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人人  作者: サア
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謎の多い転校生

人人


昔からの言い伝えで呪いの藁人形ってあるだろ。呪いたい人物の髪の毛を1本、藁で編んだ人形の胸元に編み込んで、その人形を鎚と釘で木に打つあれ。人形の手を打てば呪いたい人物の手に、頭を打てば頭に、そして心臓を打てば心臓に釘を打ち込まれた感覚を催させるという。まあ、こんな風に日本では昔から「呪い」の効力が信じられている。

しかし、「確実に人を呪う方法」ってあると思う?あたしにはどうもあるとは思えない。人間ってのは妬みや恨みにものすごく流されやすい生き物だ。「確実に人を呪う方法」が存在するなら今頃地球上の人口は半分くらいになってるはずだよ。いや、あるいは「確実に人を呪う方法」を以ってして70億という数字なのか?ならば実質的な人数はもっと多かったのかもしれないね。

そこのところはよく分かんないけど、とにかく「確実に人を呪う方法」なんてあたしは信じないね。


ただあたしが信じてるのは、「生まれながらにして確実に人を呪う能力を持っている人」の存在だよ。方法も何もない、神から授かった天性の能力。本当にいるんだよ?以前見た、人を呪う「あの光景」が今も脳裏に焼き付いて離れないんだ。


…そろそろ、新しい学校に着く頃だって。次の学校には、いるかなぁ。天性の能力持った人間。いたらーーー

オトモダチになりたいなぁ。










桜の舞う綺麗な校庭。校庭に根を張る1000歳を越える桜の木は美しい花吹雪を散らしてくれた。よく春といえば桜の花が舞っている風景が目に浮かぶが、逆手に捉えればそれは桜の花びらが寿命を迎える瞬間なのだ。その可憐で儚げな美しさは平安時代の頃から、たくさんの人間に愛でられてきた。咲けば美しく、散れば儚い。何ときれいな一生だろうか。

僕という人間は桜とはまるで真反対だ。友達が多いわけでも少ないわけでもない。勉強ができるわけでもできないわけでもない。可もなく不可もない、目立たない存在なのだ。

いっそ何もできない不細工なオタクとかだったら、まだ「気持ち悪い」キャラクターとして確立することができるのだが。だからよく漫画で自ら目立たない存在アピールをしている「勉強、運動、見た目」にコンプレックスを抱くダメダメな主人公とかは、絶対に目立っているはずなのだ。そこまで何もできない人間ならばそれが逆に個性になるからだ。

僕の「目立たない」という特徴も個性になって逆に目立ってほしいところだが、そんな都合の良いことはこの世には存在しないわけで、今日もひっそりと教室内のどこかに漂っている。


「…えーと。おい、川原」


座席と名簿を見ながら、新担任の三木が低い声で僕を呼ぶ。

反射的に窓の外から教卓に目線を移す。


「え、はい」


「集中してくれよ。初めてのHRだぞ」


「す、すみません」


言われて思い出したが、そういえばまだ朝のHR中だった。意識がどこかにいくと我に返ることができないのも自分の悪い癖だ。


「川原のためにもう一度最初から説明するが、このクラスに転校生が入ります。といっても君らも2学年になって新しくクラス替えを行ったから、環境も変わってあまり転校生という感覚はないと思う」


この時期に転校生か。あまりにもベタすぎる展開だな。今朝登校してくる時に見かけないイケメン顔の男と、曲がり角でぶつかった女子がいたらフラグが立っているところだが。


「まあなかなか面白い奴だから、仲良くしてやってくれ。では入りなさい」


先生がドアの外に呼びかけると、ドアが半分ほど開いた。しかしそれ以上は開かない。建て付けでも悪いのかと思ったが、半分開いたドアから教室の中に入ってきたのは、細身で小柄な女子だった。辺りがざわめき、ボソッと陰口が聞こえた。それもそうだろう。

一言でまとめてしまえば、転校生の彼女は不気味な見た目をしていた。右眼はピンク色のハートがあしらわれた黒地の眼帯で覆われ、顔には無数の傷跡と縫い合わせたような跡。そして極め付けは真っ黒な唇である。ニコニコとしているからまだ見れる状態の姿ではあるものの、非常に痛々しく近寄り難いオーラを放っているのには変わりない。

クラスの反応を察し、先生が転校生のフォローに回る。


「…じゃあ君。真ん中まで来て自己紹かーーー」


先生が言い終わる前に、転校生はカツカツとローファーの踵を鳴らしながら教卓へ向かって歩き出した。クラス全員がその様子を固唾を呑んで見つめている中、転校生は右手にチョークを持った。チョークと黒板が擦れ合う音が聞こえる。懸命に手を伸ばしながら名前を書く彼女だが、身長が身長のため、書いた文字は黒板の中央列に並ぶほどだった。書き慣れているのだろうか。綺麗な文字に、揃った横書きで自分の名前を示した。


「よく間違われるんだけど、『くらやみ』じゃなくて『あんね』だから!

