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ひとくちの魔法  作者: 紫音
41/64

41話

「わ、私の事は関係ないじゃないですか。それに私の事を言うなら、ルーディスだって、フロースさんとどうなっているのですか?」


……なぜ、フロース=フロウライトの名前が出てくる?


ロゼットは彼女の名前を持ち出して話を変えようとするのだが、その対象がなぜフロース=フロウライトかが理解できない。

確かにあの胸は好みではあるが恋愛感情と呼ばれるような物を抱いた記憶はない。

ロゼットまでも領内に蔓延している噂に乗せられていると言う事か……バカらしい。


「バカな事を言っているなら、ロゼット、お前もレストの仕事を手伝え」

「バカな事と言いますけど……無自覚ですかね?」

「……そうなんだろうな」


レストが領民達に話を聞いている間、ロゼットも話を聞いていたはずだ。

それならば、私のような人間が協力するよりも真面目なロゼットの方が向いている。

早く研究に戻りたい事もあり、ロゼットの前にレストが並べていた報告書の1つを置くのだが、ロゼットとレストは顔を見合わせた後になぜかため息を吐くのだ。


……この2人は何を言っているんだ?


2人が何を言っているかわからないため、眉間にしわが寄ってしまう。


「……遊んでいるだけなら、私は研究に戻るぞ」

「待て。しっかりと報告書をまとめなければフェミルアへの支援もお前の研究費も出ないんだぞ」

「……」


この場所にいるのは不快な気がして席を立とうとするのだが、レストの感情のこもっていない視線が突き刺さる。

何を考えているかまったく読めないその瞳に妙な苛立ちを感じるがこの報告書にはフェミルアの未来がかかっている。

納得はいかないが報告書の作成を手伝わなければいけない。席に座り直し、ロゼットの前に置いた報告書へと手を伸ばす。


「……何が言いたい?」

「何が言いたいと言われると」


しばらく、レストの報告書を手伝っていたのだが、ロゼットがちらちらと私の方を見ているのだ。

その様子からロゼットが何か言いたい事がある事はわかる。

言いたい事があるのに何も言わない事に苛立ち、睨みつけてしまう。

ロゼットは苦笑いを浮かべた後、1度、レストへと視線を向けるのだがレストの表情が変わるわけがない。


「……私1人が悪者ですか?」

「私は当人同士の問題だと思っている。ルーディスやフロースがお互いに気づくまで放っておけば良い」


ロゼットはレストから援護があると考えていたようだが、どうやら、援護はなかったようだ。

ただ、レストはなぜかフロース=フロウライトの名前を挙げる。


「レスト、お前まで何を言いたいのだ?」


2人が何かを知っているのに自分だけが知らない事に苛立つ。

報告書を手伝えと言っているわりには別の意図が隠されている気しかしない。

ロゼットよりはレストの方が正確に話をしそうだと思い、彼を睨みつけて話すように言うのだが相変わらず、レストの表情が変わるわけがない。


「……ルーディス、お前はフェミルアの今後についてどう考えている?」

「どう?」


レストはため息を吐いた後、1つの疑問を投げかけてくるのだが意味がわからない。

フロース=フロウライトの手腕でブライト殿からの支援を勝ち取る事が出来た。ブライト殿の事だ。資金だけではなく、多くの人材も送ってくれると推測される。

そうすればすぐに領地運営も安定してくるだろう。人材と資金が集まれば兄上の体調も回復に向かい、私も研究に専念できる。


ただ、レストの事だ。この程度の事を言いたいのではないだろう。

そうすると……何が言いたいのだ? レストの質問の意図がわからないが答えないわけにもいかないだろう。


「……兄に任せる。体調が戻れば私よりも兄が領地運営を行った方が良いだろう。私は知っての通り、領地運営などできない」

「向いてはいないと思いますけど、言い切るのはどうかと思いますよ」

「人には向き、不向きがあるんだ。だいたい、私に領地運営ができていれば最初にレストに助けを求めるわけがないだろう」


自分に領地運営の適正がない事は誰よりもレストが知っているだろう。兄上に任せて研究に戻ると伝える。

レストの表情は変わる事はないがロゼットは呆れたようにため息を吐いた。

その様子にカチンとくるのだが、私が領地運営をできないのは周知の事実だ。

言い切って見せるとロゼットは苦笑いを浮かべるのだが、その様子が不快に思う。


「……落ち着け」

「私は落ち着いている」

「落ち着いている人間は自分が落ち着いているとなど言わない」


私の苛立ちを感じ取ったようでレストは落ち着くように言うのだが、他人に指摘されると余計に苛立ちが大きくなるのはなぜだろう。

言葉では落ち着いているとは言ってみるが、レストには苛立ちが抑えきれないのがわかっているようだ。

レストは淡々とした口調で落ち着くまで話はしないと言いたげであり、頭に血を上らせていても話が進む事はない。

深呼吸をして息を整えるがすぐには収まりそうにない。


……どうした物かと考えているとドアを叩く音がする。


ミルア=カロンがレストのためにお茶菓子でも運んできたのかと思ったのだが、部屋の中に入ってきたのはサラさんであり、レストの表情はわずかに歪んだように見えた。

どうやら、ミルア=カロンの顔が見られない事に少なからず傷ついているようだが、表情は読み取りにくい。


「……なぜ、ミルア=カロンではないのだ?」

「ミルアさんにはレオンハルト様の方に対処していただいています。彼女をここの担当にさせるとレスト様を甘やかす事になりますので」

「なるほど」

「最近はミルアのお菓子作りの腕前がレスト様に知れてしまったため、以前から多かった糖分接種量がさらに増えていますので」


サラさんがお茶菓子を並べている様子にミルア=カロンが何をしているか聞いてみる。

彼女はレストが報告書をまとめるのを滞りなく進めるためだと言う。確かにテーブルに並べられているお茶菓子の量はミルア=カロンがいつも運んでくるよりは少ない。

サラさんはレストに糖分接種量を控えるように言うとさすがのレストもサラさんには逆らえないのか文句1つ出てこない。


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