逆効果だからそれ。俺も一瞬女の人かと思ったから」

「そんなぁ……」


 無事解決。いや、アリナ嬢だけはまだ信じられないのか、ペタペタとナオ君の胸や肩に触れている。そして驚愕の表情を浮かべながら『お、男だわ……』と。


「ねぇお兄さん。このナオって子と戦ってみたいんだけど、今日の夜ここ貸し切ってやってもいい?」

「そりゃ彼次第だ。レン君、君も興味あるんじゃないかい? 同じ解放者がどれくらい強いのか」


 とりあえずヴィオちゃんは通常営業。俺の弟子であり、最近ここの大会で優勝をしている彼に興味津々だ。そしてレン君もまた、同じ境遇の彼とは戦ってみたいのだろう。


「ええと……僕は構いません。カイヴォンさんが旅立ってからの一年間、各地の魔物討伐や、その……少し前からある人と戦い続けて、自分を鍛え続けていましたから」

「ああ、エル……じゃなくて、メイルラントの王女か」

「あ、はい。凄いですよ……最後には僕負けちゃいましたから」

「ふふふ……言うなればアイツは俺の二番弟子だからな。というか俺達の弟子だ」


 オインクが装備を与え育成方法を考察、俺とシュンが監督し、そしてリュエとダリアに保護されながらひたすら戦わされ、そしてレイスから格闘の基礎を教え込まれた、まさに俺達のチームの集大成があのすちゃらか王女なのだ。


「す、すごい……そんな皆さんに教えられたなんて……」

「……やっぱり頂きは遠いな。いつか俺も戦ってみたい」

「シュンもダリアも総帥さんもお兄さんもお姉さん達も……何その人めっちゃ戦ってみたいんだけど!」

「たぶんそのうち遊びに来るだろうから、楽しみにしておくといい」


 ともあれ、とりあえず今夜交流の意味も兼ね、ナオ君とレン君、そしてヴィオちゃんが戦う、と言う話になった。

 レイスは誘われたが全力で拒否していました。それが正しい。今のレイスはもはや格闘家というよりは狙撃手だから。


「……あの、私は恐いので一緒に戦えないのですが……」

「右に同じく。術が通じる相手じゃない」

「……正直私もパス」

「それで問題ないでしょ。さすがにあの三人はなんというか……向こう側の人間って感じだし」

「その際たるのがアンタでしょ? つくづく恐ろしい人脈ね……王女を鍛えるってどういう事よ……」


 確かに。




 夜。元々夜にコロシアムは使われていないのだが、今日は警備の人間含め、部外者が立ち入れないようにリュエが結界を張る。

 ちなみに三人は同時に戦うそうだ。バトルロイヤル方式である。

 そしてついでに、簡易的ではあるが、リュエがフィールドに特殊な結界を張り、命に係わる傷、心臓や頭部への強烈な攻撃を和らげるようにしてくれた。

 さすがに、ダメージ変換は一人の力じゃ難しいそうな。


「誰かが大けがしたらその段階で試合終了ね。私が治すから!」

「ルールはギブアップをするか棄権するまで自由。たださっき言ったように殺しは出来ないからそこだけ気を付けて」

「それと、私の目から見て、これ以上の試合続行は難しいと判断した場合はそこで敗退としますね」


 レフェリーは俺、リュエ、レイス。俺達三人が見ていれば、ある程度の安全は保障されるだろう。今回ばかりはヴィオちゃんも血みどろな殺し合いを望んではいないのだし。


「勝者はお兄さんに今夜のご飯のメニューリクエスト出来るって事で。私カニあんかけ炒飯と手羽先の煮込みね!」

「僕はチキン南蛮とたこ唐でお願いします」

「俺はビーフカレーだ! あとマッシュポテト!」

「はいはい。今回は勝者のしか受け付けないから、それぞれ頑張ってくれ。それじゃあ、試合開始!」


 そして、それぞれ成長した姿の三人が、この闘技場の中で激しくせめぎ合いを始めたのだった――




「……やっぱりレン君がこの中じゃ一番経験が少ないからか、押されているな」

「うん、でも下地にある剣術の基礎のおかげか、うまく凌いでいるね」

「私が見た限りですと、やはりヴィオさんが優勢、でしょうか。速さに磨きがかかっていますね……」


 戦闘開始から一〇分。大勢はおおよそだが決し始めていた。

 元々ナオ君とレン君では、性格的な面や地球での経験の差から、レン君の方が強かったのだろう。

 だがナオ君は七星の謎を追い求める為、苦しい戦いを続け、そしてヨロキとの死闘を潜り抜け、さらにヨロキを倒したことで得た経験値により、大幅にレベルがあがっている。

 対するレン君は、倒すべき七星もいない状態で、格上の敵と戦う事も出来ず、成長の機会を奪われていた。だがそれでも……彼はタイマンで俺やヴィオちゃんと戦い、頂きをその身で実感し、修行を続けていた。