名前はそのまま『くくり』ね!

多分みんな2年間よろしくねぇ」


大きい声にあっけらかんな喋り方。インパクトが強過ぎる自己紹介にみんな唖然としていた。余計にざわつきは大きさを増し、男子の中には彼女のことを面白がるようにからかう奴もいた。

ふと、黒板に書かれた名前と転校生の姿を見比べる。

『暗闇 くくり(あんね くくり)』

恐ろしいほどルックスに合っている名前だった。あるいは彼女自らがこの名前に外見を合わせているのだろうか。どちらにせよ僕にとって羨ましい要素であることは確かだ。

そして「多分」とはどういうことだろうか。もう次の転校先の選択肢でもあるのだろうか。


「はい、お前ら静かにー。

暗闇さんこれからよろしくな。

席なんだけどーーー」


しかしまたもや暗闇は先生の話なんて聞いてない様子で突拍子もないことを言い出した。


「あ、大丈夫です!自分で決めるんで」


ニコッと先生に対して満面の笑顔を向ける。今度は生徒だけでなく先生まで唖然としてしまった。そりゃそうだ。「自分で決めるんで」じゃないだろう。その決定権は君にはないはずだし、先生が決めた席もあったろうしーーー

なんて考えているうちに、暗闇はこちらの方に向かって歩いてきていた。おいおい嘘だろ。こんな窓際の1番後ろに何の用だ。嫌な予感はしたのだが、間違いなく彼女は俺の目をまっすぐ見据えている。もしや知らぬ間に何か彼女のインスピレーションを刺激してしまっただろうか。あぁ面倒だ。

暗闇は俺の席の目の前で足を止め、こちらから見えている片目をキラキラとさせながら話しかけてきた。


「君、名前は⁉︎」


半分勢いに乗せられてつい名乗る。


「か、川原かわはら しゅん…」


「川原ね!君冷静じゃん。ちょっと見直したよ」


いきなりのことで頭の中は疑問符でいっぱいである。分からないが、何だか変に気に入られてしまったようだ。


「…いや、別に見直されるほど知り合ってもいないと思うんすけど」


つい、腹立たしさが籠った物言いになってしまった。慌てて目線を逸らしてごまかす。


「それはね、くくりは教室入った瞬間にみんなのこと大体分かるから」


「…大体分かる?」


うっかり軽はずみに鸚鵡返しをしてしまった。怪訝な顔を向ける俺を他所に、暗闇は視線を俺からクラスに変えた。


「みんなが感じたように、くくりは突拍子もない変なキャラクターです。そんなくくりに対してみんなが取った行動はどう?ある子は私の陰口を言っていて、ある人はくくりのことを面白がっていた。またある人に至っては何だこいつというような目をしながら蔑んだ目でくくりのことを見てた」


暗闇は教室を練り歩きながら話し出した。生徒の中には自分のことを言われていて、つい目線が俯いたり、舌打ちをして睨む奴もいた。しかし暗闇は全く気にする様子もなく、さらに続けた。


「多分、みんなが取った行動や態度が一般的なものなの。そんな中でくくりのキャラクターに対して、冷静さを欠かず、感情すら表に出さずに向き合っていたのは、川原だけ」


もう一度俺の方に振り返って、暗闇はさっきまでの胡散臭いニコニコとした表情をやめた。ふっと変わったその重苦しい表情はまるで氷のように冷たく感じた。


「あんたも心の中では『何だこいつ』と思ってたはずなんだ。しかしそれを客観的な事実として自分の中で昇華することによって冷静に今目の前で起きている物事を対処した。もはやあんたの癖になっているだろう。誰にでもできることじゃない。それを見直したって言ったんだ。あんたはあたしが探している人物に1番近い。」


暗闇の言葉を聞いているうちに思考が止まった。なぜ俺は動けないでいるんだ。顔の筋肉は強張り、まるで蛇に睨まれた蛙である。

心なしか暗闇の声はさっきよりも低くなっていた。口調もまるで別人である。真っ黒な唇をニヤリと釣り上げて笑うその姿は、背筋が凍るほど不気味な笑みだった。しかし、すぐにニコッと胡散臭い笑顔に戻る。


