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ひとくちの魔法  作者: 紫音
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5話

「話は先生から聞いているな……なぜ、視線をそらす?」

「……あんなものを見せられれば目をそらしたくもなるだろう」


先輩はケーキを食べ終えてから一息つくと紅茶に大量の砂糖を入れて飲み干しました。

その様子にすでに私の胸やけは限界を超えてしまい、先輩の顔を見ただけで吐き出してしまいそうな状態です。

胸やけを治めるためにも時間が欲しいためか、視線をそらしてしまいます……けして、表情の差に付いて行けないわけではありません。

私の様子に意味がわからないと言う先輩にルーディス殿はため息を吐かれました。どうやら、この件に関して、ルーディス殿は私の味方のようです。ただ……


「あ、あの。先輩、ど、どうして、私がフェミルアに行かないといけないんですか? 私、おかしな失敗でもしたんですか?」

「……失敗に心当たりでもあるのか?」

「な、ないですけど、私が知らないところでザシド様の機嫌を損ねる事をしたのではないかとそうでもないとフェミルアなどに」

「……フェミルアなどにか?」


先輩が甘党だと言うよりも私に必要なのは左遷になった理由です。真実を知るのは恐ろしいのですが聞かないわけにはいきません。勇気を振り絞り、左遷の理由を聞きます。

そんな私の言葉に先輩は聞き返してくるのですが表情からはまったく感情が読み取れないせいか腰が引けてしまいました。そして、フェミルアの領主代行がいるこの場所で口を滑らせてしまいました。

ルーディス殿のつぶやきが聞こえてしまい、やってしまったと思うのですがあの悪名高きルーディス殿が相手です……生きて田舎に帰れたら良いな。


「別に気にしなくても良い。責める気は無い。現状、王都に届いている情報だけを信じれば事実だからな」

「……フロース、お前は先生の説明をしっかりと聞いていたのか?」


私が遠い祖国を思っているなか、ルーディス殿は怒っていないようで仕方ないと言いたいのかため息を吐かれました。

彼の反応に首を傾げる私を見て、先輩は表情をかける事無く確認するように言います……ただ、表情は変わらなくても呆れられている気がします。


「……左遷にしか聞こえなくて全然、頭に入ってきませんでした」


何を言っても怒られるような気がしたため、真実のみを話します。仕方ないんです。実際、誰がどう考えても左遷なんですから。

そ、そんな怖い顔で見ないでください。

表情に変化がない先輩の眼力に責められている気しかしません。その迫力に泣き出しそうになるのですが、先輩は怒鳴り散らすような事はありません。

怒りを通り越して呆れられたのでしょうか、淹れ直された紅茶に再び、大量の砂糖を投入して飲み干します。

絶対に身体に悪い気がするのですが、今の私は下手な事を言えるわけがなく、先輩の次の言葉を待ちます。


「そのケーキの味をどう思う? なぜ、1口も食べていない?」

「……すいません。あまりの先輩の食べっぷりに胸やけが」

「まずは味わってくれないか。その方が説明をしやすい」


突然、ケーキの感想を聞かれたのですが胸やけでまだいただいていません。

先輩は納得が言っていなさそうですがルーディス殿とミルアさんは私の気持ちを理解してくれているようで苦笑いを浮かべています。

フェミルアに行く理由にこのケーキが関係するらしいので、1口分だけ切り分けて口に運びます。


「……美味しい」


素直に出た言葉でした。

私の上司であるザシド様はかなりの甘党で、部下の私達に多くのお菓子を差し入れしてくれます。そのせいか、いろい……く、口が肥えてしまったような気がしています。

そんな私でも充分に美味しいと思うくらいのケーキでした。

それもそうか、先輩の様子を見れば、このレクサス家でも多くのお菓子を消費しているに違いない。美味しいケーキを探し出すのは当然だと思います。

ただ……このケーキがフェミルアへの左遷と何が関係するのでしょう? このケーキを焼いた職人がフェミルアにいるとか? ザシド様のフェミルアに行くように言ったのは左遷ではなく、おつかい?


「……現実から逃げようとするな」

「そ、そんな事は思っていません!?」

「そして、勝手に悪い方向に話を運んで行くな。話が進まない」


心の中で左遷ではないと都合よく解釈しようとしていた事に気が付かれてしまいました。やはり、左遷なのですね……

落ち込む私を見て、先輩は表情を変える事無く言います。ですけど、誰がどう考えてもフェミルアへ行くのは左遷です。今まで頑張って来た結果がこれでは救われないです。


「左遷だと思うなら、左遷と思ってくれても構わん。それなら、王城に戻って辞表でもなんでも書いてくれ」

「ルーディス」

「先生は出発は2日後と言っていたが、正直、そこまで待つ必要性を感じない。やる気のない人間に来てもらっても迷惑だ」


左遷と落ち込んでいる私の姿にルーディス殿はイラついてきたようで吐き捨てるように言います。

そうですね。私だって辞表を書いても良いと思っていますよ。だけど、悔しさが来るのは間違っているんでしょうか?

国政に関わりたいと一生懸命に学んだんです。5年前の流行り病で多くの方が亡くなった事で女性でも何とか滑り込めたと言われても、それなのに。


「……悔しいと思って何が悪いんですか? 私だって、頑張ったんです。国のためになりたいって、それなのに左遷なんてあんまりじゃないですか?」


やる気のない、迷惑。そんな言葉に我慢ができなくて悔しさを口に出して、ルーディス殿を睨み付けてしまいました。

ただ、ルーディス殿の表情は溢れて来た涙のせいかにじんで良く見えません。


「国のためになりたい? それなのに左遷だと駄々をこねているのは誰だ? 国のためと言っても、結局は自分のためではないか? それとも、フェミルアの民はシュゼリアの民ではないとでも言うつもりか?」

「そ、それは……」


ルーディス殿は私の悔しさなどどうでも良いと言いたいようで淡々とした口調で言われました。

彼の言う通りでした。私は国のために働きたいと言いながら、私の言葉はフェミルアの民の事を切り捨てろと言っているような物でした。

それは領主代行としてこの場に居合わせているルーディス殿にすれば最低最悪の言葉でしかありません。

自分の言葉の悪質さに気が付き、謝罪をしようとするのですが自分の矮小さに恥ずかしくてすぐには言葉が出てきません。


「私は己の仕事をしてくれる人間が来てくれるなら、それで良い。ただ、フロース=フロウライト、お前をフェミルアに行かせると決めたのは誰だ? 先生をバカにするな」


何も言えないでいる私を見て、ルーディス殿は淡々とした口調で私を切り捨てると話す事はもうないと言いたいのか席を立ってしまいました。


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