 そして身に沁みついた剣術の下地と観察眼、反射神経により、明らかに格上な二人に混じりながらも、それらを凌いでいる。……やっぱ君強いわ。

 最後にヴィオちゃんはまぁ……この子は解説するまでもなく強い。対人経験の差が圧倒的すぎる。能力的にはナオ君に劣ってはいるが、戦いに関しては彼女は天才だ。


「……そろそろレンさん魔力が尽きますね。同時に複数の自己強化を使っています」

「あ、例の電気でパワーアップ? 凄いよねあれ……私はまだよく理解出来ないよ」

「そうか、それもあったか……そろそろ勝負に出そうだな」


 そう思った瞬間、レン君が腰から今まで使っていたのとは違う剣を抜き放った。

 あれは確か、レイニー・リネアリスから譲り受けた剣……。

 それを彼は振りかぶり、そして――雷光を纏った強烈な一撃を、その衝撃波をナオ君へと放つのだった。


「……すごい、そんな技も使えるなんて……僕も――」


 そしてナオ君も、迫りくる一撃の前で怯みもせず、二振りの剣の片方を放り投げ、一本の剣を振りかぶり――


「天断!」


 雷光を、さらにまばゆい光で切り裂いたのだった。


「……レンさん、戦闘不能と判断します」

「レイス、彼を観覧席に」


 健闘した。独学で彼の本気の一撃まで引き出したなら万々歳だ。

 というかヴィオちゃんが露骨にレン君狙いすぎ。絶対七星杯の事根に持ってるだろ。


「ナオ君とヴィオちゃんの一騎打ちか。……いや」

「すみません、僕も棄権します。さっきの一撃で限界みたいです」


 そう、ナオ君も敗北宣言をしたのだった。


「えー! なんでよ、これからじゃん!」

「む、無理です……今の出打ち止めです……」

「もー! 持久力とかもっと鍛えてよー!」


 いやぁ……やっぱり対人って疲れるよ。魔物相手とはわけが違うんだ。

 やっぱりこういうところで経験の差が出てくるんだよ。


「はい、じゃあ勝者はヴィオちゃん! んじゃ皆VIP室で休んでて。飯作って来るから。ここにも厨房あるだろう? 借りるよヴィオちゃん」

「むー、了解。鍵は開いてるからお願いね。消化不良だなぁもう……」

「後で俺が相手するから機嫌直しな」


 こればっかりは仕方ないでしょう。

 そして俺は宣言通り、ヴィオちゃんの指定した料理を作りに厨房へ向かうのだった。

 いやぁ……解放者って普通の人間より強い能力持ってるはずなのに、なんで勝てちゃうのかね君は……。




 そもそもの話。ナオ君は何故レン君と会いたかったのか。

 それは、この世界に残る決意をしたレン君と、話してみたかったからだ、ナオ君が。

 そして……この大陸で会えるようにセッティングしたのは恐らくオインクだ。

 理由はただ一つ。『実際にここで地球に戻った解放者がおり、それに必要な術式も魔力もまだ残っているから』だ。

 そう、つまりオインクはこの場所で、帰りたいと思ったのなら、すぐにでも帰ることが出来るという状態で、二人に改めて話をさせたかったのだろう。

 夕食を食べ終え、ナオ君とレン君が二人だけで話したいという事になったのだが、その場に俺も付き合う事になった。

 ……そう、同じ元地球人として。


「……カイヴォンが、俺と同じ元地球人……」

「ああ。黙っていて悪かったね。けど事情が君達とは少し違うのさ」

「僕も、初めて会った頃は秘密にされていましたから」

「なるほど……で、ナオは俺にどんな話を聞きたいんだ?」

「それは……」


 ナオ君は、今自分が地球に帰るべきか、それともこの世界に留まり、自分を愛する人と結ばれるか、その二つの間で心が揺れているという思いを伝える。

 そして、迷わずにこの世界に残る選択をしたレン君に、その心情を教えて貰いたいから、と。


「そうだな……俺は、地球で生きるよりもこっちの方が絶対に自分に合ってるって、最初から思っていたんだ。俺、地球じゃ剣道のインターハイで優勝したんだぜ」

「ええ!? す、すごい……だからあんなに強かったんだ……」

「俺に勝ったお前が言うなって。ただ、別に剣道の腕を生かせる世界だからってだけじゃない。たぶん俺は……自分という人間がどこまでいけるか、自分のすべての能力が評価される場所だと思ったからここに残りたかったんだ。だって剣道が強くても、それでいい暮らしが出来る訳じゃないだろ? 勉強だってそうだ、結局はどこかの会社に入って、そこで評価されるように働いて……面倒なんだ、戦うステージが変わって、その度に評価の基準が変わって。それが社会の仕組みだって分かってはいるんだけど、やっぱりこっちの方が性にあってて」