「あ、あとね、最初に教卓越しに川原を見た時、全然目立たないただのモブだと思ってたんだ!だからその冷静な様子を見て見直したって言ったの!」


ふっと力が抜ける。一気に疲労感が体中を駆け巡った。後ろ髪の中で汗が伝っていくのが分かった。

暗闇はケラケラと高い声で笑い、教室の後ろに積んであった自分の物であろう机と椅子を、俺の席の隣に配置した。制服のYシャツで汗を拭いながら、身勝手な行動を取る暗闇に恐る恐る話しかける。


「…本当に俺の隣来るんすか」


「川原のことちょっと気になるからね〜。あ、恋愛的な意味じゃないから期待しないでね!」


んな期待誰がするか。また改めてはぁ、と大きくため息を吐くと、三木先生も我に返って仕切り直した。


「…じ、じゃあー席も決まったみたいだし、仲良くやれよーお前ら」


HR終了と1時限目開始を告げるチャイムと共に、そそくさと三木先生は教室を去っていった。

ちらっと右隣を見る。暗闇はワクワクした様子でスクールバッグの中から教科書や筆箱を取り出している。やれやれ、この席は静かに窓の外の風景を眺めていることができるから好きだったのに。暗闇のせいでこの平和的な雰囲気が壊されてしまいそうだ。

それにしても、冷静さか。確かにあまり感情を出さずに生きてきた気がする。それに縛られることによって、自分が今周りからどんな風に見えていて、今目の前でどんなことが起こっているのかが主観的にしか見えなくなってしまうからだ。

しかし、それが暗闇と何の関係があるのだろうか。「自分がが探している人物に1番近い」と言っていたか。そして、さっきの暗闇の人格は何だったんだ。思い出すだけで悪寒が走る。

どれだけミステリアスなんだこの女は。会ってまだ5分少々だが、今のところ聞きたいことが4、5個ある。モヤモヤとする俺を置いて、新しい学校生活はスタートのテープを切った。




「あーんねさーんっ!」


1時間目が終わり、その直後の休み時間にクラスのある女子が暗闇の席へと訪ねてきた。声の主はこの学年のボスだ。


「あぁ、私は春富はるとみ 才加さやかっていうの。もう私たちはお友達だから名前で呼ぶことにするね。これからよろしくね、くくりちゃん!」


席でキョトンとしている暗闇に対して、春富は満面の笑みで右手を差し出す。しかし暗闇はじっと春富の目を見つめているだけで、1ミリも動こうとしない。妙に感じた春富が声をかける。


「あ、ごめんね。分かんなかったぁ?握手って意味よこれ。これからよろしくーーー」


「才加ちゃん、くくりのこと馬鹿にしてるんでしょ?」


表情を全く変えずに暗闇は言い放った。自分の言葉を遮られた上に、思いがけない発言を受けた春富は、自然と目を伏せて口角を下げた。


「…え?」


「あなたは、くくりのことをからかうためにここに来たんだよね?」


春富はもう一度わざとらしく首を傾げて笑顔で問いかける。


「やっだぁ!どうしてそんな嫌味なこと言うのー?

くくりちゃん考えすぎだって!」


コロコロと笑う春富だが、暗闇は感情を全く揺らがせることがなかった。ずっと表情筋をピクリとも動かさずに春富の顔を見つめ続けているのだ。徐々に春富も気味が悪くなったのか、暗闇に対して感じているイライラを口に含ませるようになってきた。


「…暗闇さん、あなたのその態度何なの?学年のトップグループにいるこの私が転校初日に話しかけてあげてるんだけど。それを『馬鹿にしに来てる』なんて失礼だと思わないの?」


言い終わるまでには、春富の顔から笑顔が完全に消えていた。まあ、どっちもどっちだろう。しかし春富を敵に回すなんて度胸のある奴だ。そんなの俺には面倒くさくて堪らない。


「思わないよ」


今度は暗闇が笑う。その様子に周りの野次馬クラスメイトがはっと息を呑む。


「あなたの性格と弱点、掴んだよ」


暗闇は静かに席を立ち、低い目線から春富を見上げる。

弱点?一体何をする気なんだこいつは。弱点と聞いて真っ先に思い付いたのは格ゲーの敵のウィークポイントだったのだが、まさかこの小さくて細い体から何か大技が繰り広げられるとは到底思えない。

若干暗闇に対して警戒心を覚え始めた春富は、ブツブツと独り言を言う暗闇を、強張った表情で見つめている。しかし次の瞬間、暗闇は再びあっけらかんに、ぱぁっと笑った。



「ねえねえ才加ちゃん。

呪いって信じる?」



…は?

何を言ってるんだこいつは。

春富もいきなりの問いかけに思考回路を一時停止させたようだ。


「……は?」


「の・ろ・い!口に兄って書いて呪い!」


太陽のようにキラキラとした笑顔で黒い単語を口にするこの少女の考えていることが全く分からない。というのが率直な感想である。それは春富も同じのようだ。


「…何を言ってるのか全く分かんないんだけど。この後に及んでとんちでもお披露目するの?」


春富は腕を組んで仁王立ちである。イライラしているのか足も落ち着きがなく、パタパタと足首を動かしている。


「とんちなんて嫌だなぁ。くくりの立派な特技だよ!もっともそんなに大きいことはできないんだけど」


暗闇は言っていることは支離滅裂だが、人をからかっているようにはまるで見えない。純粋に自分の知識を述べているだけのようである。


「あのねぇ、呪いなんてあるわけないじゃない。そんな非科学的なことこんな世の中じゃ脅しには通用しないのよ。私はオカルトには興味ないのよ」


「まあやっぱ信じないよね。自分が見たものしか信じない、自分中心の世界に引き籠って生きる才加ちゃんに信じろって言う方が難しいだろうしね」


春富の右目が痙攣した。かなりイラついているのだろう。殺気のあるオーラを感じた。


「そんなに言うんならやってみなさいよ。あんたの言う呪いってやつをね!」


言った瞬間、暗闇の目が微かに輝いた。


「え、いいの?ならもう遠慮なくやらせてもらうけど」


「別にいいわよ。あんたの変人ぶり、クラスのみんなに見せつけてあげなさいよ」


しかし暗闇はもう何も答えなかった。ただ目を瞑ってボソボソと何かを唱えている。15秒くらい経っただろうか。暗闇は目を開けてニヤリと下衆な顔をした。


「なぁ春富さん。あたしの呪いを教えてやろうか」


急にまた口調が変わった。乱暴でまるで男のような、とにかく完全なる悪役キャラである。春富もつい驚いたような表情になる。


「至って単純だよ。相手に苦痛を与えたい箇所を頭の中で念じるだけで本当に相手に痛みを感じさせることができる。藁人形の簡略版だな」


暗闇は右手の人差し指で春富の右目をまっすぐ指差した。


「やってみるよ。まずはあんたの右目。目の奥の血管がだんだん疼いてきて白い部分に弱い痒みを感じる。しかしその痒みは徐々に痛みへと変換されていって、ピリピリと黒目にまで痛みが侵食してくる」


暗闇の口から出てくる言葉に、春富はただ目を見開いて怯えることしかできない様子だった。暗闇はさらにつらつらと話し続けた。


「咄嗟に瞬きをしても手で擦ってもその痛みは緩和されにくく、むしろ瞬きをするほど目の奥から沁み出してくるような痛みに襲われる。もうこの痛みに対して何もできない。抵抗することは愚か耐えることもできないーーー」


さっきまでただ見ているだけだった春富の様子が明らかに変わった。最初に右の手で右目を押さえ、次には苦痛ともいえる表情を浮かべるようになってきた。呼吸は早く、荒くなって、頭の中も混乱してしまっているのだろう。


「右目、痛いよね。こんな非科学的な現象ありえないって思うよね。でも今からもっと明確に呪いの存在を信じさせてやるよ。あたしが3つ数えたらあんたの右目にさらに強い痛みを送っていってあげる。例えるならそうだな。爪切りの刃で目の角膜を1mmずつ剥がしていくような感覚かな」


「角…膜…」


春富の呼吸は今さっきまでマラソンでもしていたのかと思うくらい乱れていた。もう言葉を発することもままならない。ただ、俺にしか聞こえない程の小さな声で「痛い痛い痛い」と何かに取り憑かれたように繰り返し呟いているだけだった。


「大丈夫、大丈夫。角膜を剥がすこと自体にはあまり痛みは感じないから。ただ角膜を剥がすと前眼房っていう、いわば黒目の部分が剥き出しになる。今まで角膜に覆われていて空気に触れていなかった部分が急に空気に触れたらどうなると思う?角膜というフィルターの排除によって前眼房は急速的に乾燥し、それはもう涙なんか流しても追いつかないくらいの激痛に襲われる。痛くて涙を流したって緩和されることはない。あー怖い怖い」