 ……なんだ、随分しっかりと考えて決めていたんじゃないか。

 たぶん、俺も深く考えたら、そういう答えにいきつくのかもしれない。

 だが、俺はそんな事を考えるよりも先に『愛する人間と一緒に居たいから』って理由が強すぎて、そこで思考が停止してしまったんだよな。


「……僕は、家族が大事で、ここにいる愛する人も大事で……天秤にかけるのが恐いんです」

「そうだよな。俺だってそれは考えた。でも、家族の為に生きるって、自分の人生じゃないって思ってさ」

「そうかも、ですけど……」


 二人が語り合う。時にお互いの考えに目を瞠り、時に納得できないからと言葉を交わす。

 そんな二人が、少しだけ眩しく映った。


「なぁ、カイヴォンはなんでここに残るって決めたんだ?」

「俺は単純に、誰と生きたいか。それに従った。最後に行きつくのは自分の人生だ。だから、直感で俺はリュエとレイスと生きる以上の幸せを、日本で見出せるとは思わなかった。家族とだって別れたが、究極の話、家族も他人だ。そしてリュエとレイスも他人だ。だから他人と他人を天秤にかけたんだよ。それだけの話だ」

「はは……カイヴォンらしいな。そこまでまっすぐに考えるなんて」

「……それは、凄く強い人の考え方、ですね」

「ああ、俺は強い。ナオ君、君はもっと悩んでも良い。でも、いつかは必ず答えをみつけなくちゃいけない。それだけは忘れないでくれ」


 きっと、スティリア嬢は君がどんな答えを出しても、受け入れてくれるだろうから。

 が、友人としては、二人には結ばれて欲しいとは思うのだが。

 ……ちょっと汚いやり口に切り替えようか。


「例えばの話だ。ナオ君、君が地球に帰る。そして就職して、誰かと結婚する。が、ここでも絶対君は時折この世界の事を思い出す。そして彼女の事もね」

「あ、はい……結婚……」

「正直、彼女ほどの美人と結婚なんて……地球じゃなかなか難しいだろう。そして俺達は男だ、どうしてもその思い出を忘れることが出来ない。これは間違いない」


 ほら、レン君も少しだけど頷いている。


「心が時折うつろになる……そんな心で、お嫁さんは不安になってしまうんじゃないのか? 結婚生活にひびが入るかもしれない……だってナオ君の心には、嫁とは違う女が居座っているから! すっぱり忘れられるほど器用な人間なら問題はないだろうけど」

「う……それは……難しいです」

「カイヴォン……お前……結構おやじくさい事言うんだな」


 ええいだまらっしゃい。


「さて、逆にこの世界で彼女と結ばれたとしよう。その場合、君が考えるの家族の事のみ。この際、ナオ君の話なんだから、ナオ君の家族の感情は抜きで考えよう。さて、君が考えるのは地球での生活だ。その思い出は……重く大きな物だ。家族だからな、当然だ」

「はい……」

「しかし、ここで新たな家族、お嫁さんになった彼女との生活は、きっと元の生活から離された寂しさを埋めてくれる。完全には無理でも、遠い思い出に出来るのではないだろうか」


 いや、実はこれ女を忘れる為にも言える事ではあるんですけどね。

 ただ、生活の懐かしさは埋められるかもしれないが、人との思い出というのは……難しい。

 他人を代替えとして利用するようで気分もよくないとナオ君なら思うだろうし。


「……スティリアを……そう、か……」

「まぁ一つの意見として聞いて欲しいってだけだよ」

「の割には熱弁だったよな……そのスティリア……さん? っていう人がそこまで好きなら、確かに俺もまぁ……そっちの方がいいのかもしれない」


 そりゃまぁ若い青年にはかえがたいものがあります、あの女騎士様は。


「……僕は、スティリアといたい……自分勝手に考えたら、それが一番なんです。でも色々考えて……それで……」

「ここにいる選択をしたレン君に話しを聞きたかった。そしてここにいる事を決めた俺を同席させた。本当はもう……心は決まっていたんじゃないかい?」

「……そっか、僕……背中を押して欲しかっただけだったんだ……」


 ……そうか。そうだったのか。


「……これから、俺とも長い付き合いになりそうだな、ナオ」

「うん、そうだねレン。僕も……ここに残るよ。カイヴォンさんも、宜しくお願いします」

「そうか、それはよかった。俺とも長い付き合いになりそうだな、ナオ君」


 胸のつかえがとれたのか、ナオ君の表情はとても晴れやかな物だった。

 良かったな、スティリア嬢。君の思いは、彼に通じていたみたいだ。


「で、肝心のレン君はアリナ嬢とどうなってんの。思いっきりアプローチされてるけど」

「お、俺の話は良いだろ!? 解放者としての責務が果たせられない以上、俺の貴族入りは無理だし、それなら何かで名前を挙げて認めてもらうか……最悪、アリナに貴族の位を捨ててまで俺に付いてきてくれるか……いつか……聞かないと……その……」


 なんだよ、結局一番悩みが多いのは君じゃないか。

 そうして、男三人で、柄にもない、少し青臭い話を夜通し繰り広げたのだった。


(´・ω・`)きっと傍から見たら同性婚

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