想像しただけで目が少し痛かった。何てグロテスクな内容をあっさりと言い放つのだろうか。暗闇は目を見開いてニッと歯を剥き出しにして笑っている。


「いくよ。1」


春富に情けをかけてやる隙もなく、暗闇のカウントは始まった。


「はい。2」


「あ、あ…あぁ」


春富が後ろへ4歩程下がる。迫り来る恐怖と想像もできないような痛みが待ち構えるこの状況に、思考が停止してパニックになっていた。


「最後。3」


春富の右目を指していた右手を翻し、暗闇はパチンと指を鳴らした。その瞬間春富の体は大きく前のめりになって、勢いよく膝から床に倒れ込んだ。


「ああぁぁあぁぁぃぃ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!!!!!!」


発狂、とはこのことを言うのだろう。拷問的な「呪い」をかけられたその出で立ちからは、普段の春富の面影は一切感じられなかった。右目を抑えながら床をのたうち回る春富に「ひっ」と周りのクラスメイトが短い悲鳴をあげる。暗闇はそれをとても楽しそうに見ている。


「何なのよこれえぇぇ!!」


右目を掻き毟りながら春富が叫ぶ。


「だーかーらー、呪いだって!何回も言ってんじゃん!」


また「こいつ」だ。一体暗闇という人間はどれが本物なのだろうか。再び暗闇は明るい口調を取り戻し、春富の姿にケラケラと愉快そうに笑った。


「みんな、どう思う?自称学年のトップグループの子がこんなことになってるよ?あっははははは!!超面白いねぇー!」


何て奴だ。今までどんな奴がどんな目に逢おうと知ったこっちゃなかった俺でもそう思った。何でここまでしてクラスの奴らに春富の豹変ぶりを見せ付ける必要があったんだ?そして一体どんなトリックを使ってるんだ?


「まー痛そうだし最初だから治してあげるね。3、2、1、ハイ」


再び暗闇が指を鳴らす。春富の発狂はここで終わりとなったが、右目には爪で掻き毟った痕が何本も連なっていた。


「さっ才加、保健室!」


やっとある1人が我に返り、春富の横回って肩を支える。春富はヨタヨタとしながらドアへと歩いて行った。それに乗じて、恐怖のあまりに教室を出て行く者が現れ、それに続いてもう1人、もう1人と生徒が教室を出て行った。中には職員室に走って行く奴もいた。

いつの間にか人は流れ、教室に取り残されているのは俺と春富だけだった。


「…おい、暗闇」


「ん?」


「…2つほど質問がある」


「いーけど、疲れてるから手短にね。呪いの後ってプールでメドレー泳ぐよりも疲労感くるんだよねぇ〜」


あの後によくそんなに明るくいられるな。とは思ったが、いちいち相手にしているのも面倒で話を続けた。


「1つ目。あんなことして何のためになる。確かに春富はお前に突っかかってくる存在だったが、それにしてはあまりにも酷いことをし過ぎだ。

2つ目。一体春富に何をした。また呪いなんて非科学的な事を言うなよ。何かしらトリックがあるはずだ」


暗闇は俺の話を小馬鹿にするように「ウンウン」と頷きながら聞いていた。しかし話し終わるとすぐに思い詰めたような顔をした。


「…1つ目の『何でこんなことをしたか』は答えられないかな。川原には特にね。

そして2つ目。確かに私がやってるのは呪いじゃないよ。でもそれは『呪い』っていうのが1番伝わりやすいから。実質、呪いみたいなものだしね」


答えているようで、結局何も答えてくれないか。まあそんな簡単に素性を明かすような人物でもないだろう。


「私のこと気になるのは分かるけど、あんまり深入りしない方が良いよ。川原、あなたのためでもあるから」


「俺のため?一体何のこーーー」


「おいおい何やってんだてめぇらぁぁ!!」


いきなり耳を劈くような轟音が聞こえてきた。よく聞くとこれは担任の三木だ。何て行動の早い先生だ。


「あ、まずいまずい。私もみんなと紛れるために教室から逃げるとしよう」


「いや、確実にバレるだろうがな」


「一時的に撒くためだよ。状況説明は任せた川原!そんじゃね!」


そう言って暗闇は足早に教室を出て廊下を走って行った。


「あってめ、きったねーーー」


追いかけて行こうとしたが、さらに発覚したある違和感に足を止めた。



さっきの暗闇、普通の女子高生みたいなキャラクターだったな…。明るくもない、下衆くもない、普通のキャラクター。

一体いくつ自分を偽る仮面を持ってるのだろうと考え出した矢先、教室に飛び込んできた三木に捕まった。

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